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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十一章 コウタ、開拓や畑仕事を進めて村づくりを続ける』
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第六話 コウタ、収穫祭で料理を食べて静かになる


「乾杯!」


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから九ヶ月。

 絶黒の森の精霊樹と小さな湖のほとり、「クレイドル」村と名付けられた場所に乾杯の声が響く。

 五人と一羽と一体が集まった、クレイドル村初の収穫祭である。


「うわっ」


「どうだコウタさん、俺が造った酒の味は!」


「ちょっとアルコールがキツく感じました。その、俺お酒強くないんで……」


「そういやコウタさんが飲んでんの初めて見たぐらいだもんな! 初心者にはちょっとつれえか!」


「んー、どうだろおっさん、これ水で割った方がいいんじゃねえか? 炭酸水がありゃそれでもいいけど」


 木のコップに口をつけたコウタは渋い顔だ。

 アビーは一口飲んで顔をしかめている。

 ちなみにアビーは18歳だが、この世界に「お酒は二十歳になってから」という法律はない。アビーが育った帝国では、見た目があまりに幼いと飲酒を止められるぐらいだ。アビー自身も、食事やパーティ時には軽く飲む程度の経験はあった。


「こ、これが、伝説の、精霊樹の果実酒(ネクタル)だべか……こんなありがたいものをおら飲んでもいいんだべか」


「ふむ。我が飲んでもなんの影響もない。これでは神酒(ネクタル)とは呼べぬであろうな」


「ちょっ、クルト! もし何かあったらどうするつもりだったの!?」


「一口で浄化されることはあるまい。であれば、どのような事象が起こるか我が身で検証しようと思ってな」


「マジもんの神酒(ネクタル)だったら、クルトクラスでも一発で浄化しそうだけどな」


「うーん、僕は果実水の方が美味しいと思います!」


「ベルはまだ飲んじゃ——あ、こっちではいいんだっけ。俺もお酒はやめて水か果実水にしておこうかな」


「おっ、んじゃ残りは受け取るぜ! 誰かが飲まねえともったいねえからな! 誰かが! 飲まねえと!」


「ノリノリじゃねえかおっさん。飲みすぎんなよ」


 一口で飲むのをやめたコウタ、ベル、クルトのコップを受け取ってエヴァンは嬉しそうだ。

 好んで酒を飲まない面々が乾杯に付き合ったのは、それがエヴァンが造った酒だからだ。

 今日はできるだけ村で獲れたものを振る舞い、味わいながら収穫に感謝する日である。


「アビー、様子はどう?」


「ん、いい感じだ!」


「じゃあ……」


「おう、準備OKだな! ほれ、ならべならべー! 配給だぞー!」


「カァー」


 火にかけた鍋の中身をチェックしていたアビーがGOを出す。

 「配給」の意味がわかったのはコウタだけだが、コウタがアビーの前に並ぶと、ベルもディダも続いた。足元にはカークも、行儀良くクルトも。

 エヴァンだけはまず手にある酒を飲み干してから行くつもりのようだが、それはそれとして。


「おお、これが……俺が育てて、こんな料理に……」


 コウタが、木の深皿を手にぷるぷるしている。

 深皿の中には、白くどろっとした液体が注がれていた。

 木のさじでかき混ぜる。

 と、中から出てきたのは米のようなつぶつぶだ。

 カラス麦である。


「ベルが山羊のチーズを分けてもらってきたかんな、そのまま食べるより絶対こっちの方がうまいだろ」


「すごいよアビー、もう匂いから美味しそう!」


「『カラス麦のポリッジ』って感じだな。ほらコータ、収穫に感動するのは食ってからにしろって」


「うん……」


 目に涙を浮かべたコウタは、それでも全員にカラス麦のポリッジが行き渡るまで待った。

 カークも、地面に置かれた特製の皿を前に「待て」ができている。賢いカラスである。


 やがて全員にカラス麦のポリッジと、ふかした芋、毒性はないと確認した貝と魚のスープが行き渡って。


 コウタは、おそるおそるポリッジを口にした。


「美味しい……俺が作ったカラス麦……芋も……」


 ポリッジはともかく、芋はふかしただけだ。マヨネーズもバターもない。


 それでも。


 コウタは美味しい美味しいとうわ言のように繰り返し、グズグズ泣きながら味わっていた。


 激務から体調を崩して、「充電期間」「休息」と自分に言い聞かせながらただ過ぎていく日々。

 この世界にやってきて、【健康】な心と体で過ごしてきた日々。

 仲間ができて、開拓して、畑を造って、麦や芋を育てて。


 やっと収穫した「活動の成果」は、格別に美味しかったのだろう。

 コウタにとっては。


「カァ? カァー」


 大丈夫か? よくやったな、とばかりに鳴いて、カークがコウタの肩に止まる。

 黒い瞳で皿の中とコウタをチラチラ見ているのは心配しているからだ。コウタの食料を狙っているわけではない。たぶん。カラスだけど。


「よしよし、やっぱチーズがあってよかったな! こうなるとここでもなんか育ててえところだけど……」


「さすがに無理じゃねえか嬢ちゃん? 護衛対象が人だとしても道中キツイだろ。家畜の群れったら言うこと聞かせんのもひと苦労だしなあ」


「すみません……僕、生きているものは【運搬】できなくて。ご先祖さまはできたそうなんですけど……」


「『スキル』とは不思議なものよ。ベル殿、たとえば家畜の入った檻はどうなのだ? 【運搬】できるのではないか?」


「おっ、それいけそうな気がすんな! 待てよ、それともオレの〈ワープホール〉を改良してみっか? 人と違って鶏とか山羊なら実験に失敗しても良心はそんなに痛まねえ」


「ア、アビーさんはすごいだな……鶏も山羊も高いって聞いただ……」


「そりゃ元が貴族のお嬢ちゃんってんなら気にしねえだろ。もっとも、森の北側のモンスターを倒して素材はぎとっていいんだ、ちょっくら遠征して倒してくれば家畜分の金はすぐ稼げるだろうな」


 カラス麦のポリッジと芋、淡水魚介のスープ、精霊樹の実を漬け込んだ酒を味わいながら、クレイドル村の面々が会話する。

 まあ、村長であるはずのコウタは会話に参加していないのだが。

 あるいは、わいわい賑やかに話しているのは、コウタを思いやってのことなのかもしれない。

 まわりが静かだと我に返ってしまうだろうから。



 死の谷(デスバレー)を越えた先、絶黒の森の中に誕生したクレイドル村。

 初の収穫祭は、和やかなものとなった。

 みんなが料理に舌鼓を打って、一部はご機嫌に酒を堪能する。ちゃんとほどほどの酒量で。

 村長のコウタだけは静かだったが、残る四人と一羽と一体がそれで気を悪くすることもない。

 むしろ微笑ましく見守っていた。


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから九ヶ月。

 コウタが目指す「健康で穏やかな暮らし」は、少しずつ実現しているようだ。

 まだ「自称・村」で、集落と呼ぶにも厳しいレベルの人数だが。




終わりっぽいですが今章もその先も続きます!

今週はもう一話更新予定。


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