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第03話

「今日の授業はここまで。しっかり復習しておけよ」


世間は週休二日制なのになんで学生は土曜日も学校なんだよ。そう思ってしまう。でも、今日行けば明日は日曜日。ゆっくり休める。


「滝村、何のぼせているの?次行くよ」


佐川が教科書を抱えながら、そう言ってきた。そうか。次は移動しなければならないのか。


待ってくれ。今行くよ。


「滝村ついて行けているの?時折上の空だったけど?」


ついて行くのがやっとだよ。


「分からないところがあったら聞いてね。教えるから」


国史、地理以外は全部わからん。


「嘘だろ」


冗談だよ。


そう言うと、佐川が膨れた表情をした。


「今度そんなことをしたら教えないから」


はいはい。


「はいは一回!」


おかしい。世間の女性は低く扱われているとか言われているけど、それは本当なのか?このクラスにいる女子の大半が全然違うぞ。嘘も良いところだ。


「それで、入部する部活は決めた?」


部活って入らないとだめなのか?


「そりゃ、もちろん」


まだ決めてないよ。


「でも、いろいろなところに仮入部に行っているんでしょ?」


テニス、バレーボール、野球。とりあえず、行ってみたけど、どこもフィットしないんだよな。


「えっ、野球部に行ったの?」


行ったけど、全くダメだった。


「じゃあ、今日はサッカーだね」


ここのサッカー部ってどうなんだろう。


「今日行ってみれば?」


あんまり気乗りしないけど行ってみるか。


「もともと向こうでもやっていたんだし、環境に馴染めばすぐ没頭するよ」


佐川はどうするの?


「私はソフトボール部に入るよ」


ソフトボール?


「そう。そして、7年後、オリンピックに出て金メダルを取るのが夢なんだ」


でけぇ夢。


「シドニーで銀メダルだよ。あと一歩で金だったのに。あれは悔しかったな。それがあるから、ソフトボールのプロリーグができたんだよね」


確か、今年からプロリーグが始まったんだよね。何チームあるんだっけ?8?


「そう。埼玉にホームチームがあるから今度行こうか。県営大宮球場で試合やっているし」


えっ、俺も行くの?


「どうせ暇でしょ」


どうせって・・・。それで、いつ行くの?


「日程見たら。本格的に部活が始まるのは5月1日からだから、部活が始まる前までには行きたいな」


ほーい。


俺がそう返事をすると、佐川が立ち止まり端っこに避けた。


「何やっているの?早く退く」


そう言われたため、俺は壁際に退いた。


うわ、いかにも俺様って感じのオーラが出ているな。取り巻きみたいなのを引き連れていて、我が物顔で歩いているよ。


俺たちの横を通り過ぎたのかな。一安心した時だった。突然、背後から声がした。


「そこの君」


多分俺かな。


えっと・・・お呼びでしょうか?


俺は通り過ぎた俺様キャラの人に声をかけられてしまった。


「見かけない顔だな。1年生か?」


今年、入学したばかりです。


「ふーん。名前は?」


滝村一樹です。


「滝村か・・・ということは俺の名前は知らないってわけだな」


そうですねって言おうとした時だった。佐川が小声で岩崎和哉って。言ってきた。


えっと・・・岩崎和哉先輩でお間違えないでしょうか?


「なんだ。知っているんじゃないか」


岩崎・・・。ああ、男爵の孫ね。


バロン岩崎と一緒の中学校に通えて光栄です。


「そんな言葉を言われるとは思いもしなかったよ。お前、なかなかやるな」


ありがとうございます。


「入学したばかりだ。分からないことがあったら声をかけてくれよ。俺は歓迎するから」


そう言うと、自分の教室へと向かって行った。


あれが岩崎和哉・・・。そう言えば、山口先生、授業の時もごもごしたところがあったな。もしかして、有名人なのかな?悪い意味で。


「何が一緒の中学校に通えて光栄ですだ。名前も知らなかったくせに」


ありがとうな佐川。助け舟を出してもらって。


「この町じゃ有名人だよ。山口先生の話覚えている?」


ああ、授業の時男爵について話をしていたな。


俺はそう言うと、佐川に腕を掴まれ、人気のない所へ連れて行かれた。


えっ、どうしたんだよ。


そして、たどり着いた場所は・・・女子トイレだった。


「ここならば大丈夫」


えっ!この中に入るのかよ!


