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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十一章 コウタ、開拓や畑仕事を進めて村づくりを続ける』
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第一話 コウタ、開拓した畑で初めての本格的な収穫作業を行う


 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ九ヶ月。

 コウタはいま、自ら開拓して耕した畑の前にいた。


「ちょっと緊張するなあ」


「カァー。カァ?」


「ひさしぶりってこともあるけど……イチから作った畑だし、異世界だし、ほら、働いた成果だから……」


「カアッ!」


 くよくよ考えてねえで気合い入れていくぞ!とばかりにカークが威勢よく鳴く。

 肩に止まったカークに励まされて、コウタはそっとカークの羽を撫でた。


「あんま緊張するなってコータ! 瘴気渦巻く『絶黒の森』で作物を育てるなんてダメでもともとなんだからよ!」


「そうです、ダメなら僕が街から食べ物を運んできますから!」


「里の畑より立派に成長してる気がするだ。きっと芋もなってるべ!」


「なってはいるであろう。だがすでに植物は変異している。さて、この地で実はどのような変化を見せるのか。興味深い」


「おっと、んじゃ油断できねえな。なんかあったら俺に任しとけコウタさん、怪我に気をつけ……怪我はしねえんだっけか」


 一人と一羽の背後から仲間たちの声がかかる。

 TS転生した『逸脱賢者』のアビーはコウタの緊張をほぐそうとして、勇者に追放された荷運び人(ポーター)のベルは失敗していた時も気にしなくていいんだとフォローする。

 巨人族(ギガント)の里で一番小さな巨人族(ギガント)だったディダは純粋に励まし、古代魔法文明の生き残りアンデッドのクルトはじっと葉やツルを見つめる。

 先代剣聖のエヴァンはコウタに何かあった時のために剣を構えようとしてやめた。


 五人と一羽と一体。

 瘴気渦巻く絶黒の森の中心部、精霊樹と湖のほとりで暮らす面々が、小さな畑の前に集まっていた。クルトはダンジョン生活と半々だが、それはそれとして。


 「健康で穏やかな暮らし」を目指してそれぞれが仕事をはじめたいまでは、こうして全員が揃うことはめずらしい。

 だが今日は、誰が言い出すともなく全員が畑の前に集まった。


「じゃあ、はじめようか。最初の、本格的な収穫作業を!」


「カアッ!」


 なにしろ今日は、コウタが開拓して耕して手入れした畑の、収穫の日なので。


 これまで何度か、異常は出てないか芋を掘り出してみることはあった。

 あと変異した植物が自ら、もしくはコウタに引っ張られて収穫されることはあった。

 だがそれは一部だ。

 今日は、畑すべての作物を収穫する予定になっていた。


 気合いを入れ直したコウタの腰紐が宙に伸びてうにょうにょ動く。

 イビルプラントである。

 コウタの魔力が気に入ってすっかり懐き、いまでは作物の生育状況を教えてくれていた。畑育ちなのに。仲間殺しではないのか。まあ、寄り添った方が繁栄すると納得した共生関係なのだろう。たぶん。


 コウタがゆっくり畑に近づく。

 (うね)の前でかがむと、カークはさっとコウタの肩から飛び降りた。

 腰紐の指す場所に手を近づける。

 素手で土をかきわける。

 掘っていく。

 カークは掘り返された土にちょこちょこクチバシを突っ込む。

 コウタの手に固い感触が当たった。

 土を掘るペースが速まる。

 あらかた見えたところで、コウタはごそっと引き抜いた。


「おお、おお……」


 汚れた手で、土まみれの芋を見て打ち震えるコウタ。


 芋が貴重だからではない。

 ベルが街へ買い出しに行った際には、食料として大量に持って帰っている。


「カァー。カア」


「ありがとう、カーク。こんな俺でも、やれることはあるんだね」


 この世界で目覚める前、コウタは半引きこもり生活を送っていた。

 激務から心身の調子を崩して、ただ日々を過ごしていたのだ。

 【健康】を授かってからは開拓や探索、モンスターの討伐まで送っていたが——実家が農家だったコウタにとって、作物を育てて収穫するというのは、特別なものがあったのだろう。


 涙ぐむコウタに、カークは寄り添って鳴いた。


「よし! どんどんやっていこう! ゆっくりやったら陽が暮れちゃうからね!」


「カァ? カアッ!…………カ、カァ?」


 宣言したコウタに、その意気だ、とばかりにカークが吠える。

 だが、そのカークがすぐに戸惑った声をあげた。

 なにしろ、コウタの取った行動が理解不能だったので。


 一株を掘り終えたコウタは立ち上がった。

 腰紐がわりのイビルプラントを軽く叩く。

 と、イビルプラントがにょーんと空中に伸びる。

 なんらかの合図だったのか、畑からうねうねとツルが伸びてきた。

 四方八方からコウタに絡みつく。

 あっという間にコウタの体は植物におおわれた。


「お、おいコータ!」


「危ねえだコウタさん! 魔力を吸われて干からびちまうだ!」


「コウタ殿は【健康】なのだ。心配いるまい。心臓に悪い光景ではあるが……あ、我心臓なかったわ」


「よし、そろそろいいかな?」


 動揺する周囲をよそに、コウタは呑気だ。

 女神から授かった【健康】な体は、怪我も病気もしない。

 コウタの生命にかかわるほど魔力や生気を吸われることはない。

 伐採中に木が倒れてきても潰されることはなく、それどころかコウタには「拘束」も効かなかった。つまり——


「よいしょっと」


 ——コウタが歩き出せば、引っ張られるのはツルの方だ。


 ツルにまみれたコウタが畑から離れていくと、土からぼこぼこと芋が出てくる。

 引っ張っても千切れないのは異世界の植物ゆえか。そもそもツルが動いているぐらいだし。


 四人の口があんぐり開く。一体の顎骨が外れる。


 コウタが四人と一体の前を通り過ぎてしばらく行ったところで、土から出てくる芋がなくなった。

 収穫しきったらしい。


「おー、やっぱりできた! いやあ、この世界の収穫作業って簡単だね! 向こうじゃ一日仕事で大変だったもんなあ」


「『簡単だね!』じゃねえよコータ! こんなことできんのコータだけだかんな!」


「お、おら、力仕事なら役立てるだ!って思ってたんだども……」


「じゃあ一緒に荷造りをお願いします、ディダさん! あ、でも街には運ばないのかな?」


「短時間であればこの地でも活動できるであろうと、スケルトンを喚び出すつもりであったのだが……」


「ほ、ほれクルトさん、まだ芋を斬り離したりツルを処理したりやれることはあるんじゃねえか? まだカラス麦の畑もあるしな!」


「カアッ! カア、カアーッ!」


 思いつきがうまくいってコウタは上機嫌だ。アビーのツッコミは届かない。

 ディダとクルトが肩を落とし、エヴァンがちらっともう一つの畑を指差す。

 ベルは荷運びの心配をして、カークは掘り返された畑を興奮した様子で飛びまわる。オヤツタイムである。


「カラス麦の方はどうしようかなあ」


 四人と一体と一羽がそれぞれの反応を見せる横で、コウタはさくっとツルをほどいてカラス麦の畑に向き直った。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ九ヶ月。

 この世界の収穫作業は、コウタとカークとアビーがいた世界の収穫作業とまったく違うようだ。

 機械の有無ではなく、魔法とスキルの理不尽さによって。




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