『俺ツエーはもう古い! クールにスマートに人知れず仕事をこなす闇の仕事人が最近の流行りなので、ワガハイと一緒に最強のアサシンを目指さぬか?』 勇者「帰れ!」 その②
勇者城の中庭。
颯爽とスタイリッシュに歩くオッサン二人を、メイド長が呼び止めた。
「勇者様。ウラメッテへお出かけで御座いますか?」
「おー、耳が早いねメイド長さん」
「占い師ちゃんとリッチ様よりお聞き致しましたわ。……失礼、魔王様。その依り代の男、ウラメッテで死んでいたので御座いましょうか?」
『うむ、そうである。メイド長殿のお知り合いかな?』
「左様に御座います。わたくしの元同僚。元・帝国暗部のエージェントに御座いますわ」
『おお! 聞いたか勇者よ! ワガハイ既に闇のエージェントであったぞ! フヌハハハハハ!』
「んん? メイド長さん、元? 元同僚?」
「はい。その男、今は共和国に寝返った恩知らずの裏切り者に御座います。今度そのツラを拝んだ時には生皮はいでブチ殺してやるつもりで御座いましたが。既に死んでいたとは残念至極に御座いますわ」
メイド長が地面に唾を吐き捨てる。
「ええ?! コイツ、共和国のスパイなの?」
「左様に御座います。それにその腕の腕章。最低最悪のクソ秘密結社・パラソルのもので御座いますわ」
「なんかすげーファンシーな名前だな」
「地獄に落とす事すら生ぬるいクソテロリスト集団で御座います。なるほど、やはり共和国と繋がっていたとは。ウジムシ共同士、慣れ合っていた様で御座いますわね」
『メイド長殿、今回なんかメッチャ地が出ておるのう……』
「あら、失礼いたしましたわ魔王様。裏切り者のブザマな死に顔を拝んでテンションが上がってしまいました」
「メイド長さんだって人の子だぞ魔王。むしろ可愛らしい一面じゃねえか」
「まあ。有難う御座います勇者様」
『いや、ワガハイいま面と向かってブザマって言われたんじゃが……』
ちょいヘコみぎみの魔王が、馬のひづめの音に気付いて門を見る。
骨の馬に乗って城の中庭に入ってきたのは、占い師だった。
「やほ~♡ 勇者ちゃんまだ居た~♡! 間に合ってよかったぁ♡」
「おー、占い師ちゃん」
占い師がリッチから借りたであろうスケルトンホースから降りる。
煽情的なレースの衣装がふわりとひるがえる。
「勇者ちゃん、リッチちゃんから伝言よぉ♡ 今回の魔王ちゃんのアヴァター、ゾンビじゃないかもだって♡」
「ええ~? だって見るからにゾンビじゃん!」
「魔王ちゃんが中に入ってたせいでリッチちゃんも勘違いしちゃったみたいだけど、魔王ちゃんの身体から採取したサンプルから、アンデッドの反応が出ないんだって♡」
「ほう。では、ゾンビに似た別種の何かと言う事で御座いますか」
メイド長が袖をまくり、左手中指にはめた指輪を掲げ、叫ぶ。
「アナライズ・ユー!」
メイド長のかけ声と共に、魔王の頭上にテロップが表示された。
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【ステータスを表示します】
【「■」が一列になるよう】
【ブラウザ幅を調整して 】
【ください 】
名前:アダム・ウェスカー
職業:エージェント
筋力:55
体力:221
知力:1
魔力:10
敏捷:10
運勢:0
種族:バタリオンズ
状態:健康
特記:あらゆる生物に寄生し、
宿主を変異させる。
弱点:なし。
あらゆる攻撃に耐性有。
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「わははははは!! 低っく! 魔王知力低っく!」
「ぱふふ♡! わ、笑っちゃ失礼よぉ勇者ちゃん♡ でも1って♡」
『ち、違うぞ勇者! このアヴァターの知力であってワガハイのではない! というか知力って何じゃ! なにこのステータスって?!』
「魔王様。これはアナライズリング。その生物の身体及び霊的特性を絶対値化し表示する、勇者様より賜ったマジックアイテムに御座います。ふふん」
自分の頭上に表示されたテロップを必死に覗き込む魔王に、メイド長が自慢げに指輪を見せびらかす。
「昔は弱点属性なんかを調べるために重宝してたんだけど、今は聖剣で斬ればどんな奴も一撃だからなあ。使わないからメイド長さんにあげたの」
「わたくしの宝物で御座います。それで魔王様。注目すべきはそこではありません。種族名をご確認下さいませ」
『ぬう?! 種族……名?』
魔王が必死に頭を動かし頭上のテロップを覗こうとするが、頭と一緒にテロップも動くため上手く見えないようだ。
「おー、ほんとだ。種族:バタリオンズだって」
「少々お待ちを、勇者様」
メイド長が指輪に仕込まれたジョグダイヤルを回し、種族の項目を選択する。
種族項目の下に、詳細が追記された。
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種族:バタリオンズ
詳細:ゾンビに似た習性を
宿主に与える細菌。
秘密結社パラソルの
開発した生物兵器。
開発コード、
トライオキシン245。
あらゆる生物に
粘膜感染し増殖する。
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『勇者よ。聞いて良いか?』
「なんだ?」
『この文章、どこの誰が書いとるんじゃ?』
「謎だ」
「謎ねぇ♡」
「そんな事は重要では御座いません魔王様! 重要なのは、このハイランドより遠からぬ辺境の自由都市にて! クソ共和国を後ろ盾にしたクソテロリストどもが! 神をも恐れぬ邪悪なる計画を勧めていやがるという事に御座います」
『今日のメイド長殿メッチャ怖い』
「失礼。このバタリオンズ共が野に放たれてからでは遅う御座います。勇者様、わたくしもご一緒させて下さいまし」
「そ♡ リッちゃんがアンデッドじゃないんなら役に立てそうにないからって言われて、かわりに私が来たのよん♡」
「うし。二人が一緒なら心強え。いっちょ、ゾンビもどきを退治しに行くか!!」
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二騎の馬がハイランドを駆ける。
勇者の愛馬には勇者と魔王が、リッチの召喚した骨の馬には、占い師とメイド長が乗っている。
通りすがる羊飼いたちが、その光景に驚きもせず領主へこうべを垂れる。
「もうちょっと離れろ魔王! 噛むなよ? 絶対噛むなよ?」
『なぜワガハイがおぬしのうなじを舐めねばならん! 気色悪い事を抜かすな!』
「勇者様! ではわたくしが魔王と替わりましょう! わたくしが勇者様のうなじを噛む分には問題御座いませんでしょう?! さあ、どきなさい魔王!」
「問題あるよ! メイド長さんも嫌だよ!」
「勇者ちゃんモテモテねぇ♡」




