第28話
「失礼します。お坊ちゃま、頼まれていたもの調べてきました」
牧野はそう言いながら、茶封筒を渡してきたため、俺は中身を確認した。
滝村一樹。生まれは福島だが、幼稚園に上がったタイミングで名古屋に引っ越し、向こうの小学校に入学。向こうでの成績はまぁまぁだったみたい。学歴に関しては平凡だが、スポーツ経歴を見て俺は驚いた。嘘だろ!?名古屋にあるサッカークラブのユースチームに所属!?しかも、6年次の時にはゲームキャプテンを務めていた・・・。
そして、チームをリーグ優勝に導き、家庭内の事情を理由に昇格を辞退。そのままチームを退団。ここの学校に来たってところか。いきなり辞退は気になるな・・・。
牧野、向こうのチームに所属していた時に何かもめ事とかは起こしてなかったのか?
「調べた限りだと何にもなかったみたいです。家族も昇格には賛成していて、名古屋で一人暮らしということも容認していたみたいですよ」
だけど、滝村はそれを拒否した。家族から離れるつもりはない。名古屋で一人暮らしをするつもりならば、サッカーを辞めてでもこっちにくる。そんなところかな?
「多分、そうだと思われます」
なるほどね・・・。
次のページは滝村の母親か。
滝村美幸、旧姓、鈴木美幸。大日本化成工業福島支社の社員食堂で働いていたが、そこで今の旦那と知り合い結婚。今に至るわけか。生まれも育ちも福島。生粋の福島県民なんだな。家族は5人いるけど、子供は全員女性!?それはそれで嫌だな。
帝国ホテルの従業員、小学校の教員、銀行員、市役所の職員。みんな、それなりの職業についているな。鈴木・・・。そう言えば、あの辺りを地盤とする衆議院議員に鈴木という政治家がいたな。まさか、滝村は政治家の血を受け継いでいるのか?
牧野、この母親の両親の職業はなんだ?
「タクシードライバーで、母親は看護婦です」
俺の思い過ごしか。
「鈴木虎之介と関わりがあるのかと思ったんですか?」
そうだ。
「鈴木虎之介には兄弟がいますが、滝村一樹の家系はそこには含まれません」
了解した。さてと、次は親父さんか。滝村誠二。もともとは埼玉生まれなんだな。
広田村?どこだ。
「行田市の近くにある村です」
なるほど。あの辺りなんだな。地主の長男で広田小学校を卒業した後、広田小学校高等科、そして、会川中学校に進学し、大日本化成工業に入社したってわけなんだな。親父さんの両親は地主?いや違う。もともと、小学校の教員だったのか。今は定年を迎えたため、地主を務めている。そんなところか。
妹、弟、三人兄妹で、妹は中学校の教員、弟は白馬で別荘を経営。いろいろやっているんだな。
ありきたりなことばかりしか書かれていなかったため、次のページをめくろうとしたとき、ある文言が目に飛び込んだ。
広田騒動。なんじゃこりゃ。
「誠二さんと当時広田村の村長を務めていた息子さんが喧嘩をしたことがそもそもの始まりだと言われています」
村長の息子と喧嘩か。田舎ではあり得そうなことだな。
「ただ、その騒動が引き金で村長の失脚につながりました」
何でそうなるんだよ・・・。
「喧嘩の原因が村長と地元の業者がカネのやり取りをしていたのを目撃したらしく、それを村長の息子に話したら”それは何かの間違いだ”って喧嘩になったとか」
そして、その話が広まり、村長が失脚したのか。
「なので、滝村誠二は”カミソリ誠二”って呼ばれるようになったみたいです」
カミソリ誠二。恐ろしいあだ名だな。大日本化成工業に入社・・・。おい、牧野、この会社って。
「原大悟さんが所属している会社です」
牧野がそう言うと、次のページには原大悟に関する調査結果が記されていた。
ちょっとまて!上原夏子の私設秘書!?上原夏子って、上原義彦の長女だよな?」
「そうです」
えっ、サラリーマンで政治家の秘書って兼任できるのか?
「企業としても、政治家の私設秘書を雇えばつながりができますしね。給与は全額事務所に寄付しているみたいですよ」
原大悟がフィリピンでの惨状を知り、それを夏子や義彦に話をした。そして、宗秩寮の連絡先を入手し、元恋人が反撃で密告した。だから、上原知事は沼田家の騒動について知っていたのか。原大悟は滝村誠二の上司。あいつが宗秩寮の連絡先を知ったのはこのつながりがあったからなのか。
普通の人ならば、連絡して終わりだが、あいつは違う。
これを交渉の道具にしてきた。
親父がかつて、村長の息子と喧嘩をしたのと同じく、滝村にもまた、闘争本能が受け継がれた。しかも、その闘争本能はサッカーによってさらに磨かれた。
冷静に相手を分析に、自分が持っている武器で相手に立ち向かう。タイミング、話術。どれをとっても、あいつはただの中学生じゃない。
間違いない。
滝村一樹は、敵に回しちゃいけない相手だ。
ならば、俺がやらなければならないことは一つかな。
牧野、調べてくれてありがとう。
「なにか。決心されたんですね」
多分、親父と喧嘩することになると思うが、俺は自分のやりたいことをやる。
「さようでございますか。お坊ちゃま。くれぐれも無理だけはなさらないでくださいね」
無理はしないか・・・。どうやら、今までが無理をしていたのかもしれないな。
俺は、俺の道を走る。
滝村一樹、あいつの口車に乗ってやるか。
第28話 終了




