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魔王『転生したら邪神になってしまったんじゃが、せっかくだからこの邪神ボディを何かに有効活用できんじゃろうか?』 勇者「帰れ!」 その②


 勇者の領土、高原の国ハイランドの一角。

 勇者の居城にほど近い草原の上に、一つの街が出現していた。


 社交場たるダンスホールを中心に、放射状に貴族たちの別荘が立ち並ぶ。


 牧場で馬を駆り、ポロに興じる若者たち。おっかなびっくり羊と触れ合う子供たち。恰幅の良い中年紳士たちが宮廷の悪口を肴に、バーベキューを囲んで昼間から出来上がっている。別荘のテラスでは、老夫婦が二人並んで日光浴を楽しむ。そして噴水広場では、ひと夏の恋人たちが愛を語らう。



『なんと! ちょっと見ぬうちにここまでの規模となっておったか、別荘地帯!』


「帝都はもう暑いし、これからしばらく宮廷行事ないでしょぉ~♡ 有閑貴族さんたちが、この時期は特に増えるの♡」



 もの珍しげにキョロつく空飛ぶ目玉の横を、占い師と勇者が歩く。

 占い師はいつものように肌も露わなレースを身にまとっていたが、開放的な人々のなかではさほど目立たない。


 子供たちが駆け寄り、空飛ぶ目玉をナデナデする。目玉が触手で握手を返す。


 遠く草原の向こうから、一台の馬車がやって来るのが見えた。

 別荘地に不似合いな装甲馬車が、勇者たちの待つ噴水広場に停車した。



「やあ勇者! 久しぶりだねえ! 手紙でさんざん愚痴を聞かされたが、良い所じゃあないか! これから一週間、娘の級友共々お世話になるよ!」



 褐色銀髪の爽やかなイケメンマッチョが、軍用馬車から降りて手を広げた。

 勇者と占い師と空飛ぶ目玉が、彼を出迎えた。



「よー久しぶり」


「いらっしゃ~い♡ はじめまして~♡ お噂は聞いてるわよ~?♡」


「はっはっは。悪い噂でなければ良いんですが。ボクも貴女の事は、勇者からさんざん聞かされましたよ。勇者になりたての頃、随分と貴女に助けて貰ったって。占い師さん――いや、占い師ちゃん……でしたよね?」


「そ♡ よろしくぅ~♡」


「しかし驚いたな。こんなにお美しい方だったとは! 勇者の話はいつも話半分に聞いていたのですが。これからは彼の話も、右から左という訳にはいきませんね。はっはっは。こんな素敵な女性との出会いを、スルーしてしまう所でした」


「まあ♡ お上手ねえ♡」


「まさか! 口下手とよく言われます」


「オイコラ子持ち。初対面の女を出会い頭に口説いてんじゃねえ」


「? 出会い頭で無ければいつ口説けと言うんだ?」


「テメーの狂った倫理観が世界標準だと思うなよ。つうかお前もう子供出来たのかよ。手紙に書いてたレディ大勢って、お前んとこのガキとそのお友達か? 小っちゃい頃から避暑地でお泊り会とか、ブルジョアの子供は全くよー」


「一歳だろうが百歳だろうが、ボクにとって女性はみんなレディさ。今日は子どもたちの引率役なんだが、先に行って手続きを済ませておくように娘に言われてね。戦場じゃ万の軍を率いる将軍だけど、家に帰ればお姫様の家来だよ。はっはっは」


「万の軍を率いる将軍様ねえ。お前最近蛮族相手に手柄立てまくって『無双王』なんて呼ばれてるそうじゃねえか」


「やめてくれよ。キミからそう呼ばれるのはくすぐったいよ。はは」



 銀髪を草原の風になびかせながら、イケメンが爽やかに笑う。

 勇者の頬がヒクリと引きつる。



「『無双王』ねえ。良いんじゃないの? 無双王。俺より弱いけど。単独世界二位で三位と大きく間を離してりゃ、横に誰も並んでないって意味では、無双に違いないもんな」


「……また何かスネてるのか、キミは」


「うるせーテメーばっか戦争でご活躍しやがって無双王。オレもに戦わせろよ無双王。いい加減血に飢えてんだよオレはよー。魔法も使えない上に剣の腕前だってオレに負ける分際で無双王名乗ってんじゃねー無双王」


