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第17話

「滝村!ここ教えて」


今日の授業も終わり、後は帰るだけ。そのはずが、なぜか図書室に連行され、佐川や岡本たちと一緒に勉強をすることになった。


都道府県の場所、何でわからんの?


「だって、分からないものは分からないもん。あんただって、フランス語分からないでしょ?」


佐川に痛いところを突かれた。


分かるか!


「まぁ、今回のフランス語は基本的なところだから、滝村でも大丈夫だよ」


岡本、軽く言ってくれるな・・・。


「チーズ、フランス語で20ってなに?」


「えっと・・・seize(セーズ)だっけ?」


「それは16。20はVingt(ヴァン)だから」


基本的な数字でさえもさっぱりなのに、文法とか酷い有様になるのは目に見えるわ。誰だよ、フランス語を必修にしようと言い出したのは?絶対に許さんわ。


「それで、都道府県どうやったら覚えられるの?」


「国史と地理は滝村が便りなんだから。“都道府県の名前と県庁所在地の名前をとにかく覚えろ。これだけで地理の50点を占めるから”、って言われた以上覚えるしかないでしょ」


草川や水岡からそう言われたため、俺は地図帳を出して説明した。


都道府県の場所を覚えるときは、消去法でやるしかない。


「消去法?」


四国地方と九州地方、中国地方は県名と県庁所在地は一緒のところが多いんだ。違うのは、沖縄と愛媛、香川、島根だけ。それ以外はすべて同じ。


「沖縄と愛媛、香川、島根は別。それ以外は同じ。位置はどうやって覚えればいい?」


鳥取は関西側。


「鳥取は関西側ね」


関西地方は兵庫と滋賀が違う。


「兵庫と滋賀が違うと」


東海地方は三重と愛知が同じじゃない。


「同じじゃない。ということは、岐阜と静岡は同じだよね?」


そうそう。北信越は石川だけが違う。


「石川だけが違うと」


次が関東だぞ。千葉と東京以外は全部違う。


「なるほどね」


「東京って都庁所在地、新宿区でいいの?」


広義的には東京でいいはず。だから一緒かな。


「北原先生、どうするんだろう」


地理の教科書には東京って書いてあるから、東京で覚えよう。新宿区って書けとは言われないはず。


「なるほど」


最後は東北・北海道・樺太(※1)だけど、岩手、宮城と北海道、樺太以外は同じだから。


「全体で覚えるんじゃなくて、地域ごとに分割して覚えればいいんだね」


全体で覚えようとすると覚えきれないと思う。地域ごとで覚えたほうが効率はいいはず。


「そうなると、後は一致しない県庁所在地の名前を覚えればいいのか」


点数の配分から考えると、選択式ではなく記述式になると思う。


「それにしても、なんで県名と県庁所在地が一緒じゃないの?」


草川が疑問を呈した。


たぶん、歴史的背景を説明するから長くなるけどいいか?


「いいよ」


佐川がそう言うと、俺は埼玉県の地図を見せながら説明した。


元々、埼玉には浦和県、(おし)県、川越県、岩槻県と4つの県がおかれていた。でも、府県が多くて業務に支障が出る。そうなると、合併という手段が浮上する。それで、第一次府県合併によって、浦和県、忍県、岩槻県が合併され、埼玉県が誕生した。この時の名前の由来は、埼玉郡岩槻町に仮の県庁所在地がおかれたから。だから埼玉県になったんだ。


「そうなんだ。ということは、旧埼玉県は今よりも狭いの?」


ああ、この地図でいうと北埼玉、北葛飾、北足立、南埼玉の範囲が旧埼玉県。それに対抗する形で、川越県は品川県の一部を獲得して、入間県を設立。今でいうところの、入間、比企、大里、児玉、秩父がその範囲。


「品川県?」


今の東京西部と23区の西側がその範囲かな。その後、群馬県と入間県が合併して熊谷県が誕生。でも、わかるとおり範囲が広すぎたため、入間県側と群馬県が分離して、入間県は旧埼玉県に吸収合併される。埼玉県という名称はその時の名残なんだ。


「名古屋から来たばかりの滝村が理解しているのに、なんで俺らは・・・」


小学校に通っていた時から国史と地理だけは好きだったからね。だから、覚えたのかも。


「さぁ、滝村はドイツ語とフランス語をやろうか」


意気揚々としていた気分が一瞬で地に落ちた。そして、佐川から拷問に近い形でフランス語とドイツ語を叩きこまれたがさっぱり。リフレッシュせねば。


「こらっ!どこへ行く!」


鬼軍曹佐川がそう言ってきた。


ちょっと休憩。


こういう機会でしか図書室に来ることはないと思う。テスト期間前ということもあり、多くの生徒が利用している。


なんかめぼしいものはないかな。棚に並べられている蔵書を物色していると、生徒会が発行している学校史が目に飛び込んできた。第53号ということは、一昨年発行されたものかな?


