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魔王『最近ダンジョン経営するのが流行っておるそうなので、ワガハイにどこかお手頃な地下迷宮物件を紹介してくれぬか?』 勇者「帰れ!」 その③



 ☆魔王、ダンジョン制作中☆




「あー、こういう所で飲む紅茶も良いねぇ、執事さん」


「天気が良くて何よりで御座いますな」


「そういや執事さん、法王庁に頼んでるオレのお嫁さん探しの件なんだけどさあ。執事さん何か聞いてない?」


「……」




 ☆




 しばらくの後、魔王とリッチが古墳から出て来た。

 勇者と執事がランチョンマットから立ち上がる。



『フヌハハハハハ! 待たせたな勇者よ! ワガハイ謹製、魔王ダンジョンの完成であるぞ! 数多くのアンデッドと、ワガハイの魔法を使ったトラップも一部仕掛けておる! さあ! 冒険初心者となったつもりで、反対側の入り口から入るがよいぞ!』


「うし! 行ってくるか! そーだ執事さん、タイム測っといて」


「かしこまりました」



 執事が懐から懐中時計を取り出す。


 裏手に回った勇者が、執事たちに向かい大きな声で叫んだ。



「んじゃいくぞぉーー!! よーーい、すたーとーー!!」



 次の瞬間。

 古墳の出入り口が凄まじい炎を噴き上げた。

 噴き出す爆炎に押され、燃え盛る大量のスケルトンの破片が宙を舞う。


 呆気にとられる魔王とリッチに、執事が声をかけた。



「魔王様、リッチ様。ダンジョン出口の正面には立たれない方が宜しいかと。もう少々こちら側へ。そうです。有難う御座います」



 魔王とリッチが脇へと避けたその瞬間。

 真っ白い閃光が二人の横を貫いた。直径数mはある極太の光線が、地平線の彼方へと消えてゆく。


 入り口から出口まで一直線に大穴の開いた魔王ダンジョンを、勇者が悠然と歩いて来た。懐中時計を見ていた執事が顔を上げた。



「勇者様の記録、1分30秒で御座います」


「うし!」


『ダメじゃろ!!!』


「何だよ魔王。オレのダンジョン攻略法に何か文句でもあんのかよ」


『文句しか無いわ!! スタートからゴールまで壁ぶち破って何が攻略じゃ! せっかく頭絞って配置したスケルトンやゴーストも一撃で全部焼却しおって!』


「冒険者が素直に壁伝いに進むなんて固定観念は捨てろ。世の中にはいろんな冒険者が居るんだ。勉強になったろ?」


『初心者に勉強してもらう為のダンジョンじゃちっとろうが!! そんな魔法使える冒険者がこんなクソ田舎まで初心者講習受けに来ると思っておるのか?! おお?! だいたい開けた大穴どうすんじゃコレ!!』


「何だよ魔法禁止なら最初っから言っとけよ魔王ー。報連相がなってねーよ魔王ー。後だしジャンケンじゃんそれじゃー。んじゃ判ったよもー。俺が作る勇者ダンジョンはお前は魔法禁止ね。はーぁ。いこーぜリッちゃん」


《ま、まあまあ魔王殿。小生は修復魔法も心得てゴザイマスれば、壁は直しておきますでゴザイマスので。ホヘヘヘ》



 そう言うと、勇者はリッチを連れてダンジョンに入って行った。



『……執事殿よ。なぜワガハイの方がちょっと悪い風になっておるんじゃ?』


「まあまあ。お気になさらず魔王様。紅茶でも淹れましょう」




 ☆勇者、ダンジョン制作中☆




『うむ。やはり執事殿の淹れた紅茶の方が美味いのう。勇者の奴めは茶葉が多い上に蒸らしが甘いのじゃ。しかもミルクも多かったり少なかったり』


「勇者様はストレート派で御座いますからなあ。……魔王様の飲んだ紅茶、どこに消えているので御座いましょうか」


『骨身に染み入る美味さという奴じゃよ』




 ☆




 しばらくの後、勇者とリッチが古墳から出て来た。

 魔王と執事がランチョンマットから立ち上がる。



「よおぉーし! 勇者ダンジョン完成だぜ! 言っとくが配置したモンスターのコストは、お前の作ったダンジョンと同じだかんな。完全に公平だ。だから冒険者初心者になったつもりで、反対側の入り口から攻略して来い! あ、あと魔法は使うなよ? 約束だかんな?!」


