第16話
テストが近くなってきたこともあり、今日から部活動はお休み。
そのため、ホームルームが終わったら直帰することになるけど、部活動に慣れ親しんだこともあり違和感が半端ない。
まだ17時にもなっていないのか・・・。
自室にかけられている壁時計を眺めながらぼーっとしていると、開けていた窓から風が吹き、机の上に置いてあった名刺が落ちてきた。
机の中に入れておくか。
名刺を拾い上げた俺はそう思ったが、何となく名刺の裏側を見た。
何処の電話番号なんだろう。これは・・・。
いかがわしい店の電話番号ってことはないとは思うけどな。
しばらく考えると、俺はリビングに向かい、受話器を取り出した。
イタ電するつもりはなかったけど、気になって仕方がない。
名刺に書かれている電話番号を打ち込み、しばらくすると若い男性の声が聞こえてきた。
「はい。宮内省宗秩寮です」
えっ、なんで宗秩寮につながったんだ!?
「もしもし?」
あっ、すいません。間違えました。
軽い感じでそう言うと、俺は電話を切った。
宗秩寮の電話番号・・・。えっ、原さんなんで知っているんだよ。
いろいろな出来事がいっぺんに起きたため、俺は落ち着き、状況を確認した。名刺の裏側にかかれていた電話番号は華族とかを管理する宮内省宗秩寮につながった。この電話番号は世の中には出回っていない。もちろん、タウンページにも載っていない。
えっ、じゃあなんで原さんは知っているんだ?
営業副部長だっけ?だからといって、電話番号を知れるような立場ではないと思う。
そもそも、あの時の話しだってそうだ。
沼田家がどうとかって言っていたけど、あの内容は出まかせではない。間違いなく本物だ。
親父の上司・・・。
もしかしたら、相当すごい人なのかもしれない。
俺は名刺の裏側にかかれた電話番号を凝視した。
これは間違いない。切り札だ。
これさえあれば、市川先輩を助け出すことはできる。無理やり、押し込まれたあの家から救うことができる。
そう思っていると、玄関が空き、リビングの扉があいた。
「ただいまー」
玲子おかえり。どこか買い物に行っていたのか。
「そうだけど・・・、お兄ちゃん、受話器を持ったままどうしたの?」
ああ、イタ電していた。
「イタ電?趣味悪いから止めてよ」
もうやらないよ。
俺は受話器を置くと、名刺をポケットにしまった。
もしかして、玲子が夕飯を作るの?
「そのつもりだけど」
えっ、玲子にできるの・・・。
そう言うと、むっとした表情になった。
「失礼な。私だってできるからね」
ジャガイモ、人参、豚肉、玉ねぎ、インゲン・・・。カレー?
「そうだよ。お兄ちゃんも手伝うんだからね」
まじ・・・。
「一人よりも二人。二人よりも三人」
へいへい。
しっかりしているから小学4年生とは思えないんだよな。俺は自室に戻るとポケットに入れた名刺を取り出し、机の上に置いた。
絶対に許さないからな。岩崎さん。
「お兄ちゃん。何やっているの!」
1階のリビングから妹の声が聞こえてきた。
はーい。今行くよ。
下に降りると、俺は妹と一緒にカレーの準備を始めた。くそっ、玉ねぎは目に染みる!
「お兄ちゃん、弱小」
うるせっ、普段料理をしない人にとってみれば玉ねぎとか難敵だぞ。
「手伝えばいいのに」
部活動から帰ってきたら19時近く。夕飯は完成しているよ。
「ふーん、部活動って大変なの?」
まぁ、大変かな。でも、心身を鍛えることになるから入っても損はしないはず。
「私も中学校に行ったら部活に入ろう」
試験に合格したらな。
「もちろんそのつもりだよ」
でも、世の中には五修でやってくる奴もいるんだよな。同じ学年にもいるよ。11歳が。
「頭が良いんだね。その人」
地主の息子だったのかな?将来を有望視されているんだろうなきっと。
「同じクラスにもいるよ。五修に到達するかもしれない女の子が」
おっ、玲子のクラスにもいるんだ。
「岩崎和美って言ってお祖父ちゃんが男爵とかって言っていたのかな」
お祖父ちゃんが男爵・・・。あの家に住んでいるのかな。
「和美ちゃんのお兄ちゃんも四修で中学校を卒業するとかって言っていたのかな?本当は6年生まで小学校に居たいみたいだけど、お兄ちゃんがそうやるんだからって押し付けられているみたい」
兄がやるんだから、妹もやれ?なんだか、無茶苦茶な家だな。
「いつも和美ちゃん文句言っているよ。お兄ちゃんやお父さんは私の気持ちを理解してくれないって」
なんだか、大変そう。
「お金持ちって憧れるところがあるけど、実際に生活したら息苦しいんだろうな」
いろいろな縛りがあって大変そう。
そう言うと、妹が思いっきり踏みつけてきた。
「縛りとか変なこと言わない!」
えっ!そう言う意味じゃないぞ。規則とかの意味だ。
「規則・・・ああ、なるほどね。勘違いしちゃったじゃない」
勝手に勘違いしたのは玲子だろ・・・。そう言うと、玲子が包丁をこっちに見せてきた。
それはやめろ。
「まったく。お兄ちゃんは乙女心を知らないんだから」
乙女心ね。
「そんなんじゃ、付き合っている彼女を幸せにできないよ」
付き合っている・・・。何でそんな話になるんだ?
「あれ?ソフトボールの試合を見に行った人と付き合っているんじゃないの?」
そう言う仲ではありません。
「ホント?」
ホントです。
「一緒にどこも行かないつもり?」
何処も行かないってことはないな。今度映画観に行くし。
「映画!お兄ちゃん、その人のことが好きなんでしょ?」
そう言う気持ちはないんだよな。湧かないんだよ。
「じゃあ、私が結びつけてあげようか?」
必要ない。必要ない。
「本当にそんな気持ちはないの?」
俺にはないな。多分、向こうにもないはず。
そう言うと、玲子はつぶやいた。
「多分、向こうは違うと思うよ」
どういう意味だよ。それ。
「向こうは気にしていると思うよ。お兄ちゃんのこと」
まさか。それはない。
「いや。絶対そうだと思う!そうじゃなかったら一緒にスポーツの試合を見たり、映画の誘いに乗らないよ」
そんなもの?
「そういうもの!」
なんだか、玲子、テンション高いな。
「だって、お兄ちゃんとこういう話をしたことないからね」
まぁ、そりゃそうだ。
「私が予想しましょう。お兄ちゃんは間違いなく、その人のことが好きになる」
勝手に予想するな。
「今度うちに連れてきてね!」
なんで連れてこなきゃいけない。絶対、来ないと思うからな。
「いや~、分からないよ。何かの拍子で来るかもしれないから」
あいつがこの家に来たら何が起きるんだろう。想像もしたくない。
カレーが完成すると、スイミングスクールに通っていた弟。付添いの母親。そして仕事終わりの親父がタイミングよく帰ってきた。
なかなかの出来だな。
夕飯を食べ終えると、俺は自室に戻り、原さんからもらった名刺の裏側を見た。
この電話番号に連絡し、市川先輩のことを伝えれば間違いなく動く。そしたら、岩崎家は終わる。だけど、本当にそれが解決策になるのだろうか?妹の友達が巻き込まれるようなことになったら、玲子は絶対に悲しむと思う。そしたら、玲子から何を言われることやら・・・。
うーん、別の方法を探してみるか・・・。
第16話 終了




