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魔王『うっかり悪役令嬢に転生して破滅の運命に巻き込まれても華麗に回避出来るように、ワガハイに予知能力者みたいな人を紹介してくれぬか?』 勇者「帰れ!」


「……スダレハゲじゃねえか!!」


『フゥヌハハハハハ!! 良くぞ気付いたな勇者よ!!』


「気付くわボケ! いや違う、気付くわハゲ!! 何が悪役令嬢だ魔王テメー! ハゲを隠そうとしてもそよ風にそよそよとスダレってんじゃねえか! そのスダレ頭でセクシードレス着て社交ダンスでも踊る気か!! 精神テロじゃねえかこの野郎!!」


『フヌハハハ! 勘違いするなよ勇者よ!』


「仮にハゲ隠しにウィッグ着けるにしたってオメー完全にオッサンじゃねえか!! 令嬢って年じゃねーだろこのバカ!! いや違う、このハゲ!!」


『フヌハハハ……いちいちその訂正要る?! だから違うのじゃ勇者よ! 今度転生して新たなアヴァターに入った時に、もしもその転生先が悪役令嬢じゃったら大変だから、その保険にという話なんじゃよ』


「なんだそう言う話か。気持ち悪い想像させやがって、新手の嫌がらせかと思ったぜ。……しかしスダレハゲのオッサンがアストラル体のツノと翼を生やしてアストラル体の王冠をかぶってるのは、何ともこう、すごく味わい深い絵だな。この味の有る光景を共有出来る人間がいないと言うのは残念だな。……。そうか。これが、選ばれし者の孤独……」


『凄いタイミングで悟ったのう、選ばれし者の孤独』


「ん? アレ? そういやそのオッサン、どっかで見た事あるな」


『フヌハハハ! やっと気付いたか勇者よ! ワガハイの今度のアヴァターは、この帝国の財務副大臣補佐官であるぞ! 伯爵であるぞ! ブルジョアであるぞ! 上級帝国民であるぞ!! ひれ伏せ平民!』


「あーそうか思い出した。オレが初めて勇者候補になった時に、10Gとひのきの棒を寄越してオレを追い払いやがったハゲだわ。そうかそうかソイツ財務副大臣補佐官になってたのか。んで死んだのか。良し魔王。一歩下がってくれないか?」


『む? おお。そんな所に隠し通路が! その先に予知能力者さんがおるのじゃな?!』


「いやこれ床下収納。このエッチな本の下に……お、有った有った聖剣。良し、殺そ」


『ぅぇえええええええ?!! ちょ、ちょっと待って勇者! なぜワガハイを殺す?! なぜおぬしはスナック感覚でワガハイを殺したがる!!』


「うるせー魔王。何度も何度も何度もオメーに説明してるけどな。法王庁からお前を無闇やたらに殺すなって言われてるのは、帝国や教会の重鎮にお前が転生されたら面倒だからだよ。財務副大臣補佐官なんて国の重鎮そのものじゃねえか。だから殺す。慈悲はない」


