魔王『すさんだ世界を癒す世界最強のヒロインとなるために、ワガハイと一緒に最近どんなヒロインが流行っているのかをリサーチしてくれぬか?』 勇者「帰れ!」 その③
晴れ渡るハイランドの空に、ポンポンと花火が上がる。
勇者城、その門前。
特設会場は地元民や有閑貴族たちで黒山の人だかりだった。
屋台に並ぶジャンクフードとビールとワイン。オッズ表の前ではダークネスエルダーリッチが勝者予想と倍率を声高にがなり立て、小さなゴーレムたちが賭け金とチケットをせっせと運ぶ。
そして、城門の上には――
【輝け! 第一回 勇者様初夜権争奪 No.1ヒロイン決定戦!】
――と書かれた横断幕が、風に踊っていた。
「おっかしいだろうがああーー!! なんでこーなんだよコラああーー!!」
塔の上に何重もの鎖で貼り付けにされた勇者が、大声で叫ぶ。
「ゴメンね〜勇者ちゃん♡ みんなの意見の中間を取ったら、こんな形に落ち着いちゃった♡」
「オレの意見がどこにもねーーー!!」
「さ~やってまいりましたNo.1ヒロイン決定戦♡ 優勝者には勇者ちゃんの初夜権が贈呈されまぁす♡ 実況はわたし占い師ちゃんとぉ♡」
「解説の執事で御座います」
「なにやってんだよ執事さーーん! アンタ唯一の常識人枠だろうがよおおーー! ふざけんな占い師ちゃーーん! メシに一服盛りやがってえええーー!!」
勇者が暴れるが体に絡まった鎖は外れそうにない。
その下のステージで、占い師と執事がギャラリーに礼をする。
「まあ勇者ちゃん♡ 象が十頭心筋梗塞起こす麻痺毒でもあんなに元気♡」
「流石で御座いますな」
「死にかけたわあーー! 殺す気かあーーーー!!」
「呪縛の鎖で自由を奪っていますので、景品が脱走する心配はありませぇん♡」
「景品言うなぁああーーー!!」
「では~♡ 選手入場でぇすっ♡」
楽団の奏でるファンファーレと共に、勇者城に勤める女騎士とメイドたちが一斉に登場する。そしてその中には白ワンピを着た魔王も混じっていた。
全員の頭の上には、丸い紙風船が乗っている。
「ルールは簡単♡ 頭の紙風船が割れれば失格のバトルロイヤルデスマッチでぇす♡」
「どこがヒロインだあーー!! 女囚アマゾネスどもの獄中運動会じゃねーかあーーー!!」
「わたくしが立会人としてルールを策定させて頂きました勇者様」
執事がぴしりとお辞儀をする。
「ヒロインに必要不可欠なコミュニケーション能力。カリスマ性。身体能力。危機察知能力。判断力。戦闘力。勝負強さ。そして無慈悲な心。全てを満たさねば、この乱戦を制する事は出来ぬ事で御座いましょう」
「この大会のラストサバイバーこそ、真のヒロインに相応しいのねえ♡」
「後半ヒロインかんけーねえーーー!!」
身じろぎする勇者が、すがるような目で魔王に叫んだ。
「魔王ーー!! お前が最後の頼みだああーーー! こうなったらお前が優勝してくれええーーー!!」
『フヌハハハハ! よかろう! ワガハイがNo.1ヒロインの座を勝ち取り、ワガハイの種付けプレスでキサマを孕ませてやろうぞ!! フヌハハハハハハ!!』
「さいあくだああーーー!!」
勇者の悲痛な叫びを無視し、占い師が執事に話を振る。
「さ~て執事ちゃん♡ 執事ちゃんはこの勝負どうご覧になりますかぁ♡?」
「ええ。ルール上は全員が敵のバトルロイヤルなのですが、流石は騎士団長様とメイド長様。部下を見事に掌握し、完全なる団体戦の様相を呈して御座いますな」
騎士団長とメイド長。それぞれが部下と円陣を組んでいる。
「団長! 勇者様と一発ヤっちゃって下さい!」
「そしたら私たちもなし崩しに!」
「騎士団ハーレムの完成ですわ!」
「おう! アンタら、このアタシに任しときな!!」
「メイド長。あんな蛮人どもに勇者様の貞操をヤる訳には参りません」
「ぜひともメイド長が」
「最初のお世継ぎ、お任せいたします」
「ええ。さあ皆様方。城内を知り尽くした我々の力、見せてやりましょう!」
