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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
6.エルフの悔恨を追え
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6-3 飯と狂気と実りに踊れ

「さすがバルナゥ。なんという素晴らしい血だ」

「いえカイ様それもさすがに……」


 さすがは竜の血のマナ密度である。

 怪物も現れず実りもたわわ。

 カイは掘り出した芋を軽く洗い、鍋にかけてぐつぐつ煮込む。


「さすがカイえう!」

「む! これぞご飯素晴らしい!」

「美味しいですわ! 素晴らしいですわ!」

「うまい……さすがは我らエルフのあったかご飯の人」

「その呼び方はやめい」


 リベンジで煮込んだ鍋は皆の絶賛を獲得。

 久しぶりの芋煮に皆は涙を流して食らいつく。


 あったかご飯の人の名声と妻の信頼を取り戻したカイはこの方法で畑を作ると宣言してヘルシー鍋をトイレに設置、皆の協力を得て畑の拡充に着手した。


 土ならくそまずくても何の問題も無い。

 しかもヘルシー効果の土は作物にもヘルシーでルーの発酵もメリッサの栽培も食いつき抜群である。


「ご飯を食べるなら耕すえう!」

「む。働かざる者食うべからず。獣も働く当たり前」

「竜の血で元気マシマシですわ!」

「……すまん!」


 ぷぎー! ぶもー!


 さながらフォアグラのように強制的に血を飲ませた獣の活躍もあり畑は順調に広がりを見せ、こちらに来てから二週間後にはエルフの力で皆が満足な食生活を営めるまでに至った。


