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勇者「せっかく手つかずのダンジョンを見つけたんだし、面白そうだから今から探索しに行ってみようぜ!」 魔王『断る!』 その②


 今後のダンジョン運用法について熱く語り合うリッチと執事。

 その横で、勇者と魔王はダンジョン最深部を見回していた。


 高さは10mほど。最深部だけ明らかに天井が高い。天井に開いた穴からは柔らかな光が差し込んでいる。奥行きはかなり広く、陽光の届かぬ所には点々と魔力灯が揺れていた。


 勇者と魔王が奥の方へと歩を進める。

 あちこちでアンデッドたちが、倒したモンスターたちを片づけている。



『のう。このダンジョン、恐らくは五千年以上も手つかずだったんじゃろ?』


「多分なあ」


『アンデッドは良いとして、生身のモンスターちゃんたちは何処から来たんじゃろうのう。確かに広いが、この迷宮だけで食物連鎖が完結できるほど広大ではないぞ?』


「ってえ事は、古墳以外にもどっかに出口があったのか? でもオレの領地の中でそんな話聞かないしなあ。モンスター出る場所はオレが全部潰したし。領地の外までつながってるとか? 面倒くせえなあ。魔王ちょっと探してくれよ。お前だけ今回何もしてないだろ?」


『ダンジョン見つけたのワガハイじゃろ! おぬしらの手柄全部ワガハイありきじゃぞ! リッちゃんだけじゃなくワガハイにだって、いくばくか有ってしかるべきじゃろ!』


「いーじゃねーかよ死んだらイチからやり直しのローグライクな人生送ってんだから。財産作ったってムダだろ。……んん? 何だありゃ」



 勇者が正面の暗闇を指差す。

 何もない空間が、ゆらゆらと陽炎のように揺らめいていた。



『やや! これはナロー回廊ではないか! なるほど、このダンジョンに巣食う生身のモンスターは、次元トンネルで異世界より引き寄せられたのであったか。おおかたここに封印された古代勇者の妄念が、時空をひずませ穴を開けたのじゃな』


「お前の本体といい、封印されてる奴って穴開けたがり屋さんばっかりか」


『ホレホレ! ワガハイが居なければ生モンスターがどこから来たかは、謎のままであったぞ? ワガハイが居て良かったであろうが! 感謝せよ勇者よ! フヌハハハハハ!』


「穴見つけたのはオレだけどな。ってことはふさがなきゃモンスターが湧いて出る訳か」


『いや。パワーソースたる古代勇者が消えたのじゃ。穴はもうほぼ閉じておる。せいぜいコウモリちゃん程度しか通れまい』


「んじゃ良いか」


『おお?! こ、これは!』



 次元のひずみのすぐ近く。

 黒い箱の前で、魔王が驚きの声を上げた。



『これは! 高度文明の発達した異世界にのみ存在するアイテム、テレビジョンではないか!』


「モンスターだけじゃなく、よその世界のアイテムも流れて来てんのか。んで、何だテレビジョンって」


『フヌハハハ! この世界の事しか知らぬ無知なる勇者に教えて進ぜよう! これは異なる場所の風景を映し出す事の出来るマジックアイテムよ! ……まあ壊れておる様じゃがな』


