魔王『すさんだ世界を癒す世界最強のヒロインとなるために、ワガハイと一緒に最近どんなヒロインが流行っているのかをリサーチしてくれぬか?』 勇者「帰れ!」
「……スライムじゃねえかテメー!!」
『フヌハハハハハ! よくぞ気付いたな勇者よ!』
「誰でも気づくわ何がヒロインだよ魔王テメーこの野郎! どんだけ青少年の性癖をこじらせたいんだこの性教育の破壊者が!!」
『フヌハハハハ! 確かにスライムそのものに欲情するなぞ、かなり極まった上級者でなければ難しかろう! しかし勇者よ、コレならどうかな?!』
「お?! お?! おお! 人型になれんのか! しかも色もきちんと肌色に! いや、ええと、アレだ! うすだいだい色だ!」
『ポリコレへの配慮見事であるぞ勇者よ! そう、これが今回のワガハイのアヴァター。その名も、ポリモルフスライムであるぞ! フヌハハハハハハ!!』
「それは良いが魔王。その人間十字架みたいなポーズは何なんだ」
『コレが変身直後のデフォルトのポーズなのでな。まずはこのポーズで細部を作り込まねば、後々動かした時にディティールがいびつになったりスキンテクスチャがズレたりするのである』
「そうか。まあ理解はできた。それでヒロインになりたいなんて寝言をほざいてたのか。姿形以外に色々と思想的なハードルは高そうだけどな。というか話を進める前に、一つ確認したいことが有る」
『うむ。何じゃ』
「前々から疑問だったんだが。……お前性別どっちなんだよ!!」
『フヌハハハハハ! ワガハイは性別を超越した存在! 究極生物であるぞ! 人間の定めた歪狭なるジェンダーなどには囚われぬわ! その日の気分次第で漢にも女の子にも変わるわよっ♡』
「あまりのヒロイン力に思わず蹴りを入れる所だった。何が究極生物だよ。オスメスが入れ替わるって、つまりミミズやナメクジと同じレベルって事じゃねえか。というかまずはパンツを履け!」
『おお。服も作らねばな。コレでは魔王ではなくストリーキングである』
「よしよし。勇者たるこのオレが自室でうら若き裸の美人さんと二人きりとか、他人に見られたらあらぬ誤解を招くからな」
『少なくともこの城の皆は大喜びする気もするが。上物は後で色々弄りやすいように、白ワンピにでもしておくか。うむ、良し』
「波打ち際みたいなポーズで回るんじゃねえ。服作るとちょっと痩せるのな」
『全体の質量は変わらぬからのう』
「つうか何度も言ってるがよ。変身能力持ったんならよ。……もっと魔王らしいことに使えよ! 軍の上層部に変身してクーデター起こすとかよォ! そしてオレに討伐されろよォ! それが魔王の正しい生き様ってもんでしょうがよォ!! オイこらソファに座るなくつろぐな! いいから帰れ!!」
『うむ。断固断る』
☆
「座るにしてもキチンと座れ! 人間の関節はそんな方向には曲がらねえんだよ! 猟奇的な配置でソファにスッポリ収まってんじゃねえ! 見てて痛々しいんだよこの野郎!」
『む? 膝が逆関節じゃのう。よいしょ、こうか! フヌハハハハハ!』
「首もだ! 物理法則から解き放たれたムーブをするんじゃねえ! 頼むから骨格を意識してくれ! ……そもそも、そんなスライムどこで手に入れたんだよ。たいがいアチコチ旅したけど、ポリモルフスライムなんて見たことねーぞ」
『うむ。コヤツは帝都の下水道に住み着いておってな。被捕食生物の同種に化けて対象をおびき寄せ、近づいたところで変身を解いて相手を食らうという下等生物よ』
「風呂入ってこい! 早く!!」
『もう徹底的に洗浄済みじゃ。ワガハイはキレイ好きの潔癖症じゃからな。下水道に転生してしまった時には、この世の地獄かと思うたぞ』
「そのまま地獄に落ちれば良かったのに」
『しかしその下水道にも人間がおったのじゃ。そこで暮らしておる貧しい人々が』
「マジか」
『とっさに人間に変身したワガハイは、その人たちに案内されて無事地上への生還を果たしたのである。そうして初めて認識した。帝都の外や地下に広がる、貧民層のスラムを』
「あー。まあ、いるなあ。あんま気にした事無かったけど」
『ワガハイは彼らと触れあって初めてその事実に気付いた。帝都中心部は華やかなりし頃の賑わいを取り戻しておるが、その周辺部はまだまだ戦争の痛手から立ち直っておらぬのだという事を』
「なに他人事みたいに言ってんだこの野郎」
『……む?』
