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魔王『転生したら邪神になってしまったんじゃが、せっかくだからこの邪神ボディを何かに有効活用できんじゃろうか?』 勇者「帰れ!」


「いやマジで! 頼むから帰れ! 帰らないにしろ家庭菜園の外に出ろ! 入ってくんな! 虹色の粘液が垂れてんだよ! 触手から! ああ! トマトに! トマトに!」


『フヌハハハハハ! スマヌな勇者よ! 勝手に垂れるのじゃ!』


「おじいちゃんかテメー! オムツはけ! 垂れてる垂れてる! 触手を上に上げろ、バンザイしろバンザイ! てか家庭菜園から出ろつってんだろうが! もっとだもっと! そう! 下がれ!」


『フヌハハハ! この体の動かし方がまだ掴めなくてのう』


「よーしよしOK。そっから入ってくんなよ全く。……虹色ローションはシャベルで周りの土ごとえぐって捨てるか。マジで、いつもみたく応接室に入ってこられなくって良かった。こんな虹色で応接間や廊下を塗装されてたら、問答無用でお前を十回ほどブチ殺す所だったぜ」


『うむ。流石にそれは控えた』


「つか魔王。その体の動かし方判んねえって、触手のぶら下がったでっかい気球みたいなもんなんだから、重心移動とかで何とかならんのか?」


『大雑把な移動はそれで良いんじゃがのう。立ち位置の微調整が難しい。触手でどっかに掴まっておかないと、風に流されるんじゃ』


「柵を掴むな! 汚れる!」


『しかし何も掴まないと……よっ! ほっ! はっ!』


「……。空に浮かぶ10m超の虹色したタコが触手をくねらせている図ってのは、こう、正気度をガリガリ削られそうな名状しがたい冒涜的な風情があるな……」


『風流であるか? ワガハイは風に流されそうであるが』


「流されてどっかに行ってくれ」


『そうもゆかぬ。ここに来るまでに二つの街を通り過ぎたが、ワガハイを見るもの皆が発狂し、散々な有様であった』


「良いじゃねえかよその調子で街の三つ四つも滅ぼしてこい。そして勇者たるオレに討伐されろ。オレに世界を救わせろ。それが邪神の体の有効活用ってもんだ」


『勇者とは……』


「はは。冗談だよ冗談。そうなったら良いなってだけの、仮定のお話さ。ふふ」


『願望がダダ漏れになる事を冗談とは言わぬぞ』


「そもそも、その邪神の体どこで手に入れたんだよ。また邪神様呼び出してバトルでもしたのか?」


『いや。南の湖のほとりで大男に殺されておった』


「……邪神の分際で、割とフランクに死ぬなソイツ」


『事情を説明し、その邪神殺しの大男にいきさつを聞いたのじゃが。彼はその湖で獣を狩ったりサマーキャンプに来る若者に嫌がらせをするのが仕事の、湖の管理人だったそうじゃ』


「管理人の仕事か? それ」


『キャンプに来た若者の一人が肝試しで悪ふざけをして、邪神を呼び出してしまったらしい。邪神は若者たちに取りついての。仕方なく管理人さんは、邪神憑きとなった若者の脳天を鉈で次々にカチ割ったんじゃ』


「容赦無えな」


『依り代となった若者を皆殺しにしたら、邪神の本体が顕現したそうじゃ。管理人さんは大切な湖を守るため、邪神にタイマンバトルを挑んだ』


「若者は守る対象外なのか」


『長い死闘の末、邪神に突き刺した鉄柵に雷が落ちて、何とか邪神は死んだ。彼はかぶったホッケーマスクの返り血を拭きながら、もう人殺しはコリゴリじゃと言いつつ、その湖から去って行ったのじゃ。そこはクリスタルのように水の綺麗な所でなあ。クリスタルレイクと言うのじゃが』


「……邪神が出たのって先週の13日か?」


『良く判ったのう』


「何となく」


『で、若人の死体がゴロゴロ転がっておる湖に一人きりなのもおっかなくってのう。おぬしの所へ遊びに来たのじゃよ』


「その風景の中で一番おっかないのはブッチギリでお前だけどな。つうか魔王。お前はその邪神ボディ、お気に召してねえの? いっつもならレアアヴァターじゃーとかつってハシャぎそうなもんだけど」


『嫌じゃこんな虹色巨大ダコ。元のビジュアルが強烈過ぎて、ワガハイのアイデンティティたるアストラル体のツノとツバサと王冠が、単なるノイズになってしまっておるではないか』


