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第24話

訳の分からない先生たちとの格闘には疲れた。


どうなっているんだよ。この学校は・・・。


まぁ、とりあえず今日を乗り切ったことだし、明日以降の対応を考えるか。


佐川と一緒に帰ったため、自宅に着いたのは19時を過ぎたころだった。


えっ?あまりにも帰りが遅くないかって?そこはまぁ、訊かないでくれ。


ただいま~。


そう言うと、リビングから返事がきこえた。


いい匂いがする。今日はお好み焼きかな。


そう思いながら、スリッパに履き替えようとしたが、玄関には見知らぬ靴が二足も置かれていることに気が付いた。誰か来ているのか?


そして、リビングの扉を開けると、俺は凍りついてしまった。


「うん?なんだお前の家だったのか」


えっ、なんで岩崎さんがここにいるの?


「玲子ちゃんのお兄さん?」


「そうだよ。お帰り」


「お帰りなさいませ。岩崎和美です。今日はよろしくお願いします」


あっ、よろしく。


「一樹お帰り。着替えて飯食えよ」


親父がそう言うと、座っていた椅子から立ち上がった。どうやら親父はご馳走様みたい。


まじ?空いた椅子の目の前、岩崎さんなんだけど。


自室で部屋着に着替えると、リビングに舞い戻り、椅子に座った。


「なんだよ?人の顔を見て」


いや、お好み焼き食べるんですねって思ったんですよ。


「初めて食べたけど、なかなかうまいぞ」


岩崎さんの妹も喜んでいる。


「何が入っているんだ?エビとイカとキャベツ、ネギ、ホタテかな?」


うちのお好み焼きはイカを絶対に入れないとだめなんで。


「ほぉー。なるほどな」


時折物珍しそうに食べる岩崎さん。そして、妹の和美さんは嬉しそうに食べる。こうしてみると、二人とも似ているな。


「和明兄さんも来ればよかったのにね」


「親父のお守をしないといけないだろ」


えっ?三人兄妹だったんですか?


「ああ、俺の3歳下に和明というのがいるんだよ。町谷小学校高等科に通っているよ」


高等科に通っているんですね。3歳下ということは俺と同い年か?


「88年生まれだっけ?じゃあ、そうなるな」


與川中学校の受験はしなかったんですか?


「曾祖父と同じ道に進むつもりなんだ」


曾祖父と同じ道って帝国軍ですか?


「ああ、町谷小学校の高等科で2年間勉強し、帝国軍幼年学校(※1)を目指すみたい」


だから同じ学年じゃないのか。


「お前は勉強大丈夫なのか?明日からテストだろ」


国史と地理は大丈夫です。それ以外は出たとこ勝負ですね。


「ほう。国史は得意なんだ。じゃあ、好きな歴史上の人物は誰?」


幅が広いですね。どこか限定しません?


「じゃあ幕末以降」


その時期でしたら高杉晋作です。


「高杉か。何だかわかる気がする」


岩崎さんは誰ですか?


「俺は西園寺公望」


以外と渋い人選ですね。何でですか?


「最後の元老として憲政の常道(※2)に道筋をつけたから」


はぁ~、なるほど。イギリスで200年かかった議会制民主主義を、日本は50年で成し遂げましたからね。


「西園寺はすごいぞ。パリに留学していた時、パリコミューンの惨状を目の当たりにしたんだよ。そこで西園寺は絶叫したんだ。“日本で天皇制廃止を言うやつは、全員四条河原でさらし首にしろ”って」


リベラリストって言われている西園寺だけど、そんなことを言ったんですね。


「憲政の常道を推進したのも、それをやることで天皇制が安泰すると思っていたみたいだからね。なんでお前は高杉晋作なんだ?」


高杉が動かなかったら、明治維新はあり得なかったと思っているので。


「功山寺挙兵か」


最終的には200対1300になりますけど、それで勝ちましたからね。


「俗論派が勝っていたら間違いなく長州は潰されていた。そして、維新は実現しなかったはず。そうなっていたら、幕府は存続していて、日本は間違いなく植民地になっていたはず」


結局、幕府打倒を見届けることなくこの世を去りましたが、高杉の意思は伊藤博文や桂太郎、山縣有朋といった元老たちに受け継がれました。


「今の政治家たちはそれを理解しているよ。まぁ、一部には利権しか興味のないやつはいるけどね」


いつの時代にもいますよ。そう言う人は。


「お前、良い政治家になれそうだな」


俺ですか?無理です。絶対になれません。


「そんなことはない。お前には信念がある。そして、孤立を恐れない行動力と相手を言い負かす政治力。面白いやつだよ滝村一樹」


はぁ、ありがとうございます。


そうつぶやくと、呼び鈴が鳴った。


「そろそろお迎えかな。美味かったぞ滝村。また厄介になるから」


「玲子ちゃん、ご馳走様」


そう言って、玄関の外まで見送りに行くと、高級外車が家の前に止まっていた。


「滝村様ですね。今日は本当にありがとうございました」


物腰のいい執事がそう言って来た。


いえいえ、どういたしました。


「玲子ちゃん、お兄さん、さようなら」


和美さんがそう言って手を振ると、車が発進した。


「まさか、和美ちゃんが来るなんて思わなかった」


まぁ、びっくりしたけどね。


「そうだ。なんで今日遅かったの?」


えっ?さぁ、何だろうな。


「お兄ちゃん、彼女とイチャイチャしていたんじゃないの?」


なわけないだろ!


「怪しい!ちゃんと説明しろ!そして、いつになったら連れてくるんだ!」


玲子止めろ!近づくんじゃない!


第24話 終了


※1 帝国軍幼年学校。かつて、存在していた陸軍幼年学校は陸軍を限定していたが、第二次大戦以降、海軍や空軍にも幼年学校みたいなものが必要ではないのかという議論が浮上。そのため、陸軍幼年学校は帝国軍幼年学校という名称に変更。陸海空軍の人材を若いころから育てる教育機関へと変貌を遂げた。満13歳以上、15歳未満が入学の対象となり、教育機関は3年。その後、陸海空と進路が分かれ、陸軍を志望する学生は士官学校。海軍を志望する学生は兵学校、空軍を志望する学生は航空学校へと進学する。


※2 憲政の常道。天皇による内閣総理大臣や各国務大臣の任命(大命降下)において、衆議院での第一党となった政党の党首を内閣総理大臣とし、組閣がなされるべきこと。また、その内閣が失政によって倒れた時は、組閣の命令は野党第一党の党首に下されるべきこと。そして、政権交代の前か後には衆議院議員総選挙があり、国民が選択する機会が与えられるとする政界の慣習。1924年に確立し、それから77年が経過したが、今では当たり前となっている。



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