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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第二章 コウタ、TS逸脱賢者と出会ってこの世界のことを知る』
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第五話 コウタ、逸脱賢者の鑑定を受けて自分とカークのスキルを知る


「はあ、疲れた。イチかバチかの転移よりコータとの会話の方が疲れた気がする」


「あ、ごめ、俺その、コミュニケーション苦手で」


「すまん。オレこそすまん、言い方がダメだったな、そういう意味じゃねえんだ。コータのせいじゃねえ」


「カア!」


 神の実在を知ったアビーが落ち着くまで30分ほどかかっただろうか。

 復活した少女は背を丸めてぐったり丸太に座る。

 ぼそっと漏らした一言でへこむコウタを慌ててフォローする。

 慣れてきたのか【健康】の効果か、コウタはすぐに半笑いから立ち直った。


「そうだ、神がいるってことは術式はもっと省略できる。それに接触点をこっちに、話したってことは神は言語を使ってるわけで」


「あの、アビー?」


「カァー」


 今度はアビーがブツブツと考え込む。

 マイペースな二人にカークは呆れ顔だ。この場で一番コミュ力が高いのはカラスであるらしい。鳥。


「コータ、もう一回『鑑定魔法』を使っていいか? カークも」


「あっはい。一度でも二度でもかわらないし」


「カア!」


「うっし、んじゃ行くぞ! 本邦初公開、新式の『鑑定』だ!」


 アビーがすっと手をかざす。

 ローブの袖から白く細い手首が覗く。コウタは動じない。カークも動じない。「本邦」へのツッコミもない。


「おおっ、見える見える! あった! オレが思ってた通りだ! スキルはあったんだ!」


 勢いよく立ち上がって天に拳を掲げるアビー。

 奇行に慣れたのか、コウタは突っ込むことなく見守るだけだ。カークも鳴かない。


「すげえ、ずげえぞコータ! 【言語理解】と【健康】が宿った体だってよ! しかも強さが判別できねえ、言うならスキルレベルは【ex】ってとこだな!」


「おー!ってことは【言語理解 LV.ex】【健康 LV.ex】って感じかな? ありがとう女神様! アビーも、見てくれてありがとう!」


「なあに、これもコータのおかげだからな! こっちこそありがとよ!」


 二人のテンションは高い。

 なにしろ、この世界で初めて【スキル】の存在が提示された瞬間である。

 まあ最初は学者ぐらいしかその利用法を理解できないだろうが。


「カアッ!」


「おお、わりいわりい、次はカークだな。『鑑定』!」


 続けてアビーは、三本足の大きなカラスに手をかざす。

 カークはおとなしく、じっとアビーを見つめる。

 アビーが虚空を見つめてふむふむと頷く。


「カークは【言語理解】と【導き手】だな! それにこれは【火魔法】? いや、光か陽光? こっちはほかのスキルより弱いみたいだ」


「おおっ! すごいぞカーク! そっかあ、じゃあ喋れないだけでカークは言葉を理解できるんだなあ。魔法も使えるし、俺を導いてくれたし……本当に、ありがとう」


「カ、カア」


 よせやい照れるじゃねえか、とでも言いたげにカークはそっぽを向く。

 コウタとアビーが微笑む。カラスが言葉を理解することについてはいいのか。いまさらである。そもそも地球のカラスでさえ言葉を理解してそうだ。


「アビー、スキル? 以外の情報はわからないの? カークはひとまわりかふたまわりぐらい体が大きくなって、足が三本で……悪い変化じゃなければいいんだけど」


「まあ大丈夫だろ。この大陸の南東にエルフの島が存在するって伝承があるんだけどよ」


「え? エルフ? いるんだエルフ……」


「カア!」


「そうそう、いまはそこは流せってコータ。とにかく、エルフの伝承があってな。そんで、島に行くには『導きの大鴉(レイブン)』の案内が必要なんだってよ。いないとたどり着かねえんだと。太陽の化身だか太陽の精霊なんだそうだ」


