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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
9.そのエルフさんは世界樹に祝われています
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9-4 エルトラネは眠らない(1)

 エルトラネ。


 ビルヒルトからランデルに返還された森に存在するハイエルフの里であり、近隣のエルネやボルクの里の者から絶対に関わりたくないとまで言われた狂気のエルフの里である。


 その言葉は理解不能。

 強化魔法を使いまくった行動はハイパワーで意味不明。

 そんな彼らが奇声を発しながら踊り近づく様は近隣エルフの脅威でしかない。


 エルトラネのピーには近づくな。

 周囲の里の掟である。


 元々交流の少ないエルフの里。

 かくしてエルトラネはエルフの中でも孤立した存在となり、庇護していた雷竜ビルヌュが討伐されると人間に利用され搾取されていったのである……


「カイ、日が高い内にエルトラネまで行くえうよ」

「ん。エルトラネはもうすぐ」

「待て、落ち着け」


 カイ達はそんなエルトラネを目指して森を進んでいた。

 先頭を行くのはミリーナとルー。

 二人がカイの腕を取り、森をガンガン歩いていく。


「実は一度見てみたかったえう」

「ん。なんかピーがすごい事をしてるらしい」

「怖いもの見たさかよ」

『実は私も初めてです。どんな里なのでしょうか』


 エルネやボルクに避けられていたのも昔の事。

 カイが頭にご飯を授けてからはエルトラネも周囲の里と交流を持っている。


 行ったエルフの話によると「なんかものすごい里」らしい。

 ミリーナの曽祖母、幼竜マリーナも見たことの無い里に皆は興味津々。

 呪いが祝福に変わった今、エルトラネを訪れる事は近隣エルフの密かなブームなのであった。


「すみません。エルトラネですみません」


 そのエルトラネの里の者、ハイエルフのメリッサはカイの三歩後ろを恐縮した表情で歩いている。

 狂気が素に戻る時、人はその狂気に羞恥を覚えるものだ。

 なんで私こんな事しちゃったんだろう……みたいな感じなのだろう。


 どうしようもない呪いであっても恥ずかしいものは恥ずかしい。

 ビバ、ポジティーブなエルトラネの彼女でもピーの有様は恥ずかしいのである。


「恥ずかしがる事ないえうよ。ピーはいい妻えう」

「ん。がっつりいい妻。カイにお似合いナイス妻」


 そんなメリッサをミリーナとルーが励ます。


 初めの頃はピーをえらく嫌っていたのにずいぶん変わったな。


 と、カイは思うがそれはカイも一緒。

 慣れればそれなりに理解出来るものであり、理解出来れば可愛いものだ。

 飼主と飼い犬のような関係であったがカイはピーとの事を思い出し、当時を懐かしむ。


 呪いが解けてご飯を食べ続ける必要が無くなった今となってはメリッサがピーになる機会は無い。

 ピーはメリッサと一つになったのだろう……たぶん。

 本当の初夜を迎えたあの日以降、カイはピーに一度も会ってはいなかった。


「メリッサ、こっちえう?」「そこを左ですわ」「ん」


 メリッサの言葉に従いミリーナとルーがカイを抱えてガンガン進む。

 険しい道にカイの両足は宙ぶらりん。

 久しぶりの拉致である。


 一行は森をめぐり、山を越え、谷を渡り、川を跳び越えようやくエルトラネの領域に足を踏み入れる。

 そんな一行の目にまず入ったのは、乱立する木々に彫られた顔であった。


「なんだこれ?」


 どの木にも顔、顔、顔……いきなり不気味な森である。

 見渡す限りの全ての木に顔が彫られているのだ。


「エルトラネの警告樹木えう」

「これ見たら一目散に逃げる。それがボルクの掟だった」

「エルネも同じだったえうよ」


 そう言いながら、ミリーナとルーは木々に近づいていく。

 一歩、二歩、三歩。

 二人は何かを知っているのだろう、期待しながらゆっくりと歩を進めると……やがて瞳が輝いた。


「ぬおっ!」


 カイがのけ反り、ミリーナとルーに抱えられたまま浮いた足をばたつかせる。

 エルフの祝福を受けたカイだが妻ははるかにハイパワー。

 今のように抱えられたらどうしようもないのである。


「ただの警告えう」

「相変わらずのへなちょこ。まったくラブリー」

「本当か? 本当だなメリッサ?」

「さぁ? ずっと昔からあるとは聞いていますが……」


 あぁ、ピーの切なさよ……

 首を傾げるメリッサに心でホロリのカイである。

 エルトラネの者なのにこれが何であるか分かっていないのだ。


 しかしピーもメリッサ。きっと心は一緒のはずだ。

 慌てて逃げろと言わない以上大丈夫なのだろう。その態度にカイは安堵し樹木の顔をまじまじと眺めた。


 カイ達が見ているのは口を大きく開けて笑う顔。

 輝きをよく見れば彫られた目に埋め込まれたミスリルの魔力刻印である。


 つまり、これは何かの魔道具なのだ。

 マナの流れを見るにこの魔道具は発動中。

 何をしているのかはわからないがとにかく何かをしているらしい。


「メリッサ、これは何をしてるんだ?」

「さぁ?」

「警告の準備えう」「むむむこれが聞きたかった」


 首を傾げるメリッサに代わりミリーナとルーが答え、皆は静かにそれを待つ。

 三人が見つめる先で樹木に彫られた瞳が輝き、魔力刻印が力を世界に放っていく。

