『俺ツエーはもう古い! クールにスマートに人知れず仕事をこなす闇の仕事人が最近の流行りなので、ワガハイと一緒に最強のアサシンを目指さぬか?』 勇者「帰れ!」 その③
夕日が山陰に傾く。
ハイランドから半日ほどの距離。そこにウラメッテの街はあった。
「なるほど街道が封鎖されてるな。ひのふのみの……五十人ばかしか? しかし緩衝地帯とはいえ、帝国の目と鼻の先でこんな真似しやがるとは」
木陰に潜んだ勇者が街道を封鎖した集団を確認し、望遠魔法を唱える。
「三倍拡大化・テレスコープ! ……おお。奴らも傘のマークの腕章付けてるな」
「間違い御座いません。秘密結社パラソルのゴミ共で御座いますわ」
「でもあれだけの人数♡ バレずに侵入するのは難しいかしらぁ♡?」
『それなら心配は無いぞ占い師ちゃん。ワガハイがこの街を脱出するのに使った地下通路がこっちにある』
「まあ♡! 流石だわぁ魔王ちゃん♡」
『さあ。さっさとゆくぞ勇者よ。 あれ? 勇者?』
魔王が木陰できょろきょろと辺りを見回すと、街道から勇者の声がした。
「おーい魔王。何やってんだー。はよ行くぞー」
魔王を呼ぶ勇者の横で、工作員の最後の一人がどさりと倒れた。
街道に立っているのは勇者とメイド長の二人のみだった。
「勇者様。お怪我は御座いませんか?」
「だいじょぶだいじょぶ。メイド長さん。殺してないよな?」
「勿論ですとも。死体は拷問出来ませんゆえ」
「まあ♡! 流石だわぁメイド長ちゃん♡」
『流石と言うか何と言うか……発言がいちいち怖い……』
☆
「あーあー。こりゃひでえな」
街道を歩き丘を越える。
そこには慎ましくも穏やかな田舎町、ウラメッテの光景が広がるはずだった。
しかし今。勇者たちの前に広がる光景は、地獄のようなものだった。
教会の尖塔は折れ、家々は破壊され、あちこちに築いたバリケードは破られ、バタリオンズが闊歩する。
夕闇に包まれた辺境の町は、さながら黙示録であった。
《め゛あ゛? ま゛~ ま゛あ゛~》
《ま゛あ゛~》
《ま゛~》
勇者たちに気付いたバタリオンズが、一斉にふらふらとした足取りで押し寄せてくる。
両手を前に掲げ、よだれをたらし、狂気に目を血走らせ。
腕を無くしたもの。頭を無くしたもの。下半身を無くしたもの。
それらのバタリオンズが、体の損傷も構わず、ただ獲物に向かって行進する。
「ん~。この人らって、元はウラメッテの開拓民だったんだろうなあ」
『無常であるのう。しかし勇者よ、最早どうする事も出来ぬ。情けをかけていては、ワガハイたちまで食われてしまうぞ』
「左様で御座いますわ勇者様。パラソルの所業は許せませんが、このままゾンビたちを生かしておいても彼らの人生を冒涜するのみ。倒して差し上げるのが、せめてもの供養かと」
「でもこの人ら、アンデッドじゃなくって生きてるんだよなあ。寄生虫飼ってるようなもんだろ? なー占い師ちゃん」
「まあ♡ 奇遇ねぇ勇者ちゃん♡ 私もここに来るまでに同じ事考えてたの♡ それにほら、彼らみんな二足歩行で両手を突き出して、噛みつこうとしてるわ♡」
『いや、だから危ないんではないのか?!』
「他の生物に寄生されても、凶暴になってるだけで動きは人間のままって事でしょう? と言う事は、人間の脳や心も、まだ残っているのかも♡!」
占い師が両手を天に掲げ、その手に魔力を集中させる。
「耐性貫通化・範囲最大化・ピィィーースフルっ♡♡!!」
占い師の詠唱と共に、暖かな光が放射状に広がる。
光を浴びたバタリオンズたちが、ゆっくりとその行進を止めてゆく。
《ま゛~…… あ゛あ?》
《ま゛あ~? あれ?》
《どうしたんじゃあ? わしら》
バタリオンたちが立ち止まり、周りのバタリオンたちと言葉を交わす。
占い師の魔法で、ゾンビの群れは知性を取り戻していた。
勇者と占い師が満面笑顔でハイタッチを決める。
「占い師ちゃんウェーイ!」
「ウェ~イ♡!」
『そんなアホな!』
「成程。だからこそリッちゃん様は、ご自身ではなく占い師ちゃんを向かわせたので御座いますのね」
メイド長が神妙な顔で感心する。
『しかし、正気に戻ったところで、自らの身体がこんな有り様ではのう。彼らの心にはもはや、絶望しかなかろうて』
悲しげにつぶやく魔王の横で、ゾンびたちが肩を叩き合う。
《ほっほっほ、ペイジどん。頭に矢が刺さって、目ん玉が矢の先に引っ付いておるぞ!》