「えう! 薪も果物もガンガンいくえうよ!」

「水とペネレイはまかせて」

「やりました。やりましたわカイ様!」

「もうちょっと開墾して蓄えたら悔恨を追うぞ。皆、もう少しだ!」

「蓄えるまでは私も付き合おう!」


 ガブリ……皆でくそまずい竜の肉を噛みちぎる。

 もはやこのくそまずさは絶望の味ではない。

 たわわな実りをもたらす希望の味である。


「まずい!」「まずいえう!」「む! まずい!」「まずいですわ!」

「何度食べても、まずいな!」


 一行はまずいくそまずいと叫びながら食い、出し、耕し育てて実りに踊る。


 砂漠の一点に突然現れたマナあふれる地にサンドワームが群がるが、屈強なエルフとカイよりずっと強いカイツースリーの剣の前に敗れて畑の肥やしに変わる。

 竜のマナマシマシ、異界のマナマシマシの畑を前に皆はしこたま働いた。


 さらに一週間後、カイ達は一ヘクタールほどの畑の開墾に成功していた。


「お、肥料がまた来たぞ」

「サンドワームえうね。あったかご飯に一品追加えう」

「散水も兼ねて水魔撃ズバンいく」

「やりすぎて畑を壊さないようお願いしますわ」

「ん……ふんぬ!」


 ギョアーッ……

 撃ち抜かれたサンドワームが水魔法の飛沫彩る虹の下、断末魔の叫びを上げる。

 畑に寄ってくる怪物はすでに肥料扱い。

 願うのは肥料木炭魔炎石屑魔石を大量に。カイもよく使う消耗品の供給も万全万端だ。


 アトランチスの一角に確保した拠点六ヶ所それぞれに二週間程度の食料燃料備蓄を貯め終わり、メリッサの為のドライフルーツもすでに万全。

 メリッサは常に食べていなければピーになる。

 状況によっては竜の肉を食べてもらう事になるかもしれないが食に不安が無くなったからだろう、メリッサは快諾してくれた。


 そろそろエルフの悔恨を追わなければならない。


 広大なアトランチスの一角で食料確保に右往左往していたカイ達だったが、これからは全域の捜索に本腰を入れねばならない。

 こちらに来てから三週間と少し。

 時間をかけ過ぎたと思わないでもないが、おかげで拠点の備蓄は万全だ。


「我らが目指す悔恨はアトランチスの地下にある」

「地下?」


 捜索する場所のアタリはベルガがすでにつけている。


 竜の肉は干し肉に加工し、血は固めたものを適度に割ってそれぞれが持つ。

 くそまずい血肉は誰も食料と思っていないから、痛みが早まる事もない。


 ぷぎー、ぶもー。


 色々頑張ってくれた獣二頭は荷物運びに連れていく事にした。

 猪がジョセフィーヌ、竜牛がクリスティーナ。

 苦難を共に過ごした二頭を食べるのは飢えた時にしようと皆で決め、心が読めるメリッサが飼い慣らして今は貴重な荷物持ちだ。


 ちなみに両方雌である。

 ミリーナ、ルー、メリッサといい二頭といいエヴァンジェリンといい、何ともバランスの悪い出会いにこれがベルティアの物語かと唸るカイである。


 まさかバルナゥも雌じゃないだろうなと思っていたら竜は全て雄らしく、どの種とも子を生せる万能超生物との事。世界樹やベルティアに近い存在ゆえに種の垣根が低いらしい。


 畑は最後の収穫の後放置して、サンドワームをおびき寄せるために使われる。

 マナの濃い場所に群がる怪物は畑に群がる事だろう。

 これで探索時の安全性も上がるというものだ。


「畑の土は持てるだけ持っていこう」

「植木鉢えう」「む。どこでも栽培」「ヘルシー鍋で肥料も万全ですわ」


 アトランチスで集めた鍋に畑の土を入れて二頭に吊るす。

 トイレと化したヘルシー鍋のマシマシ肥料とあわせて即席栽培植木鉢の出来上がりだ。


 装備は万全、士気は最高、頼れる二頭は沢山運ぶ。

 出発前夜にしこたまご飯を食べたカイ達は朝日が昇ると竜の血を口に入れ、まずいくそまずいと叫びながら体調マシマシでベルガの先導に従い歩き出した。


「ベルガ、どんな所なんだ?」

「世界樹を祭る神殿の廃墟だ……ああ、言っておくが聖樹教の事ではないぞ。あれはエルフとは何の関わりも無いからな。この呪いの事もあるが、我々エルフは人が言葉を使うずっと前から世界樹と関わりがあったのだ」


 ベルガは淡々と語りながらアトランチスの通りを歩く。

 その後にカイが続く。

 前にベルガ、左右にミリーナとルー、後方にメリッサが歩き最も弱いカイを体を張って守る態勢だ。


 そこから十メートルほど離れた距離でカイツースリーが荷物を背負い、二頭の手綱を引いて食材の痛みを抑えて付かず離れず歩いていた。


「場所はこの都市の中心、天を衝く尖塔が印象的な巨大建築物だ。はるか太古に建築されたそれがまだ当時の姿を残しているとはミスリルとはすごいものだな。一部にはオリハルコンも使われているらしいが」

「え? あれって神話のホラ話じゃないのか」

「ま、まあ私も見た事は無いが……それくらい使わないと何百万年も維持できないだろ」

「そうかもなぁ」


 以外な言葉にカイが聞き返し、ベルガが自信なさげに言葉を濁す。


 オリハルコン。

 もはや伝説でしか存在しない物質の名だ。

 何にでも変える事が出来、かつ何の干渉にも変わる事の無い変幻自在かつ不変の矛盾物質として伝承されている。

 カイは眉唾だと考えていた。


 しかしエルフに伝承されているならば事実かもしれない。

 カイは認識を改めると共に絶対に関るまいと決意する。

 薬草人生は諦めたが能力相応人生を諦めてはいないのだ。

 ベルガが話を続けた。


「注目すべきはその神殿の地下。そこには何百層もの墓所が作られているそうだ。下に行くほど世代は古く、層が埋まると古い層を押し下げて新たな層を追加した。すごい技術だが我らの目的はこの都が放棄される前後の比較的新しい層なのでせいぜい十層程度と私は推測している」

「墓か……」

「知っていると思うがエルフは死ぬと世界樹に食われてマナに還り、その時の願いにより世界樹の葉が遺される。だから墓に亡骸は無く、あるのは故人の遺言だ。この時代のエルフはマナに還る前に自らの言葉を墓所に記して墓とした。残された者はそれを見て故人をしのび、自らの想いを墓に記すのだ」

「つまり、この呪いに関して記された墓があるという事か」

「そうだ。おそらくこれがバルナゥの言う悔恨だろう。かつてのエルフは何をして、どう後悔したのか……私は失われた言葉がそこにあると考えている」


 神殿の地下にある墓所。

 そこにバルナゥの言うエルフの悔恨があるらしい。


「世界樹の実はくそまずいとバルナゥは言ってたえうが、エルネではすげえ美味いと伝わっているえう」

「む、誰かが嘘ついた?」

「呪いの元凶世代の言葉がまともに伝わるとは思えません。どの里でも原因を作った世代のエルフは嫌われているのでは?」

「えう」「む」


 ミリーナがバルナゥとエルネの食い違いを語り、メリッサの言葉にルーと共に頷く。

 ベルガは少し考えてメリッサの言葉に頷いた。


「そうだな。ホルツの里でも恨まれていた。だからこれは良い機会だと思う。ただ……」


 ベルガの口調が重くなる。


「ただ一つ問題があるんだ」

「何だ?」


 問題と聞いてカイはうわぁと思ったが、聞かない訳にもいかない。

 ベルガは沈黙の後、何とも苦々しく言葉を吐き出した。


「今の墓所は異界の怪物……ゴブリンの、巣なのだ」

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世界樹エルフ
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