両陣営が一斉に気勢を上げる。
そして城の中へと散ってゆく。
「頭の紙風船には魔力マーカーが付いていて~♡ あちらの城内マップにリアルタイム表示されまぁす♡ 赤が騎士ちゃんたち♡ 青がメイドちゃんたち♡ あの白いのが魔王ちゃんのマークね♡ さあみんな、作戦通りの初期配置に付いたようですねぇ♡ 大玉の花火がぁ~……上がりましたぁ♡! No.1ヒロイン決定戦♡ スタートでぇす♡!」
空に大玉の花火がきらめき、ギャラリーから拍手と歓声が沸き上がる。
それを合図に城内マップのマーカーが一斉に動き出した。
それと同時に、前線の赤と青のマーカーが一気に消滅していく。
「おっとぉ♡? 体力勝負の今大会♡ 騎士団有利の前評がありましたが、メイドちゃんたちも善戦していますねぇ~♡」
「はい。彼女たちは単なるメイドでは御座いません。この城を陰から守る隠密警備兵。そしてその長たるメイド長様は、わたくし自ら育て上げた帝国最強の暗殺者で御座います」
「そう♡! メイド長ちゃん、実は執事ちゃんの実の娘なのよねぇ~♡」
「先の共和国戦争でも活躍した、帝国暗部に所属する現役工作員で御座いましたが。わたくしが勇者城に引き抜いて参りました」
「どーりでこえーはずだよおーーー!!」
塔の上で勇者が叫ぶ。
城内ではメイド長が殺気で作った非実体の投げナイフが乱れ飛び、女騎士たちの紙風船を次々と割っていく。
「しかし女騎士ちゃんたちも負けてはいません♡ 特に騎士団長ちゃんは、実は勇者ちゃんの叔母に当たる、れっきとした勇者の血筋の一員♡ 勇者ちゃんの剣の師匠でもあるのよねぇ~♡」
「冒険者の間で鬼の姫騎士と言えば、今だにレジェンドで御座いますそうで」
「だから嫌なんだよーーー!! 身内じゃねーかよもーーー!!」
塔の上で勇者が嘆く。
騎士団長の繰り出す拳の風圧で、紙風船ごとメイドが数人まとめて吹き飛ばされる。
「メイド共のやり口は知ってる! アンタら、まずは魔王だよ! あの目立つ白ワンピ野郎を探しな!」
叫ぶ騎士団長の声を聞き、遠くでメイド長も配下のメイドに命じる。
「あのメスライオンの言う通り。まずは不安定要素の第三勢力を排除致しましょう。最優先ターゲットは白のワンピースです!」
「かしこまりました!」
駆け出すメイドの一人が、頭の風船を割られる。
割ったのは背後を走る別のメイドだった。
「っ?!」
『フヌハハハハハ! 甘いのう! それ!』
もう一人近場のメイドの風船を割り、割ったメイドが走り去る。
その先で今度は騎士たちの困惑した悲鳴が上がる。
「きゃあっ?! 何で?!」
「味方、じゃない?!」
『フヌハハハハハハ!』
城内マップを縦横無尽に駆けまわる白い点を見て、ギャラリーたちから喝采とブーイングが同時に上がる。
アナウンス席では占い師がきゃっきゃとはしゃぐ。
「そ~うなんです♡ 今回の魔王ちゃんのアヴァター。実はポリモルフスライムという、何にでも変身可能なスライムちゃんだったんですねぇ~♡」
「団結した二大勢力には数的に不利かと思われましたが、城内乱戦となったこの勝負では凶悪な能力と言えましょう」
「順当に参加選手も減り、やはり勝負は団長ちゃん・メイド長ちゃん・魔王ちゃんの三者にしぼられつつあるみたい♡ 執事さんは誰が勝つと予想します♡? やっぱり実の娘のメイド長ちゃんかしら~♡?」
「いえ。勇者様にお世継ぎが出来るのであれば、もうどなたでも結構で御座います」
「いやん♡! 切っ実ぅ♡!」
城の中庭。
生き残っていた騎士やメイドたちが風船を割られ、地面に倒れ込む。
そして、中庭に面した三方の扉から、騎士団長・メイド長・魔王が同時に姿を現した。
「ハン! アタシの部下を随分可愛がってくれた様じゃない? 魔王ちゃあん」
「ですが変身能力が役に立つのは多人数の乱戦のみ。お覚悟なさいませ、魔王様」
尖塔のうえから勇者が叫ぶ。
「その三択だとおまえが一番マシだあーー! 頼む魔王ー! 勝ってくれえーー!」
