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第07話

「みんなおはよう。この間は風邪をひいてごめんな」


国史担当の山口先生がそう言いながら教室に入ってきた。国史の授業は1週間ぶり。寒暖差が激しいから風邪をひきやすいんだよな。


「今日は平成史のスポーツ分野について勉強するぞ。じゃあ、教科書を開いてくれ」


そう言われたため該当のページを開くと、日本人初となるメジャーリーガーの写真が映し出された。章のタイトルは世界で活躍する日本人スポーツ選手と記載されている。


「スポーツに興味がない人でもイチローの名前は知っているだろ?日本人として初めてメジャーでプレーした選手だ。中学校卒業時、イチローは身体ができていなかったため、どこのチームもドラフトで指名しなかった。普通の人だったらここで諦める。だけど、イチローは違った。アメリカに渡り、入団テストをしたいと言ったんだ。両親は反対した。でも、やりたいっていう本人の意思は固く、最後は両親も納得し、渡米を許可。そして、受けたところが、今所属しているチームだ」


えっ、山口先生・・・何だか熱く語ってない?


「向こうは行動した人が評価される風潮がある。海の向こうからやってきた日本人がテストを受けさせてくれって直談判した。最初はフロントも乗り気じゃなかったけど、軽い気持ちでやらせてみたら結構よかったわけだ。こいつはものになるかもしれないぞ。そう思ったGMがもう一度明日来てくれって伝えたわけだ。そして、次の日、再度テストをやらせると快音連発。たまたま、テストを見に来ていたエドガー・マルチネスが絶賛したこともあり、入団することになったわけだ」


「・・・先生、そのエピソード、教科書には書いてないんですけど」


佐川があきれた表情になりながらつぶやいた。


「もちろん。これは俺が調べたことだ。イチローのことに関してはまかしておけ。何度も、キングドームに行ったことあるし、セーフコ・フィールドにも行った。95年のワールドチャンピオンシップシリーズ、97年のディビジョンシリーズ、リーグチャンピオンシップシリーズを見に行っているから」


ガチだ。本物のマリナーズファンだ。えっ?全部、秋だよな?授業はどうしたんだ!?


「指名打者、エドガー・マルチネス。ショート、アレックス・ロドリゲス。センター、ケン・グリフィー・ジュニア。ライト、イチロー。ピッチャーはランディ・ジョンソン。この顔ぶれは半端じゃなく凄いぞ!特にグリフィーとイチローの右中間は抜くことができないって言われたからな。95年、97年にワールドチャンピオン。去年はリーグチャンピオンシップで負けたけど、今年こそは4年ぶりにワールドチャンピオンを奪還するぞ!」


「先生、イチローのレプリカ持っているんですか?」


野球部の佐野が訊いている。


「もちろん持っているぞ。イチローだけじゃない。エドガー・マルチネス。アレックス・ロドリゲス。ケン・グリフィー・ジュニア。ランディ・ジョンソン。みんな持っているからな」


す・・・すごっ。


「えっ?山口先生、プロ野球は見ないんですか?」


「日本のプロ野球はあんまり見ないかな。昔後楽園に行ったけど、面白いとは思わなかったな。だけどメジャーは違う。毎年のようにいろいろな選手が出てくるからね。今から11年前かな?日米野球が行われて、その時の試合を見に行ったんだよ。日本がトータルだと勝ち越したかな。でも、見に行った第8戦は忘れられないな」


何があったんですか?


「チャック・フィンリー、ランディ・ジョンソンの継投によるノーヒット・ノーランだよ」


「うそっ!先生、あの試合見たんですか!?」


佐野が興奮している。


「当時は與川市教育委員会に配属されていて、教壇には立っていなかったんだ。16時になったら仕事終わり。直でドームまで行った覚えがあるよ。そしたら、継投でのノーヒット・ノーランだろ。それからかな。マリナーズを応援しだしたのは。もともとはランディを応援していただけなんだけどね」


最初はそんなものです。


「先生、なんか思い入れのあるエピソードとかあるんですか?」


「思い入れはたくさんあるけど、イチローとランディのやり取りで忘れられないのがあるな。あれは1997年のディビジョンシリーズかな。第4戦目、マリナーズは1-3で負けていた。残す攻撃は9回の表のみ。マウンド上にはリーグ最多の45セーブを記録したランディ・マイヤーズ。誰もが負けだと思った。でも、マリナーズは粘った。2アウト、1塁、3塁でバッターはイチロー。この時、イチローはランディにこういったんだよ。”お前を負け投手にはさせないって”」