「……」
『……? むむ……』
「……」
『……! ……ワガハイのせい、なのか……』
「そーだよお前が人類に戦争吹っ掛けた張本人だもん!! ……このくだり久々にやったな」
『たまにはやっておかぬと忘れるからのう』
「まあ、最初のお前殺した後に次世代の覇権を争って、帝国と共和国が大戦争したりはしたけども。元々仲はすこぶる悪かったんだけれども。そのせいで共和国の首都が無人の荒野になったけれども。スラム街の人たちは共和国からの難民だと思うけれども」
『ワガハイあんまり関係無いのでは?』
「魔王軍が居たからこそのガラスの同盟だったんだ。それを壊した罪はあるだろ」
『魔王軍滅ぼしたのはおぬしじゃろ。やっぱりワガハイあんまり関係無いのでは? しかしまあ、そこでワガハイは思ったのじゃよ。この傷ついた世界を癒すにはヒロインが必要だと。世界を傷つけたのがワガハイならば、癒すのもまたワガハイの務め! だからワガハイがヒロインに変わるわよんっ♡ がふっ?! 蹴るな!』
「すまん、反射的につい脚が。いや最後の結論おかしいだろ」
『何を言うか。ナロー回廊で繋がる億千の異世界どこを覗いても、ヒロインこそが疲弊した世界を癒す存在なのであるぞ。有る時は歌で! ある時は踊りで! ある時はヒロイン自ら先陣に立って! 実際にヒロインの歌声には癒しの効果があり、就寝直後の者の横でヒロインが全力で歌い踊れば、98%の人が目を覚ますという統計結果も出ておる』
「残り2%の安否が気になるな」
『目覚めたものにヒロインが「おはよう」と挨拶すると、実に80%以上が「おはよう」と返すという統計もある。その事からもヒロインの癒しの力は明らかである』
「オレは返事を返さない残り二割に共感するわ。まあ傷ついた世界を癒やしたいって考えは殊勝だがよ。人間世界に長居して、ちったあ魔王なりの道徳心が芽生えたか?」
『いや。すさんだ世界で悪事をなしても、またかと思われるだけじゃからの。幸あふるる世界にて一発かましてこその悪! ジェットコースター演出に必要な落差と言うやつよ! フヌハハハハハ!!』
「よし殺そう」
『えええ?! ちょっと待って勇者! ワガハイ世界を救おうというのだぞ?!』
「うるせー手の込んだマッチポンプ企みやがって。順番が逆だろうが鬱陶しい!」
『悪事を働くにしてもそれは次のワガハイじゃ! 今回のワガハイは普通にヒロイン力での世界救済をご希望であるぞ?! 殺すにしても次でいいハズじゃろ!』
「そもそもお前に世界を救われるのがなんかヤダ」
『まあまあ勇者よ一度ワガハイに任せてみて下さいよ。それでダメならその時殺せばいいじゃない』
「政治家みてーな事言いやがって。まあいいや。だが貴族の重鎮とかをハニトラし始めたらその場で殺すからな?」
『……。おお!』
「……やっぱ今殺しとこうかな」
☆
「つったって何すんだよヒロイン目指すつったって」
『まずは世の男性の理想的なヒロイン像を探る為、聞き取り調査が必要なのじゃよ。ニーズを掴まねば世界最強のヒロインになどなれぬわ。勇者よおぬしが栄えある聴取人第一号であるぞ。おぬしはヒロインとはどう有るべきだと思う?』
「んー。『男性が求める』ってカギカッコをつけて良いんなら、ヒロインてのはやはりヒーロー自らのヒロイックさを際立たせる存在って事だろう」
『ほう』
「かといって、ヒーローにおんぶに抱っこの囚われのお姫様は流行らないからなあ。自主的に行動でき、ヒーローをしっかりとサポートして存在感を出せねばならん。だが活躍しすぎて出しゃばり過ぎもマズい。ヒーローに華を持たせるコレ大事」
『ふむ』
「何より相互の関係性だな。強い信頼感でヒーローとしっかりと結ばれ、ヒーローが他のサブヒロインに心揺れても揺るぎない愛情でヒーローに接してくれるのがマスト」
『なるほど』
「そんな強い絆で結ばれた、ボーイッシュで、一桁の、男の子だ」
『有難う勇者よ。大変参考になる貴重な意見として大切に聞き流させて頂こう』
「という訳でちょっと一桁の男の子に変身して見ないか?」
『うむ。断固断る。やはりここは大勢の意見を広く調査する必要があるのう。ちょっとこの城で働く巡回騎士団やメイドさんたちにも意見を聞いてみるか』
「一回だけ。一回だけで良いから」
『調査に協力すればその後にな。一回だけだぞ?』
「ウェーイ! ワハハハハ!」