『良かろう勇者よ! フヌハハハハハ! ワガハイが奥の手を用意していないとでも?!』
魔王の姿がグムグムと形を変える。
魔王が変身した姿。それは勇者だった。
『フヌハハハ! この姿であれば手出しはできまガフッ?!』
「そーなるわてめーーー! なにを学んでいやがったーーー!!」
顔面を陥没させつつ必死に飛び退く魔王に、勇者が上から声をかける。
「紙風船まもれーー! 一桁の男の子に変身できるおまえが唯一の望みなんだーー!立てーー魔王ーー! お? うおっ?!」
興奮した勇者が、身を前に乗り出す。
その拍子に、勇者を縛る鎖が巻き付いていたポールが折れて、勇者が頭から落下した。
「勇者ちゃんっ?!」
「勇者様!」
騎士団長とメイド長が、勇者に向かって走る。
二人が身を投げ出し、間一髪で落ちてきた勇者を受け止めた。
「オバちゃん……メイド長さん……」
「ま、しょうがないさ」
「勇者様がご無事で何よりで御座います」
二人の頭の上の紙風船は、勇者を縛る鎖に当たって割れていた。
紙風船からこぼれ出した紙吹雪が、ハラハラと三人を優しく包む。
「おおっとお~♡! ここで劇的な大番狂わせでぇすっ♡! 団長ちゃんとメイド長ちゃんの紙風船が、勇者ちゃんを受け止めた衝撃で割れてしまいましたぁ~♡! と言う事で優勝はぁ♡! 魔王ちゃ~~ん♡!!」
占い師の宣言と共に、盛大な花火が上がった。
拍手と喝采が沸き上がり、外れ馬券が乱れ飛ぶ。
「さ~あ♡ 試合を振り返っていかがでしたか執事ちゃん♡」
「最後に敗れたお二人もナイスファイトで御座いました。それに敗れはしたものの、身を挺して主君をお守りするその姿勢。まさしく試合に負けて勝負に勝ったと申し上げても過言ではないかと」
「そうねえ♡ 勝負よりも勇者ちゃんの身の安全を優先したお二人こそ、本当のヒロインと言っていいかもしれないわねぇ♡」
『致死量の毒盛って尖塔の上に縛り付けた張本人どもが何を言っておるか! フヌハハハハハ! 勝負は勝負! 人間どもよ! ワガハイこそがNo.1ヒロインであるぞ!!』
白いワンピースの少女が高笑いに笑う。
騎士団長とメイド長も、勇者を担ぎ上げたまま素直にうなづく。
「ああ、勝負は勝負。完敗さね魔王ちゃん」
「ええ。女に二言は御座いませんわ、魔王様」
『フヌハハハハハ! 殊勝な心掛けであるぞご両人!』
「んじゃ、簀巻きのままチャッチャとベッドルームに運ぶか」
「そうですわね。一番手はお譲りしますわ魔王様」
「アタシらは二番三番で良いよ」
「でっ! では私は四番目で!」
「ずるい! 私も運びますので五番目に!」
「六番目にご相伴を!」
「ラッキーセブン!」
「待て待て待て待て!!」
勇者の抗議に誰一人耳を傾けない。
わらわらと集まる女騎士やメイドたちに神輿のように担がれて、鎖巻きの勇者が寝室へと運ばれてゆく。
「いやおかしい!! おかしーーだろーーコレーーー!!」
「さあ観衆の皆様フィナーレで御座います♡ 勇者ちゃんと参加ヒロインの皆様に、盛大なる拍手を~♡♡!! 実況はわたし占い師ちゃんとぉ♡」
「解説の執事で御座いました」
ヒロインたちの健闘を称える惜しみない拍手の雨が、勇者の悲痛な叫び声をかき消した。
「サギだああーーーーーっっ!!!」
その後、すんでの所で勇者は逃走。
一月に渡る帝国全土の勇者狩りの末、南洋にある未開部族の集落で発見。
捕獲後連行、勇者城に再度監禁されたという。
[終わり]
・
・
・
ブックマーク1000オーバー!! まじか!
ここまで書き続けられたのも皆様の応援のおかげで御座います!
あざす! 万感のあざっす!!
こんな脳のネジ外れたような不定期連載を贔屓にして頂いて、本当に感謝です。
皆様からのご意見ご感想ご評価、大変に励みになっております!
今後とも皆様からのご意見ご感想ご評価、ぜひぜひお待ちしております!
ではまた、次のお話で。