《おお、頭に矢が刺さっても死なんとは。こりゃ目ん玉が飛び出るほど驚いたわい!》
《うん? 誰ぞわしの下半身を知らんかのう?》
《ジョーンズどんの下半身なら、さっき若いおなごを追いかけとったぞ! 相変わらず下半身が節操ないのう!》
《プラントどんや。椅子に座るのにちょっと手を貸してくれんか?》
《そう言うと思って、もうわしの手だけがそっちに行っておる》
《こりゃあ気がきくのう! わっはっは! よっこらしょ》
《ボーンナム長老。頭だけで、体はどうしなすった?》
《どこぞへ落としてしもうた。しかし頭だけの方がラクじゃわい。長わずらいの肩こりが、肩と一緒にきれいさっぱり無くなってしもうたぞ! ほっほ!》
首だけのゾンビが愉快げにころころと魔王の足元を転げまわる。
「魔王。お前の心配に反して、なんかみんな楽しそうだな」
「まあ♡ ピースフルの効果で、恐怖心や不安感が無くなっているのね♡!」
『い、いやしかし! ピースフルが消えてしまえば元の人食いゾンビに戻てしまうんじゃろ?! やはりこう、可哀そうではないか!』
「そうねえ魔王ちゃん♡ 後でみんなに永続化のピースフルを掛けて回りましょ♡」
「サクッと見つかったな。解決策」
『いや? ええ? これで良いのか?』
「魔王様。こういう事は考えたら負けで御座います」
しみじみとうなずくメイド長の前に、一人のゾンビがよたよたと駆け寄って来た。
《そ、そこのメイド服のべっぴんさんや。あんたがたが、わしらになんぞしてくれたんかいの?》
「ええ、まあ。わたくしでは御座いませんが、そちらのスケスケレースの女性が」
《おお! あっちのお嬢さんもエッチいのう!》
《ひとりだけべっぴんさんに話しかけおって! ぬけがけじゃあペイジどん》
《は、早い者勝ちじゃあジョーンズどん。メイド服のべっぴんさんや。お礼を言わせとくれ。本当にありがたいこっちゃ。わしらみんなのどかに暮らしておったんじゃがのう。パラソルさんたちのくれた甘い水を飲んでおったら、何やら腹が減ってしもうて。べっぴんさんたちが美味しそうなお肉ちゃんに見えてしもうたんじゃ》
「成程。理性を失って食欲が暴走したので御座いましょう」
《ほんに面目ない事じゃあ。町の衆を代表して、ぜひともお礼を――》
銃声が響き、ペイジの胴体に大穴が開いた。
飛びのいたメイド長の足元に、ペイジの内臓がばら撒かれる。
《わっはっはっは。言わんこっちゃないペイジどん! べっぴんさんと話して興奮するから、心臓が飛び出てしもうたぞ!》
《ペイジどんは上がり症じゃからのう》
《おお、足元に倒れ込んでしもうて、すまんですのうメイドさんや。べ、別におパンツを覗こうと思うた訳ではないんじゃ! 見えてしもうたのは不可抗力じゃ!》
照れながら頭をかくペイジを無視し、メイド長が臨戦態勢を取る。
その視線の先。倒壊した教会の影からマスケット銃を構えた一団が現れた。
中央に立つ女性が、メイド長に嘲笑交じりの声をかける。
「お久し振りねエ、生きてたとはね、『死の影』!」
「貴様は! 『鋭蛇』!」
「え?! 『死の影』って、メイド長さんのコードネーム?! かっけえ!!」
メイド長にそわそわと落ち着きない視線を向ける勇者に、鋭蛇と呼ばれた女性が苛立たしげな声をかける。
「オイ、死の影。……その、そこの、サルっぽいソレは何だ?」
「ハッ! 勇者様を知らぬとは」
「ほほう! それが、かの勇者か! 帝国の誇る最終兵器と聞き及ぶが、噂以上に貧相ではないか! 帝国のブタ共がどれだけフカしていたのか良く判る!!」
鋭蛇とその仲間たちが、一斉に笑う。
『ほお。流石は共和国の秘密結社じゃのう。勇者を見てもビビって逃げぬとは』
「帝国内じゃオレの根も葉もないウワサが流布してっからな。一桁の男の子を城にさらっていくだの、些細な事でキレて町中で聖剣を振り回すだの、面白半分に邪神を召喚するだの。風評被害もはなはだしいぜ」
『うむ。根と葉しかないウワサばかりじゃな。しかし、勇者はともかくワガハイを見ても恐れおののかぬとは! 何やら許せぬ!』
「いや、だってお前ゾンビだし」
『この魔王の恐ろしさ! 無知蒙昧なる秘密結社の皆さんに思い知らせてくれようぞ!!』
魔王がパラソルの工作員たちに向かい、飛びかかった。
しかし、銃声が響くと魔王の体がぱたりと倒れた。
