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魔王『すさんだ世界を癒す世界最強のヒロインとなるために、ワガハイと一緒に最近どんなヒロインが流行っているのかをリサーチしてくれぬか?』 勇者「帰れ!」 その②


「理想のヒロイン聞き取り調査も良いけどよー。まずはオレのヒロインはどーしたって話なんだよまったくよー」



 古い城の中庭を、勇者と白ワンピの少女が連れ立って歩く。

 出入りの業者が二人に頭を下げる。



『まだそんな世迷い言を抜かしておるのか』


「教会の連中もきちんと仕事してるのかねえ。オレのお嫁さんはまだ一人も来ないのに、二十歳前の年頃の女の子ばかり使用人として送りつけてきやがって」


『うむ。頑張って仕事を果たしてると思うが』


「こんな古城にそんなに大人数要らないだろってえの。メイドも騎士団も人数あまり過ぎでお給金が火の車だっつうの。彼女たちも独り身のままじゃ可愛そうだから、オレが地元民や冒険者候補からお婿さん探してあげたりしてんだぜ? オレは結婚相談所じゃないっつうの」


『自室にこもってジグソーパズル作っとるよりよっぽど領主らしい仕事じゃろ』


「あら~勇者ちゃんお出かけかい? ……どしたんだい? その娘」



 歩く二人に声がかかる。

 勇者よりも頭一つ高い、甲冑姿の大柄な女性。ハイランド巡回騎士団の騎士団長だ。

 勇者の横に立つ白ワンピ姿に気付き、騎士団長が露骨に顔をしかめた。



「まさかアタシたちと子作りもしないくせに、どこぞで若い娘引っ掛けて来たんじゃないだろうね?!」


「違うよオバちゃん。コイツ魔王」


『フヌハハハハハ!』



 白ワンピの女が両手の指をカギ爪のように曲げ、威嚇する様に頭上に掲げる。



「あら何だい。じゃあ良かった」


『そうじゃ騎士団長殿。おぬしはヒロインとはどうあるべきだと思う?』


「そりゃモチロン……筋肉ッショ!!」



 瞬時に甲冑を脱ぎ捨て背筋を見せつけるバックポーズを決める。

 騎士団長の後ろでは女騎士たちが手甲のままガチャガチャと拍手を送る。



「ヒロインってのはヒーローの女性形! 戦わなくっちゃ輝けない! マッスルイズビューティフル。躍動するアクチンミオシンが女性らしさを際立たせる。発汗と共に立ち昇るフェロモンこそが、男どもの心臓の鼓動を……止めるのさ!」



