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第15話

学生の本分は勉強。


いよいよ、来週、その成果を試される時がやってくる。


中間考査・・・。まぁ、いうなれば中間テストだ。


対象科目は国語、英語、数学、国史、漢文、フランス語、ドイツ語、博物、地理の九科目。実技科目と言われている修身、体育、美術、音楽、家庭科、技術科の五科目に関してはテストを行わないため、負担は幾分軽いかな。


それでも、九科目もテストを行う。


赤点を取るような事態だけは避けないと。


昇降口で上履きを履き替え、自分の教室に向かおうとした時だった。掲示されているポスターを見て何かを話している女子生徒を見かけた。


「いよいよ、生徒会会長選挙だよね。誰が出るのかな?岩崎様、出ないかな」


「無理、無理。岩崎家からは出しちゃいけないって噂されているみたい」


「でも、児童会の会長選挙に出ようとした過去があるんでしょ?噂レベルならば大丈夫なんじゃない?」


「まぁ、気分屋のところがあるみたいだけどね。でも、お父様が反対するから結局は無理なんじゃない」


「自分は市長選挙に出るのに?」


「仕方がないっていう感じみたいだよ。あんまり乗り気じゃないみたい」


「乗り気じゃなければ出なければいいのに」


「こらこら。そんなことを言っちゃいけません」


そう言うと、立ち話をしていた女子生徒が階段の方に向かって歩き出した。


生徒会・・・会長選挙か。


俺は掲示されたポスターを改めて確認した。


立候補の受け付けは今週の金曜日から来週の木曜日まで。


木曜日には中間考査が終わるため、翌日の金曜、土曜、そして週明けの月曜と火曜に選挙運動が行われ、30日の水曜日に投票という流れか。


昔は推薦人を受け付けてから立候補の受け付けをしていたみたいだけど、5月事件以降、一本化されたみたい。


「おはよう。そんなところで何佇んでいるの?」


後ろから声をかけてきたのは佐川だった。


そろそろ、生徒会の選挙だなって。


「興味あるの?」


今のところはない。


「今のところはというと、将来的にはあるんだね」


まぁ、俺が立候補したら佐川は副会長な。


「なんでよ!」


なんでも。


「いやだよ。生徒会の仕事なんか。めんどくさそうだし」


内申点とかは加点されるんじゃないのか?生徒会をやれば。


「確かにそうだけど・・・、あんまり、うまみは感じないな。めんどくさい仕事を押し付けられるのが関の山だよ」


俺もそう思った。


「ねぇ、地理の分野で分からないことがあるんだけど、教えてくれない」


何処だよ。


「埼玉県の成り立ち」


引っ越しをして1か月ちょっとの俺が理解できて、9年くらいいる佐川が分からないんだよ。


「だって、忍県とか岩槻県とかいろいろな言葉が出てくるんだよ。わかるかって話だ」


教室に行ったら教えてやるよ。その代わり・・・。


「その代わり・・・なに、変なこと考えていないよね」


なんでそう結びつくんだよ。映画、見に行くからな。付き合え。


「えっ・・・映画!何見るの?」


今、公開されている探偵もののアニメ。


そう言うと、佐川は理解したみたい。


「はぁ~。あれね・・・。良いよ。いつ行く?」


来週の日曜日はどう?テスト前だから全体的に部活動はなかったはず。


「後で確認してみるけど、今のところは問題ないかな」


じゃあ、決まりということで。


「テスト前に何やっているんだって言いたいけどね」


息抜きは必要。


そう言うと、佐川は相槌を打った。



部活動が終わり、家に到着した時間は19時近く。さすがに腹減ったな。


ただいま。


「おうお帰り」


「お帰り。早く着替えなさい。夕飯食べているから」


いつも通り先に夕飯を食べている。そう思ったが、どうやら客人が来ていたみたい。


「こんばんは」


親父の知り合いかな?俺は軽く挨拶をすると、高速で手洗ううがいを済ませ、部屋着に着替えるとリビングへ向かった。


今日は、豚肉の生姜焼きか。うん、絶対にうまいはず。


弟と妹、母さんは先にご飯を食べたみたいで、テーブルに座っているのは、親父と親父の客人のみで、目の前に出されているいろいろなつまみと一緒に酒を飲んでいる。


いただきます。


しばらくご飯を食べていると、親父の客人と視線が合った。


えっ?どうかされましたか?


