6-2 こんなの芋煮じゃないえうううううぅう!
「もうこうなったら土から作るしかない」
そしてカイは今、土作りの真っ最中であった。
ヘルシー鍋は今は肥溜めとなり皆の出した色々が入っている。
鍋の力でヘルシーなそれに竜の血を匙一杯入れマナをマシマシ、薪と炭を細かく砕いた木くずと砂漠の砂と灰と水を混ぜてルーのそばで発酵させる。
カビと菌のエルフであるダークエルフは見えない作物育成のエキスパート。
小一時間ほどでマナがバンバンあふれるヘルシーな土っぽいものが出来上がった。
「メリッサ、ここに芋を作ってくれ」
「カイ様、ここに作るのと私の尻で実りを得るのと何が違うのでしょうか?」
「いや、ヘルシーだから。きっとヘルシーだから」
「意味がわかりませんわ!」
もはやカイも自分が何を言っているのか解らないほど追い詰められている。
発酵という命とマナの循環をこなしたヘルシー鍋と出しただけのメリッサの尻では偉い差があるのだがカイもよく解っていない。
もうヘルシーならいいじゃんか。くらいのやけっぱちである。
そしてメリッサにもあまり余裕は無い。
カイが頭に授けた飴は残り少なく、竜の血よりはるかにまずい竜の肉をちびちび食べて何とか正気を保つメリッサはあまりのくそまずさに正気と狂気の区別が危うくなっていた。
「頼むメリッサ」
「わ、わかりましたわ。ふんぬぅ!」
竜肉パワーをふんぬとかけて土に芋の芽を生やし、ぐぬぬとかけて育てていく。
メリッサが力を込める度に葉は茂り、蔓はうねりながら鍋からあふれて踊りだす。
瞬く間に見事な姿を見せていく芋の姿にカイとメリッサの表情が輝く。がっつりとした実りにたまらずハイタッチだ。
「やりましたわカイ様!」
「さすがメリッサ!」
たわわに実った芋を掘り出し軽く洗って鍋に入れ、ルーからペネレイをもらい、携帯食料と薬草をぶっこんで煮込む事二時間。
ぐつぐつ煮立つかぐわしい香りの芋煮が見事に出来上がった。
「今日のご飯はおいしそうえう! つ、妻が薪作りをがんばったからえう!」
「ヘルシー土とペネレイはカイのいい人の力作。すごいすごい」
「ホホホホホ。私とカイ様の愛の結晶、美味な芋にむせび泣きなさい」
「おぉ、き、今日は芋煮か。血でなくて良かった……」
皆が集まった所で椀にご飯をよそい、ポコポコ頭に当てていく。
ミリーナは香りに涙し、ルーは温かさに笑い、メリッサは自らの芋に自信満々。
ベルガは血でなくて良かったと半泣きだ。
そして皆が匙で芋をすくい、口に運ぶ。
「「「「「んぐ!」」」」」
カラン……カラカラカランッ……
皆の匙が地に落ちた。
まずい。
あの竜の血並にくそまずい芋だ……
一口食べたカイは呆然。
ヘルシー効果で元気マシマシ。しかしまずいくそまずい。
どうすんだこれ……
眩暈がするような味にたまらずカイが椀を床に置くと、皆はすでに椀を床に置いていた。
「こ……」「こ?」
「こんなの芋煮じゃないえうううううぅう!」
「ああっミリーナ、ミリーナッ!」
「これはひどいくそまずさ。ヘルシーでもくそまずいのは嫌。ペネレイ返して」
「ああっルー、ルーッ!」
ミリーナは絶叫と共に駆け出し、ルーは転がりながら去っていく。
カイツーとカイスリーが慌てて二人を追っていく。
ベルガは無言で席を立ち、場にはメリッサとカイが残された。
「カイ様……」
「すまん。メリッサがせっかく育ててくれたのに……」
「私こそ美味しく育てられず申し訳ありません。ですがこれはあまりにまずく、私もそろそろ狂気に負けてしまいそうです。しかし悪い事よりも良い事を考えるのがエルトラネ! ビバ、ポジティーブぐぅへぇへぇーっ、ああっ、砂が焼き菓子のようですわぁカイ様ぁうふふーっ」
「それはポジティブじゃねえ! メリッサ戻ってこーいっ!」
狂気の世界に飛んでいくメリッサの体をゆっさゆっさと揺らしてカイが叫ぶ。
ここでメリッサがあっちの世界に行ってしまったらカイはもう孤立無援。
残り少ない頭の飴を取り出し無理やり口に放り込み、メリッサを正気につなぎ止める。
遠くで見ているミリーナとルーがえうぅぬぐぅと唸っているなどカイの耳では聞き取れない。メリッサを正気につなぎとめたのは良かったが新婚旅行で離婚する勢いで破局は進行中であった。
「しかし、なんでこんなに芋がくそまずいんだ?」
「あの鍋で栽培したからではないでしょうか?」
「つまり鍋のヘルシー効果が反映された、と」
「はい」
「くそぉバルナゥめ、なんという面倒臭い血肉なんだ」
「いえカイ様、それはさすがに……」
しかし土作りはうまく行った。
怪物は現れていないのだから樹木の育つメリッサ畑に撒けば実りが期待できるかもしれない。
土のヘルシー効果が芋に伝染したのでなければこれでうまくいくはずだ……
カイは芋煮と芋の蔓と葉をみじん切りにしてヘルシー鍋にぶっこみ竜の血を匙一杯、マナをマシマシで拗ねて転がるルーのそばにそっと置く。
小一時間ほどかけて回収したそれをかき混ぜメリッサ畑にばら撒いて、メリッサに土下座してもう一度育ててもらう。
「頼むメリッサ!」
「これもカイ様のため! うっきょーっ!」
メリッサももうヤケである。
ハイエルフの名の如くイッちゃったハイテンションで芋を見事に育て上げ、たわわな実りをカイが掘り出した。
今度はぬか喜びしないように、煮込む前に軽く土を払い生のままかぶりつく。
「……」「ど、どうですか?」
「成功だ!」
「すぺっきゃらふーっ!」
カイの口に広がる普通の芋の味。
メリッサがイッちゃった歓声を上げた。





