第十一章 エピローグ
「よし。じゃあみんな、元気でね。何かあったらまたおいでー」
「カァー」
「軽いなコータ! まあ害はないってわかったからいいけども!」
コウタとカークがこの世界で目覚めてから九ヶ月。
やってきた三体のモンスターは、クレイドル村で一晩過ごした。
コウタをはじめとする面々を襲うでもなく大人しく。
「おら、次に会う時までに鍛えておく! 今度は負けねえだ!」
「俺も、もうちょい真面目に体を慣らしておかねえとな。『先代剣聖』の名が泣いちまう」
「ふむ、では我は義手の調整に力を尽くそう。『竜呪』を取り除ければ早いのであるが、いかな『神の宿り木』の実であろうと素材そのままでは時間がかかるであろうゆえな」
「今度街に行った時に、お土産を買ってきますね!」
見た目5歳程度のドリアードが小さな手を振る。
アラクネの人間部分が一礼して、希望の鹿は怯えがちにへこへこ頭を下げる。
そのまま、三体のモンスターはクレイドル村をあとにした。
精霊樹に挨拶してコウタたちと模擬戦という名の交流をして、それだけで。
アビーが暮らしていた帝国や、エヴァンのいた王国の民が聞いたら驚くことだろう。
「開拓もするけど、訓練の時間も増やした方がいいのかなあ」
「なんだかんだ勝ててるしモンスターの危険はねえしな、そこはいまのままでいいんじゃねえか?」
「嬢ちゃんの言う通りだコウタさん。もしやるなら訓練より実戦だな。クルトさんにお願いしてアンデッドと戦ったり、北側に討伐ツアーに行く方がよっぽど身に付くだろうよ」
「はあ、なるほど」
「それならお金稼ぎにもなるしな!」
「たしかに。じゃあ、開拓を続けながら、折りを見て北側に行ってみようか。お金稼ぎもあるけど、精霊樹の苗木がどうなったか気になるしね」
「それもあったな! くうっ、なんだここ、帝立魔法研究所にいた時よりも興味ある題材が多すぎる!」
「うむ、わかるぞアビー殿。気を抜くと我も主題から外れた研究にうつつを抜かしそうである。刺激を受けるゆえ、無駄ではないのだが」
健康で穏やかな暮らしを送れる村にする。
それには、村の戦力もさることながら資金力も大切だ。
訓練の時間を増やすよりも、モンスター討伐の方が実利も大きい。
命のやり取りをする実戦の緊張感に加え、魔石や素材は街に持ち込めばいい値段で買い取ってもらえる。
コウタ、以前の絶黒の森北側探索とはまた違った意味で、北への討伐ツアーに乗り気のようだ。
「それにしても……俺ァ、ここにたどり着いてほんとよかったよ」
「エヴァン?」
「なくした左手の代わりを手にして、全身の痛みもだいぶ薄れた。こんだけ動けるようになるなんて、いまだに信じらんねえ」
「あー、うん。思うように動けないのはしんどいものだよね。体が原因でも、心が原因でも」
「ああ。だから、マジで充実してんだ。模擬戦とはいえひさしぶりに負けたしな! 課題を克服すりゃ俺ァまだまだ強くなれる!」
しみじみ語っていたエヴァンがニヤッと笑みを見せる。
先代の剣聖でダーヴィニア王国の剣術指南役、王国の決戦兵器であったのに、三体のモンスターとの模擬戦では二敗した。
ガチガチに守るドリアードとアラクネを崩せず、遠距離攻撃を繰り返したことがたたって魔力切れを起こした。
たがいに有効打がなかったことから「引き分け」でいいものを、エヴァンは自ら敗北を宣言した。
体が動くようになったとはいえ、全盛期とはほど遠い。
エヴァンは思うところがあったようだ。
「それにほら、こんな素直な教え子もいるしな!」
「お、おらだか? おらひとつも勝てなかったのに……」
「それは俺もだよディダ。ドリアードもアラクネも鹿も、ぜんぜん攻撃が当たらないんだ」
「はっ、そりゃあの三体はボスクラスだかんな! いくら模擬戦だって、ソロで戦いになったらすげえんだよ!」
「違いねえ。コウタさんもでっけえ嬢ちゃんも、どんどん強くなってて教え甲斐があるな。そりゃコウタさんは【健康】だから元から強えんだけどよ、それは別として」
「おっと忘れてた! おっさんが一番うれしいのはアレだろ?」
「あー、お酒造り。すっかりハマってるもんねえ」
「違いねえ! 精霊樹の果実漬けはうまかったけど、まだまだ神酒にゃほど遠い! 考えることもやることもいっぱいでほんと充実してんぜ!」
倉庫兼酒蔵兼自宅を振り返って、エヴァンがからからと笑う。
そこに、初めてコウタと出会った時に存在した陰はない。
なにしろあの時は、死に場所を探していたので。
「ま、俺だけじゃなくてみんなそうだと思うけどな。ここに導いてくれてありがとよカーク!」
「カァー!」
コウタの頭を上で、カークが胸をそらして高らかに鳴く。
コウタとカークがこの世界で目覚めてから九ヶ月が過ぎた。
仲間と、モンスターと共存しながら、コウタは開拓を続けていく。
自分一人ではなく、村人みんなが「健康で穏やかな暮らし」を送れる村となるように。
元社畜のニートではなく、クレイドル村の村長として。
短めなうえに話が進まない……。
いつものことですね!w
次話から新章に入りますのでご容赦ください!
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