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勇者「せっかく手つかずのダンジョンを見つけたんだし、面白そうだから今から探索しに行ってみようぜ!」 魔王『断る!』


 読んでなくても大丈夫!

 前回の魔王帰れクロニクル。



 占い師ちゃんは宮廷晩餐会にお出かけ。


 居城で暇を持て余していた勇者は、いつもの如く魔王の暇つぶしに付き合う事となる。

 ひょんなことから数千年前の先輩勇者と出くわした勇者と魔王。だが勇者は先輩の長話に辟易し、発作的に先輩勇者を殺めてしまう。


 勇者たちの前にポッカリと穴をあける、先輩勇者が封印されていた地下迷宮。

 勇者は魔王に対し、おっさんオンリーで構成された四人パーティでの地下迷宮探検という、地獄のようなアクティビティを提案するのだが――。




「えー何でよー。行こーぜ魔王」


『ワガハイはその迷宮探検を今まさに三時間半かけて堪能してきたばかりじゃ!』


「じゃあ道案内しろよー」


『断る! そもそもワガハイはキレイ好きなんじゃ! 地下は好きじゃが、何千年も掃除もされておらんようなカビ臭い遺跡なんぞは大っ嫌いじゃ!』


「風通しは良くなったぜ?」



 勇者が古墳に開いた大穴を覗き込む。


 地表の古墳入口部分は封印されていた古代の勇者が出てきたせいで、大きく崩落していた。その下には何層にも渡る巨大な地下迷宮が、高さ100m以上もの縦穴に沿って断面を晒している。


 穴の縁に立ち、勇者・執事・リッチ・魔王inミノタウロスの四人が、順に下を覗き込む。



「アリの巣の断面図みてえだな」


「勇者様、ちらほらとモンスターの姿が。どちらにせよ、このまま放置は出来ないようで御座いますな」


《ホヘヘヘヘヘ! 壁面や柱を見るに五〜六千年前、第三紀古王朝時代の意匠でゴザイマスぞ! 未知の魔導機械やアイテムが眠っているやも知れないんでゴザイマス! 是非探索するべきでゴザイマスぞ魔王殿!!》


『……。ワガハイはあんまりウロチョロせぬからな?』



 しぶしぶ魔王が探索への同行を認める。



「しかしこれだけの迷宮。モンスターを退治するだけでも一苦労で御座いますなあ」


「吹き抜けでもなし、上から下へは焼却すんのも難しいからなー」


『ええい、とりあえず燃やそうとするでない勇者よ。ここは数千年も手つかず。オタカラもあちこちにあるやもしれんのだぞ? シラミ潰しに駆除する他あるまい』


《それならばご心配要りませんでゴザイマスぞ! 幸いにもこのダンジョンには、アンデッドが多数かつ広範囲に渡り存在するご様子。小生、「死んでる奴はだいたい友達」でゴザイマスれば!》



