第13話
授業を受け、昼は給食。そして今月からは放課後に部活動。
その繰り返しを毎日行う(月曜日は部活動の活動はない。お休み)。
部活動に参加することになったため、最初はきついものがあったが、1週間もすればこのルーティンに慣れてしまうもの。
それなりに日常は楽しいと思う。
でも、何かが足りない。そんな気がしてならないんだ。
「おーい、朝からなにたそがれているんだい?」
同じ剣道部の岡本が声をかけてきた。そばかすが特徴的で、井戸端会議にいそうな顔をしている。
なんかが足りないなって思ったんだ。
「それは、市川先輩のことかな」
多分、そうかもしれない。仮入部の時に感じた楽しさは、市川先輩がいたからかな。
「確かに市川先輩は良い先輩だったよね」
なぁ、岡本はどう思っているんだ?
「市川先輩と岩崎先輩のこと」
そりゃ、そうだよ。
そう言うと少し黙りこんだ。
やっぱり難しい質問だったのかな。そう思っていると岡本が口を開いた。
「岩崎家には勝てないからね」
佐川と同じ言葉を口にした。やっぱり、あの家が決めたことを覆すのは無理なのかな。
「滝村が納得できない気持ちも理解できる。誰が見たって本心じゃないよ。でもね・・・、この町は岩崎家には絶対なの」
それは5月事件があったからか。
そう言うと、岡本が驚いた表情をした。
「なんでその名前を知っているの?」
佐川が教えてくれた。岩崎さんのお父さんがぶち切れ、何人もの退学者を出したんだろ。校長は辞職、学校関係者の多くは減給に追い込まれ、一学期終了と同時にクラス替え。いじめる奴らが悪いとはいえ、いくらなんでもこれはやり過ぎだろ。
「その処分、岩崎家が求めたものじゃないんだ」
どういうこと?
「岩崎家からクレームを言われたくない。教育委員会が内輪の理論で決めた処分なんだ」
見えない空気。こう思っているだろうってやつか。
「ホント、おかしいよね。だけど、この町はそれを選択した。岩崎家にご機嫌をうかがう政策を次々とやりだした。クレームを言われたくない。岩崎家は力があるから睨まれたくない。勝手な判断だよね」
大人たちがコミュニケーションとれないってどういうことよ。
「全くだよね。滝村はいつも早く来るから知らないと思うけど、岩崎先輩が学校に登校する時、必ず校長先生をはじめとする学校関係者が出迎えをするんだ」
えっ・・・マジで。
「大名行列って言われているよ。ホント、おかしいよね。世の中」
“影の支配者を目指す”という親父さんの言葉は目論見通り、見えない空気を利用し実現した。一回何か行動を起こせばそれだけでインパクトになり、後は周りが勝手にいろいろとやる。華族はマスコミから注目される。影の支配者を目指すという本当の意味は、マスコミに嗅ぎつけられない位置でいろいろとやりたいって言う意味なんじゃないだろうか。
ホント、世の中にはうんざりするよな。
※
「お帰り。部活動お疲れさん」
家に帰ると父さんがビールを呷るようにして飲んでいた。
母さんたちは?