ぺらぺらとめくるとある写真が目に飛び込んできた。


この写真に写っている人、岩崎さんだ。


一昨年ということは2年生の時かな?体育祭の全員リレーでアンカーを務め、1位になったときの写真が掲載されていた。


アンカー・・・。足早かったのかな?


さらにページをめくると各部活動の記録と題されたページが現れた。岩崎さんの名前がある。えっ、岩崎さん、もともと陸上部だったの!?初めて知った・・・。


これは53号。ということは、去年発行された54号にも載っているはず。


そう思った俺は、去年発行された学校史を手に取ると、ページをめくった。ところが、陸上部の記録と題された項目に岩崎さんの名前はなかった。


なんでないんだ・・・。


俺は陸上関係の本を探した。男爵の孫が陸上部で活躍している。それだけで雑誌社が注目するはずだ。どこにある。陸上の雑誌は・・・。あった!岩崎和哉特集!


陸上関係の雑誌を手に取ると、俺はページをめくった。見開き一杯で岩崎さんの写真が掲載されており、インタビューを受けている。将来の夢は・・・オリンピックでメダルを取ること。


目を輝かせている。こんな岩崎さん、俺は知らない。


親父さんは注目されるのが好きじゃなかった。でも、岩崎さんは違う。注目を浴びることが苦ではない。そう言えば誰かが言っていたな。昔、児童会の会長選挙に立候補しようとした。でも、親父さんはそれを阻止した。華族という立場はただでさえ、注目されやすいポジションだ。目立つようなことをやればマスコミが寄ってくる。


陸上部で注目を帯びていた岩崎さんを親父さんはよく思っていなかったのかな?だから、辞めさせられたのか?


いやっ、岩崎さんは我が強い。そんなことはないと思うけど。


俺は手に取った雑誌を元の場所に戻した。何か手がかりになるものはないか。


そう思った俺は陸上関係の雑誌を再び探した。手当たり次第本を読んだが、なんで陸上部を辞めたのか。その手掛かりをつかむことはできなかった。


でも、これではっきりした。


岩崎さんは目立つことを苦にしない。雑誌のインタビューに受けているのが何よりの証拠だ。


本人の性格から考えるならば、裏でこそこそと何かをやるのは好きじゃないはず。


表に出て活躍する。


それが、本当の岩崎和哉のはず。


じゃあ、再び注目が集まるポジションに祭り上げれば、マスコミが寄って来るんじゃないのか?そうなれば、市川先輩を無理やり連れ込んでいる状況が露見する。明らかな不祥事だ。間違いなく、宮内省から目を付けられる。おそらく、沼田家の情報は岩崎さんの耳にも届いているはず。


もし、表舞台に出ることになったら、身辺整理として市川先輩を解放するんじゃないだろうか?もちろん、親父さんは表舞台に出ることを許さないと思う。お爺様はどうなのかは分からない。


あくまでも推測だ。


だけど、俺は気になる。


児童会の会長選挙を断念した過去。これ、絶対に心残りになっているはず。


欲しいものが手に入らなかった過去。


ならば、それと同等の地位が手に入ればその心残りは解消されるはず。一か八か。やってみるしかないよな。


俺は図書室に掲示されたポスターを見た。


過去に発生した事件以降、この学校には暗い影が残った。


岩崎で始まった歴史は岩崎で終わらせる。


今日は土曜日だから、来週の月曜日、決行するか。


※1 第二次世界大戦以前、樺太は樺太庁と呼ばれていたが、第二次大戦以降、北緯50度以北を吸収し樺太県に昇格。県庁所在地は豊原市(現在のユジノサハリンスク)で、札幌に匹敵する100万人都市として栄えている。


第17話 終了


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