『本当に待って勇者! ワガハイ重鎮じゃない! 財務大臣の、副大臣の、補佐官じゃぞ?! メッチャ雑魚じゃ!』


「財務大臣の、副大臣の、補佐官だろ? この国で財務において三番目の実力者って事だろ? 帝国財務管理トーナメントを開いたら準決勝に勝ち上がれる逸材じゃねえか」


『ランキングが雑!! 副大臣は二人おるしその下に補佐官なんぞ二桁おるんじゃ! トーナメント初戦敗退じゃ!』


「そんなに? むう、地方の強豪レベルか」


『そうじゃ! せいぜい主人公の最初のライバル程度の財務管理能力しかないんじゃ! 重鎮には程遠いリストラライン上のなんちゃって伯爵じゃ! 見逃してくれ勇者よ!』


「ん〜迷うラインだなー。……っ! ……魔王、そのスダレハゲに子供はいるか?」


『……。うむ。15歳になる娘が一人と』


「女の子になぞ興味は無い。勝手にすくすく健康に育つが良いさ。他には?」


『……3歳になる長男が』


「3歳かぁ~っ。3歳相手は、流石にガチ犯罪だよなぁ……。ならば魔王よ。その男の子が5歳になりオレと一緒にお風呂に入ってくれるその時まで、貴様の命はあずかろう」


『5歳でもガチ犯罪だが、見逃してくれて済まないな勇者よ。ウチのジョン君を絶対におぬしと同じ風呂になんぞ入れはせぬが、2年の延命には感謝しよう』


「ふふふ。2年も有れば心変わりさせてみせますよお義父さん」


『ワガハイをお義父さんと呼ぶな握手をするな手を離せ』




 ☆




「そーいやこないだの依り代どうした? あのワイバーン。レアアヴァターだっつって、はしゃいでたじゃねーか」


『うむ。あのあと流れ流れて名も知らぬ異国の農村に流れ着いてな。空腹のためうっかり食った農耕馬の代わりに、その村の一員として畑を耕しつつスローライフを送ることとなったのじゃ』


「なっちゃったか」


『そこでおっとり巨乳ソバカスみつ編み目隠れメガネで巫女でもある村長の娘さんと、ねんごろな仲になってのう』


「属性が渋滞してるな」


『その娘が村の祭りでうっかり邪神■■=■■■を復活させてな。村の地母神の信託により、その娘は邪神を滅ぼす勇者に選ばれたのじゃ』


「うっかり属性と勇者属性が増えたな」


『それで二人で邪神討伐の冒険に出かけてな。邪神を倒すのに必要なアイテムを集めたり、邪神四天王を倒したりしたりでな。長き戦いの末に、ついに邪神■■=■■■を倒したのじゃ』


「倒しちゃったかー」


『だが邪神■■=■■■を完全に滅ぼすには、聖なるモーニングスターに魂を捧げる必要があったのじゃ。それで無ければ聖なるモーニングスターの最終奥義たる「破邪の一撃」は繰り出せん。犠牲になろうとした娘を制し、ワガハイは自らの魂を使って破邪の一撃を繰り出した。ワガハイの尊い犠牲によって、邪神■■=■■■は滅んだ。そしておっとり娘とワガハイの冒険は、その幕を下ろしたという訳なんじゃよ……』


「そうか。魔王としての自覚とか魂捧げてねえとか問い質したい事は色々あるが、まずその農村ってどこにあんの?」


『ん? 勇者よ、あの村へ行くのか?』


「ああ。勇者は二人も要らねーからな……」


『何をするつもりじゃ!! まず聖剣を置け勇者! そもそも邪神を倒した時点で彼女は勇者の任から解放されておるのじゃ! もう彼女をそっとしておいてやってくれ!』


「なんだ。もう勇者じゃ無いのか。脅かすなよ〜あはははは~」


『……おぬしの勇者である事への執着が、時折ワガハイもの凄く怖い。でまあ、スローライフを送っていても運命の転機はいつ訪れるやも知れぬと悟ってな。打てる安全対策は全て打とうと言う話なのじゃよ。それでまずは悪役令嬢から対策しようかと』


「隕石に当たった時の保険みたいな話だな」




 ☆




「つか、そもそも悪役令嬢って何なんだよ。さっきから皆さんご存知のみたく使ってるけど」


「うむ。ナロー回廊で繋がっておる億万の異世界にて、ずいぶんと長期間に渡り同時多発的に発生しておる個体でな。すなわち悪の役割を割り振られたご令嬢である」


「悪ねえ。軍の幹部をろう絡してクーデターでも起こすのか? 何か楽しそうだな」


『悪の規模がデカ過ぎる! そうではない。貴族学校なんかのプレ社交界に君臨し、平民出の成金お嬢様などに嫌がらせをカマす存在よ。つまりは主人公のシンデレラストーリーを邪魔するという意味での悪役じゃな』


「誰目線だよ主人公て。人はみんな、自分の人生の主人公だろう?」


『そんな素敵な言葉を言った奴が一瞬前にクーデター勃発を望んでたかと思うと、新鮮な感動があるのう。まあ悪役令嬢とはそういう存在なので、最終的には因果が応報し悪事を告発されるなどして、破滅的な最後を遂げる決まりなのじゃ』


