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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第二章 コウタ、TS逸脱賢者と出会ってこの世界のことを知る』
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第二話 コウタ、2年ぶりに女性と会話することを試みるもいまいち噛み合わない気がして困惑する


「大丈夫ですか! いまそっちに」


 バシャバシャと湖を泳ぎながら叫ぶコウタ。

 心配なのか、カークはコウタの上空をぐるぐる飛んでいる。


 一人と一羽が異世界生活をはじめてから一週間。

 コウタが魔法の練習をしていたところ、とつぜん湖の上空に女の子が現れた。そのまま湖に落ちた。

 助けようと飛び込んだコウタの視線の先。


 水面を割って、女の子が()()()()()


 溺れたわけでも意識を失ったわけでも、ましてや水死体でもない。


 ()()()()()


 文字通り、水の上に()()()()()


「あー、ずぶ濡れになっちまった。……ん?」


 ローブや髪の毛からぼたぼたと水を垂らした女の子が顔を上げる。

 人が水面に立つという衝撃的な光景に大口を開けたコウタと目が合う。

 たがいに驚いてしばらく見つめ合う。


「カアー」


「あの、大丈夫ですか?」


「助けようとしてくれたのか、ありがとな。オレは大丈夫だ」


 カークの声に促されて言葉をかわす。

 金髪からぽたぽた水滴を落とす女の子は、高く澄んだ声だった。口調は荒い。


「は、はじめまして。俺はその、えっと」


「あー、うん。挨拶は上がってからにしねえか?」


「あ、そうですね」


「カァー」


 立ち泳ぎのまま名乗ろうとしたコウタを女の子が止める。もっともである。

 力なくカークが鳴く。


 とりあえず。

 コウタと異世界人のファーストコンタクトは、悪印象ではなかったらしい。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「あらためて、ありがとな。えーっと」


「あ、コウタです。はじめまして」


「ありがとな、コウタさん。オレはアビゲイル・アンブローズ……いや、オレはただのアビゲイルだ。アビーって呼んでくれ」


「さんづけじゃなくていいですよ、アビーさん」


「はっ、んじゃオレもアビーでいいって。これでもう家とは関係ねえしな! よろしくコータ!」


 アビーと名乗った少女はからからと笑う。

 水滴が落ちる金髪、コウタを見つめる瞳は(あお)い。

 男っぽい口調とは裏腹に、濡れたうなじが色っぽい。

 コウタはすっと視線を逸らした。紳士である。臆病(チキン)なだけだ。油断なく見つめる(カーク)と違って。


「ガア!」


「あ、コイツはカークです。カラスだけど賢くて、いろいろ助けてもらってます。友達というか相棒というか」


「カ、カァ」


「ははっ、照れてんのか? ほんと賢いんだな。よろしくな、カーク」


「カァー」


 ぎゅっと髪を絞って水気を取りながら挨拶するアビー。

 カークが賢すぎることも三本目の足もスルーしている。

 気にしない性格(タチ)なのか、あるいは優先順位をつけているのか。


「うあー、ずぶ濡れだ」


 髪に続いて、ローブをたくしあげて絞る。

 白い生足が目に眩しい。

 コウタは思わず横目で捉え、カークはふいっと視線を逸らした。さっきと逆である。足派か。


「あの、俺は離れますんで、それからの方が」


「ん? ああ、気にすんなって! パンツが見えてるわけじゃねえんだし!」


「え、ええ……? いやアビーさん……ア、アビーは女の子だし俺が気になるっていうか」


「カァー」


 転生する前、コウタは28歳だった。

 目覚めてから水面に映る姿を見て確かめたが、多少顔つきと体つきが変わっただけで大きな変化はない。コウタの意識も連続している。

 つまり、コウタの気持ちとしては28歳のままだ。

 少なくとも目の前の少女よりは歳上だ。


 コウタ、年長者として注意したつもりらしい。

 カークは、もっと言い方あんだろと呆れているようだが、それはそれとして。


「こんなナリだから難しいかもしんねえけどな、オレは男だ」


「ああ、LGBTってヤツですか?」


「そうそう、よく知ってるな。オレは体が女で心は男だからトランスジェンダー……待て待て待て! なんで知ってんだコータ!」


「え? なんでって言われても」


「LGBTって! 思いっきり発音してんじゃねえか!」


「はあ」


「……なあコータ。オレは男だったんだ。けど転生したら女になってた。だからトランスジェンダーっていうよりTSって感覚なんだ」


「あー、なるほど。そうですね、そう言われた方が俺もわかりやすいです」


「通じるのかよ! これ確定だろ!」


「ガァー……」


 ぴしゃぴしゃと水滴を飛ばして興奮するアビー。

 コウタはぽかんとしている。

 カークはおいおいコウタ、まだわかんねえのかよ、と呆れ顔だ。


「よっしゃぁぁぁあああああ! オレと同じ! 転生者を見つけたぞぉぉぉおおお!」


 アビーの叫びが湖のほとりに響き渡る。

 頭上で大木の枝葉がさわさわと揺れる。



 一人と一羽が異世界生活をはじめてから一週間。

 異世界人とのファーストコンタクトのはずが、異世界人ではないのかもしれない。


「あ、そういうことか!」


 コウタ、ようやく理解したようだ。天然か。28歳男性の天然など誰得である。


「あれ? いま俺、何語で喋ってるんだ? なんでアビーと会話できるんだ?」


 遅い。

 どうやらコウタが授かったのは【健康】だけではないらしい。ご都合——幸いなことに。



また短めだったので次話は今日中に更新します!


みなさまの応援のおかげでジャンル別の日間ランキング4位にランクインしました!

感謝の更新本日一回目!

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