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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
6.エルフの悔恨を追え
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6-4 墓所に潜むは灰色小鬼

「ゴブリン……?」


 ベルガの言葉にカイが呻く。


 ゴブリン。

 有名な異界の怪物の一種。

 暗く狭い場所を生息場所とするその怪物は人の子供くらいの灰色小鬼であり、体躯に合わないサイズの剣や棍棒を振り回し逆に振り回されて回ったり転がったりする少し頭の弱い印象の怪物だ。


 しかし人間の大人を上回る怪力の持ち主であり、初めて遭遇した下級冒険者は小柄な体躯と動きの滑稽さと頭の弱さに侮り、そして怪力に命を落とす事例がたびたび報告されている。

 熊や狼などの獣よりもはるかに強いゴブリンの適正討伐階級は銅級以上。中級冒険者が適正階級とされていた。

 ぶっちゃけ、カイよりもずっと強い怪物だ。


 そしてもう一つ、厄介な事が報告されている。

 ゴブリンの殆どは雄、オスなのだ。


 雌、メスはゴブリンの雄よりも大きく強いゴブリンクィーンという上位種。

 金級以上討伐推奨のゴブリンクィーンは最も強い雄ゴブリンを番として繁殖するが、他の雄ゴブリンが繁殖をしない訳ではない。


 しかし雌ゴブリンは弱い雄など相手にしない。

 では、どうするか……


 他の生物の雌を繁殖相手にするのである。


 異界から現れたゴブリンは世界から見れば曖昧な存在だ。

 本来、生命の繁殖は厳密。

 しかしそれは同じ世界の生物の場合であり、異界の怪物は曖昧なためその厳密さが適用されない。

 人間だろうがエルフだろうが獣だろうが、ヤられれば子を宿すのだ。


 下級の女性冒険者がゴブリンに敗れて巣に連れ込まれ、子供を宿す……ランデルの冒険者ギルドでも時折報告のあった事例である。

 妊娠期間はわずか三日。子は当然異界のゴブリン。

 繁殖という手段で世界のマナを奪う怪物。それがゴブリンという灰色小鬼であった。


「まあ、そういう訳だ」


 神殿に向かい歩きながらベルガは胸糞悪い話を終え、長いため息を吐いた。

 下層の墓所に巣食うゴブリンの話にカイは顔をしかめ、自分の左右と後ろを守るミリーナ、ルー、メリッサのゴブリンとの戦いを想像して身震いする。


「それは、キツいな……」


 カイの背中にじわりと嫌な汗が溢れる。

 何とも胸糞悪い怪物だ。

 エルフの能力はゴブリンを上回る。一対一なら負ける事はないだろう。

 しかしこのゴブリンという怪物、とにかく数で攻めてくるのだ。


 十匹以上で襲われては全てに対処出来ない。

 いくら能力で上回っていても抱き付かれて押し倒されるだろう。

 そしてゴブリンより弱いカイを守る限り回避という選択肢は無い。

 カイがいる限り襲われれば絶対に戦わなければならないのだ。


 世界樹の守りはゴブリン達の攻撃を防ぐだろうが意に沿わない繁殖行為にも発動するのだろうか……カイは考え、無いだろうなと首を振る。

 力を吸い取る世界樹からすれば、呪いの対象は多ければ多いほど良いからだ。

 世界だろうが異世界だろうが呪って力を吸うだろう。


 やばい。すげぇやばい……


 さらに言うならジョセフィーヌとクリスティーナも雌である。

 せっかく懐いた彼女ら二頭をゴブリンの餌食にしたくはない。


 しかし数に勝る相手に対する事は非常に難しい。

 実力に劣る場合は不可能と言っても良い。

 ビルヒルト討伐戦のような無限回復無限魔撃の力技は今回使えない。

 墓所の文言が読めなくなったら困るからだ。


「この階段を上れば、神殿だ」

「あぁ……」


 神殿に続く階段をゆっくりと上りながらカイは悩むが、答えは見つからない。


 カイはどう足掻いても下級の青銅級冒険者でありアレクのような勇者ではない。

 確実な事を地道に淡々と繰り返す冒険者なのだ。

 ミリーナ、ルー、メリッサに守られる立場のカイは戦いにおいては足手まといであり、何の役にも立たないへなちょこであった。


 一行は長くゆるやかな階段を上り終え、神殿の巨大な門を潜る。


 カイは百メートル以上はありそうな天を衝く尖塔を眺めながらどうしようと考え、髪の毛一本差し込めそうもない緻密な石畳を踏みしめながらどうしようと考え、千人以上は入るであろう神殿の豪奢な装飾を眺めながらどうしようと考え、突き当たりにある巨大なガラス窓から見える砂漠と砂埃に染まる空を眺めてどうしようかと考えた。


 しかし答えは出てこない。

 墓所へと続く下りの階段の前でカイは立ち止まる。

 階段は広く、螺旋を描いて暗い下層へと続いていた。


「ここからが墓所となる。皆、ゴブリンに気を付けろよ」

「えう」「む」「はい」

「……」


 ベルガがゴブリンの巣と言った墓所への入り口が、カイの足元に口を開けている。

 カイはしばらく考えて、アレク達を待つ事にした。

 墓所の文言を安全に調べる手段が無いからだ。


 竜峰ヴィラージュの別れからすでに三週間。

 バルナゥを救う戦いは戦況有利。

 と、向こうに残した分割カイスリーからこちらのカイスリーへと報告されていたが、未だバルナゥを救い切れてはいない。


 だが、アレクならきっとやってくれる。

 ここはアレク達が駆けつけるのを素直に待とう。

 ソフィアさんの防御魔法があればかなり安全に事が進められる……


 カイはそう考え、カイスリーに連絡を頼もうとしたその時。

 ミリーナ、ルー、メリッサが意気揚々と決意を口にした。


「えう! ついに特訓の成果を見せる時が来たえうよ」

「む! 満足にご飯も食べられない苦しみを奴らに知らしめる時」

「ホホホホホ! ハーの族のラリるれろをその身に受けるがいいですわ!」

「……へ?」


 なぜか三人ともヤる気満々であった。

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