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7-14 余も子の為に頑張るとしよう

「ベルガ、どうだ?」

「呪いが終わるのであれば私はそれで良い。他の長老への説得は共に頼むぞ」


 ベルガが良いと言うのであれば他の長老もそれで良いと言ってくれるだろう。

 エルネ、ボルク、エルトラネ、ホルツ以外のエルフの里がどう言うかは解らないが、少なくとも呪いを祝福に戻す機会を得る事が出来たのだ。


 何とか納得してもらおうとカイは心を決め、腕の中でえうぬぐホホホと笑う三人に頭をグリグリと押し付けた。


「よし! これでお前等の呪いは祝福に変わるぞ!」

「これで身も心もカイの妻えう!」

「まだ抱かれてもいないけど」

「ようやく私の尻の花をカイ様に摘んで頂けるのですね……ピー、ピー!」

「「なんていやらしい」」


 頭をグリグリと押し付け返してミリーナ、ルー、メリッサが歓声を上げる。


 これでイグドラを天に還す事が出来ればカイと三人の目的は達成できる。

 エルフの呪いはイグドラがエルフをどう思っているかが問題なだけに難しいと思っていたが、子への想いは両者共通。

 互いの子を尊重しようという落とし所は子を産めないカイだけでは達成できなかった。


 ミリーナ、ルー、メリッサ。お前達には助けられてばかりだ。


 カイは心の中で三人に感謝し、これからだと気を引き締める。

 イグドラを天へと還す戦いはまだ始まったばかりなのだ。


「まだ油断は出来ないけどな。異界畑を何としても成功させないと」

「カイなら大丈夫えう!」「これまでも大丈夫だった」「カイ様なら絶対です」

「いや、やるのは俺じゃなくてイグドラだから」

「ご飯で釣るえうよ!」「ん、ご飯最強」「あったかご飯なら無敵ですわ!」

「そりゃエルフだけだ」『さすがに釣られぬのぅ……』

「えうっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」


 ご飯で解決する問題ではなくご飯を解決する問題だ。

 畑で異界を育て、イグドラの力と世界樹の飯の種を確保する。


 この世界では到底まかなえないそれらをどうするかは結局イグドラ次第だ。

 カイはしょせんベルティアに選ばれた世界の代表に過ぎない。この方法で世界がどう変わるのかは完全にイグドラ次第なのだ。


『そうじゃな……』


 期待と不安の混ざった皆の視線を感じたのだろう、天のレンズが輝く。

 カイ達があまりの輝きに目を伏せ、やがて光が柔らかいものに変わった頃に恐る恐る瞳を開くと緑の長い髪をなびかせた少女が広間の中心に立っていた。


『余も子の為に頑張るとしよう』

「森の精、ドライアドか?」


 その姿を見たベルガの言葉にイグドラは頷く。


『汝らからはそう見えるじゃろうな。あれは余の姿を真似て作られ、余の名をベルティアが授けた者達。余は汝の言うドライアドではないゆえ……侮るでないぞ?』


 瞳にチロリとマナを輝かせて笑うイグドラにベルガがカクカクと強張り頷く。

 そこに見えるマナの輝きは小さなものであったがここにいるイグドラは本体の映し身だ。

 本体の宿したマナを思えば強張るのも無理は無い。姿はこれでも格は桁違いなのだ。


 ベルガの反応が心地よかったのだろう、イグドラはフフンと笑うと身だしなみを気にするように自らの体に目をやり始めた。


『余を導く汝等の首が心配故、久方ぶりに小さき姿を映してみたがやはり小さすぎるのぉ。そこかしこに歪みがあるがまあ仕方ない。どうじゃ? 楽になったであろう』

「上のレンズで投影しているのか?」

『そうじゃ。マナをこうググッと送って余の姿を縮小しておるのじゃ』

「ふむ……」


 カイはふふんと胸を張るイグドラをじっと眺め、ぐるぐると周囲を回り始めた。


『な、なんじゃ。余の体を瞳でなめ回しおって。変態か、汝は変態か?』

「いや、本当に大丈夫かな、と……オイルバグの一件でスケール感の絶望的な違いを目の当たりにしたからな」

『あぁ、そういえば何日か余が燃え盛っておったのぉ。しかしあのような事など生物なら当たり前の事、汝らの肌とて目に見えぬ細かな生き物がひしめいておるのじゃぞ? いちいち気にしておったら夜も眠れぬ』

「そうなのか?」

『生命とは基本相互依存。マナはそのようにぐるりと回るものなのじゃよ。異界の虫の一億や千兆、細かい事を言うでないわ』


 千兆って想像も付かない数なんですが。


 さらりと言うイグドラにどうにも不安を拭えないカイである。

 目の前に映されたイグドラの姿は年端も行かぬ少女の姿ではあるがこれでも神、ちょっとした感覚の違いが世界にどえらい影響を与える事をカイは嫌という程味わっているのだ。


 しかしこの精度で映し身を投影できるのだ、何とかなる、きっと何とかなる。


 信心は無いが無理に信用して、カイは腕を回して気合を入れるイグドラを見る。

 ここから先はカイには口しか出せない領域なのだ。


 ……これまでもそうだったが。


『よし!』


 しばらく腕を回したり屈伸したりして自らの調子を整えたイグドラは、腰に手を当て広間に周囲の砂漠を映し出した。


「うわっ!」


 急に空の上に浮かんだような錯覚にカイは足を竦めて三人にしがみ付き、足の裏に感じる確かな床の感覚に安堵する。


「もし落ちても風魔法で飛ぶから大丈夫えうよ」「水魔法でもだいじょぶ」

「ダメでも回復と強化でどうにかいたします」

「こちとら勇者でも何でもない薬草摘みなんだ。お前もいきなり妙な事するな」

『フン、地に足が付かぬ程度でビクビクするでないわ小心者め。汝は余に他の世界を足蹴にしろとほざいたのだ。見た目だけでも覚悟を見せい』


 足を震わせて文句を言うカイをイグドラは鼻で嗤い、ギラリと瞳を輝かせる。

 お前が言うなと思いながらカイは姿勢を正し、足の震えを気合で止めた。


 イグドラには是が非でも異界を食ってもらわなければならない。

 秩序ある異界の顕現と討伐を成し遂げてもらわなければ世界は異界あふれる狂気の世界に堕ちてしまうのだ。


 ご飯を煮込むように異界を顕現させ、それを食べるように討伐する。

 食事のようにそれを淡々と繰り返してもらわなければならない。椀によそう食物が異界であるだけの事だとカイは三人を支えにしっかりと床を踏みしめ、イグドラを見返した。

 それが食べられる者へのせめてもの礼儀だ。


 三人を支えにしっかりと見返すカイの魂にイグドラはそれなりの覚悟を見たのだろう、見渡す限りの砂漠の一点をじっと見据えた。

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