7-7 全てはカイの手に余る
「カイえう」「カイ」「カイ様」
「おいで」
カイ同様、不安なのだろう。
入っていいかと表情で聞いてくる三人をカイは招き入れた。
ミリーナはカイの左、ルーはカイの右、メリッサはカイの頭の後ろに移動してカイにぺっとりへばりつく。
「鼓動を聞くと安心えう」
「いつもピーがすぐに入り込むから今日は速攻。超速攻」
「すみません。本当にピーがすみません。あ、カイ様回復しますねふんぬっ」
メリッサの気合と共にカイを回復魔法が包み込む。
エルフの回復は大雑把だが強力。
カイの体から細かな疲労や筋肉の強張りが消えていく。
すっかりくつろいだカイは気持ち良く伸びをした。
「メリッサ、ありがとう」
「まだまだピーの方が上手ですが、私もピーに負けてはいられません」
「あぁ、野外なのに快眠なのはその為か。ピーもありがとうな」
「はい……ぷぷーっ!」「ありがとな。はい飴」「ぷーっ」
メリッサが来てから妙に体が軽いと思っていたが、ピーが毎夜回復をかけていたらしい。
欲望に正直なピーである。
「えうっミリーナも色々してるえうよ」「私も、私も」
「そうだな。ありがとう」
存在を主張するミリーナとルーの頭を撫でる。
何をしていたかカイは知らなかったが、そんな事はあまり重要では無い。
エルフはランデル付近の森では最強だから、いるだけで獣避けになる。
そんな者達に守られているだけで安心して休息できるというものだ。
「えうぅ……」「むふん……」
カイに撫でられ胸の上でふにゃりとしていたミリーナとルーは、やがて不安の瞳をカイに向けてきた。
「いよいよ明日えうね」「ああ」「カイ、だいじょぶ?」
「そういえばバルナゥの時のような圧迫感はまだ無いな。密度の違いか?」
竜峰ヴィラージュでは感じた強烈なマナはまだ感じない。
「ここはまだ入り口ですから。中心はヴィラージュ以上に濃いでしょう」
「またあの濃いマナを経験するのか……俺を支えてくれよな?」
「えう」「ん」
「もちろんですわ。このメリッサ、何があろうともカイ様を「「長い」」あうっ……」
相変わらずのツッコミをした後四人で笑う。
ひとしきり笑った後、ミリーナが本題を切り出してきた。
「……私達の事は後回しでいいえうよ」
「エルフの呪いの事か?」
「えう」「む」「はい」
ミリーナ、ルー、メリッサが頷く。
「カイは物語を無難に終わらせるえう。エルフの都合で不幸になる事ないえう。無理は絶対にダメえうよ」
「そんなに無理する気はないぞ。まあ、俺だけじゃ当然無理だけど」
「むむむカイ、何する気?」
「カイは時々とんでもない事をするから心配えうよ。栗の時とか」
「あれは俺のせいなのか?」「えう」「ん」「ぴぷぺぽ」「食っとけ」「ぷー」
カイはピーの口に飴を入れ、天幕の頂きをぼんやり見上げて呟く。
「まあ、結局ベルティアと世界樹次第なんだけどな。エルフの呪いを祝福に変え、世界樹の実を何とかして、世界樹を天に還す……」
「そんなうまい方法があるえうか?」
「む。そんな方法あったらエルフがとっくに使ってる」
「そうですわ、当時のハーの族はアトランチスを作り上げるほどの技術を持っていたのです。それなのに思いつかなかったとは思えませんわ」
「思い付いてもやらなかったんだろう。こんな方法エルフの手に負えないからな」
エルフの手に負えないなら当然カイの手にも負えない。
しかし世界樹やベルティアなら何とか出来るはずだ……
結局神々の都合は神々で何とかしてもらうしかないのだ。
世界の代表として選ばれた以上、思いっきり神をこき使うことにしよう。
「何するえう?」
「んー……地を耕す畑仕事だな」
「えう?」「むむむ?」「よくわかりませんわカイ様?」
三人のぬくもりに包まれながら、カイは心の中で呟く。
身の程を知れカイ・ウェルス。
そして全部ベルティアと世界樹に投げ返せ。





