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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十二章 コウタ、鍛冶に励むドワーフと出会って村に誘う』

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第三話 コウタ、できたばかりのダンジョンの奥でドワーフと出会う


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから十ヶ月と少し。

 コウタはいま、絶黒の森の北側、できたばかりのダンジョンにいた。


 希望の鹿(ホープネス・ディア)、ドリアード、アラクネ。

 コウタが仲を取り持った?三体のモンスターが生息する場所が、期待通りダンジョンになったのだ。

 周辺魔力、象徴(シンボル)、強力なモンスターを揃えて意図的に発生させた「人工ダンジョン」である。


 ただ、コウタとカーク、逸脱賢者のアビー、荷運び人(ポーター)のベル、古代文明の生き残りアンデッド・クルトはダンジョン探索に来たわけではない。

 鹿とドリアードがわざわざ拠点までやってきて、コウタたちを連れてきたのだ。

 会話できるのがカークだけのため、詳細は不明だが。


「さーて、この先に何があんのかねえ」


「発生直後のダンジョンも興味深いが……いまはそうも言ってられぬ」


「運びたいものを見つけたら僕に任せてくださいね!」


 洞窟のようなダンジョンの本道は広かった。

 もし巨人族(ギガント)のディダがついてきていても、身をかがめないで歩けるほどだ。

 幅もあって、コウタはアビーと並んで歩いてきた。


 だが、鹿と見た目幼女のドリアードがコウタたちを連れてきたかった場所は本道からそれた先らしい。

 側道の入り口に待機していたアラクネが、しゃかしゃか手足を動かして糸を回収する。

 すすっと脇に寄ってコウタに先を示す。


「とにかく、行ってみよう」


「カアッ!」


 コウタとカークが先頭になって小道を進む。

 鹿と見た目幼女のドリアードは、「これで解決した」とばかりにホッとした表情だ。

 アラクネだけは、蜘蛛部分をカサカサ言わせ、壁を歩いてコウタのあとを追う。


「いくら【健康】だからって油断すんなよ、コータ」


「うん、ありがとうアビー」


 アビーのアドバイスを受けて、コウタが腰の剣に手をかける。

 抜き放たれたそれは、絶望の鹿(ホープレス・ディア)からもらったツノを、クルトが形を整えた剣だ。

 刀身は黒く、禍々しいオーラを放っている。

 剣に宿った瘴気は使い手の精神に異常をきたすらしいのだが、コウタには影響がない。なにしろコウタは心身ともに【健康】なので。


「じゃあ、行くよ」


「カアッ!」


 コウタがいちいち行動を口にする。

 自分を奮い立たせるためか、それとも仲間に次の行動を知らせて準備させようとしているのか。

 コウタの意図は不明だが、同行していた一羽と二人と四体はそれぞれ動いた。


 アビーは魔法でぼんやりとした火を灯す。

 クルトは杖を手に、うしろにいるベルの護衛役を担当するようだ。ベルは自称「戦えない」ので。

 森を先導してきた鹿とドリアードは、側道の入り口で待機している。「コウタがいればもう大丈夫」と安心しきっているのか、見た目幼女のドリアードがうねうねツタを生やして鹿にちょっかいを出す。平和か。

 アラクネは、カサカサと蜘蛛の足を動かして壁を登り、静かに天井を進む。死角からコウタをサポートするつもりのようだ。


 三本足のカラス・カークは、バサっと羽を広げてゆっくりとコウタの前を飛ぶ。

 スキル【導き手】の通り、コウタを導くかのように。


 狭い道を歩くこと数分。

 前方に目をこらしたコウタが立ち止まる。

 道の奥、カーブの先から光が漏れている。


「誰かいる?」


「ダンジョン(モス)か、モンスターか。それとも……どうする、コータ?」


「うん……」


 コウタとアビーがささやき声で会話をかわす。

 岩にとまったカークが、心配いらねえよ、とばかりにひょいっと首をかしげる。

 天井にさかさになったアラクネは緊張した様子だ。それはいいのだが、逆さなのに上半身の女性の髪が垂れていない。あと胸も。重力に逆らっている。女性なのはあくまで形だけで、中身はモンスターであった。コウタは気付いていない。幸いなことに。


 うつむいて考え込んでいたコウタが顔をあげる。

 剣をだらりと下げて前方に目を向ける。

 アビーがいつでも〈魔力障壁〉を張れるように魔力を練ったところで。


「すみませーん」


 緊張感のないコウタの声が、ダンジョンに響いた。


 カークが天を仰ぐ。空は見えない。

 アビーの口がぽかんと開く。「油断すんなよ」とはなんだったのか。

 ベルはにこにこと笑顔のままで、クルトはさもありなん、とばかりに平常運転だ。


「誰かいますかー?」


 続けてかけられたコウタの声に、前方の明かりが揺れた。


「人、かな? 俺たち怪しい者じゃないんです。いまそっちに近付きますね」


「おいコータ」


「アビー殿、コウタ殿はこういう人であろう? 我らで『さぽーと』を」


「……まあ、それでオレたちは救われてるとこもあるからなあ。しゃあねえ」


 言葉通りゆっくり進みはじめたコウタのうしろでは、頭脳担当の二人が慰め合っている。

 揺れる明かりの先から攻撃は飛んでこない。


 カーブを曲がったコウタが立ち止まる。

 細い道の先には、壁が崩れたあとがあった。

 それだけではない。

 人ひとりなら通れそうなほどの穴が空いている。

 明かりはそこから漏れていたようだ。


「誰かいますか? それともモンスターとか、クルトみたいに知恵あるアンデッドだったり……」


 コウタが穴の先を覗き込む。

 明かりはあるがぼんやりと薄暗い。

 なんの返事もない。


 とにかく先に進んでみようと足を踏み出したコウタが、かたまった。

 穴の横から、人がぬうっと姿を現したのだ。


「子供……? あれ、けど、ひげ……?」


 現れた人物は小柄だった。

 身長はコウタのみぞおちあたりまでしかない。

 背だけ見れば、コウタが子供と勘違いしてもおかしくないだろう。

 だが、身長以外は子供らしくない。

 口まわりどころか、頬や顎を隠すほどのヒゲ。

 体格はがっしりしていて、革と金属の複合鎧を軽々と着こなしている。

 手にある長柄の戦槌はずっしりと重そうだ。


「もしかして……ドワーフ!?」


 見た目から連想したのだろう。

 目を見開いてコウタが問いかける。


 現れた人物は、ゆっくりと頷いた。


「驚いた。人族か?」


「はい! あ、でも俺、転移だったら人間だけど人族じゃないかもしれない? けど体は変わってるからこっちの人間になってるはずで、だったら人族でいいのか? あれ、どうなんだろ」


「カァー」


「オレも同じ意見だ、カーク。いまそれどうでもいいところだよなあ…………」



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから十ヶ月と少し。

 【導き手】であるカークに連れられて、コウタはまた新たな出会いを果たした。

 逸脱賢者、荷運び人(ポーター)、古代文明の生き残りアンデッド、巨人族(ギガント)、先代剣聖に続いて、今度は「ドワーフ」である。




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