 リッチが杖を掲げ、魔力を集中する。



《支配力強化・支配範囲感染拡大化・ドミネートアンデッド!!》



 呪文と共に、支配の魔力がダンジョンに広がってゆく。

 地下迷宮にざわりと異様な雰囲気が流れる。穴の断面から見えていたスケルトンやレイスたちが、一斉にその動きを止めた。



《アンデッド殿たち! キル・ゼム・オーール!! の、お時間でゴザイマスぞ!!》



 下層に向かい、リッチが叫ぶ。

 その号令と共に、大乱闘が始まった。


 迷宮に居たアンデッドたちが、近くのモンスターを手当たりしだいに攻撃し出す。けだものの悲鳴や剣戟の音が鳴り響き、そこかしこで血しぶきが上がる。



「うおー。エグいなリッちゃん」


《他力本願が小生の座右の銘でゴザイマスれば! ホヘヘヘへへ》



 数分もすると、迷宮は静けさを取り戻した。

 縦穴のふちに、近隣モンスターの討伐を終えたアンデッドたちがぞろぞろと並び出てくる。

 スケルトン、ゾンビ、レイス、ポルターガイスト、ドラゴンゾンビ。数千になろうかという死者の群れが、次の号令を待つようにリッチを見上げる。



「お見事なお手前で御座いますな、リッチ様」


《ホヘヘヘ、照れ臭い。とんでもゴザイマせんぞ執事殿。ささ、下へと降り……むむっ?!》



 降りようとした勇者たちを、リッチが手で制する。

 迷宮最深部。大きく開いた縦穴の底に、禍々しい炎が灯った。



《リッチやスペクタークラスのアンデッドが次々に倒されてゴザイマス?! 勇者殿、魔王殿! 最深部にまだ強大なモンスターが?!》


「くはあ! ありゃあドラゴンじゃねえのよ!!」



 言うなり、勇者が縦穴に身を躍らせた。

 宙で聖剣を抜き放ち、満面笑顔で雄叫びを上げた。



「ヒャハーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」



 100m以上を一気に降下。

 数十mもある巨竜の首を、一刀の元に叩き斬った。


 黒い竜鱗が火花を上げる。牛ほどもある竜の頭部が、石畳を割って転がった。



「すげーぜ執事さーーん! 新鮮なドラゴンの肉だーーー! 今夜はステーキだぜーーーー!!」


「おおー、それはそれは! 良う御座いますなあー、勇者様!」



 穴の底で叫ぶ勇者に返事を返し、執事がひょいと穴の中に身を躍らせた。

 崩落した迷宮の壁面に垂直に立つと、下に向かってスタスタと歩き出す。


 浮遊するリッチにお姫様抱っこされたミノタウロスが、感嘆の声を上げた。



『ほお! 大したものですのう、執事殿』


《垂直壁歩きをされると、それだけで強キャラの風格が漂いますでゴザイマスなあ》


「いえいえ魔王様、リッチ様。勇者様から賜った、マジックアイテムのおかげで御座いますよ」



 壁面に垂直に立ちながら、片足を上げて革靴を見せる。



「まあ、勇者様のお城の中では、壁を歩くなどという無作法なマネは致しませんが。この靴は掛けられた魔法のおかげで、どんな足場でも滑らぬ上、頑丈で通気も良いので御座います。なので日常履きに重宝させて頂いております」


「そうそう。オレ革靴履かねーからさあ。フォーマルでもブーツ派だし」


「この革靴は、わたくしの何よりの宝物で御座いますよ。おお、勇者様。これはこれは。食べ甲斐のありそうな、大きな竜で御座いますなあ」



 話しながら穴を降りきり、執事が勇者の横に並んだ。

 切り落とされたドラゴンの首を眺め、断面の肉付きを観察する。



「ふむ。体は後日にでも騎士団様方にお持ち帰って頂くとして、頬肉はステーキ、残りはまるごと煮込んでシチューにするのはいかがですか? 勇者様」


「おー、シチュー良いねえ。それなら城のみんなが食べられるな。タンは毒抜きした後ジャーキーにしよう。お茶の枝で作った燻製チップのアイデアが有ってさあ」


「それは楽しみで御座いますな。ではその様に」


『うへぇ……本当に食べるのか?』


「旨いぞ?」


『人間というのは信じられんほどに悪食じゃのう……』



 少々引き気味の魔王の横で、リッチが巨大なドラゴンの首をアチラコチラと挙動不審に観察する。

 そして肩を震わせ感動の声を上げた。



《おおおお! こ、これは、オブシダンドラゴンではゴザイマせんか! しかもツノの年輪を見るに、五千歳は下りませんでゴザイマス! 間違いなくエンシェントクラス!》


「五千歳かあ。んじゃこのダンジョンと一緒に閉じ込められたのかねえ」


《発見例すら数百年は絶えてゴザイマしたかと! ホヘヘヘ! このツノ一本でどれだけの超級魔化ポーションや強化ポーションが作れる事やら! 竜鱗も極めて状態が良うゴザイマスですなあ! ホヘ! ホヘヘヘヘヘ!!》


「おお。なんだリッちゃん、錬金術やるの?」


《ええ。人間だった頃から、むしろそちらが本業でゴザイマして》


「んじゃツノやウロコなんかは食わねえから、リッちゃんにやるよ。ダンジョン掃除の駄賃だ」


《ヨ、宜しゅうゴザイマスので?!》


「その代わりポーションが必要になったら格安で作ってよ〜?」


《モ、勿論でゴザイマスですともハイ! 有難うゴザイマス勇者殿!》



 リッチが勇者にペコペコと頭を下げる。



《そうでゴザイマス。ドラゴンの体は固定化の魔法をかけて腐敗を止め、小生が骨馬車を召喚してお城まで運搬いたしますでゴザイマスよ!》


「おお、それは助かりますな。有難う御座います、リッチ様」


《イエイエ! コレだけの魔術触媒を頂いたのでゴザイマス! そのくらい! ホヘ! ホヘヘヘヘ! コレだけの錬金素材、そしてこのダンジョンで確保したアンデッドの大軍勢! これだけ、これだけあれば! ホヘヘヘヘヘ!!》



 リッチがダンジョンを見回し、高らかな笑い声を上げる。

 それに合わせ、アンデッドたちが一斉にかかとを鳴らす。



《これだけあれば、このハイランド全てを開墾し、一面のトウモロコシ畑に変えることすら出来ますでゴザイマスよ!!》


「……本当に世界征服とか興味ないんだなリッちゃん」


《何を申しゴザイマスか勇者殿! 武力侵攻なぞもう古い! 時代は経済征服でゴザイマスぞ?! ビバ! ネクロナイズドファーミング! アンデッド農業の夜明けが参りますでゴザイマスぞこれは!!》



