表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

第02話

月曜日は入学式とロングホームルーム。


火曜日は対面式と健康診断、そしてロングホームルーム。


授業らしい授業はやっていないが、今日から本格的な授業が始まる。


初っ端の今日は、国史、漢文、フランス語、国語、数学、英語。


いきなりヘビーだな。まぁ、それはいいさ。問題はこの時間割の配分だよ。


国語、漢文、フランス語、ドイツ語、英語が全時間の過半を占めている・・・。


てっきり、歴史や地理が多いのかなと思ったけど、予想外だわ。その他にも、博物(※1)、修身(※2)、体育、美術、音楽、家庭科、技術という授業もある。


何だか、結構多いな。


そう思ったが、4年生に進級すると、これにプラスα、物理、化学、法制、経済が加わる。


小学校と比べるととんでもない量の科目だな。


授業について行くのが精いっぱいになりそう。


「それじゃあ、授業をやるぞ」


最初は国史。国史は俺の好きな科目だ。小学校でも歴史科目の成績は3だったわけだし、国史だけは誰にも負けるつもりはないからな。


「1年間、国史の授業を担当する山口です。みんなよろしく」


感じのいい中年のベテランの先生がそう言いだした。


「それではさっそく始めるか。歴史には分岐点があると言われている。もし、元襲来時に鎌倉幕府が負けていたら。もし、本能寺の変で織田信長が暗殺されなかったら。もし、日露戦争で日本が負けていたら。まぁ、言い出したらきりがないけどね。それら分岐点で時の指導者はどういった対応を取ったのか?どんな決断をしたのか?それは今後、どのようにして生かすことができるのか?それを読み取ってもらえればいいかな」


そう言うと、山口先生は国史の教科書を開くように指示をした。


「歴史の大まかな流れとして、今を生きる平成、昭和、大正、明治、江戸、安土桃山、室町、鎌倉、平安、奈良、飛鳥、古墳、弥生、縄文、旧石器。そして天孫降臨。こんな形で国史の授業をやるわけだが、1年生の時にやるのは平成、昭和、大正、明治。俗に言われる近現代だな。ここから国史の授業はスタートするから」


教科書をめくると党首討論に臨んでいる政治家の写真が映し出された。


「この国の政策に関して議論している写真があるよな。これは党首討論っていって、週に一回、野党の総裁と帝国宰相が議論し、国民に対してアピールをする場なんだ」


「このメガネをかけている人が野党のお偉いさん?」


「反対側はテレビで見たことあるな」


佐川と水岡が話し出した。


「メガネをかけているのは葛城紘一っていう政治家で。外務省出身のエリート。親父も政治家の世襲議員。反対側にいるのは大石太郎。現職の帝国宰相で元々、この人は作家だったんだよ」


へぇ~、そうなんですね。


「この人が書いた本がベストセラーになって社会現象にまで発展したんだよ。ドラマ化もされたかな」


「芸能界にある大石プロと大石宰相は関係あるんですか?」


クラスメイトの大森が先生に訊いてきた。


「大石プロを創設した人は大石宰相の弟だよ。芸能界にも顔が広いからアメリカでは大石宰相のことを“東洋のレーガン“って呼ばれているみたい。芸能界とも深いつながりがあるからそう呼ばれているのかな?」


なんでこのメガネのおっさんがいるのかなと思ったら、この教科書、リニューアルされたんですね。


「ちょうど今年はリニューアルの年に当たったんだ。歴史の教科書はもちろん、国語や数学、漢文の教科書とかすべて切り替わっているよ」


なるほど。だから、阪神大震災や地下鉄サリン事件のページも載っているんだな。


「じゃあ、次に進むぞ。その隣のページには衆議院の勢力図が載っているよな。さっき、与党と野党という言葉が出てきたよな。岡本、この図で言うとどれが野党になる?」


指名されたため岡本がしばらく考え込むと答えた。


「この立憲民政党って言うのが野党になるんじゃないですか?数も少ないですし」


「その通り。議会で多数派を占めていないところが野党。反対に立憲政友会は与党だ。基本、二つの政党しかないから分かりやすいと思うけどね。これは衆議院。じゃあ、貴族院(※3)について説明するぞ」


時折板書をしながら、先生が話を進める。そして、貴族院が記載されているページをめくったがこんなに分類されているの?