 暴力的な僧帽筋の向こうで白い歯が光る。

 露わになったアラフォーの艶やかな広背筋が、なまめかしく蛇のように隆起する。

 ボルテージの上がった女騎士たちが、歓声を上げ拍手喝采する。



「団長キレてます!」


「ナイスバルク!」


「腹筋板チョコ!」


「背中に鬼が宿ってる!」



 騎士団長が勇者に流し目を送る。 

 その姿はまさしく、美女で野獣であった。



「どう? 参考になった? 魔王ちゃん」


『うむ。もう普通にヒーローで良い気もするが、参考にさせて頂こう』


「そう、良かった。勇者ちゃん、今晩久々にどうだい?」


「日課の写経があるから無理。御免ね。うん無理やっぱ無理絶対無理」


「あーら残念」



 猛獣のように微笑む団長の後ろで、甲高い音が鳴った。

 ほうきの柄頭で石畳を叩く音。女騎士たちが血相を変えて脇にどく。

 その後ろから現れたのは、メイド服をまとったメガネの女性だった。

 騎士団長と同じ年頃のアラフォー淑女が、氷のような視線で団長を射抜く。



「城の中で鎧を脱ぎ散らかすなって何度言えば判って頂けるのかしら、騎士団長様」


「ごめんねえメイド長様。アンタのお粗末なバストへの当てつけじゃあないのよ?」


「それは乳房ではなく大胸筋でしょうがメスゴリラ」


「パッドの枚数増えたんじゃないの? ヘビ女」



 野獣同士が火花を散らす。

 メイド長が騎士団長を睨んだまま、勇者の腕をむんずと掴んだ。



「勇者様、こんな筋肉まみれの行き遅れを見ていても目に毒で御座います。さ、医務室へ。汚れた眼球と精神と性欲をわたくしの体で癒して差し上げますわ」


「大丈夫大丈夫! メイド長さん大丈夫!」



 股間へと伸びようとするメイド長の手をがっちりガードし、勇者が体を遠ざける。

 その手がくるりと逆関節を決められる。抑え込もうとされる所を、勇者が自ら前転して関節技を外しリーチの外へ逃れた。

 低空タックルに来た騎士団長の背中を飛び越え、大きく距離を取る。


 勇者と団長とメイド長。三者が微笑みを絶やさぬまま半身の構えでリズムを取る。



『相変わらずのハーレムぶりじゃのう』


「これがハーレムに見える時点でヒロインになんてなれっこねえわ!!」


「あら魔王さん。今回はヒロインでも目指していらっしゃるの?」


『うむ。そうじゃ。メイド長殿にも聞いておきたい。ヒロインとは何ぞや』


「主への愛。それに尽きましょう」


『ほう』



 感心する魔王の背後で、団長が低く構える。マイクロビキニに隠された大胸筋がゆさりと揺れる。

 団長と勇者。互いのオーラが周囲に張り詰め、背景がぐにゃりと歪む。



「忠義とは愛。主に尽くし、主の理想に尽くし、主の目指す道を半歩下がって付き従う。それが愛。しかし盲従は忠義に非ず。主が道を外れたる時には、心を鬼にし忠言申し上げる。それもまた、愛」


「嘘じゃん言葉で済まないじゃん! テーブルマナーがなってないっつってメイド長さんにオレ三回投げナイフで腕刺されたじゃんゲフっ?!」



 隙を付いた騎士団長のタックルを食らい、勇者が地面に組み敷かれる。

 電光石火で団長がマウントポジションを取る。

 女騎士たちから、わっと歓声が上がる。



「勇者様、それも愛ゆえ。ナイフには治癒ポーションを塗っていたから、引き抜くと同時に傷は癒着致しましたでしょう?」


「効率的な拷問ですこと!」



 マウントポジションをブリッジで下から突き上げ、勇者が一瞬で軟体生物のように抜け出す。

 ローリングで距離を取り、指笛を吹いて愛馬を呼ぶ。



「魔王乗れ! こんなレイプ魔ばかりの所に居られるか! あばよ!」



 愛馬に飛び乗り風のように魔王をかっさらうと、城門から外へと逃げていく。



「逃したか! 夕飯までには帰ってくるんだよーー!」


「わかったーー!」



 勇者が騎士団長に手を振りつつ、別荘街の方へと駆けていく。



「全く逃げ足の早いったら。……しかしメイド長。どう思うさね?」


「考えている事は同じで御座いますわね騎士団長。あの二人、前々から仲が良すぎると思っては居ましたが」


「あら〜♡ みんなお揃いでどしたの〜♡」


「おお! 占い師ちゃん!」



 騎士団長が顔をほころばせて振り返る。



「聞いとくれよ占い師ちゃん! 魔王のヤツが、何を思ったかヒロイン目指すなんて言ってたんだよぉ」


「しかも今度のアヴァターは可愛らしい女の子で、勇者様と仲良さげに馬に乗って出かけてしまいましたのよ。もしや魔王は、勇者様のヒロインの位置を狙っているのでは」


「あら~♡ 相手が誰であれ、勇者ちゃんが女の子に興味持つのは良い事じゃないっ♡」


「そうはいかないよ占い師ちゃん! アタシたちを孕ませた後ならともかく、魔王に先を越されたとあっちゃあ、騎士団長の名折れ! 人間の尊厳の問題さね!」


「魔王を当て馬に利用するなど危険すぎますわ占い師ちゃん。万一勇者様と魔王との間に子が出来るなどと言う事があれば、世界の混乱は必至」


「う~んそっか~♡ 確かに、団長ちゃんとメイド長ちゃんの気持ちも判るわ♡ そだ♡! じゃあこうしましょ♡!」


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