 輝き鳴動する木々に何が来るかと身構えるカイの前で樹木の瞳はひときわ輝き、やがて重々しく声を吐き出した。



『……るるっぷぷー』



「……」


 意味が、わからん。

 まあピーだから仕方無い。あいつらの行動の意味はあいつらにしか解らんとカイは無理やり納得する。いわゆるがっかり名所であった。


「本当えう! まったく意味不明えう!」

「む。すごいけど無駄。すごく無駄」

「すみません。エルトラネですみません……」


 聞けば毎回言葉が違うらしい。妙な所で凝っている無駄魔道具である。

 顔のある樹はただ輝いただけで何もせず、カイ達を迎え入れた。


「なんて無駄な魔道具……システィが見たら発狂するんじゃないか?」

「おもしろいから許すえう!」「む。この無駄プライスレス」

「すみません。エルトラネですみません」


 が、しかし……カイ達はミスリルの無駄遣いだと思っているが実は超高度な魔道具なのである。

 エルトラネに害意を持つ者や将来的に害をもたらすであろう者をエルトラネに入れない為の魔法による結界であり、接近者の心を読み、解析し、予測し、判断し、必要なら接近者を排除するという恐ろしいほどに複雑な処理を行うピーの造りし狂気の結晶、自律ゴーレムの一種であった。


 処刑された白金級のなんたらもこれに守られたエルトラネに直接手出しは出来ず、ご飯で釣って近隣の村で作物を育てさせるに留まった。

 これが無ければエルトラネはとっくに里を失っていただろう。


『ぽまーる』

「だから何だよ?」


 知らぬが仏。

 知らないからカイは全く気にしない。

 顔のある樹に意味不明な言葉を何度も投げかけられながら顔の森を抜けると今度は陽光に輝く円形広場である。


 材質はおそらくミスリルだろう。

 半径五十メートル位の平らな円盤が地面から生えているのだ。

 以前ミスリル製の農具を世に出すなと釘を刺されたカイであったがこのサイズはさすがに桁が違い過ぎる。間違いなくシスティ発狂案件であった。


「今度はなんだ?」

「何であるかは誰も知りませんわ。ただ、この上では植物は生えませんのでエルトラネでは住居の土台に使っています」

「エルフの呪いでも草木が育たなかったのか。アトランチスみたいだな」

「そうですわね」


 メリッサは相変わらず首を傾げて答える。

 またピーの作った何からしい。カイは広場の上に立つ。

 表面には僅かほどの凹凸も無く、滑らか。

 しかし乱雑に何かが書いてある。カイは一つを読んでみた。


「ぺぺまそー……」


 文字は読めるが意味不明。相変わらずのピーである。


「こっちも意味不明えう」「む、これもわからない」『さっぱりですね』

「すみません。エルトラネですみません」


 書かれた文字に首を傾げる皆にひたすら恐縮するメリッサである。

 読むのを諦めたカイ達がさらに先に進むと同じような円形広場がいくつもある。

 そしてどれにも文字が書かれ、その全てが意味不明。

 さすがはピーであった。


「一体何箇所あるんだこれ?」

「十八箇所ほどあったはずです」


 ミスリルは雷竜ビルヌュから調達していたのだろう。

 竜は世界を守る盾だ。異界を食らい得たそれらをエルトラネに渡していたのだ。


「すみません。エルトラネが不可解ですみません」


 歩きながらひたすら恐縮するメリッサ。


「胸を張るえう。ピーはすごいえう」

「ん、他の里ではあんなの絶対作れない。ピーすごい超すごい」


 そんなメリッサを励ますミリーナとルー。


「そうでしょうか……」「えう!」「びば、ぽじてぃーぶ」

「そうだな。素直にすごいと思うぞ」

「そうですわね。悪い事よりも良い事を考えるのがエルトラネ。ビバ、ポジティーブ!」

「「「『ポジティーブ!』」」」


 皆でメリッサを盛り上げエルトラネの里でポジティブを叫ぶ。


「ビバ、ポジティーブ!」「「「『ポジティーブ!』」」」

 

 にぎやかに叫びながらカイ達は進む。

 いくつかの広場を過ぎ、森を抜け、謎物体に首を傾げながら進んで行くと、やがてひときわ大きな円形の広場に到達した。


「カイ様、ようこそエルトラネの里へ」


 すっかりポジティブとなったメリッサがカイに深く礼をする。


「で、でかいな……」「えう」「まるでアトランチス」


 その光景を見たカイはただただ唖然だ。

 これまでの円形広場の倍はある巨大なミスリルの地。

 呪いを以ってしても草木も生えない地に木を適当に組み合わせた家々が点在している。


 超絶技術の大地に建つ掘っ立て小屋。

 あらゆる害から身を守る世界樹の守りを持つエルフにとっては天候など大した事ではないのだろうが、何ともアンバランスな集落である。


 ピーは色々すごいのに、住居はどうでも良かったんだなぁ……


 と、何ともいい加減な住居に切なくなるカイである。

 技術はあっても生活は適当。

 やはりピーはイッちゃっていた。


 そんなカイの視線の先、広場の中心にはエルトラネの皆が集まって口々に何かを叫んでいる。


「ビルヌュ様!」「我らの庇護者ビルヌュ様!」「お帰りなさいませ!」

『うむ。我は戻ってきた!』


 おぉおおおおおおおおめしめしめしめし……


 ミスリル製の円形広場の中心で、皆に崇められている幼竜。

 バルナゥの子、転生した雷竜ビルヌュだ。

 エルトラネの者達は今、里の守護者の帰還を祝っているのであった。


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