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第06話

世の中には目に見えない空気というのがある。


これは自然の摂理のことを指しているわけではない。人々の思いが形成され、自然と確立されてしまったことを指す。


この町は岩崎家という男爵家を頂点に君臨し、その他大勢は岩崎家を崇めている。そんな構図になっているが、その一方、見えない岩崎家の力に怯えている人もいる。


俺は来たばかりだから分からないけど、佐川は結構過敏なんだよな。


岡本とかはどう思っているのかな?岩崎家のこと。


そう思いながらニュースを見ていたため、内容が全く頭に入って来ない。一応、政治、経済、外交、スポーツ、芸能界についてニュースが飛び交っていたけど、興味を持つようなものはなかったな。


「早く学校へ行きなさい」


母さんがそう言ってきたため、俺は時計を見た。


8時過ぎている。早く行かないと。


「今日の夕飯は外食だからね。寿司食べに行くよ」


分かったよ。何時ごろに行くの?


「遅くても18時には出るから。帰って来なかったらおいて行くよ」


大丈夫。仮入部に行ったとしてもそんなには遅くならないと思うから。


そう言い残すと、俺は学校に向かった。


そうだ。早めに部活を決めないと。


いろいろなところへ行ったけど、どこもしっくりこなかったな。あと行っていないのはどこだったっけ?文化部と剣道部かな。


そう言えば、剣道部には行っていないな。


今日、行ってみようかな。


脳内で放課後に行われる仮入部のことをシュミレーションしていると、どこからか声がした。


「あんたたちには関係ないことでしょ!」


甲高い声が響いたため、その方向を見ると、女子生徒が複数の男子生徒に囲まれていた。


「岩崎様から交際の申し込みをされたのに断ったのはどこの誰だ?」


「平民風情が言える立場かよ」


「それは私の問題。大体、なんであんたたち、サッカー部の連中がしゃしゃり出てくるの?」


取り囲んでいるのサッカー部の部員か。うーん、ここのサッカー部、素行が悪いって言われているんだよな。


「部長が訊いて来いって言うから話しかけたんだよ」


なんだこれ・・・面倒なところを見てしまったな。そう思っていると、取り囲んでいる男子生徒の一人がこっちを見た。


「おい!そこの小僧。何見ているんだよ」


やばっ、絡まれた。まっ、仕方がない。話してみるか。


一人の女子生徒に対して、複数人で取り囲むのは心象が悪いと思うのでやめた方がいいと思いますよ。


「あっ!お前には関係のないことだろ」


確かに関係のないことだと思います。ですが、そちらの方が不愉快な表情をしています。なので、止めた方がいいのかも。


そう言うと、一人が俺のところに詰め寄ってきた。


「調子に乗るんじゃないぞ貴様!」


はぁ、仕方がない。あんまり使いたくなかったが、この技を使うか。


1年3組の担任。誰だか知っていますか?


「1年3組?それがどうかしたんだ?」


みなさんサッカー部の部員なんですよね?まさか、1年3組の担任が誰なのか。知らないってことはないですよね?


俺がそう言うと、取り囲んでいた部員たちの表情が曇りだした。


今日、数学の授業がありますので、止めないとこのことを先生に話します。そしたら、どうなるんでしょね。先輩。


「せんこーにチクるつもりか。貴様」


取り囲む行為をやめていただければ話すようなことはしません。約束はします。


「ふざけるなよ!」


もう一度言います。先輩たちがやっているその行為はダメです!今すぐ止めてください!一人の女子生徒を複数人で取り囲むなんて、男子の名折れ。帝国臣民失格だ!


歳の差なんか関係ない。悪いことをやっていたら悪いことだという。これは必要なことなんだ。


しばらく静寂が流れると、男子生徒たちが俺のところにやってくると名札を見た。


「滝村・・・覚えておけよ」


そうつぶやくと、男子生徒の集団は学校の方へ向かった。


ふぅー、何とかなった。


「ありがとう。助けてくれて」


取り囲まれていた女子生徒が俺に声をかけてきた。


怪我とかはありませんか?