「虹色のタコってテーマが、ボヤけてる気はするな」


『それに何より、ちっとも魔王らしくないね』


「普段が魔王らしいかはさておき、魔王も邪神も似たようなもんだろ」


『む?! 違う! 違うぞ勇者よ! まずもって邪神とは神である。地上の事象と隔絶した超越存在である! しこうして魔王とは王である。勇者よ、王とは何じゃ?!』


「ええ?! 王? 王、王は……偉い人?」


『その通り!』


「当たってた……」


『貴賤とは文化文明の中にしか存在せぬ概念。つまり王とは知性体の集団を統率する頭首である! 邪神はいっつも人類を滅ぼすだの何だの言っておるが、ワガハイはそんな野蛮な事は望まん! むしろ人類LOVE!!』


「え? そうなん?」


『人を殺すなぞ猿でもできる。神の作り給うた人の子を、悪の道へと堕落させてこそ魔の王よ! ワガハイは悪そな奴とはだいたいお友達になりたいのじゃ! 全人類一人ひとり老若男女に至るまで! 冥府魔道にお招きし、悪徳の栄えを啓蒙する。これぞ魔王たるワガハイの本懐であるぞ! フヌハハハハハ!!』


「……人類の敵である事に変わりはねえな。だがまあ、会う奴会う奴をみんな発狂させてりゃ悪の啓蒙もねえ訳か」


『その通り。さりとて、むげに捨てるにも忍びない。邪神の体をアヴァターにできるなんぞ、今後も滅多に無いであろうからのう』


「今ってさ、邪神の意識はどうなってんのかな。もっペん呼んだら来るかな? 無限に倒して食糧問題解決しねえかな?」


『おぬし……』




 ☆




「でも邪神の有効活用つってもなあ。俺もあれから三回ばっかし邪神呼び出して、邪神殺すにのにも飽きたしなあ」


『名前を呼ぶだけで召喚される事が、これほどデメリットになるとは邪神も思わなかったであろうよ』


「流石に学習したのか、四回以降は呼んでも来なくなったけどな。でも魔王。その邪神アヴァターを有効活用したいっつうけどさ。その邪神の体って、具体的にどんな事ができんのよ?」


『ここへ来るまでに色々と試してみたが。まず、かなりの速さで空を飛べるな。この体を丸ごと透明化も出来る。これに気付かねば、街二つだけでなく、さらなる被害が拡大する所であった。触手で物体透過もできるの。魔力は豊富なので、魔法も問題なく唱えられる。あと、身体の周囲ぐるりに目玉が沢山付いておるので、360度視界じゃ』


「ソレ全部機能してんのか」


『うむ。目玉によって望遠や透視の追加能力も……ん? むむ……。目が取れた』


「うお! キモっ!」


『これは……子機になっておるのう。外れる眼球はこれ一つか。宙に浮いた眼球を、自由に操作できるようじゃ。眼球ドローンじゃな』


「便利なんだか何なんだか」


『で、これらを何かド派手に有効活用するすべはないかのう』


「うむ。一つある。というか、さっきのホッケーマスクの湖畔管理人さんの話を聞いてて思いついた」


『ほう?』


「前に冒険者養成施設作っただろ? 元魔王四天王のリッチのリッちゃんと一緒に造ったやつ」


『うむ。ワガハイはリッちゃんの実験に巻き込まれ死んでしまったがな』


「……嫌な事件だったね。……腕が一本、まだ見つかってないんだろ?」


『今は触手だらけじゃがの』


「それで、その施設に来た貴族のボンボンたちのツテでな、最近ここの近くに貴族たちの避暑地を作ったのよ。貸し別荘とかコテージとか。そこが結構繁盛しててな。夕食の時には領民さんたちに頼んで、余興として民族舞踏なんかを披露して貰ってんだけどよ」


『楽しそうじゃの』


「お前そこにサプライズで登場して、貴族連中を驚かせてやれ」


『活用の規模が小さい!!』


「いーじゃねーかよ他に使いみちも無し。ひと夏の恋人たちの前戯代わりに派手に暴れてブッ殺されてやれよ」


『ピロートークの話題づくりに討伐されるなんてまっぴらじゃ!』


「よし、じゃあもっと正確に言おう。避暑地に今日の昼過ぎに、昔の勇者パーティのメンバーだった戦士が来るんだけどよ。そいつにドッキリを仕掛けてえ。しかも女連れで来るらしいからな。いっつもスカしたイケメン面してやがるから、奴の慌てる顔が見てえ」


『澄んだ目で酷い事を言う。しかしそうか。あの女たらしの戦士が今日ここへ来るのか』


「ああ。パーティ内で紅一点の神官ちゃんを魔法使いから寝取った、あの戦士だ」


『魔王四天王で紅一点のエンシェントサキュバスちゃんを敵なのに寝取り、魔王四天王や魔王十傑集の仲をギクシャクさせおった、あの戦士か』


「魔王軍内部がそんな有り様になってたのを今知ったが、その戦士だ」


『フヌハハハ! よかろう! 紅一点が消えてもんにょりした空気となった魔王軍のモチベーションを上げようと、ワガハイ自ら必死にから回ったあの時の恨み! 今こそ晴らしてくれようぞ! フヌハハハハハハハ!!』




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