勇者「メイド長さんの使ってたアナライズリングを複製して大量生産できたから、色んな人たちをステータスオープン!してみようぜ!」 魔王『素敵!』
読んでなくても大丈夫!
前回の魔王帰れクロニクル。
ステータスオープン。それは魔法の言葉。
ステータスオープン。それは悪魔のささやき。
あらゆる人間の数値を暴き、白日の下に晒す。それがステータスオープン。
全ての人間は絶対的な評価の元に否応なしに序列され、物語の文字数はお手軽に水増しされる。それはまさに禁断の果実。
エデンの知恵の実が勇者と魔王にもたらすものは幸運か、それとも破滅の罠か。
『なるほど勇者よ! 帝国全土の愚民どもにステータスオープン出来る指輪を配布する事によって、王が臣下を! 上司が部下を! 嫁が旦那を! 絶対的な数値で査定し支配する、恐怖の管理社会を作ろうと言うのだな!! フヌハハハハ! よいぞよいぞ! ビバ☆ディストピア!! それではワガハイがテスターとして、忌憚のない使用感を述べてやろうではないか! さあ、その指輪をワガハイの指に! ブヒヒヒ〜〜ン!!』
「馬じゃねーか!! ヒヅメをテーブルに乗せんじゃねえ!!」
『フヌハハハハ! 良くぞ気付いたな勇者よ! ワガハイの今回のアヴァターはサラブレッドであるぞ! 見よ、この美しきフォルム! さあ、その指輪をワガハイに! ブヒヒンッ!』
「だから指がねーじゃねーか! 指輪を踏むな! だいたいちょっと目を離したスキになに馬になってんだ! 前のゾンビの依り代はどーしたんだよ?!」
『ゾンビではない。ゾンビっぽいバイオウェポンである。あの後リッチのリッちゃんのラボにて、人間に戻る為の実験を色々と行っておったのだがな』
「おう。ゾンビになったウラメッテの皆さんとリッちゃんのラボで暮らしてただろ」
『実験に実験を重ねた結果、身の丈3m、握力2t、どんな傷も瞬時に治癒する無敵のタイラントになってしまってな』
「何作ってやがんだリッちゃん」
『それで余りに再生能力が高くなりすぎてな、リッちゃんの目を盗んで自死したのよ』
「え〜何で? オレが言うのも何だけど勿体無いじゃん」
『何を言う。もしあれ以上タイラントの生命力が上がってワガハイの力でも殺せなくなれば、あのアヴァターにワガハイの魂は固定されてしまうという事ぞ。そんなの嫌じゃ。どこぞに閉じ込められたら死んで脱出も出来なくなるじゃろ』
「ああ。まあそれもそうか。んで新しいアヴァターがその馬か」
『その通り! 今回のワガハイは魔王じゃなく馬王であるぞ! フヌハハハハ!!』
「ばはははは! くだらねーダジャレ言いやがって! ……なあ魔王。オレたち、何語で話してるんだろう……」
『急に真顔になるな』
☆
「つうか管理社会とかそういう事じゃねーんだよ。魔物の攻撃属性とか相性とかを戦闘前に調べて、効率よく戦えるぜって触れ込みしてさ。新米冒険者に売り付けようって話だよ」
『そうは言うてものう。もうこの国にはゴブリンとかオークとかの低級魔族がおるだけで、相性とか属性とかそういう上等なもん持ったモンスターなんぞ居らんじゃろ。イチイチ相性に合った攻撃するより、レベルを上げて物理で殴る方が安パイではないのか?』
「う~ん。それもそうか。強い奴はオレがもう狩りまくったもんなあ。でもホラ、冒険者じゃなくってもさ、奥さんが旦那の浮気チェックするとか、貴族が使用人にスパイがいないか調べるとかさ、使い道あるだろ」
『ソレさっきワガハイが言った管理社会の話そのものじゃろ』
「まあとりあえずアレだ。色々試してこの指輪を売るためのアイデア出しをしてくれ。リッちゃんが発注の桁二つ間違えて千個作っちまったんだよ。何とか売らねえと城が傾く」
『相変わらず自転車操業じゃのう』
「表示される数値の平均値は10にしてあるそうだ。見方は……まあ、実地でやった方が早いか」
『うむ! 早速ステータスオープンじゃ! ブヒヒ~ン!!』
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『おお、第一村人発見じゃ!』
「村人じゃなくて出入りの業者さんだけどな。こんちわ~っす」
馬王と勇者が、城の中庭に止まった馬車に歩み寄る。
そこでは一人の商人が忙しげに荷降ろしを行っていた。
「おお。これは勇者様。わたくし、いつも出入りしておる商人の代理の者でございます。今後ともどうぞよしなに。おお、そうです。名刺を――」
