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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
6.エルフの悔恨を追え
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6-8 妻達はカイと共に歩みたい

「お、おい!」

「カイ、弱いお前が先に行くな!」


 ベルガが追いかけようとするカイを止め、先に階段を駆け下りる。


「ほら行けカイ」「横と後ろは俺らと二頭にまかせろ」

「……ああ!」


 ぷぎー、ぶもー。


 ベルガの後にカイが続き、カイツースリーが剣を手にそれに続く。

 二頭も鳴きながら駆け下りた。


 妻を真っ先に追いかける事もできないのか。俺は……


 ベルガの言う通り、カイは弱い。

 ゴブリンと鉢合わせたら勝ち目は無い。後に続くしかないのだ。


 エルフは同数ならゴブリンごときに後れをとる事はない。

 しかし今、ゴブリンを相手にする必要は無い。

 それよりもっと重要な事があるのだ。


 呪いを移す事になぜ、ここまでこだわる……?


 理由もわからず、カイは守られながら階段を駆け下りる。


 一層、二層、三層……警戒を皆に任せてカイは螺旋階段をぐるぐる回る。

 通り過ぎる層にゴブリンはいない。

 痕跡が残るのみだ。


「えぅーっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬぅ!」


 はるか下でゴブリンを求めるミリーナ達の速度は速く、カイの能力では追いつけない。


「遅いな俺! 担ぐぞ!」「頼む!」


 カイスリーがカイを担ぎ、段を飛ばして駆け下りる。


 とにかく、今は追いつく事だけを考えろ。

 ゴブリンの事は遭遇した時に考えればいい。


 カイと皆は周囲の警戒を止めて螺旋階段をくだり、落ちるように駆けた。


 カイツースリーとエルフは冒険者等級としては大体同じ。

 ゴブリンを捜してない分こちらの方が速いはずだ。


 十層、二十層……

 駆け落ちるほどにミリーナ、ルー、メリッサの叫びと足音が近付く。

 カイはまだゴブリンと遭遇していないと安堵し、少し下を駆ける三人に叫んだ。


「待て!」

「嫌えう!」「嫌!」「嫌ですわ!」


 こんな時ぐらい待ってくれ!