「遂げる決まりなんだ」


『うむ。水と魚のように、銃と弾丸のように、老女優と舞台のように、悪役令嬢と破滅とは、切っても切れぬニコイチのワンセット。逃れようの無い運命の収束よ。ファイナル・デスティネーションよ。ひとたび世界意志に悪役令嬢の認定を受けてしまえば、破滅の運命は……どんなにバラバラにしてやっても石の下から……ミミズのようにはい出てくる……』


「おっかねえ。すげえ呪いだな悪役令嬢。前世でどんなカルマを積んだらそんな罰ゲームみたいな人生送るんだよ。あー。だから予知能力者を紹介してくれって事か。お前悪業の塊だもんな」


『うむ。なんか酷い事を言われた気もするが、おおむねその通りじゃ。悪役令嬢としての破滅を回避するには、その破滅の内容を事細かに知る事が肝要。己が悪役令嬢たる事を自覚した悪役令嬢は、未来予知ともワンセットなのじゃ。悪役令嬢とは、来たるべき破滅を知り回避せんと必死にあがく、水に落ちた羽虫がごとき存在なのじゃよ』


「落ちてたら死ぬの確定じゃねえか。てか死ねよ面倒臭え」


『何を言う! 破滅を回避して生き残れば、先に待つのはバラ色の未来ぞ! だってご令嬢じゃもの! のるかそるか、いわば運命のダブルアップチャンス! と言う訳でその時の為に手ごろな未来予知能力者をワガハイに紹介してくれ勇者よ』


「けど、未来予知できる奴を紹介しろつったってなあ。未来予知つったら魔術師連合の因果律観測庁か、帝国国教会の預言庁だろうけど。オレどっちにも厄介者扱いされてて疎遠なんだよなあ」


『なんじゃ。勇者のクセに人望が無いのう』


「誰のせいだと思ってんだこのハゲ!!」




『……ん?』


「……」


『……? ぬぅ?』


「……」


『……! ……ワガハイの……せい、なのか?』


「そーだよ!! お前好きだなこのくだり! お前がしょっちゅう訪ねてくるから勇者は魔王と内通してんじゃねえかとか思われてんだよ! とまあ、本来なら断る所だがな。未来のお嫁さんのお義父さんの頼みとあれば仕方ないな」


『おお、他に心当たりがあるのか。恩に着るぞ勇者よ。あと繰り返すがジョン君は貴様には指一本触れさせんぞ勇者よ。手を握るな握手をするなええい離せ勇者よ』




 ☆ ☆ ☆ ☆

  ☆ ☆ ☆ ☆




 すれ違うメイドたちと挨拶を交わし、勇者とスダレハゲの魔王が古城の中庭を歩く。


 離れのコテージ。来賓用宿泊施設のドアをノックする。



「はぁ~い♡ 開いてるわよ~勇者ちゃ~ん♡」


「占い師ちゃんお邪魔~♪」


『うむ。失礼するぞ』



 勇者と共に魔王がコテージに入る。

 一人の女性が長椅子にしだれかかったまま、頬づえを付き二人に微笑んだ。


 まるで南国に来たような、エキゾチックなアロマが香る。

 客室の主は、煽情的なレースの衣装に身を包んだ、妙齢の褐色美女であった。



「あら♡ 勇者ちゃんいらっしゃぁ~い♡」


「占い師ちゃんうぃーっす♪ 魔王、この子は占い師ちゃん。占いパワーが落ちるんで本名は教えてくれなくってな。みんな占い師ちゃんって呼んでる。勇者パーティの最初期メンバーだったんだけど、お前倒す前に他の用事が出来て別れちゃったっててな。でも最近再会して、ウチの城に居候してんだわ。占い師ちゃん、コイツ魔王」


