第四話 コウタ、カヌーを使って漁をするディダの様子を見守る
「ふう。溺れるかと思ったけど、大丈夫なものだねー」
「カァー」
コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ九ヶ月。
ざばざばと湖からあがってきたコウタが安堵の息を吐く。
濡れた肩に止まったカークは呆れ声だ。
「『大丈夫なものだね』って! もうちょい焦れコータ! いくら【健康】だからって溺れるかもしれなかったんだぞ!」
「いやあ、【健康】もあるけど、俺は泳げるしさ、なんとかなると思ったんだ」
「ちょっとじっとしててほしいだ、コウタさん」
コウタは、水遊びを楽しんでいたわけではない。
ディダ作のカヌーを試すべく湖上に漕ぎ出したのだ。
漁をしようと動いた際にバランスを崩して落ちただけである。
ディダは大きな体を小さくして、コウタに絡みついた網をせっせと外す。
「ふむ、丸木舟は安定せぬか。船は難しいものであるな」
半沈したカヌーは、コウタの手で湖岸に戻された。
そのカヌーを見ながらクルトがブツブツ考え込んでいる。
「浮くのは間違いないから、並べてイカダにした方が安定するかな?」
「ほぼ波がねえ湖だからな、それでもいいかもしれねえ。それか、ボートみたいに浅くて平たい造りにするか?」
「んー、カヌーでなにかあったような……あ! ほら、横に何かつけるのはどうかな?」
「横? コウタ殿が言いたいのは、側面に重りをつけて安定させるということであろうか?」
「そういうんじゃなくて、えっと、もう一つ小さなカヌーみたいのをつなぐ感じの……」
「ああ、アウトリガー! そんな手もあったな!」
「本体ではなく補佐する機構を外につける。ふむ……それは応用できそうな……くははっ、やはりコウタ殿やアビー殿はひらめきの宝庫である」
「カァー」
コウタもカークも、アビー、クルトも船は専門外だ。
ディダが育った巨人族の里では船を使っていなかったらしく、ディダも詳しいところは知らない。
湖で釣りをするにはどんな形が安定するのか、コウタとアビー、クルトはわいわい話し合う。
だが——
「これは便利だべ! これさえあれば、おら、もっと沖の方で漁ができるだ!」
「ああうん、ディダがいいんならいいんだけどな……オレたちの努力……」
「大規模な漁業をやるのでなければあれが合理的であろうな」
「ほ、ほらアビー、クルトも! 考えたことはムダにならないから! それに、小舟はあった方がいろいろ使えるだろうし!」
——ディダは、コウタが半沈させた不安定なカヌーで、漁をしていた。
「でもこれ、必要なのはたらいだったかも。……海女さんかな?」
カヌーを湖に浮かべて、ディダが泳ぐ形で。
素潜り漁である。
「ま、まあそこはほら、たらいって案外作るの大変だろ? たらいが作れるならもうちょい複雑な船も作れそうな気がするしな!」
せっかくのカヌーがカヌーらしからぬ使い方となって、コウタとアビーは複雑な表情だ。
クルトは「アウトリガー」の発想を自身の研究に活かすべくすっかり考え込んでいる。
カークは、カヌーに止まってディダの活躍を見守っていた。
もしくは、ディダの漁果を狙っていた。
「また獲れたべ! これ、食べられるといいべなあ。海のヤツなら食べられるんだどもなあ」
水面に浮き上がったディダが、手にした獲物をカヌーに放り込む。カークがじっと見つめる。
モリのない素潜り漁でディダが獲っていたのは、水底にいた貝だった。
「…………海女さんかな?」
「魚ばっかり獲ってたら獲りつくしちまうかもしれねえからな、獲物を変えるのはいいことだ。いいことなんだ」
まだ食べられるかどうかはわからない。
それでも。
「舟があるとずいぶん違うだな! おら、これでもっと役に立てるだ!」
十数個の貝——新たな食材——を確保して、ディダは楽しそうにしていた。
カヌーの使い心地もいいようだ。カヌーらしからぬ使い方ではあるのだが、それはそれとして。
コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ九ヶ月。
収穫した農作物に魚介、ベルが運んでくる荷物。
人里離れた「絶黒の森」での生活は、徐々に充実していっているようだ。
少なくとも、五人と一羽が暮らしていく分には不自由がないほどには。
なおクルトは別枠である。食事は必須ではなく嗜好品なので。
ひさしぶりの更新になりました……
執筆もひさしぶりで、短いですがリハビリということで……
次話は明後日10日(金)に更新します!
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