 カイは再び叫んだ。


「なぜそんなにゴブリンにこだわる?」

「呪いを広げないといけないえう!」

「異界の怪物なら世界に迷惑かからない。孕ませ怪物かもーん!」

「なぜだ?」

「私達はそうしなければならないのですカイ様。たとえその望みがわずかでも!」

「望み? 何が望みだ?」

「ミリーナはカイの妻えう!」「私はいい人!」「尻の花を摘んで頂く方はカイ様おひとりと、心に決めております!」


 何をいきなり……


 そう思うカイの耳にミリーナの泣き叫ぶ声が届いた。


「カイの妻えう! カイの妻になるえう! あったかご飯を食べるえう!」

「もう妻だろミリーナ!」

「でも首輪なくなった。もうカイは呪いを受ける必要ない!」

「元に戻っただけだ!」

「私達はもう、元に戻るのは嫌なのです!」


 カイの叫びにミリーナ、ルー、メリッサが叫ぶ。


「カイ様のように足掻いて、足掻いて足掻いてかつてのエルフと世界樹の争いを終わらせて、カイ様に並び立つ私を目指すのです!」

「呪いを広げて世界樹を天に還して、子供と笑える妻になるえう!」

「だからゴブリン捜す!」

「えうーっ! ゴブリン出てこいえうーっ!」「ぬぐぅ!」「ですわーっ!」

「お前ら……」


 そのために、ゴブリンを求めていたのか……


 カイスリーに担がれながら、カイは自らの首筋をなでた。

 夫婦となった時にはあった、贄の首輪は今はない。

 バルナゥ討伐のとき勝手に外れたそれはブレスに滅ぼされ、今はもう世界のどこにも存在しない。

 三人の言う通り、カイがエルフの呪いを受ける必要はどこにもない。


 それをカイは外れて良かったとしか思っていなかった。

 しかしミリーナ、ルー、メリッサは、あの日の初夜が夢と消えたと思っていた。


 だから三人は自らの呪いを終わらせる事で、もう一度その関係に戻ろうとしているのだ。

 カイを呪うのではなく三人が呪いを解く。

 そしてカイと並び立つ。

 その望みがわずかでも、並び立つためにはそれしかないと考え実行しようとしているのだ。


 ミリーナ、ルー、メリッサ……ありがとう。

 しかし……


 カイはそこまでの想いに驚き、感謝すると共にしかし……と思う。

 三人は根本的な所を間違えている。

 三人の考え通りに事が進むなら、とっくの昔にエルフは人間や怪物を呪っていただろう。

 その程度で世界樹が神の座に還れるならば、とっくの昔に還っているだろう。


 そして、バルナゥの言う通りならば……

 世界樹は、神の座に還る為に力を使わないだろう。


「呪いは終わらない!」


 駆け落ちるカイスリーに抱えられたままカイは叫んだ。


「どれだけ捧げても奴は全てを実に送る! かつてのエルフは、ベルティアは肉の呪いを甘く見た。バルナゥは奴が再び実をつけたと言った。エルフから奪った力でもう一度実をつけたんだ! 奴は実を、子を地に根付かせるまで決して諦めない。エルフから奪った力で実をつけ続ける! 何度でも、何度でもだ!」


 階下で響く足音と雄たけびはもう止まっている。

 カイは叫び続けた。


「だから呪いは終わらない! 奴は終わらせる気など全く無い! 俺達がやるのは奴を天に還す事! 呪いを祝福に戻す事だ!」

「追いついた!」


 ベルガがミリーナ達を見つけ、その場に留めるように駆け下り道をふさぐ。

 どれだけの層を降りただろう、回り続ける螺旋の上で三人は呆然とカイを見上げていた。


「カイえぅ……」「カイ……」「カイ様ぁ……」

「泣くな!」


 カイスリーから降りたカイは三人を抱きしめた。

 三人はカイの胸と肩に顔をこすり付け、涙と鼻水をなすり付けながら泣く。

 厚手の布に染みこむ熱と涙と鼻水に、カイは力の限り三人を抱きしめ叫んだ。


「俺が何とかしてやる!」


 もうベルティアの物語などカイにとってはどうでも良い。


「ベルティアに選ばれた俺がお前らの呪いを祝福に変えてやる!」


 いつものように鍋にぶっこんで煮込め。

 ベルティアだろうが物語だろうが煮込んでやる。世界樹を薪にしてしこたま煮込んで煮込んでやる。


 そして皆であったかご飯を食べるのだ。

 カイは抱きしめた腕をゆるめず大きく息を吐き出して、泣き続ける三人に言った。


「俺達が立ち向かう相手はゴブリンじゃない。目と鼻の先にいる世界樹だ」

「えぅ……」

「奴と話を付け、エルフの呪いを終わらせる」

「ぬぐぅ……」

「ミリーナ、ルー、メリッサ……頼む。俺を支えてくれ」

「も、もちろんですわカイ様。私の全てを捧げても支えきって見せますわ」

「葉には、なるなよ?」

「そ、それは……はい」「えう」「む」


 カイは腕を緩め、三人は顔を上げる。

 そう、これはベルティアの物語。

 カイ達の物語ではない。


 カイ達にはカイ達に相応しい、ベルティアと関係なく紡いでいく物語がある。

 厄介だ迷惑だと騒ぎながらも楽しかった、ランデルでのあったかご飯の日々。

 それを取り戻すまで、今はベルティアに付き合ってやるだけの事だ。


 カイは腹を決める。

 自分にはもったいない妻達の前で無理に格好付けようと。

 そのために足掻いて足掻いて足掻き続けようと。


「戻ろう」「えう」「む」「はい」


 三人はカイから離れ、螺旋階段を登ろうとしたその時……階下で何かが叫んだ。


『エルフ!』

『エルフがいるぞ!』


 耳障りの悪い声がカイの耳に届く。

 その声を受け、ベルガが身構え叫んだ。


「ゴブリンだ!」

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よろしくお願いします。
世界樹エルフ
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