 虚空をにらみ一人テンションを上げるリッチの横で、勇者が魔王の顔を見た。



「なあ魔王。リッちゃんって、こんなキャラだったの?」


『この為に魔術師連合を飛び出して、アンデッドになったそうじゃ』


《ゆくゆくはトウモロコシからバイオエタノールを精製し、内燃機関の燃料に! この世界に真のオートメーションをもたらすのでゴザイマス!!》


「バイオ、なに……?」


『ワガハイが異世界機械文明の様子を話して聞かせたら、クリティカルに感化されたようでのう』



 勇者が顎に手を当て、思案しつつリッチへと向き直る。



「あのさあリッちゃん。盛り上がってる所悪いけどさあ、そんなことしたら今トウモロコシを作ってる人たちはどうなる? それに羊たちを養う牧草も消えちまう」


《いえいえ勇者殿。農業などの第一次産業は疲れ知らずのアンデッドに任せ、人間はより知的な第二次産業第三次産業に従事をしてでゴザイマスな……》


「んー。リッちゃんの言うことも判るけどさあ。それって本当に幸せなんだろうか」


《……。幸せ、で、ゴザイマスか……?》


「物質的な豊かさは確かに大事だよ。それは否定しない。でも、人はパンのみで生きるにあらず。オレはこのハイランドに来て、豊かな自然の美しさや大切さを知ったんだ」


《勇者殿……》


「そりゃあ、ここに来てすぐは帝都の賑わいが恋しいことも有ったさ。でも、高原を吹き渡る風が教えてくれたんだ。ゆっくりと過ぎる時間の、かけがえの無さを。羊たちの群れ。草原を走り回る男の子たち。四季折々に咲き誇る花々。草原を駆ける馬の群れ。馬に乗る半裸の男の子たち。空を飛ぶ鳥。小川のせせらぎ。川魚。小川で全裸で泳ぐ男の子たち……」



 魔王が執事にヒソヒソと耳打ちする。



『……こやつ野放しにしてマジで大丈夫か執事殿』


「……わたくしがきっちりと見張っておりますので」


「リッちゃん。オレはさ、このハイランドのそんな豊かな自然を大事にしたい。時間に追われることのない、素朴であけっぴろげな人たちが好きなんだ。特に警戒心の薄い男の子たちが大好きなんだ。大好物と言っても良い」


『……』


《さようでゴザイマスか。ここを統治される勇者殿がそう言われるのでゴザイマすれば……》



 残念そうにうつむくリッチに、執事が助け舟を出した。



「しかし勇者様。リッチ様の理念も大変ご立派で御座います。むげに切り捨てるのは忍びないかと」


「つってもなあ」


「では、まずはアンデッド様方のみで完結した、小規模な実験農場を作ってみるというのはいかがでしょうか? 幸い、この古墳は古くから魔物が巣食っていた為、近隣住民は近寄りません。この付近のみを開拓するのであれば、領民の皆様の生活に変化は及ぼさぬかと」


「ふむ。それならまあ良いか」



 執事の提案に、勇者もうなずく。



「そんじゃあリッちゃん。このダンジョンの管理はリッちゃんに任せるわ」


《ホヘヘヘ?! こ、このダンジョンを小生に下さるんでゴザイマスんで?!》


「そんな事は言ってねえ! ここを使えるようにしろって事だ。上の古墳が潰れちゃったから、冒険者育成施設をここにせにゃならん。アンデッド使って実験やるにしても、このまんまじゃ使えねえ。まずは徹底的に掃除! 崩落しそうな所は修復するかいっそ壊せ」


《ハ、ハイ! 小生の修復魔法で直ちに!》


「オレらの客になる貴族出身の冒険者なんざ、牛の糞も踏んだ事ないような坊っちゃんぞろいだからな。まずはチリ一つ残さず徹底的に磨き上げて、それからソレらしく汚せ。ゾンビも臭いから禁止。全部スケルトンかゴーストにしろ」


《かしこまりましてゴザイマス!》


「勇者様、この吹き抜けは残したほうが宜しいのでは? ダンジョンの構造を学ぶ勉強になりますかと」


「そうね。開放感あるし松明使わず明かり取り込めるし。雨はそんなに降らないけど、排水とか考えないといけないな」


《ハイ! 手配いたしますでゴザイマス!》


『もう既にええように使われておるのう、リッチよ……』


「取り分なんかの詳しい金の話は執事さんとやってくれ」


《あ、有難うゴザイマスです勇者殿! おお、そうでゴザイマス執事殿、実は実験農場に関しマシて、小生に良いプランがゴザイマしてですな!》


「ほうほう。お伺い致しましょう」



 テキパキとドラゴンの死体を処理しつつ、執事とリッチが今後のプランを語り合いだした。


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