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魔王『転生したら邪神になってしまったんじゃが、せっかくだからこの邪神ボディを何かに有効活用できんじゃろうか?』 勇者「帰れ!」 その③


「そーいやオレお前にサプライズ用意してたんだけどさ。もうどうでも良くなっちゃったな。アレ無しで良いや」



 勇者が空飛ぶ目玉に呼びかける。

 勇者の言葉に、無双王が聞き返す。



「サプライズ?」


「いや、モンスターをけしかけてドッキリをな。もちろんモンスターつったって、きちんとコントロール出来てる安全なヤツなんだけど」


「君が開いてる冒険者養成所に使ってるような? ああ。それで空飛ぶ目玉クンが一緒に居たのか。良いよ良いよ。その手のキミのドッキリは慣れっこさ。困難な冒険も、キミのイタズラで笑いが絶えなかった。きちんとコントロールされてるんなら問題ないだろ。娘に格好良い所を見せたいし、是非やってくれよ!」


「そう? んじゃ、夕食の後にでも――ん?」



 バーベキューを囲んでいた酔いどれ貴族たちが、ざわりとざわついた。

 草原の小道を走り、別荘地帯へ向かってくる馬車の一団。その先頭に皇帝家の旗が掲げてあるのが見えたからだ。


 近衛騎士団に護衛され、きらびやかな馬車の一団が噴水広場に停車する。

 供回りが扉を開ける前に、馬車の扉が内側から開く。


 そして、一人の年頃の少女が飛び出して来た。



「パパ!!」


「リコ!!」



 まるで、日の光浴びる一輪のヒマワリのような少女だった。

 そのまま無双王に抱き付くと、くるくると回る。サマードレスが風に揺れる。

 勇者を見つけると、慌てた様子で人懐っこい笑顔をぺこりと下げた。



「はじめまして勇者様! パパがいつもお世話になってます!」


「おーいらっしゃい! ゆっくりしていってね。なんだ、連れ子だったのかよ無双王」



 大人と子供の中間の、はつらつとした少女と無双王を見比べる。

 恋人と言っても違和感のない年齢差だった。



「いや。リコはボクの実の子だよ?」


「……。お前何歳だっけ?」


「今年で28だ」


「リコちゃん、いくつ?」


「17歳です勇者様!」


「計算が合わねえ!!」



 叫ぶ勇者に、無双王が呆れた顔を見せる。



「計算は合うだろ。ボクが11の時の娘だよ」


「じゃあ倫理観が合わねえ!!」


「一人で武者修行をしている時や、キミと世界中を冒険してる時に、色んな町で恋人を作っただろう? その恋人たちとの、最初の子がリコなんだ。城持ちになってから世界中に散らばった恋人たちと籍を入れてね。今では六人の妻と7人の子供に囲まれて賑やかに暮らしているよ」


「ワタシのお家、大家族なんです! それまでママと二人暮らしだったから、大勢のママや弟や妹がいっぺんに出来て楽しくって!」



 自慢するように、少女が胸を張る。



「そ、そうか。本人が良いんなら。複雑な家庭環境をエンジョイしてるな。……弟さんたちは連れて来てないの?」


「……ボクは自分の息子をイケニエにする趣味はない」


「イケニエなんて酷いなあ無双王。一緒にお風呂に入りたいだけだよ」


「それを世間ではイケニエと呼ぶんだ勇者。キミにだけは倫理観をどうこう言われたくないぞ」


「?」



 勇者と無双王が額をこすり付けて会話する横で、内容を理解できない少女が笑顔のまま小首をかしげる。



「てかリコちゃん。君の乗って来たあの馬車って」


「はい! ワタシの婚約者の馬車なんです!」



 少女が指さすその先で、少年と少女が馬車から降りていた。


 皇族用のマントが風にひるがえる。

 少年の額に輝く瑠璃色のサークレット。それは皇位継承者の証であった。


 そして、少年に寄り添う一人の少女。

 皇族の横に立っても隠しきれぬほどの華やかなオーラを放つ、まるで咲き誇るバラの如き少女だった。


 少年が勇者の前に静かに歩み寄ると、軽やかに一礼した。



「勇者殿。お久しゅう御座います」


「おお。第十九皇子様。そうか! どっかで見たと思ったら」



 皇子の横に立つバラの様な少女が、優雅に礼をした。



「お初にお目にかかります、勇者様。こちらはナイトナ・フォン・エンペルドット皇子。先に飛び出したそちらのお転婆が、皇子の婚約者のリコリッタ・パンピーナです。そして級友のエマ・シャルル。ケイト・ラケル。アリスメラランティアッシュ・ランスで御座います」