『助けて勇者! この体めっさトロい!!』
「でしょーよ! ウラメッテの皆さん見てりゃ分かるだろうがよ!」
勇者がキレ気味に返す。
その横で、メイド長がパラソルの工作員たちに気取られぬように、占い師に耳打ちした。
「占い師ちゃん。ウラメッテの皆様は、理性を消され食欲という動物的な本能を暴走させられておりました」
「みたいよねぇ♡」
「しかし生物の根源的な欲求は、食欲だけでは御座いません」
「……まあ♡!」
「他の本能的な欲求を解放したとすれば……例のブツ、今ここでお渡し願えますでしょうか?」
「メイド長ちゃん、怖〜い♡」
占い師がクスクスと笑いつつ、メイド長にポーションを手渡す。
メイド長が稲妻の様な素早さでポーションをパラソルの工作員たちへ投擲した。
ポーションの中身が一気に揮発し、ピンクのもやが立ち込める。
もやを手で払いつつ、鋭蛇が叫ぶ。
「くっ?! 何をした、死の影!!」
「さあ魔王! 誰でもいいから噛みつくのです!」
『ええ〜?! 噛むのお?! でもワガハイ潔癖症……』
「うるさい早くする!」
『ひい!』
メイド長の叱咤に押され、魔王が工作員の一人を噛んだ。
工作員が耳を押さえてうずくまる。
「こ、このゾンビ野郎! 俺の耳を噛みやがった! 耳、みみを! みみ! み、みんみ〜!》
「どうしたおい?! ぐあっ! なにしやがる!俺のみみ〜。みんみ〜》
工作員が横の工作員の耳を噛む。噛まれた工作員が上気した顔で別の工作員を噛む。
辺りはたちまちオッサンがオッサンの耳を噛む地獄絵図と化していた。
《みんみ~……》
《みんみ~……》
《み゛ん゛み゛~!》
「理性を失い食欲を暴走させれば、人はゾンビと化す。そして食欲でなく性欲を暴走させれば! 人はミンミと化すので御座います」
「あはははは♡ やだメイド長ちゃん♡ オッサン同士が耳噛み合ってるぅ♡! ぱははは♡」
「中々に愉快な光景で御座いますわね占い師ちゃん」
ミンミの群れの中で、鋭蛇だけが必死の抵抗を続けていた。
「な、何を! 貴様ら正気に戻れ! ひい?!」
ミンミの群れが一斉に鋭蛇を見る。その目にはハートマークが灯っていた。
「ひえ?! やぁ! やめて、ソコはマジ駄目! 手を離せぇ! っきゃああああ♡!!」
鋭蛇のあられもない悲鳴が、ミンミの群れに飲み込まれてゆく。
「ノクターンの闇に沈め、鋭蛇。18歳未満の方々にお見せできぬ地獄の底で、己の罪を悔いるが良い」
『……メイド長殿めっさ怖い』
「うむ。逆らわん方が身の為だ」
『何が怖いってあんな媚薬をこの旅のどこで使うつもりだったのかビタイチ判らぬのがコワイ』
「あら。魔王様は吊り橋理論をご存じでなくって?」
『ヤバイ。話がビタイチ噛み合わぬ』
「目ぇ合わせんな。チンコもがれるぞ」
勇者と魔王が震えながらこくこくとうなずく。
そこへ、首のない犬が駆け寄って来た。
首無し犬は身をかがめ、甘えるように首だけの長老にすりすりと身を寄せる。
《おお! ボーンナム長老! これは長老んとこのダニーではねえだか?》
《おお! ダニーや! 頭がなくなってしもうても、わしがわかるんか! ええ子じゃ》
《そうじゃ! こうすれば!》
ペイジが長老を拾い上げ、ダニーの首の上に乗せる。
長老が首の断面から血管と神経を伸ばし、ダニーの体内へ射し込んだ。
《わはは! これぞ本当の人面犬じゃ!》
《おお! 長老もダニーも元気になってよかったのう!》
《うむ! もう杖なしでは歩くこともままならんかったが、こうやって元気に走り回れる日がくるとは。長生きはするもんじゃのう、のうダニー!》
長老が笑いながら、犬の身体で周囲を駆け回る。
『うーむ。まあ、本人たちが幸せそうならこれで良いのか?』
その後。
帝国暗部の情報操作により、ウラメッテ事件は歴史の闇に葬られた。
ウラメッテの住人たちは、リッチの研究施設の職員となった。
[終わり]
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更新の間が空いて申し訳ないす!
書き上がりました!
推敲は今からします!
それにしてもジョジョネタに便り過ぎな気がする。
ゾンビものやりたいけど不幸なのは嫌だなと思ってずっと手付かずでしたが、
ゾンビの皆さんが何とかハッピーになってくれて幸いです。
ではまた。