「そっか、じゃあ仲間がいるんだね。よかったなカーク、一人じゃないんだって」


「カァ、カアッ!」


 カークがコウタを見つめて強く鳴く。

 はっ、元から一人じゃねえよ、とでも言いたいのか。【言語理解】は一方通行なのか。


「この世界、少なくともこの大陸ではエルフもドワーフもいるって話だ。オレはどっちも見たことねえんだけどなあ」


 丸太にどっかと腰を下ろして、アビーはそんなことを言っていた。

 一人と一羽が我に返る。


「オレたちみたいに前世の記憶が消えてないヤツらが過去にいたのかもな。そんで名前をつけたってセンがありそうだ」


「はあ、なるほど」


 コウタは「輪廻転生であり、記憶はなくして生まれ直す」と聞いていた。

 だが転生しても体に大きな変化は感じられず、意識は連続して記憶もある。

 アビーは新たな生と体と性別になったが、前世の記憶はある。

 ほかに例外がいてもおかしくはないだろう。


「さてっと、んじゃオレも! 『鑑定』!」


「あ、自分にも使えるんだ。どうだった?」


「カァー?」


「くふふ、オレは【魔導の極み】だってよ! ほかにも魔法関係にはいくつかスキルっぽいのもあるな。【言語理解】はオレについてねえ。けどくふふ、極み。魔導の極み。それもコータの【健康】並みの」


 自分の手を見つめて含み笑いするアビー。美少女も形無しだ。

 神様に会って【健康】を授かったコウタと同じレベルの強力なスキルであることが嬉しいらしい。


「すごいなあアビー、18年もがんばってこっちで生きてきた甲斐があったね……あれ? スキルだから、元から持ってたってこと?」


「いや、これはあくまで『現在の状態』を判別してるだけだ。だから【スキル】があるから魔法が使えるってわけじゃねえ。魔法が使えるから【スキル】として見える、って感じだな」


「なるほどなるほど?」


「カァー」


「そうだなあ、たとえば、コータは【魔法】に関するスキルを持ってねえ。けど、勉強して訓練すれば魔法が使えるようになるかもしれない。そうすりゃオレの『鑑定』で【魔法】のスキルが見えるようになる」


「あれ、じゃあ【言語理解】と【健康】って?」


「それこそ神様にもらったんじゃねえのか? ま、その辺はこれから調べてくしかねえな。いまの考え方じゃ、さっきの、細いのに怪力なヤツや特定の動きだけ素早くなる剣士の話が説明できるわけでもねえし」


「はあ」


「カァ?」


「ま、気にすんなってことだ。コータとカークが【言語理解】できて、それぞれ【健康】で【導き手】だってわかってりゃいいだろ」


「カアーッ!」


「ははっ、ごめんごめん、カークは【火魔法】もだったな。……そっか、エルフの伝承。太陽の化身か精霊なんだったら【陽光魔法】、かな?」


「カァッ!」


「おう、んじゃ仮に【陽光魔法】ってことで」


「おー、かっこいいなあ、すごいぞカーク」


 ほわっと胸をふくらませたカークをコウタが指先でくすぐる。

 カークは目を閉じてまんざらでもない表情だ。


 と、カークが急に目を開けて空を見上げた。


「カアー、カアー」


 騒々しく鳴きわめく。まるで、普通のカラスのように。


「おっと、もうこんな時間か。とりあえず今日の寝場所を確保しねえとなあ」


「アビーさえよければ俺たちの寝床を使う? 俺は外で寝るから」


「ん? いいっていいって、イチかバチかの転移だけどよ、多少の準備はしてきてるからな。今日は外でテント張らせてもらうわ」


「あ、うん、テントがあるならそっちの方がいいかもね。……明日から、探索より過ごしやすい環境を整える方を優先させようかなあ」


「おう、オレも手伝うからな、頼りにしてくれ!」


「……え? アビー、帰らないの? ここを出てどこか街で暮らすとか。近くにあるかどうかわからないけど」


「まあちょっといろいろあってな、人里は避けたいんだ。ってことで、あらためてよろしくなコータ、カーク!」


「あっはい。よろしくお願いします」


「カアッ!」


 コウタはあっさりとアビーの居住を受け入れた。

 美少女との二人暮らしである。美少女とペット……相棒との、二人と一羽暮らしである。

 受け入れられたのは中身が「男」で、「男同士」だと認識したせいか。

 あるいは。


 事情は語られなくとも、「イチかバチかの転移魔法」でコウタは何かを察したのかもしれない。

 思わず逃亡してしまうような、あるいはやっていけなくなるようなことが、アビーにあったのだろうと。


 深くは聞かない。

 自分も、動けなくなった直後は何も聞かれたくなかったから。

 コウタはただ受け入れて、アビーをアビーとして接するのだった。

 見目麗しい侯爵家令嬢アビゲイル・アンブローズではなく、中身が男の、ただのアビーとして。


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― 新着の感想 ―
[一言] 太陽と関わりがある三本足のカラスの導き手···カークは八咫烏に近い存在に進化(?)した訳ですな。
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