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『俺ツエーはもう古い! クールにスマートに人知れず仕事をこなす闇の仕事人が最近の流行りなので、ワガハイと一緒に最強のアサシンを目指さぬか?』 勇者「帰れ!」


「……ゾンビじゃねーーか!!!」


『フヌハハハハハ! よくぞ気付いたな勇者よ! やっぱ臭う?』


「防虫剤の臭いが凄い! あと顔色!! あと顔の真ん中の縫い目!! 何がアサシンだお前が殺される側じゃねーか!!」


『うむ。一つならごまかせたやも知れぬが、三つ揃うと流石に役満か。ここへ来る前にリッチのリッちゃんと占い師ちゃんの所へ寄って、防腐処理と防臭処理をしてもらったのじゃが』


「身だしなみとデオドラントに気を配った事は褒めてやろう。でもすげー防虫剤臭い! 申し訳無いけど! 今回はマジで帰れ!」


『濃い目ではあるがヨモギギクとレモングラスの良い匂いではないか』


「それが嫌なんだよ! 実家の地下室と同じ臭いで! ガキの頃は地下室が反省室でよー。しょっちゅう親に閉じ込められてたんだよー」


『ほほう。おぬしも子供の時分は相応のワルガキであったか』


「そこまで悪い事なんてしてねえ。豪商と癒着したマフィアを潰したり、生け贄を寄越せって言って来やがった龍神教団を潰したりしただけだ。若気の至りだよ」


『規模!』


「分別も付かねえガキが良かれと思ってした事なのにさ。ウチの親は褒めて伸ばすって事を知らねえ。何の説明もなしに『とりあえず入ってろ』って言われて地下室に監禁だぜ? 一ヶ月も。児童虐待だよ」


『うむ。ソレはおしおきとかで無く、マフィアやカルトの報復からかくまってたんでは無いのか? しかしまあ、前々から色々おかしいと思っておったが。冒険者になる前のガキの時分から、その有り様とは』


「うん? それ、オレが冒険者になるには弱すぎるって意味だよな?」


『そーゆーのいーから』


「いーのか」




 ☆



「そーいや前のアヴァターどーした? 人間に変身できるあのスライム」


『ポリモルフスライムであるな。おぬしは南の島へ逃走しておったから知らぬだろうか、あの後帝国各地のミスコンを総なめにしてのう』


「性別!」


『そのようなもの些細なことよ! しかしパパラッチのせいでスライムばれしてしもうてのう。全ての賞を剥奪されてしもうた』


「そらそうなるわな」


『それでもまあスライムフェチの連中には、かえって人気が出たがのう』


「居るのかよそんな奴」


『うむ。ワガハイもちょいとビビるくらいおったぞ、スライムフェチ。男も女も。ひんやり冷たい体がご好評であった。金持ちのパトロンも大勢おったから、しばらくは何不自由ない性活をしておったんじゃがのう』


「お前ちょっと目を離すとすぐカルトを作るな」


『有る時ワガハイの体の一部を株分けし、ミニスライムを育てる事がワガハイのファンの間で流行ってのう。帝都は空前のスライムブームよ。だが株分けしたスライムは知性の無い単なる肉食粘体でのう。貴族の間で直腸や性器をスライムに喰われる事件が続発した』


「その連中は自業自得じゃねえかな」


『被害は皇子数人にも及んでのう。スライム禁止令が発令され、株分けしたミニスライムと共に、うっかりワガハイも殺処分されてしもうたのじゃ』


「……そんな奴らが皇位継承者で大丈夫かこの国」


『それで気付けば今度はこのアヴァターに入っておったのである』


「スライムの次はゾンビか。前にスケルトンに転生したせいでゾンビに転生しようが新鮮な驚きはねーけどよー。そもそもどこのどなた様なんだよそのゾンビ」


『残念ながら手がかりはない。ホレ、共和国と帝国の緩衝地帯に、どっちにも所属せん自由開拓都市があるじゃろ。このアヴァターが居たのはその一つ、ウラメッテじゃ』


「あー。あの山ン中の田舎町か」


『そう。そのウラメッテの街一つまるごとゾンビになっておってのう』


「マジかよ?!!」


『しかも使役者のおらぬ自然発生的なゾンビでのう。規律も無く凶暴化して、みな本能のままに生者を襲っておった。実はワガハイがこのアヴァターに転生した時、この体はまだ人間だったのじゃがな。ウラメッテから何とか逃げて、ひと息ついたらゾンビになっておった』


