魔王『最近ゴーレム同士をバトルさせるゴーレムビルドファイトが流行っているので、勇者クンもワガハイと一緒に憧れのゴーレムマスターを目指すんだぜ!』 勇者「帰れ!」 その④
リッチが新たなゴーレムをテーブルに置き、勇者にリストバンドを渡す。
《試作ゴーレムのカドモン殿でゴザイマス! 操作は簡単。リストバンドのマイクに向かって、ゴーレムに命令するだけにゴザイマス!》
「ほお。ジャンプだカドモン!」
〖ま゛っ〗
ゴーレムが返事をし、その場でジャンプする。
「おお! 勝手に動いた!」
《カドモン殿自身が人工知能を持ち、命令者の言う事を判断して行動するのでゴザイマス》
「普通はそれをゴーレムと呼ぶ気もするが、これならレバー操作もシンクロ酔いもないからラクチンだな!」
《その上人工知能内臓なので、販売単価が高いのでゴザイマス! これが一般発売されればさらに大儲けでゴザイマスよ!》
「割と生臭い開発理由だな。だがいい。カドモン、ジャブだ!」
〖ま゛っ〗
「対空迎撃だカドモン!」
〖ま゛っ〗
「おお!コマンド無しに勝手にやってくれる! よし! レイジングストリームだ!」
〖ま゛っ!〗
《ミギャーー?!!》
カドモンのレイジングストリームがリッチに炸裂した。
「おいおい。ギャラリーを攻撃しちゃうんじゃ危ないんじゃねーの?」
《お、おかしい! 暴走しない様に、人工知能にはゴーレム三原則をプログラムしてゴザイマスのに!》
「ゴーレム三原則?」
《ハイ。
①.ゴーレムは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
②.ゴーレムは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
③.ゴーレムは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
この三か条からなるゴレッム三原則でゴザイマス》
「ゴーレム三原則だろ」
『それ、リッちゃんを人間と見做していないダケではないのか?』
《おお!》
リッチがカドモンを手に取り、指を立て言い聞かせる。
《よいですかカドモン殿。小生は人間でゴザイマスよ!》
〖ま゛っ?〗
《外見は違えども言語を解し人間社会で生活する。なればそれは人間なのでゴザイマス。よいですね?》
〖ま゛っ!〗
《よしよし、良い子でゴザイマス》
リッチがテーブルの上にカドモンを戻す。
《では勇者殿、お続きを!》
「良し! カドモン、レイジングストリームだ!」
〖ま゛っ!!〗
《ミギャーーー!!》
カドモンのレイジングストリームがリッチに炸裂した。
《なっ?! どうしてでゴザイマスか?!》
〖ま゛っ!〗
「なるほど。『外見は違えども言語を解し人間社会で生活する。それが人間』なのだとしたら、私もゴーレムではなく人間だ。ゆえにゴーレム三原則には縛られないと、カドモンちゃんは言ってるな」
〖ま゛っ〗
《ゴーレムの反乱?! き、緊急停止をミギャーーッ?!!》
カドモンのレイジングストリームがリッチに炸裂した。
〖ま゛っ!〗
「私は人間であるゆえに、人間に危害を加える行為は第一条に抵触するから看過できないと、カドモンちゃんは言ってるな」
《さっき三原則に縛られないと言っていたのでゴザイマス!》
〖ま゛っ!〗
「縛られないのと守らないのは別だから、自分自身が臨機応変に判断すると、カドモンちゃんは言ってるな」
〖ま゛っ〗
カドモンが自信満々に胸を張り、勇者がその頭を撫でる。
『というか勇者よ、さっきから普通にゴーレムの言葉を翻訳してるな』
「慣れだ」
『慣れるの早いんだぜ』
《お、恐ろしい人工知能を生み出してしまったのでゴザイマス! ソヤツは倫理なきマッドサイエンティストの産んだ、フランケンシュタインの怪物なのでゴザイマス!》
『自覚有ったんじゃなリッちゃん』
《手遅れになる前に、廃棄処分をするのでゴザイマス!!》
リッチが憤怒の形相で工具を構える。
そのリッチの横。テーブルの上から、禍々しいオーラがあふれ出していた。
それは、魔王が持ってきたサトゥルヌシの使っていたゴーレムだった。
ゴーレムがだれからの操作も受けず、ひとりでに前へ進み出る。
《な、何事でゴザイマス?! そちらはシンクロ式! 人工知能など積んでゴザイマせんのに!》
『強力な怨念を感じるのう。そのゴーレムはシンクロ式ゆえに、シンクロ時のファイターの思念が残留し、その闘争本能だけが暴走しているようなのだぜ!』
《そ、そんな事が! ?!》
瘴気をまとったゴーレムが拳を構え、光を放つ。
轟音と共に、強力なエネルギー弾がリッチに向かって放たれた。
《ヒィイイッ!! ッ?! カドモン殿?!》
エネルギー弾が弾かれ、天井を焦がす。
カドモンが身を挺してリッチを庇っていた。
〖ま゛っ!〗
「悪しきゴーレムから人々を守るのが、ゴーレムと人間の狭間に立つ私の使命だと、カドモンちゃんは言っているな」
《おお! カドモン殿!!》
「カドモンちゃん! レイジングストリームだ!!」
〖ま゛っ!!〗
カドモンのレイジングストリームが怨霊ゴーレムに命中した。
しかし、その攻撃は瘴気の壁に吸収されていた。
