魔王『最近ハズレチートを上手く活用して農村でスローライフするのが流行っておるらしいので、ワガハイにチートをくれる妖精さんとかを紹介してくれぬか?』 勇者「帰れ!」
「…………。ワイバーンだああああぁぁーーーー!!」
『フゥヌハハハハハハ!! 勇者よ、今度のワガハイのアヴァターはちょっと格好良かろう!! がおーー!!』
「がおーじゃねえ魔王テメーこの野郎! 廊下と応接室のドアが傷だらけじゃねえかこのバカ! 図体デカい依り代に入った時には身をかがめて入って来いって何度言ったら判んだよ!! てか帰れ!」
『フヌハハハハハ!!』
「笑う時のそのポーズやめろ! 花瓶割れただろ! つうか腕も無いデカいニワトリみたいなその風体で、何をどう農村でスローにライフすんだよ! てか帰れ!!」
『勇者よ! 運良くこの国に迷い込んだ渡りワイバーンの死骸が北の森にあってな! これが今回のワガハイの依り代であるぞ! 久々のSRアヴァターであるぞ! これこそ死体転生ガチャの醍醐味よ!!』
「聞けよ! いや、確かに今までの一般人だのクマだのシカだののアヴァターに比べりゃ、多少は魔王っぽいけれども! ……。まあ良いや。ちょっとじっとしてろ」
『おお。早速ワガハイにチートをくれる妖精さんを紹介してくれるのか。今回は話が早いのう、勇者よ』
「ええと、このクローゼットの奥の隠し棚に……お、有った有った聖剣。良し、殺そ」
『ぇぇええええええ?!! ちょ、ちょっと待って勇者! なぜワガハイを殺す?!』
「るせー。何度も何度も説明してるけどな。法王庁からお前を無闇やたらに殺すなって言われてるのは、お前が帝国や教会の重鎮に転生されたら面倒だからだよ。だからよっぽどの悪事を働かない限りは殺さないってだけだ」
『悪事働いてない! ワガハイ今回は悪事働いてないぞ?!』
「スーパーレアな当たりアヴァターなんだろ? デフォルトで悪たるお前が、よっぽどの当たりアヴァターに転生する。ほれみろ『悪』+『よっぽど』で『よっぽどの悪』だ」
『無茶苦茶じゃないか! 横暴じゃ、魔王差別じゃあ!!』
「やー久々だなあ魔王、テメー殺すの。そうかそうか聖剣よ。お前も早く魔王の血が吸いたいか。ヨシヨシ、良い子だ」
『聖剣ってそういうキャラじゃったのか?! ま、待て勇者よ! この体で悪さをするつもりはないぞ?! 今回ワガハイはスローライフがご所望じゃと言っておろうが!』
「悪さするしないは関係ないんだよ。悪さをしかねない当たりアヴァターを手に入れた事が罪と知れ。じゃあな魔王。次はトイプードルにでも転生するんだな」
『マジで待って勇者! ワガハイ知っておるのだぞ?! こないだ宮廷の晩餐会で集団食中毒が出て、今も大臣三人が危篤状態じゃろ?! 今まさに死んでおるかもしれぬのじゃぞ! 今ワガハイを殺せばその三大臣のどれかに転生してしまうやもしれぬのじゃぞ?!』
「お。オレをハブって生ガキパーティーしやがったクソジジイどもを切り殺せるチャンスか。良いね!」
『違う! サイコか貴様! 本当に待って。……勇者よ、おぬしが教会に依頼しておる、お嫁さん探しの件。まだお嫁さんは見つかっておらんのだろう?』
「ああ?」
『もし三大臣の危篤を知りつつワガハイを殺し、ワガハイが大臣ガチャを引き当てたとあれば、教会の機嫌を損ねる事になるぞ?! おぬし好みのおちんちんの付いた法外に低年齢なお嫁さんの到着も、更に遅れることとなるぞ?! 良いのか!』
「……。気が付かなかった事にしてお前殺しても駄目かな?」
『うむ。駄目じゃろう』
「チッ。小狡い手を使いやがって、命冥加な奴だ。済まないな、聖剣よ。ドウドウ、落ち着け落ち着け。今度活きの良いホブゴブリンでもなで斬りにしてやるからな」
『……おぬしがなぜ聖剣に選ばれたのか、ちょっと判った気がするのう』
「仕方ねえな。今回は見逃してやる」
『おお、情けは人の為ならず! 良い心がけであるぞ勇者よ! フヌハハハハハ!』
「だから笑う時に一々翼を広げんじゃねえワイバーン! 翼長が応接間いっぱいあるじゃねえか! お前ぜったい自分のスケール感をまだ把握できてないだろ! カーテン破れたじゃねえか! オイこらカーテンで巣作りすんな丸くなってくつろぐな! いいから帰れ!!」
『うむ。断固断る』
☆
「……そもそも前回のアヴァターどうしたんだよ。あのウェディングドレス着た新婚さん。旦那様の王子様と7人の間男が流石にキレて白雪姫をリンチにでもしたか?」
『いや。ファミリーの関係は円満だったのじゃが』
「それはそれで凄ぇな」
『実は魔王崇拝教団に、あの娘がワガハイのアヴァターである事がバレてな』
