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7-5 冒険者、エルフの参道を行く

「いないよな? いないよな?」

「そんなビクビクしなくてもいないえうよカイ」「むふん。ラブリーへなちょこ」「さすがカイ様ですわ!」


 世界樹の火が鎮火した後、カイ達は再び世界樹への聖なる道を進んだ。

 周囲にはまだ煙がたなびいている。

 無数のオイルバグをとことん燃やした結果は未だ地をくすぶらせ、今も燃える場所もある。


 誰もマナに願わなかった結果だ。

 異界のマナが世界のマナに変わる際に燃えていた事象が世界のマナに反映されているのだ。

 討伐によって世界はマナを取り返したが、燃えていようが何だろうが世界のマナは世界のマナ。状態にはあまり頓着しないようであった。


「火の心配は……いらないか」

「えう」「む」「はい」


 燃えている火はカイ達が近づくと瞬く間に消えていく。

 無の息吹だ。

 エルフの呪いであるそれは熱をマナに変えて奪う。

 聖なる道はエルフの呪いにより開かれ、カイを世界樹へと導いていく。


 見上げる世界樹は燃やす前より鮮やかだ。

 つやつや、てかてか。

 カイとカイツースリーは緑あふれる枝葉を見上げ、盛大にため息をついた。


「結局、世界樹は火に対して何もしなかったな」

「寄生虫が燃えて自分が燃えないなら、そりゃ消さないだろ」

「やっぱ風呂扱いか。すっきりしたとか言いそうだな」


 オイルバグはもういない。

 火の粉でも簡単に燃え上がる奴らはほぼ全て燃えてしまったらしい。

 エルフのマナを見る力でも全くその存在を感知できておらず、もし生き残っていても世界樹に近づく事は出来るだろう。


「いやぁ、うまくいって良かった」

「えう」「む」「良かったですわ」


 カイは本当に燃えて良かったと胸を撫で下ろした。

 燃えなかったら冗談抜きで繁殖で対抗しなければならなかったと、カイは周囲を固める妻達をぐるり見て安堵の息を漏らす。

 戦う為にポコポコ子作りとかしたくない。

 するならご飯を食べて笑うためにしたいものだ。


「ここから根の隘路だと思う。根と根の間を縫うように進む狭き聖なる道は世界樹の洞まで続いている」


 ベルガは説明しながら魔光石にマナを込めた。

 ベルガの手の上で魔光石が輝く。

 ミリーナ、ルー、メリッサも同じように魔光石にマナを込め、カイは魔光灯に指輪で消耗した屑魔石を入れて新しい屑魔石を指輪にはめ込んだ。


 マナを込めた魔光石と魔光灯が暗い根の陰を明るく照らし出す。

 ベルガの言葉の通り根の隘路なのだろう、根の下には灯篭が点々と続いていた。


 幅十メートル、高さ五メートルほどの道には根の圧力から道を守る為の支柱と梁がめぐらされ、馬車でも通れるような空間が確保されている。

 かつてのエルフはここを通って世界樹の世話をしていたのだろう。


 世界樹は非常識な大樹。枝葉の下に入っても幹までは遠い。

 世話するエルフも大変だっただろう。

 いくら崇拝の対象であっても利便性を考えるのは当然と言えた。


 道は数百万年もの間、誰も使っていないのにその姿を維持している。

 根は道を侵食してはいたが支柱も梁も少しも曲がってはおらず、道をぐるりと囲んで圧力から道を守っていた。


「オルトランデルとはえらい違いだ」「木の根っこでボロボロだもんなぁ」「アトランチスもそうだったが、ここも相当デタラメだな」


 カイとカイツースリーが感心する。

 アトランチスもすごかったが世界樹の圧力に耐えるこの道も凄まじい。

 いったい何で出来ているのだと思ってしばらく観察してみたが、ミスリルでは無い事くらいしか分からなかった。


「まさか、これがオリハルコンなのでは?」

「俺に聞かれてもなぁ……」


 ベルガが息まいていたがそんな事がカイに分かる訳も無い。

 とりあえずオリハルコン(仮)と命名してカイ達は根の隙間に続く道を進む。

 道は平坦で歪みもわずか。