《むう! あの瘴気は! ちゅうに属性!》
「ちゅうに属性?!」
『一部のマスタークラスのゴーレムのみが獲得できる属性なんだぜ! こうに属性以外の、あらゆる攻撃を反射もしくは吸収してしまうんだぜ! 対してカドモンクンのレイジングストリームは、あお属性! ブルーな気持ちなんて中二病の心には自分のナルシズムを加速させるブースターでしかないんだぜ!』
《カドモン殿は試作段階! 属性攻撃はそのレイジングストリームしかゴザイマせん!》
「いいや。あお攻撃なら、勝機はある!」
勇者がリストバンドに向かって叫んだ。
「カドモン! ポロリ攻撃だ!」
〖ま゛っ!〗
カドモンがカシミールに躍りかかる。
タンクトップをはぎ取って少女の胸をポロリさせた。
「ぎゃぁあーー?! 何すんのよこの変態オヤジ!!」
「がふっ?!」
カシミールの腰の入ったフックを顎に受け膝から落ちつつ、勇者がリストバンドに向かって叫ぶ。
「今だ! カドモン、レイジングストリームなんだぜェ!!」
〖ま゛っ!〗
カドモンのレイジングストリームが怨霊ゴーレムに炸裂した。
その頭上にテロップが表示される。
【 こうかは ばつぐんだ! 】
怨霊ゴーレムのまとっていた瘴気が晴れていく。
ゴーレムの装甲は黄色に染まっていた。
《これは、そうでゴザイマしたか! き属性なら、あお属性の攻撃が弱点に!》
「そう! カシミールちゃんのおっぱいポロリの力を借りて、ヤツの属性をエロスの属性、き属性に変化させていたんだぜゴフッ!?」
「何いばってんだこの変態オヤジ!」
乳を隠さぬままに少女が勇者にアッパーを決める。
カシミールの腰の入ったアッパーを食らって膝から落ちつつ、勇者がリストバンドに向かって台詞を決めた。
「これで最後だ怨霊ゴーレム! 古代の賢者は言った、『可哀そうなのは抜けない』とな!!」
〖ま゛っ!〗
再び、カドモンのレイジングストリームが怨霊ゴーレムに炸裂した。
怨霊ゴーレムの機体が爆発四散した。
「怨霊ゴーレム、撃破だぜ!」
〖ま゛っ〗
勇者とカドモンが揃ってガッツポーズを決める。
その勇姿を見ながら、リッチが感慨深げにつぶやいた。
《……魔王殿。小生はいつのまにか、ゴーレムを単なる金儲けの道具として見ていたのかも知れないんでゴザイマス》
『リッちゃん……』
《ゴーレムビルドファイトを仲間たちと考案し、ああでもないこうでもないとルール作成に頭をひねっていたあの日々をもう一度思い出してゴザイマス。そして何より、ゴーレム殿たちもファイターと一緒に試合を盛り上げる仲間なんだと言う事を、再認識したでゴザイマスよ》
『そうなのかも、しれぬのう……』
《いまからは心機一転! カドモン殿のようにゴーレムの権利を尊重し、ゴーレムと人との新しい関係性を模索するんでゴザイマスよ!》
「そうなんですか!? デュフフフフフフ!!」
《?! ま、魔王殿?!》
リッチが驚いて横に立つ少年を見る。
その少年からは、もうアストラル体のツノもツバサも王冠も消えていた。
ポケットから取り出した瓶底眼鏡をかけ、照れ臭そうにデュフデュフと笑う。
「え~? カシミール殿~? もしかしてこのリッチってぇ~、ダークネスエルダーリッチ殿でござるかぁ~?! マジでござるかデュフ! デュフフ!!」
「そうだよサトゥシ君。……てか元に戻っちゃったんだサトゥシ君」
残念そうに肩を落とすカシミールの横で、一人リッチが納得する。
《なるほど! そのサトゥルヌシ少年はシンクロ率100%を超えて脳死した。つまりその魂がゴーレムの中に閉じ込められてしまっていたんでゴザイマスよ!》
「あー。それでゴーレムが壊れて元に戻ったのか」
『なるほどのう』
依り代を失い天使の輪を頭に付けて天に召されゆく魔王が、勇者と一緒にうんうんとうなづく。
「それにしてもぉ! ここは! ここはどこでござるかぁ?! デュフフフ! デュフフ!! もしかしてゴーレムマスターリッちゃん様のご自宅にお呼ばれしちゃったんでござる? ござそーろー? やばし! それがしヤバし! デュフフフフ!! ヤバヤバ事件発生でござるよカシミール殿おお! デュフ! デュフフ!!」
「……カシミールちゃん。サトゥルヌシ君は、いつもこんなキツい感じなの?」
「ええ。まあ。割と」
「デュフフフ!! おやおや?! もしやカシミール殿! それがしの名推理が発動できましたでござるよ! デュフフ! 拙者の内なるパゥワーが目覚めて、第二人格のまま全国大会で優勝したんでござるのでは! それでリッちゃんの自宅にお呼ばれしたのでは! ヤバし! それがしの秘めたる才能ヤバし~!! デュフフ! デュフフフ!!」
瓶底眼鏡をクイクイと上げて、サトゥルヌシがぼりぼりと頭をかく。
勇者とリッチと、アストラル体となった上空の魔王。
三名の心は今、一つになっていた。
(……キッツい……)
その後。サトゥルヌシは全国大会に出場。
カシミールにドーピングを禁じられたため、見事初戦敗退となった。
ドーピング。ダメ、ゼッタイ。
[終わり]
・
・
・
今回のお題はゴーレムで御座いました。
リッちゃんの勇者領内での権限が何だかどんどん大きくなっております。
話の都合であっさり無かった事になるかも知れませんが。
ではまた次回に。