 後ろに立った三人の少女が、紹介に合わせ緊張の面持で次々に礼をする。



「そしてわたくしは皇子のもう一人の婚約者、アンネローゼ・フォン・ドルスキと申します。本日より一週間、こちらへ逗留させて頂きます。よろしくお願いいたしますわ、勇者様」



 優しくほほ笑む少女の向こうで、空飛ぶ目玉が絶叫した。



『ア、アンネローゼちゃーーん?!!』




 ☆




「なんだい勇者。娘たちの事を知っていたのかい?」


「面と向かって会うのは初めてだけど、まあ、前にちょっとな。しかしそうか。あのヒマワリちゃん、お前の娘か。なるほど似てるな。異性交遊の人並外れたフランクさとか」


「無双王ちゃんの血ねぇ~♡」


「いやぁ~そうかな? はっはっは。貴族学校に通わせてる割には、お転婆で困るよ」



 顔を赤らめ頭をかく無双王の腕を引き、リコリッタが級友たちの元へと連れていく。

 そして自慢するように腕を組んだ。



「へっへ~ん♪ 感謝してよね、ローゼ♪ パパが勇者様のお友達だから、人気の避暑地を予約できたんだから!」


「全く、貴女の手柄みたいに言わないの、リコ。男爵様のお力でしょう? 感謝いたしますわ、男爵様」



 アンネローゼが、リコリッタをたしなめた。



「はっはっは。良いんだよ、ローゼ。ボクの娘の夫の妻なら、キミも僕の娘さ。他人行儀なのは寂しいな」


「いえ、でも……」


「君のお父上……ドルスキ伯爵とは、魔王討伐の間に何度もお会いして、懇意にして頂いていたよ」


「父はわたくしたちを邪神の魔の手から守り、戦って下さいました。立派な最期でした」


「ああ。とても立派な人だった。彼こそ真の貴族だ」


「もう! パパもローゼも、辛気臭いのはナシ! ローゼがしょんぼりしたままだと、スダレハゲのおじさんも悲しんじゃうよ? ワタシとローゼが皇子と結婚したら、パパもローゼのパパになるんだから! ほらローゼ! パパをパパって呼んであげて?」


「こ、こらリコ!」


「いーから!」


「ええ? そ、そんな。無双王様をパ、パパだなんて、わたくし……」


「無理しないで良いんだよ、ローゼ。ゆっくりと家族になっていけば良いんだ」


「は、はい。お義父様……♡」



 爽やかなイケメンの視線に魅入られ、バラのような少女が戸惑って頬を赤らめる。


 その光景を見守りつつ、空飛ぶ目玉が悔し涙を流しハンカチを噛みしめていた。

 横では勇者と占い師がのん気にソフトクリームを食べていた。



『えーいヒマワリちゃんめ! アンネローゼちゃんがあんなチャラ男をパパ呼ばわりする方が、スダレハゲのおじさんは悲しむわ!』


「魔王ちゃんがむかーしスダレハゲ伯爵の中の人だった時にぃ♡ そのハゲの娘だったのが、アンネローゼちゃんなのよねぇ?♡」


『そうじゃ占い師ちゃん! アンネローゼちゃんのパパはワガハイじゃ! あんなチャラ男ではない!』


「んでスダレハゲを殺したのは邪神で、今はお前が邪神だと」


「魔王ちゃんってば、アンネローゼちゃんのパパかつ、アンネローゼちゃんのパパの仇なのねぇ♡ 魔王ちゃんにとったら、すごくドラマチックで悲劇的な再会よね♡ なん♡だけ♡ど……ぷふっ♡」


「ハタから見たら面白すぎるな。ウケる♪」


『ぐぬぬ……!』



【※詳しくは、第三話( 魔王『うっかり悪役令嬢に転生して破滅の運命に巻き込まれても華麗に回避出来るように、ワガハイに予知能力者みたいな人を紹介してくれぬか?』 勇者「帰れ!」 )をご覧ください】



 肩を震わせクスクスと二人が笑う。

 二人の様子に、空飛ぶ目玉が肩を怒らせ激高する。



『ええい! 勇者はともかく占い師ちゃんまでなんなんじゃ! おのれ!!』


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