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逃げろヒロイン

ヒロイン、うんざり?

作者: 笛伊豆

似たような設定のお話を読んだのでちょっとアレンジしてみました。

「サレル公爵令嬢ヨアンナ、なぜあんなことをした?」


 王太子殿下の静かな声が響いた。


 ここは学園の中央ホール。


 多くの教職員や学生たちが行き交う中での突然の糾弾だった。


「あんなこととは?」


 冷静に返すのは幼いながらも見事な金髪とアメジストの瞳を持つ気高い娘、いや令嬢だ。


 サレル公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者、ヨアンナ様。


「レイコの話では、一昨日階段から突き落とされそうになったと。その他にも制服を隠されたり食事中にスープをかけられたり、本や書類を破かれたりもしたと聞いている。身に覚えはないのか?」


 王太子殿下の声が強くなる。


 だがヨアンナ様はややびくつきながらも果敢に言い返した。


「レイコと言うとそこの平民でしょうか? この学園にあるまじき穢れた血の。そのような取るに足らない者のお話をお信じになると?」


「レイコは平民ではない。男爵家の令嬢だ」


「取り入って養子になっただけでしょう。その前は身元も定かでない孤児だったとか。そのような者をお側に置くなど王太子殿下の見識が疑われますわよ。近習の方々は何をなさっておられるのか」


 ヨアンナ様に睨みつけられて、殿下の後ろに控えている高位貴族子弟の方々が居心地悪そうにそっぽを向く。


 公爵令嬢に言われちゃあね。


 言葉に詰まる殿下を見ていられなくて私は一歩前に出た。


「失礼致します。レイコ・アスタールでございます」


 アスタール男爵家は私を引き取って下さった恩人だ。


 ヨアンナ様は私を毛虫でも見るような表情でちら見した後、そっぽを向く。


 代わりに取り巻きの貴族令嬢たちが口々に言い立ててきた。


「何と無礼な!」


「たかが男爵家の分際で!」


「これだから庶民上がりは」


「高位の方に自分から話しかけてはいけないことすら判りませんの?」


 いや、ある意味既に話しかけられているんだけど。


 しょうがない。


 テンプレだけど言うしかない。


「これまでの仕打ちについてはもういいです。ですが一言、謝って下さい」


 さすがにこれは効いた。


「わたくしが! お前ごときに! 謝るですってえ?!!!」


 叫ぶヨアンナ様。


 いや、高位貴族の令嬢だからといってやっちゃいけないことはあると思うのよ。


 まだ子供だから仕方がないのかもしれないけど。


 でもこのままだとヨアンナ様、婚約破棄(アレ)だよ?


 隣の殿下を見ると心底困った表情だった。


「殿下! 婚約者が侮辱されたのですのよ! 不敬罪ですわ! その者の処刑を要求します!」


 言われてしまった。


「いや、そこまでは」


「ヨアンナ様もちょっと」


「無理でしょう」


 後ろの取り巻きの人たちも困っているらしい。


 でも一応私の味方してくれるから助かった。


「……その前にもう一度聞こう。ヨアンナ、貴方はやったのか?」


 ヨアンナ様が息を飲んだ。


 遠巻きにしている周り中の人たちも同じ。


 王太子殿下のご下問だ。


 応えないのは無礼。


 嘘をついたら極刑も有り得る。


「わたくしを無視してその平民あがりといつも一緒に……。覚えてなさいよ!」


 ややあって剥き出しの憎悪を私にぶつけて身を翻す公爵令嬢。


 口々に私を罵りながら後を追う取り巻きたち。


 喧噪が去ってしまうと唖然とした空気が漂う中、民衆は何事もなかったかのように動き出した。


 無言。


 私は言った。


「あの、私そろそろお暇を頂きたく」


「それは駄目だ!」


「レイコじゃなければ僕たち、破滅する!」


「まだ剣を教えて貰ってないのに」


「レイコがいないと下町の探索も出来ないじゃないか!」


 最後に王太子殿下が静かに言った。


「私たちはレイコを欲している。

 どうか負けずに私たちを導いて欲しい」


 ああ、もう!


 だったらフォローしてよ!


 とは言えないか。


 私はレイコ。


 年は15だ。


 薄給の保母として21世紀の日本で何とか暮らしていた記憶を持つ転生者。


 孤児院で前世の経験を生かして保育チートしていたらお決まりの聖女だと言われて男爵家に引き取られ、今はこの学園の特別職員をやっている。


 仕事は王太子殿下や将来の重臣である高位貴族家の子弟たちのお世話だ。


 王太子殿下や高位貴族の子弟の方々はまだ十歳くらいだというのにみんな聡明で、私によくなついてくれるのはいいんだけど。


 王太子殿下の婚約者のヨアンナ様(8歳)を筆頭に皆様の婚約者のご令嬢たちが嫉妬しているらしくて色々と攻撃してくるのよ。


 保母の制服を汚されたり絵本を破かれたり。


 階段で後ろから突進してきたので何気なく避けたら自分が落ちそうになって慌てて助けたりして。


 王陛下に提出する書類を切り裂かれた時にはさすがに頭にきた。


 私はこれでも宰相閣下を通じて陛下からこのお役目を正式に承った身なのよ。


 陛下に献上する報告書を破棄した件は正式に謝らないとヤバいよ?


 まあ報告させて貰うけど。


 でもさすがに8歳児を告発するのは気が引ける。


 仕事だからしょうがないと思ってもねえ。


 悪役令嬢ってマジウザい。


 それに私はヒロインじゃないっての!

ヒロインが悪役令嬢に「謝れ」と執拗に言うのは謝らないと王に対する反逆になるから。

(紋章入り公式文書を破棄した件で)

悪役令嬢が追放されたり修道院に行かされるのは上記の罪で。

(反逆罪)

ヒロインが身分に関わらず権力? を振るえるのは言わば王の査察官だからなのでした。


乙女ゲームものの真相はこれだったりして(笑)。

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― 新着の感想 ―
[一言] コレは叙述トリックの一種何だろうか、なんかちょっと笑えてほっこりした、まあ8歳で学校とかに通ってなかったらこんなもんだろ(笑)ということはテンプレの王子さまや令嬢は8歳に毛が生えたようなもの…
[一言] 王子を筆頭に婚約者をもっと大事にさせれば変な嫉妬拗らせないだろうからその辺りの教育も必要そう(^_^;)
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