『えーいしつこい。ワガハイは貴様の様なズッこいマネはせんわ』


「ズルじゃねーしー。魔法使うななんてルールなかったしー」


『魔法など使えずとも素人の作ったダンジョンなぞ楽勝よ! 魔王たるワガハイの腕前を見せて進ぜよう!』


「言うじゃねーか、行って来い! 執事さん、タイム測っといてね」


「かしこまりました」



 執事が懐から懐中時計を取り出す。


 裏手に回った魔王が、勇者たちに向かい大きな声で叫んだ。



『ではゆくぞぉーー!! よぉーぅい、すたぁーとぉーー!!』




 ☆




《遅ぅゴザイマスなあ、魔王殿》


「なに、ダンジョン経営はプロでも攻略は素人って事さ。はいウノー!」




 ☆




「旨いねこのチーズ」 


「遊牧民の方々が通りがかって下さって、良う御座いましたな」


《ヤリましたでゴザイマスぞ勇者殿! 小生のバッタが2mラインを超えた大跳躍でゴザイマスぞ!》


「マジ?! レコード更新じゃんリッちゃん! さっき向こうにデカいバッタ居たのになー!」




 ☆



 日が緩やかに傾いた頃。

 勇者ダンジョンの出口から、魔王がヨタヨタと現れた。



『し、執事殿。タイムは?』


「3時間52分20秒で御座います」


「おっせーな魔王」


『……まずワガハイの姿に突っ込まぬか勇者よ!!』



 魔王が角を振りかざして咆える。

 そこに居たのはスケルトンではなく、半人半牛の巨人だった。



「骨どうした?」


『死んだわ! 三度も死んだわ! テレポーターの先が溶岩池とか落とし穴の下が硫酸池とかあんな即死トラップ何を考えて配置した?! 初心者用だと言っておろうが!!』


「やー仕掛けた甲斐があった。念のために奇跡のメダルを千枚ばかし持って来ててさあ、メダルの妖精ちゃんから色んなトラップ買っちゃった。千枚全部使って」


『モンスター以外のコストが高すぎる!! ダンジョン経営だと言っとろうが! そんなんでどうやって儲けを出すつもりじゃ! そもそも受講生を殺してどうする!!』


「すまんすまん。トラップコンボ考えるの楽しくなっちゃって。なあリッちゃん」


《テレポーターからの溶岩池は小生の自信作でゴザイマス! 魔王殿がしっかりハマって下さると、嬉しいモノでゴザイマスなあ》


「わかるぅー↑♪ ダンジョン作るの割と楽しいね。これハマるわ」


『……』


「それより魔王様。そのアヴァターはどこで手に入れられましたので?」


『……やっと聞いてくれたか執事殿。実はこの古墳の地下には知られざる広大な迷宮が広がっておってな。深遠なる因果律の収束により、偶然にもその迷宮の中で力尽きておったミノタウロスに転生したのじゃ』


「マジかよ。古墳の下にそんなもんがあったのか」


『うむ。方位魔法で座標自体はこの古墳から移っておらぬと知ったのでな。迷宮最下層から何重もの封印を解き、ボスモンスターどもを下から上に逆巻きに倒し、命からがら脱出して来たという訳よ。古墳中央の玄室にある石棺が、地下迷宮の出口となっておっての。まったくとんだ大冒険であったわ!』



 ミノタウロスが鼻息荒く体に付いた埃をはたく。



「えー? うらやましー。せっかくだからお前の見つけたダンジョンに潜ろうぜー」


『何をしに来たのか忘れておるじゃろ。そもそもおぬしのダンジョン攻略もダンジョン作成も、まったく参考にならぬではないか! 特に作成の方じゃ。リッっちゃん、貴様が付いておりながら、あのデストラップまみれの死にゲーダンジョンはどういう事じゃ! あんなもの初心者にはお出しできぬわ!』


《むむ。お言葉ながら魔王殿》



 リッチがクイクイとメガネを上げながら魔王に反論する。



《確かにトラップの内容は悪ノリし過ぎでゴザイマしたが、トラップ起動の為の感圧版やロープは、か~な~り判り易く配置してゴザイマスですぞ?》


『え? そ、そう?』


《思うに魔王殿は死ぬコトに慣れ過ぎて、イササカ慎重さが欠けていると、小生は愚考するのでゴザイマス》


「あーあるある。こいつ無頓着」


《それに魔王殿がお造りになったダンジョンも、トラップとモンスターしか無いと知るからコソ、勇者殿はダンジョン内の障害物を駆除されたのでゴザイマス。内部に人質や可燃性のオタカラでもあれば、勇者殿も慎重になったコトでゴザイマしょうぞ》


『な、なるほど……』


「うん。リッちゃんの方が講師に向いてるんじゃねえの?」


《ホヘヘヘ。照れ臭うゴザイマスな。勇者殿がサキホド申し上げたものとは少々方向性が違うのでゴザイマスが、固定観念を払ってまずは安全第一となる事コソ、冒険初心者に必要な事かと思うのでゴザイマス》