「いや、食べ方が綺麗だなって。うちのバカ息子とは大違いだよ」


ありがとうございます。


「そうだ。まだ自己紹介していなかったよな。上司の原さん」


親父がそう言うと、原さんと呼ばれた人が挨拶をした。


「原大悟って言います。よろしく」


滝村一樹です。よろしくお願いします。


「お父さんからいろいろ聞いたよ。今までやっていたサッカーを辞めて剣道部に入ったんだって?」


そうですね。新しいことをやってみたいなと思ったので。


「大変だと思うけど、頑張るんだよ」


ありがとうございます。


そう返答すると、親父と原さんは再びいろいろな話をしだした。


うーん、何の話をしているのかさっぱりわからん。


これが大人の世界なのかな。談合がどうのとか。業者がどうのこうのとか。先生の長女はなんとか。そういえば、知事って単語が出てきていたな。なんだろう・・・。


ごちそうさま。


夕飯を食べ終えた俺は食器を流しに入れると、椅子に座りウーロン茶を飲んだ。


「そうだ。滝村、面白い話があるんだけどいいか?」


「面白い話ですか?」


「ああ、千葉にある沼田家に宗秩寮の査察が入るらしい」


そうちつりょう?どこかで聞いたことある名前だな。


「沼田家って言ったら千葉では指折りの華族ですよね。何かあったんですか?」


「家督を継ぐ長男が強引に結婚相手を奪ったんだ。相手は嫌がっていたのにね」


相手は嫌がっていたのに強引に結婚する。もう、無茶苦茶だな。


「“平民が華族の人間と結婚できる。それだけでもありがたいのになんでそれを理解しようとはしない”。そう言ったのかな?もう、相当無茶苦茶で、結婚相手の両親、嫁さんの両親をカネの力で黙らせたみたいなんだ。お互いが愛し合わない結婚なんか意味はない。いつも、長男と嫁さんが揉めているみたいでね。言うことを聞かない嫁さんを部屋に閉じ込めてしまったんだ」


カネ、地位で相手を屈服させる。ホント、汚いやつらだな。


「それで、なんで宗秩寮が動いたんですか?」


「内情を聞かされた結婚相手が宗秩寮に密告したみたい。近々、緊急の査察が入る。部屋に閉じ込められている嫁が見つかったら一発でアウト。爵位剥奪だ」


「そうなったら、報道ものですよね」


「マスコミ関係が今動いているよ。これで沼田家は終わり。爵位剥奪の処分を受けた華族ほど。みじめなものはないからな」


この人、いったい何者だろう。一会社員がなんで、そこまで知っているんだ。


「おっ、そろそろ良い時間だな。じゃあ、帰りますよ」


そう言うと、原さんが席を立った。


「奥さん、ご馳走様でした」


「はーい。またいらっしゃって下さいね」


玄関まで見送りに行くと、原さんが声をかけてきた。


「いろいろと大変だと思うけど頑張るんだよ」


どういう意味ですか?それは。


「うん。まぁ、細かいことは気にするな。あっ、これ、私の名刺だから」


名刺を受け取ると表面には原大悟と表記されていた。営業部副部長か。相当偉い人なんだろうな。裏面には何かの電話番号が書かれている。


すいません。この電話番号は?


「イタ電したらきっとわかるよ」


なんだよそれは。


「じゃあ、駅まで送りに行って来るから」


はい。行ってらっしゃい。


俺はそう言うと、親父と原さんは家を出て行った。


何だかつかみどころがない人だな。イタ電したらわかる?そんな危ない橋を渡るような人ではありません。


そろそろ勉強しないとまずい。軽く振り返りでもしようかな。


第15話 終了


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