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幕間7-4 カイ・ウェルス、全てのはじまりと邂逅する(4)

「……っ」


 カイが瞳を開くと、天幕が空を覆っていた。


 アトランチスでカイがいつも使っている見慣れた天幕だ。

 毎朝見上げるそれを見上げながらカイは戻ってきたんだなと息を吐く。


 夢とは全く思わない。

 カイとミリーナ、ルー、メリッサは確かにイグドラとベルティアに招かれ、ミリーナの曾祖母マリーナと神の世界で言葉を交わしたのだ。


 胸の上にはミリーナが眠っている。

 そして左右にはやや離れた位置にルーとメリッサが眠っていた。


 いつもぺったりと抱き付く二人にしては珍しくカイに触れてもいない。

 寝相でも悪かったかとカイが二人に手を伸ばすと動いたためだろう、ミリーナが目を覚ました。


「えぅ……」

「悪い。起こしたか」

「えう。カイと幸せな経験をしたえう」

「マリーナさんに感謝だな」「えう」


 ミリーナはふにゃりと笑い、カイに頬を擦り付ける。

 ミリーナも夢とは思っていない。互いに別の経験をしたとも思っていない。

 二人は自然にそれを語り、二人で静かに笑い合う。


 カイはふと思い付き、枕元の袋から魔炎石を取り出した。

 マナを込めると炎が宿る冒険者必携の発火アイテムだ。

 三個で銀貨一枚のそれにマナを込め、ミリーナが風魔法でそれを浮かす。

 マナを吸ったそれは赤く燻り、やがてポッと小さな炎を吐き出した。


「えう……!」


 ミリーナが目を見開き、そして涙を流す。

 ゆらめく炎が二人を照らす。


 それは小さな炎。

 しかし昨日まで決して見る事の出来なかった輝きだ。


 エルフを導く希望の灯が今、二人の前で燃えている。

 そして突如輝きと熱を失いカイの胸にポトリと落ちた。

 ミリーナが発動させた無の息吹だ。


 カイが予想した通り、やはり無の息吹は暴れる火からエルフを守る祝福だった。


「カイは、やり遂げたえう!」


 ミリーナがカイの唇を奪う。

 カイもそれに応えてミリーナを抱きしめる。


 二人を隔てるものは何も無い。

 もうミリーナが何をしてもカイは何も失わない。二人は思うがままに唇と舌を絡ませ、互いの熱さとぬめりに酔いしれる。


 やがてミリーナは唇を離し、カイの上で上体を起こした。

 二人は静かに見つめ合う。

 ミリーナがゆっくりと寝着を脱ぎはじめた。


「カイ……ミリーナの祝福を、受け取って欲しいえう」

「ミリーナ……」

「命は廻ると言っていたえう。ひいばあちゃんが来てくれるかもしれないえう。あったかご飯をいっぱい、いっぱい食べさせてあげたいえう」


 ミリーナの肩から寝着がするりと外れ、体を滑り落ちていく。

 滑らかで華奢なミリーナの肢体をカイは静かに優しく見つめる。


 初夜の時の狂おしい情熱は今は無い。

 あるのは相手へのあふれる想い。そして共に歩む確かな覚悟だ。


「ルーもメリッサも期待しているえう。だから場所を空けたえう」

「む!」「ふんぬっ!」


 ビクリと震える左右の妻にカイは苦笑し、ミリーナの腰に手を回す。

 まだ幼さの残る体を撫でながら優しく体を入れ替えて、脱ぎかけの服をすべて取り払う。

 そしてカイは、自らにまとわりつく邪魔な寝着を脱ぎ捨てた。


「ミリーナ」

「今夜が本当の初夜えう。ミリーナは祝福と共に本当の妻になるえう」


 カイはその夜、ミリーナを抱いた。

 まだ子を産める体になったばかりのミリーナは体を強張らせながらもカイを求め、二人は夫婦の契りを交わす。


 メリッサは寝た振りをしながら回復でミリーナを助け、カイが意識的に無の息吹を使うのを確認して次は私ですわとふんぬと服を脱ぎ散らかす。