「はぁ……」



 無双王が呆れ顔で勇者を見つめ、物陰に引っ張って行って言いさとす。



「あのな。キミは人類正義の象徴なんだぞ? 勇者、なんだぞ?」


「んなこたわかってんだよテメーこらテメー。オレに説教かよ無双王ー」


「判って無い。人類正義の象徴たる勇者様を、人類同士の戦争なんかに投入できる訳無いだろ。我慢しよう。な?」


「だってよー」


「じゃあ勇者辞める?」


「辞めない」


「じゃあ我慢しなきゃ」


「だってよー」




『……あやつガキか』


「まあまあ♡」



 離れた場所で見守る目玉と占い師が、小さくつぶやく。


 スネた勇者に、無双王がオーバーアクションで話を切り出す。



「そうだ! 本当は避暑旅行ってのは物のついででね。実は勇者にお願い事があって、このハイランドに来たんだ」


「お願いだぁ~?」


「そう。魔王が消えた後、西の荒野を根城にしている竜の王が、亜人種どもを平定し勢力を拡大しているらしいんだ」


「……竜王が?」


「北方蛮族を追い払ったのちに、竜王を討伐するように皇帝陛下から勅命を受けたんだが、ボク一人では正直言うと荷が重い。そこで、勇者たるキミの助力を乞いに来たんだ!」


「……え? え? マジで?!」


「ああ! 人ならざる竜ども相手なら、勇者たる君の力を振るうのにも問題はないだろう? 安心しろ、法王庁の重鎮は僕が説き伏せる」


「イイんすか?!」


「世界で唯一の!! 神の代理執行者たるキミにしか!! お願い出来ない事なんだ! 昔のよしみだ! 勇者よ!! ボクの頼みを、引き受けてくれないかい?!」


「お安いご用っすよ無双王! 昔のよしみだ! お前の頼みとあらば、竜王の百匹や二百匹! 首を並べて展覧会開いてやるぜ無双王!」


「竜王は一人だけなんだけどそれは良かった! 有難う勇者! それと貸し別荘の逗留費をうっかり忘れてしまったんだけど」


「良いって事よ無双王! 昔のよしみだ! 一週間でも二週間でもタダで泊まってけよ! そうだ、特別にドラゴンのモツ煮込みも子供たちにご馳走してやるぞ?!」


「それは遠慮するが有難う勇者!!」


「気にすんな無双王!! オレとお前の……仲だろ?」



 勇者と無双王が、ひしと抱き合う。

 その様子を、占い師と空飛ぶ目玉が呆れて見ていた。



『……チョロ過ぎる』


「さすが昔の仲間だわぁ♡ 勇者ちゃんの操縦方法を心得てるわねぇ~♡」



 遠巻きに見ていた占い師の元へ、無双王が勇者を連れて戻って来る。



「はは。占い師ちゃん。実はボクは、彼とは子供の頃からの付き合いなんですよ」


「あらまあ♡ 幼馴染なの?♡」


「幼馴染って程、オマエと昔ぁ仲良くなかったけどな。無双王は本家の長男。オレは分家の分家の小セガレでね。勇者の血を引いてるってのも大きくなるまでオレ知らなかったくらいでさ。剣の稽古で顔合わせる程度の仲だったよ」


「まあ♡ 無双王ちゃんは聖六家の生まれなのね♡」


「ええ。魔王が復活した後は、剣の勇者として育てられたんですがね。勇者選定の儀式で聖剣を握ってみて、即座に諦めましたよ。はっはっは。今思い出しても鳥肌が立つ。あんなイカれたバケモノを使いこなせるのはそこに居る彼一人だけだって……」



 無双王の顔が、爽やかに青ざめる。

 その横で勇者がほがらかに笑う。



「いやぁ、無双王は精神支配されなかっただけ全然マシだろ? 他の勇者候補は泣くわ叫ぶわ失神するわでサンタンたる有り様だったからなあ。あっはっは」


「君が聖剣を普通に腰に下げているのが、今でも信じられないよ。はは。触ろうという気すら起きない……」


「ええ♡ 歴代でもここまで聖剣ちゃんと仲良しになれたのは、今の勇者ちゃんが初めてかも♡」


「……歴代? まあそれでボクは勇者候補から完全に辞退して、聖六家の外に養子に出してもらい、戦士として修業を積んだんですよ」


「んで今は新興の男爵様で、泣く子も黙る無双王と。勇者の血筋は政治不参加原則あるから、爵位もらえねーもんな」


「ああ。勇者の末裔で御座いますと法王庁に囲われていた時よりは、今の生き方のほうがボクの性格に合っているよ。はっはっは」


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