「私がいるんだ。問題はない」


えええ、そう言うもの?


「そう言うもの!」


マジかよ・・・。


一緒に女子トイレに入ると、佐川は個室に誰もいないことを確認した。


「誰もいないな・・・滝村、岩崎の人間に関わらないほうが良いから」


どういうこと?


「祖父が男爵議員だったこともあり、親父さんや息子さんは図に乗っているところがあるんだ。見たでしょ?あの態度」


そりゃ、そうとうだな。父親は何をやっているんだ?


「教育委員会の委員長」


まじで!?教員なの?


「いや、役所の人間だよ。祖父のコネで入ったみたい」


俺はとんでもないところに引っ越ししてきたな。


「父親はいずれ襲爵(しゅうしゃく)する。そのためお爺様は親父さんに箔を付けたいと思っているみたいなんだ」


それが教育委員会の委員長?


「そんなもんじゃない」


おいおい。まさか市長とか言うんじゃないだろうな・・・。


そう言うと、佐川が頷いた。


まじかよ。


「次の市長選挙は来年の11月。しかも、来年の7月には伯子男爵議員選挙も行われる」


重なるな。


「いい、ここはそう言うところなの?名古屋みたいな都会じゃないから」


中途半端な田舎ってわけか。


「大丈夫。岩崎和哉は4年生。あと2年の辛抱。そうすれば卒業するから」


面倒なことにならなければいいけど。


そうつぶやいた時だった。授業開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。


「やばっ!遅刻だ!」


余裕を持って教室を出たはずなのに、なんでこうなるんだよ。



「一樹、お帰り」


自宅に着くと、親父がリビングで酒を飲んでいた。


あれ?母さんたちは?


「買い物に行ったよ」


俺は洗面台に向かい手洗いうがいを高速で済ませ、自室で部屋着に着替えると、リビングに戻った。


「授業はどうだ?」


ついて行くのが精いっぱい。


「小学校とは違ってやることが多いからな。ドイツ語やフランス語とか大丈夫か?」


GutenMorge(グーテン・モルゲン)n.とBonjour(ボンジュール)は覚えた。あとはこれから。


「まぁ、分からなくなったら友達とかに聞くんだな」


同じことを言われたよ。


「ほう。早くも友達ができたのか?」


しかも、今度、ソフトボールの試合を見に行こうって誘われた。


「ソフトボール・・・ふっ、さては女だな」


えっ、何でわかった?


「中学でソフトボール部に入れるのは女子だけだろ」


ああ、そういうことね。


「試合、見に行く日になったら教えろよ。お金渡すから」


ありがとう。


「そうだ。一樹が通っている中学校、バロンの孫がいるんだって?」


我が物顔で歩いているね。


「厄介ごとだけは起こすなよ」


分かっている。


「とはいっても俺の息子だから、黙っていられないところがあると思うけどね」


なんだよそれ・・・。


「ただ、遣り合うならばタイミングを間違えるな。俺も中学生の時、村長の息子と遣り合ったことあったから」


だから、お祖父ちゃんの家を継がなかったの?


「継がないわけじゃないよ。いずれは継ぐ」


じゃあ、なんで・・・。


「広い世界が見たかったんだ。広田という小さな田舎だけじゃない。もっと、いろいろなものが見たい。だから、俺は家を飛び出した。小百合や俊夫もそう。みんな、家を飛び出した。いずれは俺もあの家を継がなければならないと思う。でも、まだ時間はある。その時まで、いろいろな世界を見ていたんだ」


なるほどね。


「俺の場合は小さな村の村長だ。ただ、お前の場合は違うからな」


なんか話が遣り合う前提になっているけど、俺は平和主義者。争い事は好きじゃない。誰かと遣り合うつもりはないから。


「そうだな」


そうつぶやくと、母さんたちが帰ってきた。


「あっ、帰ってきたんだ。これから夕飯にするね」


明日は日曜日。ゆっくりしよう。


第03話 終了


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