「買い物。そろそろ帰って来るんじゃない?」
前もこんなパターンあたったな。まぁ、いいや。
俺は高速で手洗いうがいを済ませると、部屋着に着替えた。学生服をそのまま脱ぎっぱなしにすると後で母親が怒りだすからハンガーとかにかけておかないと。
自室からリビングに行き、俺はテレビをつけた。
「朝鮮国の李英秀首相は記者会見を行い、国内で問題となっている国旗の変更に関し、国民投票などは行わないという意思を示しました。朝鮮国の国旗は、カントン部(旗の左上)に帝国とのつながりを象徴する日章旗、それ以外の部分には国に花を示す木蓮が13個描かれていますが、国旗を変えるべきではないかと主張する政治家がいるため、議論になっていました。保守党を支持母体とする李英秀首相は国旗を変えることに関し、反対の立場を取っていますが、野党民主党の朴夢準代表は国民投票を実施しないのは政府の怠慢だと厳しく批判。来年の9月に行われる民参同時選挙で政権公約に掲げると示唆し、激しい論争を巻き起こしております」
隣国の国旗の問題なんかどうでも良い感じがするけど、公共放送がニュースにしているということは何らかの意図がありそうだな。
「この問題に関し、国際部の国松解説委員を交えてお伝えしたいと思います。国松さん、朝鮮国の国旗がもし変更されるようなことが起きましたらどのようなことが起こりえますか?」
「政府高官(※1)は朝鮮国の国旗変更が大日本連邦(※2)の離脱につながるのではないかと危惧しております。今のところ、朝鮮国の与野党も連邦の離脱には否定的であり、日朝安全保障条約は引き続き継続するという立場を取っています。ですが、国旗変更に伴い、国民のナショナリズムが高まり、さらなる要求を行うことにより、両国の関係に悪影響を及ぼしかねないと警戒をしています」
「この国旗の変更、台湾やミクロネシア(※3)にも影響を与えるのではないでしょうか?」
「そうですね。台湾国やミクロネシア共和国の中にも国旗を変更しようという動きがありますが、朝鮮国みたいに政治問題に発展するケースには至っていません。国民の多くが現在の国旗に満足しているのではないでしょうか」
垂れ流しでニュースを見ていると父さんが話しかけてきた。
「部活は楽しいか?」
部活・・・。それなりかな。
「なんだ?楽しくないのか?」
そりゃ、楽しいよ。でも、何というか・・・。仮入部の時に体験したわくわく感かな。それがないんだよな。
「外側から見るのと、内側だと違うものがあると思うよ」
確かにそれはある。でも・・・もっと何かが違うんだよ。活気とか。
そう言うと、親父が真顔になって訊いてきた。
「それは、辞めた先輩に関係しているのか?」
市川先輩・・・。多分、そうだと思う。
「影響力が大きい先輩だったんだな」
短い間しか関わらなかったけど、市川先輩がいたから剣道部に入った気がするんだ。人として魅力的だったんだよな。市川先輩。
「その先輩、今はどうしているんだ?」
岩崎さんと一緒に住んでいる。もっとも、本心かどうかは分からないけどね。
「一樹はそれでいいのか?」
そりゃ、もちろん戻ってきてもらいたい!でも、今のままじゃどうすることもできない。岩崎さんに直談判をしても弾き返されるのがオチ。それだけだったらいいが、玲子や卓哉にまで迷惑がかかるようなことが起きたら俺はいやだ。あの家が一言を発したらこの町は全員、あの家に従う。それがこの町だよ。
「じゃあ、あの家の気分を変えさせる必要があるのか」
気分?
「今はその先輩と一緒にいるんだろ?その家の両親と岩崎家がどんなやり取りをしたのかは知らないが、 ほとんど一方的な要求だったんだろうな。その時のやり取りが露見したらどうなるのか。考えさせたら気分も変わるんじゃないのか?」
うーん、どうやってその気分を変えさせるの?
「それは分からん」
おいおい。ここまで言ってそれはないぜ。
「でも、必ずチャンスは来る。その時まで耐えろ一樹。良いな」
チャンスはやって来るか・・・。
じゃあ、その言葉を信じてみようかな。
※1 日本の報道において、内閣官房副長官を指す隠語。主にオフレコ内容を報じるときに使用される。同様に、内閣官房長官は政府首脳と呼称される。
※2 大日本連邦。かつての大日本帝国がその前身となって発足し、主に日本とその植民地、委任統治領だった主権国家から成る、緩やかな国家連合である。大日本連邦自体、中央政府を有していないが、日本と安全保障条約を締結しているため、四か国の結束は無視できないものがある。
※3 旧南洋群島(現実世界で言うところの北マリアナ諸島、マーシャル諸島、パラオ、ミクロネシア)を勢力範囲とする共和国。朝鮮と台湾には総督府があるため、天皇の代理人である総督が元首になるが、ミクロネシアの場合、総督府がないため、大統領が元首になる。ただ、政府施設は旧南洋庁を引き継いだため、大日本帝国の色合いが強く残っている。
第13話 終了