「人間だったのに、気付いたらゾンビに? やっぱり近くにネクロマンサーでも居たんじゃないのか?」


『いや。街の中でゾンビどもを観察しておったのだがな。どうもこのゾンビ、伝染病のように感染するらしい。一緒に脱出しようとしていた仲間も居ったのじゃが、ゾンビに噛まれてしばらくしたらゾンビになってしもうた。どうやら噛まれると伝染るらしいのじゃよ』


「そうかそうか。ちょっと待ってろ」


『おお。やっと紅茶を入れる気になったか勇者よ。ミルク多めで頼むぞ?』


「いや、この食器棚の下にだな。……有った有った聖剣。うし、殺そ」


『待て待て待て! 噛まねば感染せぬと言ったろうが! ワガハイは他のゾンビどものように凶暴ではないし、何より他人を噛むなんぞバッチい真似ができるか!!』


「ばっちいのはお前だ!」


『ちょ! 落ち着け! だいたいワガハイは綺麗好きだと何度も言っておろうが! 人類を征服するにしても、あーうー言うだけの半腐れにして何の楽しい事がある! 誰もワガハイを恐れ敬ってくれぬではないか! ワガハイは人類を堕落させたいのであって、不潔なデク人形にしたいのではないわ!!』


「まあ、それもそうか。つうか感染するゾンビとやかべえな。そもそもウラメッテがそんな有り様なんて全然聞いてねえぞ? お前が復活したの、いつの話だ?」


『つい一昨日の話じゃ。目覚めたらゾンビまみれじゃったんで、近くの洋館に逃げ込んでのう。しかしそこがとんでもないカラクリ屋敷で、石像を動かしたら隠し階段が出て来たり、正門のレリーフに三つメダルをはめ込まないと扉の鍵が開かなかったり、堀にかかった可動橋を動かすクランクが二分割されて屋敷の中に隠されておったり、ゾンビ犬が窓ガラス割って襲って来たり、ゾンビカラスが窓ガラス割って襲って来たり……』


「お前も色々と大変だったみてえだな」


『ゾンビに絶対に襲われない武器商人が、アイテムを売ってくれたり。食うとたちまち元気になる緑や赤の怪しげなハーブが、そこかしこに自生しておったり。アイテムボックスもそこかしこに設置されて、そこにアイテムを収納すると、どのアイテムボックスからでも同じものが自由に取り出せたり』


「ちょっと待て色々おかしい」


『うむ。今思い返せば、ウラメッテの街自体が何らかの実験施設になっておるようじゃった。このアヴァターは、その施設の職員なのやも知れぬ。この腕に付いた、傘のマークの腕章。これと同じものを付けた秘密組織の連中が、街道を封鎖しておってのう。街から出ようとするゾンビどもを始末しておった』


「大丈夫か?! いつになくシリアスな展開だけど」


『それで、その街道封鎖をしておった秘密組織の連中が中々に格好良くてのう。ワガハイも闇の仕事人を目指す事にしたのじゃよ! フヌハハハハハ!』


「……おい。ウラメッテは?」


『む? あんなゾンビまみれの街、もう二度とご免じゃが?』


「現役のゾンビがなにほざきやがる! ふつーウラメッテに何があったのか探りに行く展開だろうが!!」


『嫌じゃ! 今回ワガハイはシティーアドベンチャーなスタイリッシュスパイアクションをご所望じゃ! もう半腐れどもには飽き飽きじゃ!』


「そんな防虫剤臭せー奴が町中でスパイとかできるかバカ! それによく考えてみろ魔王。街一つゾンビにして怪しげな実験してる奴らの陰謀を暴く。これだって闇の仕事人っぽいだろうが」


『むう? そ、そうであるか?』


「だいたいここからそんな離れてない街がゾンビであふれてるとか、ウチの領民に万一があったら困るんだよ。ゾンビ増やそうなんて奴は、お前にとっても敵だろ? ホラ行くぞ闇のエージェント! 道案内しろ!」


『おお! ワガハイが闇のエージェントだと? よかろう勇者よ! 人知れずスマートに、世界の危機を救いにゆくぞ! フヌハハハハハ!!』


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