 気が付けばメリッサの呪いも解けて、何も食べていなくてもピーになる事は無くなっていた。


 ルーが差し出すミスリルコップに満たされた水を飲み干し、カイは心身を回復させる。


 皆、待ちに待った初夜である。

 ハッスル半端無い。


 メリッサを抱き、ルーを抱き、またミリーナを抱き……夫婦の夜は朝まで続き、カイと皆は互いの体を心ゆくまで堪能する。

 コップ水とメリッサの回復強化が欲情あふれる皆を支え、カイは皆が満足するまで己の剣で戦い抜いた。


「ああ、私の回復と強化はこの時の為だったのですね……」

「お腹満足。満足お腹」

「これでひいばあちゃんが来てくれるかもしれないえう」

「そうだな。来てくれるといいな」


 満足なミリーナ、ルー、メリッサを撫でながらカイは頷く。


 ……が、そんな事にはならなかった。


 次の日。

 一緒に朝食を作ろうと天幕を出たカイ達は唖然とする事になる。


「……ソフィアさん?」

「お、おはようございます」

『かーちゃん』『かーちゃん』『かーちゃーん』


 ソフィアとバルナゥとの幼竜が三体も生まれていた。


 赤面するソフィアにかーちゃんかーちゃんと言いながらまとわりつく体長一メートルほどの幼竜達にカイ達はただ固まるしかない。


 種を選ばないだけでも異様なのにまさかの妊娠期間ゼロ日。

 なにこの不思議生物である。


 さっき子作りしましたと叫んで回っているようなものだ。ヤった事がバレバレであった。

 隣に座すバルナゥがやったぜといった感じで首を伸ばす。


『我とソフィアの子だ』

「「「「そんな事はわかってる」」」」


 驚きポイントはそこではないんだよと皆でツッこみソフィアに視線を移すとさすがに恥ずかし過ぎるのだろう、ソフィアが顔を覆い天幕へと転がり込んだ。


「ソフィアさん……」

「言わないで! ゆうべはお楽しみでしたねとか言わないで!」


 二体の幼竜がかーちゃんと叫びながらソフィアを追い、天幕へと潜り込む。

 赤裸々過ぎる夫婦生活にさすがのソフィアも余裕が無い。一ヶ月以上垂れ流しの羞恥とくそまずい狂気を戦い抜いた聖女も別方向の羞恥にはまだまだ弱かった。


 一体だけ残った幼竜は周囲をキョロキョロと見渡し、首を傾げ、父バルナゥを見てまた首を傾げる。

 やがてトタトタとミリーナに歩み寄り、大きな瞳を瞬かせながら聞いてきた。


『ミリーナ?』

「……まさか、ひいばあちゃん?」


 ミリーナの言葉に幼竜は首を伸ばしてクルルと鳴き、ミリーナに飛びついた。


『ミリーナ、ミリーナ』

「ちょ、本当にひいばあちゃんえう? エルフやめたえう? というか前世を憶えているなんてアリえうか?」


 まとわりつく幼竜マリーナにミリーナが叫ぶ。

 カイはそうなのかとバルナゥを見上げ、バルナゥはうむと頷いた。


『竜はベルティアの意を受けた世界を守る盾だ。ある程度は憶えておる。それにしても我らはなかなか子が生せぬというのに一夜で沢山生まれたものよ」

「ベルティアが言ってたぞ。竜とエルフは世界樹の生贄という評判だと」

『ははっ、なるほど我らが生まれぬ訳だ。だが汝がそれを打ち破った。これからは我ら竜も数を増やし、盾として世界の行く末を見守っていく事だろう』


 なるほどとカイが視線をミリーナに戻す。

 カイとバルナゥの見つめる先、ミリーナと幼竜が何とも微笑ましく戯れていた。


『ミリーナ、ごはん、ごはん』

「ウェルカムえうがせっかち過ぎるえう! あったかご飯は時間がかかるえう!」

『ごーはーんー』

「待つえうーっ!」


 因果応報。

 かつてカイがミリーナに悩まされた事でミリーナが悩まされている。

 マリーナもやはり元エルフ。ミリーナ同様せっかちだった。

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