「いやいや商人さん。名刺は結構! あなたの名前を当てて見せましょう!」
「はい? 何でございましょうか、その指輪は」
『フヌハハハ! 良くぞ気付いたな商人さん! この指輪は――』
「ウマガシャベッタアアアアーーッ?!!」
「い、いや商人さん。この馬はじつは魔王でな……」
『フヌハハハハ!!』
「マオウガシャベッタアアアアーーッ!! う〜ん、ぶくぶくぶく……」
商人が泡を吹き、その場に昏倒した。
勇者と魔王が無言で立ち尽くす。
「……。良く考えればこれが普通の反応かも知れんな」
『……。ワガハイたち、周囲のルーズさに甘やかされておったのやも知れぬな』
「まあいいや。起きても面倒だし。ステータスオープン!!」
『……』
勇者の言葉と共に、商人の頭上にステータスが表示された。
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【ステータスを表示します】
【「■」が一列になるよう】
【ブラウザ幅を調整して 】
【ください 】
名前:アベレージ・センターライン
職業:商人
筋力:10
体力:10
知力:10
魔力:10
敏捷:10
運勢:10
年齢:42
種族:人間
状態:心停止
特記:既婚。子供二人。
新進気鋭の行商人。
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『凄いなこの商人さんの名前!!』
「人の名前をどうこう言うな。失礼だろうが。しかしステータス凄いな。オール10か。奥さんと子供二人ね。この個人情報が表示される基準ってさ~、ん? ……死んでるーーーッ?!!」
『このハートの弱さを特記すべきじゃろ!!』
「帰って来い商人さん! こんな事で死ぬなああーーーッ!!」
勇者と魔王が懸命の心臓マッサージを施す。
商人の眼がぱちりと開く。彼は頭をさすりつつ、上体を起こした。
「はっ?! おお、勇者様。私は一体? 何か、変な夢を見ていたような……」
「良かったぁあ~~っ。びっくりしたよ~。商人さん急に倒れてさ~」
『一時はどうなる事かと思ったぞ』
「ご心配をおか……ウマガシャベッタアアアアーーッ!! う〜ん、ぶくぶくぶく……」
☆
「はっ?! おお、勇者様。私は一体? 何か、変な夢を見ていたような……」
「いやいや、馬が喋るわけ無いじゃないの商人さん。きゅ、休憩室でちょっと休んだ方が良いよ」
『ひ、ひひ〜ん……』
「は、はい。……? 有難うございます……」
メイドに案内されて、商人が城内へと入っていく。
『勇者よ、ステータスは医師の診断にも使えるかもしれぬな』
「うむ。二回も殺しかけてちょっと焦ったが、収穫があったと思っておこう」
『そういえば勇者よ。そのアナライズリングは生物にしか使えぬのか? こういう野菜や日用品には使えぬのか?』
魔王が城の中庭に放置された荷物を見る。
樽の上には、リンゴが一個置かれていた。
それを勇者が指さす。
「あーどうだったかなあ。んじゃあのリンゴを、ステータスオープン!」
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名前:リンゴ
糖度:15
完熟度:8
賞味期限:20
回復満腹度:10
運勢:10
種族:林檎
状態:良好
特記:普通のリンゴ。
焼くと美味しい。
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『……焼くと美味しいって、個々の好みの問題では?』
「誰なんだろうな。この文章を書いてるの。でも数値が見られるのは良いな」
『満腹回復度が10と言われても、どれくらいかピンと来ぬがな。食品偽装の調査なんかには使えるかもしれぬな』
「なるほど! よし、あのピーマンも!」
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名前:パプリカ
賞味期限:10
回復満腹度:5
運勢:10
種族:パプリカ
状態:良好
特記:肉厚
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『パプリカじゃコレ!』
「間違うよね!」
「さっきから何やって遊んでるんだ君らは」
その声に勇者が振り返る。そこには銀髪をたなびかせる褐色のイケメンが立っていた。
かつての勇者パーティの一員、今は「無双王」と呼ばれている男である。