「何とかね。えっと・・・滝村くんでいいのかな?」


はい。滝村一樹です。


「私は市川舞衣。滝村くん、ありがとう」


どういたしまして。


市川先輩の名札は黄色。ということは4年生かな。俺よりも身長が高く、黒髪で髪型はポニーテール。バロンに興味を持たれているとか何とか言っていたけど、何となくわかる気がする。


「どうしたの?人のことを見て」


すいません。ちょっと見とれて。


そう言うと、市川先輩は眉間にしわを寄せた。


「助けられたと思ったら変態学生だったとは」


えっ!変態学生!?


「変なこと考えてないよね?」


しません。しません。


「ふふふ、冗談だよ」


冗談・・・なんだか、掌で踊らされた気分。


「あっ、早く行かないと学校、遅刻するよ」


こうしちゃおれん。早く行かないと。


俺と市川先輩は急いで学校に向かった。市川先輩は4年生だったため、俺が使っている昇降口とは違うところを使うみたい。


「滝村くん、本当にありがとう」


市川先輩、多分またからんでくると思うので、その時はしゃべってもいいと思いますよ。


「サッカー部の顧問に言いつけてやるよ」


そう言うと、市川先輩は昇降口へ向かった。


さっ、俺も教室へ行かないと。



「滝村、今日の仮入部、剣道部に行かない?」


給食を食べ終え、一息ついているとそばかすが特徴的な岡本が話しかけてきた。


剣道部か。


「嫌ならば断わってもいいよ」


いや、俺も同じことを思っていたんだよ。今日の仮入部は剣道部に行こうって。だから断ることはしません。


「じゃあ、決まりだね」


そして放課後、俺は岡本と一緒に剣道部へと向かった。他にもクラスメイトの浅倉、大野、安田も一緒だ。


「失礼します。仮入部にやってきました」


岡本がそう言うと、剣道着を着ている先輩がやってきた。


「ようこそ!剣道部へ。副部長の中井です。さっ、中へどうぞ」


中井先輩に促されたため、中へ入ると今朝話をした市川先輩と遭遇した。


「あれ?滝村くんじゃない」


市川先輩、剣道部だったんですか?


「えっ?滝村知り合い?」


岡本が耳打ちをしてきたため、今日の朝知り合ったと俺は答えた。


「市川、知り合いなのか?1年生と」


「さっき朝の出来事を話したじゃないですか?その時、助けてもらった後輩です」


えっ?市川先輩、朝の出来事を話したの?


そう思っていると、市川先輩と話をしていた先輩がやってきた。


「剣道部部長の近藤だ。君のことは市川から聞いたよ。ありがとう。サッカー部からの嫌がらせは最近始まったばかりだから困っていたところなんだよ」


どういたしまして。


「君とは長い付き合いになりそうだな」


ゴリラみたいな顔をしてる近藤先輩はそう言うと、市川先輩がパンパンと手を叩いた。


「部長、人も集まったことですし」


「おう!そうだな。じゃあ始めるか」


近藤先輩はそう言うと剣道について説明をしだした。


竹刀とか初めて使ったな。


教わった作法を元に素振りをしていると、眠そうな表情をしている鈴村という先輩が声をかけてきた。


「お前、足腰のバランスが良いな。なんかスポーツとかやっていたのか?」


ついこの間までサッカーをやっていました。


「ほう。サッカーをやっていたのか」


そう言うとなんだか不敵な笑みを浮かべた。えっ?どうしたんだろう。


仮入部は1時間程度で終わる。あっという間だ。


「じゃあ、今日の仮入部はここまで。みんな、自分のやりたいところに入るんだぞ」


そう言うと、俺は外履きに履き替えて出ようとした。


「滝村くん」


この声は市川先輩だ。俺は振り返ると、市川先輩が近づいてきた。


「先輩たち、滝村くんのことを褒めていたよ。逸材だって」


まだ入部するとは決めていませんが。


「もちろんそうだよ。でも、滝村くんならば間違いなくやれるから」


そう言うと市川先輩が戻って行った。


ふーん、逸材か。


そう思っていると、肩をちょんちょんと叩かれた。


「滝村。あの先輩のことまだ聞いていないんだけど」


岡本だけではない。同じクラスメイトの浅倉、大野、安田も胡乱な表情をしている。


とりあえず・・・逃げろ!


「あっ!まて!」


ここで摑まったら寿司が逃げる!


無理、無理。もう、俺は帰るんだ!


結局、摑まってしまい、18時までに帰ることはできなかったため、寿司を食べに行くことはかなわなかったとさ。アーメン。


第06話 終了


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