「貴族院には皇族議員、華族議員、勅任議員がいる。満18歳に達した皇太子と皇太弟(こうたいてい)。満20歳に達したその他の皇族男子は自動的に議員になる。ただし、議員として登院することはほとんどない。理由は政争に巻き込まれないようにするため。そのため、式典への参列や傍聴が一般的かな。帝国軍人としての仕事も忙しいわけだし」


「先生、今の天皇陛下って皇太子時代に登院したことで話題になりましたよね」


へぇ、そうなんだ。


「佐野、よく知っているな。元号法(※4)が衆議院を通過し、貴族院で採決された時、陛下が議事の様子を見たいって登院したんだ。元号法自体、陛下が皇太子時代に強く希望していたこともあったから相当話題になったよ」


無言の圧力みたいなものだな。そりゃ。


「次は華族議員だな。これは終身議員と7年議員に分かれる。公爵(こうしゃく)議員と侯爵(こうしゃく)(※5)議員の任期は終身で皇族議員同様、歳費はなく現役の帝国軍人は出席しない慣例になっていた。そして、伯爵(はくしゃく)議員、子爵(ししゃく)議員、男爵(だんしゃく)議員は7年の任期があり、7年に1回、伯子男爵(はくしだんしゃく)議員選挙が行われ、ちょうど来年の7月10日。任期が切れて選挙が行われるんだ」


来年選挙ということはテレビでも報道されるんですか?


「もちろん。視聴率も15%以上は確実に取れるからね。みんな注目するよ。たしか、この町にも男爵がいたはず」


えっ?男爵がいるんですか?


「そうか。滝村は引っ越ししてきたから知らないのか。岩崎家が男爵の爵位を持っているよ。曾祖父が第二次世界大戦の際に活躍し、その功績がたたえられたから男爵位を授けられたんだ。祖父は初代、與川市市長で曾祖父の後を継ぎ、男爵議員を務めている。まぁ、ここまでは良いんだけどね・・・」


そう言うと、山口先生は口をもごもごさせた。


なんかあるんですか?


「うん?ああ、なんでもない。このように、日本は衆議院と貴族院の二院制をとっているわけだ」


そう言うと、タイミングよく。授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。


「じゃあ、今日の授業はここまで。次は貴族院で説明していないところと、内閣の役割と陛下の権限について説明する」


※1 動植鉱物を専門に扱う授業で自然物についての収集および分野について学習する


※2 現在で言うところの道徳教育。基本的にはクラスの担任が修身の授業を教えることになっており、良き日本人をめざし、子孫繁栄、皇運扶翼(こううんふよく)を目的としている


※3 戦前の日本に存在した上院。この世界では存続しており、貴院(きいん)と呼ばれている。


※4 1979年に制定された法律。それまで元号は天皇陛下が決めていたが、今後は国を代表する人たちが決めるべきではないかという議論が巻き起こり、論争が巻き起こった。当初は旧来通り、天皇陛下が決めるべきという論調が多数を占めていたが、当時の皇太子が新しい考え方を取り入れてもよいのではないかという発言をし、時の政権与党が法制化に踏み切る。それに伴い、皇室典範が改正され、平成は元号法に基づいた初めての元号になった。


※5 ともに「こうしゃく」と読むため、区別する必要があったときは公爵(おおやけ)、そして、「(そうろう)」と字が似ているということもあり、侯爵(そうろう)と呼ばれた。


第02話 終了


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