「へー。じゃあここに散らばってるガラクタ全部、異世界からの漂着物ってワケか」



 よく見れば次元のひずみの近くには、そこかしこに様々な異物が散乱していた。


 勇者のつま先に何かが当たる。勇者がしゃがんで拾い上げた。 

 それは、黒地に金で幾何学模様が描かれた立方体のパズルボックスだった。



「これもナロー回廊から来たのか? なー魔王、コレなんだ?」


『コレは……よく知らぬな。飴ちゃんが入っておるのかな?』



 魔王がパズルボックスをカラカラと振る。



「んじゃこの宝石は?」


『どれどれ』



 勇者がいびつに歪んだ金属製の小箱を拾い上げる。

 小箱の中には黒く輝く凧形二十四面体、トラペゾヘドロンが収まっていた。



『これは……金属? 宝石か? 中に何か見えるようじゃが……よく知らぬな』


「んじゃあそこの1:4:9の真っ黒いモノリスは?」


『うーむ、よく知らぬな。どこかの壁材がはがれ落ちたんじゃろか?』


「オメーなんも知らねーじゃねーか」


『全部を知っとる訳ないじゃろ! どんだけの数の異世界があると思っとるんじゃ!』



 憤慨する魔王をよそに、勇者が奥にある扉に目を付けた。



「お。こっちの扉はなんか雰囲気違うな。何度も通った跡がある。古代勇者が使えそうなブツだけこの中に入れてるのか?」


『ほお! オタカラがはいっておるやも知れぬのう! む? 鍵が掛かっておる』


「どけ魔王。扉ごとブッた斬る」



 勇者が聖剣を抜く。

 扉に向かい振りかぶった所へ、後ろから執事の声が飛んだ。



「お待ちを勇者様! 乱暴に開けぬ方が宜しいかと! ふむ。勇者様のお気に召しそうなお宝が部屋の中に御座います」



 執事が勇者のそばに駆け寄り、眼鏡を上げて扉を睨む。



『おお、中が見えるのか? 執事殿』


「はい。勇者様より賜りましたこの眼鏡は、透視と暗視の魔法が掛かっておりまして」


『なんと』


「でもレンズの度がキツくてなあ」


「職場で壁の向こうを覗く様な無作法は致しませんが、レンズの度がわたくしの老眼にピッタリでして。それに軽くて丈夫。なので日常使いに重宝させて頂いております」


「まあ、オレが使っても良いんだけどさ。知的なオレが更に知的に見えちゃうのも、セルフプロデュース的にどうかなって。ホラ、オレって勇者じゃん? 基本ワイルドさをアピールしたいっていうかさ」


『ワイルド貫通して蛮族じゃがな』


「勇者様、しばしお待ちを。今扉をお開け致しますので」



 執事が白手袋をした右手を扉の前にかざす。少しの間があり、扉がカチリと音を立てた。

 執事がノブを掴んで引くと、扉は音も無く開いた。



『おお。執事殿は解錠術も心得がお有りか』


「いえいえ魔王様。これも靴や眼鏡と同じく、勇者様から賜ったこの手袋の力で御座いますよ。城内では鍵もなしに錠を開くような無作法は致しませんが」


『ほう!』



 執事が両手の白手袋を魔王に見せる。



「勇者様の居城はなにぶんアンティーク過ぎるきらいが御座いまして。立て付けの悪い戸が多う御座いますが、この手袋を使うと力も要らず簡単に開けられるので御座いますよ。それに何より丈夫で汚れに強い。なので日常使いに重宝させて頂いております」


「オレ白手袋するとアレルギー出るし」



 執事が慎重に戸を開くと、中を確認してから勇者にこうべを垂れる。



「さ。どうぞ、勇者様」


「おおー! サルだ! サルの陶磁器人形だ!」



 勇者がテーブルに並んだ陶器人形を見て、はしゃいだ声を上げた。

 そこには様々な動物を模した、白磁の人形が並んでいた。

 勇者がサルの人形を手に取ると、息を吹きかけホコリを払う。



『何じゃ。どんなオタカラかと思えば、ただの陶器人形ではないか』


「いーじゃねーかよ。サルの陶器人形集めてんのよオレ。寝室のコレクション見たらビビるぜ? 三面の棚にびっちりサルだらけ。占い師ちゃんが小さく悲鳴を上げて、呪われそうだから絶対にヤダって部屋に入るのを拒否るレベルだぜ?!」


