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第08話

みなさん初めまして。岩崎和美です。


私の家は曾お爺様が第二次世界大戦で活躍したため、男爵の家と言われており、いつも尊敬されています。それは別にいいんだよ。


でも、問題なのは私だけ別に扱われること。


それは幼稚園に通っているときから変わらないことだ。


授業中、他の生徒はあてられるのに私だけは当てられない。


たまに当てられ、読み間違えたとしても何にも言われない。


クラス替えの際、真っ先に私のところに校長先生がやってきて、どこのクラスが良いのか聞いてくる。学校には送迎車で毎日行く。


体育の授業も怪我した時が困るからという理由で参加できない。


挨拶だけはするけど、込み入った話をする友達はいない。いや、そもそも友達すらいない。


みんなは給食なのに私だけ家で作ったお弁当。


そんな生活が嫌になってきた。


なんで、こんな家に生まれてきたんだろう。普通の生活がしたかったな。


何度もそう思ったが、何時しか諦めていた。


そして、今後もそんな生活が続くものだと思っていた。


でも、そんな生活が変わろうとするなんて私は思いもしなかった。


「初めまして。名古屋市立藤森小学校からやってきました滝村玲子です。よろしくお願いします」


4年生に進級したと同時かな。私は編入生と同じクラスになった。名古屋から與川に引っ越しか。この町の事情は知らないけど、知ったら対応しちゃうんだろうな。きっと。


最初はそう思っていた。


でも、玲子ちゃんは違った。


「ねぇ、和美ちゃんの家ってお金持ちなんでしょ?夕飯はフランス料理とか?」


「家に帰ったらいつも何やっているの?習い事?」


「お兄さんとかいるの?」


周りが止めようとしているのにもかかわらずどんどん話をしてくる。正直、戸惑いがあった。今までにないことだったから。


鬱陶しいなと思う時はある。だけど、玲子ちゃんは私のところにやってきた。


私生活の話しだけじゃない。授業中、教科書の読み間違えがあったとき、玲子ちゃんは違うと言ってきた。


体育の授業に参加できないのはおかしいんじゃないのかって先生に問い詰めていた。


今まで当たり前だと思っていたことが変わろうとしている。玲子ちゃんの動きにつられるようにして、周りのクラスメイトも話しかけてきた。


学校ってこんなに楽しいところなんだな。


初めてそんな感情を持てるようになったのは玲子ちゃんのおかけだと思う。


そんなある日の放課後。玲子ちゃんが話しかけてきた。


「ねぇ、今日の夕飯、お好み焼きなんだけど、和美ちゃんも食べに来ない?」


夕飯のお誘い?


「そうだよ。もちろん、和美ちゃんのお父さんとかが許したらだけど」


許してはくれないと思うけど、とりあえず聞いてみるよ。


「ありがとう」


誰かの家に行ってご飯をご馳走になった。そんな話を聞いたけど、私は誘われていない。何度もそんなことがあった。だから、玲子ちゃんから誘われた時、私はうれしかった。


「じゃあ、帰ろうか」


私は相槌を打つと玲子ちゃんと一緒に教室を出た。


正門には出迎えの車が待っている。それは分かっているのに、玲子ちゃんは正門まで一緒についてくる。


「和美お嬢様、お待ちしておりました」


執事の牧野が出迎えにやってきた。


「和美ちゃんじゃあね。ダメだったら電話頂戴ね」


分かったよ。


そう言いながら返事をすると私は出迎えの車に乗り込んだ。


「和美お嬢様、何かいいことでもあったんですか?」


今日、夕飯を食べに来ないかって言われたんだ。


私はそう言うと、執事の牧野がにこやかな笑顔で答えた。


「さようでございますか。和美お嬢様が食事に誘われるのは初めてではないでしょうか?」


そうだよ。初めて誘われたよ。でも、お父さん許してくれるかな。


「それは分かりません。正哉様はうるさいお方ですので反対するかもしれませんね」


やっぱり断るべきだったのかな。


「和美お嬢様。だろう判断をよくありませんよ」


だろう・・・判断?


「もしかしたらこう思っているんじゃないだろうか?こんな性格だからこうなんじゃないだろうか?それは自分が思っているだけのこと。相手がどう思っているのかは直接聞かないとだめなんです。ちゃんと、伝えたほうがいいですよ」


分かった。家に帰ったら聞いてみる。


家に帰った私はお父さんに食事のことを聞いてみた。そしたら案の定の回答が帰ってきた。


「平民の家にいって食事をするなんて言語道断!」


「お好み焼き?男爵様の孫娘がやって来るのに、そんな低俗料理でおもてなしをするとはどんな了見だ」


次々と相手を見下すような発言をする。


来年の11月にこの町の市長選挙が行われる。お父さんはそれに出るつもりでいるみたいだけど、こんな性格の持ち主が市長になっちゃだめ。


「ただ今戻ったぞ。何事だ?騒々しい」


近くの中学校に通う和哉兄さんが帰ってきた。


「ああ、和哉か。お帰り。何、和美が平民の家で夕飯をしたいって言い出したからな」


お父さんがそう言うと和哉兄さんが一蹴した。


「当たり前だ。分をわきまえろ。うちは男爵の家だ。平民と一緒の学校に通っているだけでも異質なんだぞ。ましてや夕飯を平民の家で食べるなんて恥知らずも良いところだ」


ああ、やっぱり親子は遺伝するんだな。


分かった。行かないよ。


「お前には罰として今日の夕飯は家で食べてもらう」


家で?どういうこと?


「これから私と和哉は会食でな。本当は和美も連れて行く予定だったが、戯けなことを抜かした罰だ」


どうせ、私を連れていく予定なんかなかったくせに。のど元まで出そうになったが私は我慢した。


分かりました。お父様。


「牧野、後は任せた。それでお父様、今日はどちらの方と会食でしょうか?」


「衆議院議員の市川優代議士だ。思い人のご両親だよ」


お父様はそう言うと和哉兄さんが怪しい表情をした。


はぁ~。いつになったら友達の家でご飯が食べられるんだろうな。そう思っていると、牧野が電話を持ってきた。


「和美お嬢様、御断りの電話をしたほうがいいのではないでしょうか?」


そうだね。


私は玲子ちゃんの家に電話した。


「はい!滝村です」


玲子ちゃん?和美です。


そう言うと、玲子ちゃんが何かを察したみたい。


「ダメだったの?」


うん。ごめんね。


「気にしないから。また誘うよ」


ありがとう。じゃあ、また明日。


短いやり取りだったが、電話を切ると牧野が口にした。


「和美お嬢様、次の機会ということにしましょう」


はーい。


「それでは夕飯の準備をしますのでお部屋でお待ちください」


なんでこんな家に生まれたんだろうな。私は。


第08話 終了



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