へぇ~、そんなこと言ったんですね。


「今でもシアトルでは語り継がれる伝説だよ。そして、イチローは逆転3ランホームランを打ち、チームはその試合に勝利。第5戦、ホームのキングドームに戻りオリオールズを下しリーグ優勝。そして、ワールドシリーズを制覇した。そりゃ、教科書にも載るよ。生きる伝説だから」


その試合なんですか?見に行ったのは。


「第5戦だね。見に行ったのは」


なるほど。教育委員会に配属されていたから秋に有休をつかえたのかな?


「うん?滝村どうした」


えっ?教育委員会に配属されていたから、ワールドシリーズとか見に行けたのかなって。


「ああ。95年から3年間、ニューヨークにある日本人学校に派遣されていたんだ。だから、マリナーズの試合を見に行くことができたんだよ。98年に帰国しここに配属されてからは夏休みの時にしか行ってないから」


そう言うからくりがあったんですね。てっきり、授業を放り投げてアメリカに行っているのかと思いました。


「なわけあるか!いくらマリナーズファンでもそこまではやらん。じゃあ、教科書に戻るぞ。滝村、読め」


俺かい・・・。


昭和の中ごろから日本を飛び出し世界で活躍するサッカー選手は存在していましたが、数える程度であり、一般的とは言えない状態でした。ですが、平成に入ると日本を飛び出して世界で活躍するスポーツ選手は増加。写真に写っているイチロー選手はその代名詞ですが、バスケットボール、ゴルフ、バレーボール、ラクビーといったスポーツで活躍していた日本人選手が海外のリーグでプレーし、結果を残すようになりました。今後も世界で活躍するスポーツ選手が増えるのは間違いないと思われます。ワールドワイドという言葉があるように、これからは世界を意識しなければならない時代に突入したと言えるでしょう。


「ありがとう。サッカーは1960年にJリーグが発足し、釜本や杉山、奥寺、風間、カズといった選手が日本を飛び出し、世界でプレーしていたから馴染みはあったみたいだが、そのほかのスポーツに関しては皆無に等しかった。タイミングとしてはイチローのメジャー昇格が大きく報道された後かな?」


「先生、スポーツ選手で爵位をもらった人っているんですか?」


ああ、それは気になるな。


「今のところはいないな。オリンピックで金メダルを取った選手はいるけど、爵位を授かったって報道はなかったはず。スポーツ選手は引退後もコーチや監督をやるケースがあるから、爵授しないのが一般的かもしれない。監督やコーチが男爵だったらやりにくいだろ」


まぁ、そうかもしれない。


「サッカーと言ったら、来年、南アフリカ(※1)でワールドカップが行われるよな。誰か観に行くやつはいるのか?」


6月ですよね?行かないですって。


「まぁ、そうだよな。先生はワールドカップ、生で見たことあるからな」


もしかして、日本大会ですか!?


「そうだよ。1986年に行われた日本大会(※2)。あの時は国中が盛り上がったな。サムライブルーは結果を出してベスト8。当時の監督はユーゴスラビア出身の監督でね。数多くのビブスを使い、複雑な制限を化すメニューが話題になったな。さっきも話したけど、1960年にJリーグが発足した当初、50年後のW杯優勝を目標に設定したんだ」


50年後って2010年ですか。


「あと9年後だよな。夢物語だって言う人がいるけど、来年の南アフリカ大会、サムライブルーがベスト4入りを果たしたらあり得るかもしれない」


日本がワールドカップで優勝する。その時はいつなんだろうな。


その後も授業はサブカルチャーの話題に終始し、いつの間にか授業終了のチャイムが鳴った。


※1 史実だと日韓大会になっているが、86年に日本でワールドカップを開催したこともあり、2002年はアフリカ開催という流れになった。


※2 史実でも86年に日本でワールドカップを開催しようという話はあったが、いろいろな事情により断念。コロンビアで開催することになったが、国内情勢が不安定になってしまい開催権を返上。メキシコで代替開催された。この世界では日本で開催されたため、アジアで初めてとなるワールドカップ開催国となった。


第07話 終了


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