『壁三面ビッチリサルとか、ワガハイだって嫌じゃ。……というか、占い師ちゃんが言うのであれば、本当に呪いの人形が混じっておるのではないか?』


「んな事ねーよ。寝てる時に布団の上に乗ってくる程度だ」


『呪われとる!!』


「いやいや、可愛いだろー?」


『……まあ、単品だけだと可愛いがのう』



 魔王が勇者の手からサルの陶器人形を受け取る。


 角度を変えて眺めつつ、魔王がサルの尻尾を握った次の瞬間。

 尻尾が折れて人形が床に落ち、コナゴナに砕け散った。



「なあああああああ!」


『わああああああ?!』


「何シッポ持ってんだよ折れ易いの常識だろテメー!!」


『サルの人形とか初めて持ったしてかいや悪気はホントに!』


「落ち着いて下さいませお二人とも」



 執事が落ち着き払って懐中時計を取り出した。

 そして、上部のつまみをくるくると回した。



『……まあ、単品だけだと可愛いがのう……アレ?』


「サル返せ! おーあぶねえ」



 勇者が魔王の手からサルの陶器人形を奪い返した。

 粉々になったはずの本体はおろか、尻尾すらも取れていない。



「サンキュー執事さん。助かったー」


「いえいえ、どう致しまして」



 執事が勇者に礼をする。

 その横で魔王は宙に両手を出したまま固まっていた。



『今、人形、割れて……?』


「ええ。この懐中時計で十秒だけ時間を巻き戻したので御座いますよ」


『ぬああ?! そんな能力がその時計に?!!』


「はい。これも靴や眼鏡や手袋と同様、勇者様に賜りましたマジックアイテムでして。一日に一度だけ、時間を十秒戻す事が出来るので御座います。まあその能力をめったに使う事は御座いませんが、掛かっている魔法のおかげで針が遅れる事が無いのです。しかも丈夫で日常防水。なので日常使いに――」


『なので日常使いに重宝させて頂いております、じゃろ?! いやいや、それは流石にチートアイテム過ぎるじゃろ!! もっと大切に保管してしかるべきじゃろ!!』



 興奮する魔王の横で、勇者がサルの人形を大事に布でくるみつつ答えた。



「でもよー。魔王、よく考えてみ? 一日一回だけだぜ? 巻き戻せるの。何か失敗したとしても、即その能力を使えるか? 使った後でもっと大ごとが起こるかも知れないとか考えないか? んで迷ってる内に十秒なんて簡単に経つんだぜ?」


『そ、そういうものか? しかし……』


「確かにその十秒時計を見つけた時は、すげーモン手に入れたと喜んだぜ? でもその時計を見つけて三年間、肌身離さず身に着けてたけどさあ。使ったのはおしっこ漏らした時の一回だけ。しかも戻した直後にもう一回漏らしたしね。屈辱が倍に増えただけだったよ! だからその日に執事さんにあげたのオレ」


「勇者様……。時計を受け取った時にしっとり湿っていたのは、もしやそういう理由で御座いましたか……」


「拭いたからだよ?! 濡れタオルで綺麗に拭き取ったからだから! 湿ってたのは!」


「そ、それならば、良う御座いました……」



 安堵する執事を見つつ、リッチがふむふむと一人得心する。



《小生判りかけてゴザイマスぞ。執事殿の強キャラ臭の理由が》


『ほう。理由?』


《ハイ。それは強力なアイテムをいくつも持っているからでも、アイテムをスマートに使いこなすからでもゴザイマせん。アイテムの強力なパワーに振り回されず、自然体で過ごしておられるからでゴザイマスよ》


『ふむ。なるほどのう。いくら世界最強の能力を手に入れたからと言って、「俺は世界最高のパワーを手に入れたぞおぉぉーーー!!」なんて雄たけびを上げる奴がいたら、即落ち二コマの前振りとしか思えぬからのう』



 魔王とリッチがうんうんとうなずく。

 その視線を受け、執事が照れて笑った。



「何を仰いますやら。わたくしは主に恵まれた老執事に過ぎませんよ。ほほ」



 そして時計を見て、勇者に頭を下げる。



「では勇者様。そろそろ夕餉の支度をする時間で御座います。わたくしは一足先に帰っておりますので、日没までにはお戻りくださいませ」


「ああ。そうね。シチューとステーキよろしくね!」


「はい。では」



 執事が頭を下げる。

 そして、手をかけたドラゴンの首ごとその場から消えた。



『……。勇者よ。今のも何かのアイテムパワーか?』


「いや? 今のは執事さんの素の能力」


《……。やはり普通に強キャラではゴザイマセンか?》




[終わり]


《この辺りで一度テンプレから外れるべきかも》

という邪神様の神託を賜り、色々実験回です。


というか六話冒頭を書いてる最中に思いつきました。

これがライブ感……!!


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