『ふむ。流行り物だからとワガハイ甘く見ていたのやも知れぬ。奥が深いのう、ダンジョン経営――っむむ?!』



 衝撃が大地を揺らした。

 野鳥が草原から一斉に飛び立つ。


 一同が振り返ると、古墳が中央へと大きく崩落していた。

 土煙が青空へと舞い上がり、開いた穴から瘴気があふれ出す。



《ヨクゾ――。ヨクゾ、我の封印を解いてクレタ! 感謝スルゾ――魔王!!》



 空がにわかにかき曇ってゆく。

 コウモリの群れが暗雲に踊る。


 そして、黒い巨人が穴の底からはい出して来た。

 それは、輝く甲冑に身を包んだ巨大なスケルトンだった。



《ヨモヤ――。貴様が我が封印を解くトハナ。運命トハ皮肉なモノダ!》


「スケルトンが減ったと思ったらまた増えた」


「骨量保存の法則ですな」


「つか誰? 魔王の知り合い?」


『ワガハイも知らん。どなたじゃな?』



 骨の巨人が静かに答えた。



《我は、勇者。幾千年モノ昔、貴様を封印セシメタ勇者ヨ! 我は魔王を倒し、世界を救っタ。我は世界の救世主とナッタ。ダガ、我の栄誉をウラヤム凡人ドモニ、裏切られタノダ!! 狡兎死しテ走狗煮らル 。我は命を賭して戦った! ソレガ、この仕打ちヨ!! オノレ! オノレ! 今コソこの世界に、復讐してクレル!!》


『フヌハハハ! 勇者よ、おぬしの末路を見ているようじゃのう』


「うるせー」


《?! その腰の聖剣! ソコに居るのは、今の時代の勇者カ!》


「ええ。まあ。チッス」


《ナントイウ運命の巡り合わせ。聞くガヨイ、今の勇者ヨ。我が戦ったのモ、全ては世界平和のタメ。そう思えばコソ、魔王からの懐柔の申し出も断った。世界の半分をくれてヤロウという提案を、我はしりぞけたノダ。半分をクレルという提案を蹴ったのダカラ、セメテ四分の一は我の物でもよいハズダ! ダカラ我は世界の王ドモに税収の二割五分を我に捧げるヨウに命ジタ。ソレに、我は最強の戦士であった。ダカラこそ、我が血を広く残さねばナラヌ。ダカラ我は世界の王ドモに娘や妻をミナ差し出すヨウに命ジタ。我の行いは神の意思。ダカラ我は世界の王ドモに、我に歯向かう不信心者ドモを根絶やしにするヨウに命ジタ。ダトイウノニ! 誰もが我に逆ライ――》


「話が長げーなもーー!!」


《ゴアアァァーーッ!!》



 勇者が投げた聖剣が、骨の巨人の首をはねた。

 聖剣がブーメランのように勇者の手に戻る。



「つーか十割自業自得じゃねえか。魔王かテメー」


『ワガハイでもこ奴ほど酷くないと思う』


「でもまあ、コイツの末路は教訓でもあるなぁ……」



 骨の巨人がぼろぼろと灰になり、空が見る間に晴れてゆく。

 雲間から差した光が、一行を照らした。


 勇者が眩しげに空を仰ぐ。



「こいつほどじゃあ無いけれど、俺にだって勇者だから誉めて欲しいって気持ちは、確かに有る。ヒヨッコ冒険者を集めて、現役時代の自慢話をしたいとか、サイン求められたらどうしようとか、そういう不純な気持ちは確かに有ったよ……」


『勇者……』


「それの歯止めが効かなくなった末路が、コレなんだな。多分コイツは、孤独だったんだ。世界の全てを望みながら、心から大事に思える人が、一人も居なかったんだ。オレは気付いたよ、魔王。勇者は勇者としての使命を全うするだけ。世間からの称賛も、ハーレムなんかも、そんな事を望むこと自体が不純なんだよ。聖剣の勇者でさえも、多くを求め過ぎれば堕落する」


『そうなのかも、知れぬなあ』


「オレは喝采も称賛もハーレムも要らない。ただ一人、オレを愛してくれる人が居れくれれば、ただそれだけで良い。一生を添い遂げてくれる人が一人居れば、それで良いんだ……」


『……具体的には?』


「ボーイッシュで、甘えん坊さんの、一桁の、男の子かな……」



 勇者がはにかんだように笑う。

 ミノタウロスが、静かにうなずいた。



『勇者よ……』


「なんだ?」


『一桁のままで一生添い遂げるの、無理じゃね?』



 愕然とした表情で、勇者が膝をついた。

 そして、はらはらと落涙した。



「これが……これが、勇者の孤独……っ!!」


『心の病気じゃろ』




 その後。勇者の経営する冒険者育成ダンジョンは、リッチの懇切丁寧な指導が評判となり、そこそこ繁盛したという。




[終わり]

せっかく連載版にしましたので、最初くらいは連続更新を。

今日だけですが。


もうストックは無いので、次回以降は不定期更新でゴザイマス。

ではまた次回。

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