「はぁ~い♡ 魔王ちゃんおひさ~♡」


『う、うむ。久しいのう、占い師の娘よ』


「お? 何だよ知り合いだったのかよ。どこで会ったの?」



 勇者が問いただすも、魔王の表情には微妙な陰りがあった。

 にこやかな占い師の圧に押され、魔王が口を開く。



『うむ。ずいぶんと前にな……』


「前? 最初のお前倒した後に、何回目かのお前と会ったのか?」


『いや……もっともっと前じゃ。前回にワガハイの本体が封印された時の話じゃ。……その娘はな、八百年前の先代勇者の、魔王討伐パーティの一員じゃ』


「やほ~、八百年ぶりぃ~♡ ちょっと早く起きちゃったぁ? 懐かしいわねぇ~魔王ちゃん♡」


「え~? 何だよ十八歳って言ってたじゃん占い師ちゃ~ん。八百歳はサバ読みすぎだって~♪ 占い師ちゃん本当は何歳よ~?」


「レディに歳を聞くもんじゃないわよ~? 勇者ちゃん、メッ♡ それより今日の魔王ちゃんって、何かちょっと良くなぁい♡? スダレハゲにアストラル体のツノとツバサと王冠ってさ♡ 威厳と悲哀の程よいカフェオレっていうか~? 魔界の中間管理職っていうか~? えも言われぬ風情が有るよねぇ~♡」


「わかるぅ~↑♪ オレもさっき魔王に同じ事言った~♪」


『ええ~……。かなりの衝撃的事実を開陳したつもりじゃったが、そういうノリでOKなんじゃ勇者よ。まあしかし、この娘が占ってくれるというのであれば心強い。占い師ちゃんよ。ワガハイがこの先、悪役令嬢に転生する未来が来るのかどうか、さっそく占ってくれぬか?』



 魔王の問いに、占い師はうっとりと微笑んだ。



「占うまでもないわね~♡ 破滅の未来がバッチリクッキリ見えちゃってるものぉ♡」


『ええー?! そんな! いつ?!』


「今夜よぉ~♡? 卒業式の後のプロムで学校関係者や保護者たちの見守る中、ライバルの娘に仕掛けた非合法な嫌がらせの数々を暴露されちゃうわ♡ 婚約者の皇子にも絶縁を言い渡され、家は没落、本人は修道院へGO♡! 因果律の見事な応報。悪役令嬢のお手本みたいな破滅っぷりねぇ~♡」


「ちょっとまて魔王! スダレ頭のオッサンが皇子と婚約?! サイコホモストーカーじゃねえか! そんなもんライバルの娘への嫌がらせ関係なく破滅するわ! どんだけ破天荒な人生を謳歌してんだよこのハゲ!」


『ち、違うぞ勇者ちゃん! 占い師ちゃん、それもしかしてワガハイの娘のアンネローゼの事か?!』


「そ♡」


「ああ。そういや居たな。15の長女」



 魔王が占い師の手を取り、ずいと詰め寄った。



「アラ積極的♡」


『頼む占い師ちゃん! アンネローゼちゃんの破局の運命を回避させてくれ! 今夜の卒業ダンスパーティに、一緒に来てくれ!!』


「おお、面白そうだな。俺も行こう」


『おぬしはこの城出られないんじゃろ?! 留守番しておれ!』


「財務副大臣補佐官殿が、オレ宛に卒業パーティの招待状でも書いてくれりゃ良いだろ。じゃないと占い師ちゃん貸し出さねー」


「だって♡ ど~する? 魔王ちゃん♡」


『……言っておくが絶対に男子生徒に手を出すなよ? 勇者ちゃん』


「さっきからチョイチョイちゃん付けになってるぞ魔王ちゃん。心配すんな、15だろ? 貴族学校中等部の卒業生だろ? そんなもんもう子供じゃないじゃん? あっちこちモッサモサ生えちらかしてるじゃん? 大人じゃん? そんな男の子が好きって、それもう……ホモじゃん? いやいや! オレはホモの人に偏見とか差別意識とかは無いんだよ?! でもさぁ、ちょっと……ねえ? ソレもう、変態じゃん?」


『そうか……。前々から不自然な言動が目立つとは思っておったが。……自覚症状が無かったのか、勇者よ』


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