 何かしらの魔法が行使されているのだろう、道にはゆるやかな風が吹き、空気の循環が行われていた。


 一夜で緑に屈したオルトランデルの大通りを知る皆は今でも馬車で通る事の出来るこの道を作り上げた当時のエルフの技術に脱帽だ。

 ただの道なのに一行はへーほーと感心しながら根の隘路をゆっくりと歩き、時折小さな怪物を討伐して魔石を願い、当時の根を避けるためと思われるくねくねと曲がる道を進んでいく。


「隘路というより、トンネルだな」

「洞窟えう」「当時のエルフすごいすごい」「さすが御先祖様ですわ!」


 道はすでに根に完全に覆われ、トンネルとなっている。

 しばらくすると眼前に半球形の空洞が現れ、広い空間が一行を迎えた。


「ここは?」

「おそらく当時の拠点だろう。人も物もアトランチスから逐一持ってくるのは手間だからな」


 照明の魔力刻印が天井に輝き、周囲を明るく照らしている。

 昼間のように周囲を照らすそれは世界樹からマナを供給されているのだろう。

 しかし数百万年もの無整備稼動は当時のエルフの技術でもきつかったらしく、ところどころ光を失い無残な姿を晒していた。


「ここで寝泊りしていたえうか」

「む。そんな感じの建物ある」

「当時はここも活気があったのでしょうが、今は寂しいものですね」


 当時は賑やかであっても今はアトランチスやオルトランデルと同じ廃墟だ。

 人もエルフもいない建物は、寂しく虚しくその姿をカイ達にさらしていた。


 カイはここで休む事を決め、カイスリーが百メートルほど通路を戻ってかまどを設置する。

 分割できるカイスリーは一人で警戒と煮込みが出来る便利なカイである。


 他の者は煮込みの間半球体の中を探索し、残されたミスリル製のどうでも良い残骸の中から見取り図の刻まれた板を発見した。


「この道で合っているようだな」

「幹を中心に回廊がいくつかと、放射状に連絡通路……こんな道がそこら中にあるのか。恐るべし当時のエルフ」

「本当にすごいえうね」

「そして呪い怖い怖すぎる」

「今のハーの族は……すみませんごめんなさいピーでごめんなさい」

「そんな事、謝らなくていいから」


 芋煮を食べながらぺこぺこと頭を下げるメリッサをカイはなだめ、見取り図を眺めてこれからの道筋を確認する。


 ここから世界樹の洞までは遠くない。

 普通に歩けば二時間程度。急げば一時間程度だろう。

 そこで世界樹と対話する事になるだろう。


 目的は三つ。

 一つ目はベルティアにぶん投げられた世界樹を天に還す事。

 二つ目はバルナゥに言われた世界樹の実をどうにかする事。

 三つ目は妻達と約束したエルフの呪いを祝福に戻すか無くす事。


 世界樹の実を何とかしないと世界が異界に沈む。

 世界樹のご機嫌をとらないと妻達との約束が果たせない。


 それにはベルティアにぶん投げられた世界樹を天に還す事が必要になるのかもしれない。

 世界樹は元々神。世界に存在する事がおかしいのだ。


 こんなの、何とかできるのか……?

 というか、なんで俺が何とかしないといかんのだ……?


 カイは芋煮を食べながら嘆息する。

 可愛い妻達とのハッピーライフのためにはベルティアの都合を何とかしなければならない。

 カイ的にはこれが一番どうでも良い事である。

 神の事は神の間で何とかして欲しいとカイは思うのだ。


 人やエルフごときで神をどうこうできるものなのか。

 あれだけの火で燃やしてもケロリとしている別次元の超生物をカイにどうしろというのか。

 バルナゥにアトランチスへと導かれ、エルフの悔恨に触れ、妻達の決意を受けてカイは無理を押し通そうとは決心したが人はどこまで行っても人でしかない。

 カイは人間。神ではないのだ。

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世界樹エルフ
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