「イカレ信者共の教祖にでも収まったのか?」
『いや、魔王様にこんな体は相応しくない言われてな。火あぶりじゃ』
「……。お前もたいがい厄介なファンに粘着されてるな」
『で、それがワガハイの旦那と7人の間男の知る所となってな。魔王教団とファミリーとで血で血を洗う大抗争よ』
「んん? ちょっと待て。北の街で魔王教団とマフィアが戦争してるって聞いたが、あれオマエん家か! 旦那さんと7人の間男って全員マフィアか! ファミリーってそっちの意味のファミリーか!」
『うむ。それで次に転生したのが丁度殺された間男の一人でな。魔王をあがめる邪教の徒を相手に、愛する女を殺された報復戦のスタートよ!』
「『邪教の徒』って、オメーのファンじゃねーか! とんだファン感謝デーだな」
『教団本部にカチ込んで死んだら、次のアヴァターは魔王教団の幹部でのう。マフィアの内部情報を知っておるから、奇襲作戦が気持ちいい程に決まる決まる! 両陣営ともバカスカ死にまくっておるから、その調子で敵味方の陣営を三回ほど行き来してのう。転生ラリーよ。いや~。死んだ死んだ殺した殺した。久々に堪能したわい』
「抗争で一人だけチームをザッピングしまくるとか最低じゃねえか」
『そして気付いた時にはマフィアもカルトもまっ平らになって、立っておるのは瀕死のワガハイただ一人じゃった。血まみれになり今まさにこと切れようとしたその時、綺麗な夜空を見上げて気付いたのじゃ。この世界の美しさに。そして憎しみ合う事の不毛さに。それで、血生臭さい渡世には、ほとほと疲れ果ててしもうてのう……』
「殺し合い満喫し過ぎて賢者モードになっただけじゃねえか」
☆
『と言う訳で農村スローライフなのじゃよ勇者! 最近ちまたでは貰ったチートでのんびり田舎暮らしが流行っておってのう』
「またナロー回廊とかいう次元トンネルで仕入れた、異世界のトレンド情報か」
『うむ。しかもこう、派手派手なチートはダメなのじゃ。一見ハズレチートっぽく見えるけれども、上手く使えば日常生活が便利に! みたいな当たりチートを手に入れて、冒険者をリタイアしてスローライフするのがミソなんじゃ。だから勇者よ、ワガハイにチートをくれる上位存在を誰か適当に紹介してくれぬか?』
「チートをくれる上位存在が魔王なんじゃねえの?!」
『いや。今のワガハイはあくまでアヴァター。他人にくれてやるほど手持ちのチートは余っておらん』
「そもそも手持ちのチートって、今どんなのがあんのよ」
『うむ。無限転生。魔力吸収。悪意収奪。暗黒魔法威力倍化。精神魔法無効化。拘束魔法無効化。あと自動翻訳。目ぼしいのはこのくらいかのう』
「チートの塊じゃねえか! それ使って好き勝手にスローライフしろよ!」
『違うぞ勇者よ! どれもこれも農村スローライフに無関係なチートばかりじゃろうが。戦闘用ばかりじゃ。ワガハイはな、便利チートで面倒な手順のみをスキップしつつ農業の美味しい所だけをつまみ食いしたいんじゃ!』
「農家の皆さんに怒られんぞテメー! そもそも俺は任務でもねえ限りこの領地から出て行っちゃダメなんだよ。チート欲しいつったって、太陽神殿の大神さんにも世界樹の精霊ちゃんにも海底神殿の古神さんにも、もうずっと会ってねえよ」
『勇者のクセに不自由なもんじゃのう』
「誰のせいだと思ってんだこの野郎!」
『……む?』
「……」
『……? え? え?』
「…………」
『……! ……。ワガハイのせい……なのか?』
「そーだよ!! 前もやったろこのくだり! お前のせい以外の何があんだよ!!」
『そんな。ではワガハイにこの先便利チートなしで農村スローライフを送れと言うのか。そんなの……そんなの、ちょっとだるい』
「うるせー。だるい作業をコツコツやれよ馬鹿野郎。スローライフなんてチートなしでのんびり楽しむもんなんだよ。そもそもそんなナリで農村で何しようってんだよ」
『それはアレじゃよ。畑を耕して四季折々の野菜を育てたり、牧場を経営したり、日照りや水害と格闘したり、新たな耕作地を開墾したり、それで頑固なベテラン農夫に一目置かれたり、田舎育ちのおっとりさんと良い仲になったりが、主なチートスローライフの醍醐味じゃな』
「ワイバーンと良い仲になるおっとりさんって、世界レベルのおっとりっぷりだな。まあ良いや。付いて来い魔王。城の裏に俺の家庭菜園があっから、そこでテストしてやろう」
『お? さっそく土いじりか勇者よ! ええのうええのう!』
「尻尾を振るな犬かお前は! あーもう、床がキズだらけになる!」
『ウェーイ!! フヌハハハハハハ!!』