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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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5-17 竜の肉はくそまずい

「……ソフィア!」


 システィの叫びに驚いた皆が振り向き、驚愕に目を見開く。

 皆が見たものは胸を破裂させたソフィアが倒れていく姿だった。


「世界樹の枝か!」


 それをしたのはソフィアが胸に抱いた世界樹の枝だ。

 ソフィアが肌身離さず持っていた聖樹教聖女の特権であるそれがソフィアの身体を砕いて飛び、バルナゥを刺したのだ。


『ガァウアアア!』


 身体の深くに枝を食い込ませたバルナゥが叫び、のたうち回る。

 この瞬間に動いたのは聖剣を封じて皆が安堵したからだろう。

 聖剣と聖杖と聖槌と首輪、全てが敗れた時のために伏せた奥の手。

 その嫌らしさはさすがクソ大木である。完全に皆の虚を突いたタイミングだった。


「メリッサ!」

「回復! 回復! 回復っ!」


 メリッサの回復が何度もソフィアを包み、ソフィアの命をつなぎ止める。

 蘇生と回復には明確な労力の差がある。水をかけていたルーが慌ててソフィアに駆け寄り水を飲ませるとソフィアは血を吐きながら謝罪した。


「す、みませんっ……あれを、失念して、ました……」

「いいから今は飲め!」


 カイがソフィアを支え、コップを口に当て傾ける。

 傷は深く、簡単に治るようなものではない。

 メリッサの回復で何とか形を保っている身体は一杯目で心臓が癒され、二杯目で肺が癒され、三杯目で血管が繋がり、四杯目でようやく骨がつながった。

 あと二杯はかかりそうだ……ルーに水を注がせながらカイがコップを傾ける中、アレクとシスティが悲鳴を上げる。


「カイ! 枝が、枝がバルナゥを食ってる!」

「こんなのどうしろって言うのよ!」

「ええい、斬れ、斬っちまえ!」


 マオが叫び斧を振るう。

 しかし斬れるのは身体の外に現れた一部のみで決して取り除けはしない。

 バルナゥが呻きのた打ち回る度に皆は慌てて逃げ惑い、枝はより深くバルナゥを貪っていく。


「もう大丈夫です。回復と共に切除を」


 ソフィアが立ち上がり、杖を構えた。


「ソフィアさん、どうすればいい?」

「深く食い込んだ枝を取り除くにはバルナゥを切り刻むしかありません。枝に手が届くまで深く切り開き、回復魔法で生命を維持しつつ世界樹の枝を除去します。協力を!」

「メリッサ、ルー!」

「心得ましたカイ様。私と師匠で回復を」

「私はコップ水」


 メリッサが回復魔法をかけ、ルーがコップに水を注ぐ。

 マオとアレクが武器を構え、カイツースリーが腕をまくり、システィが杖を構える。


「俺とアレクは肉斬りだな、おいカイツー」

「道具の俺らは枝取りを、その後はシスティ」

「風の檻で枝を逃がさないようにするわ。とどめは……」

『我のマナブレスで滅する。口元まで頼むぞガーネットの子よ。それと……』


 ゴゥフゥーッ……

 バルナゥが苦しげに荒い息を吐き、言った。


『皆、我の肉を食らえ。腹にある間は汝らのマナも命も尽きぬ』

「あぁ、そうね。アレク」

「わかった」


 アレクの剣が踊り、バルナゥの肉の一部が切り取られる。


 竜の血は世界樹の葉と同等の力を持ち、肉はそれ以上の力を発揮する。

 世界樹の葉のように寿命が延びる事は無いが、この場限りならば同等。


 それを人数分に切り分けたアレクは風の刃で皆に飛ばし、皆はそれを受け取り口に入れる。

 エルフにはカイとアレクが頭に当てて口に放り込む。


 肉を噛みしめた直後、皆がうめいた。


「「「「「まっず……」」」」」

「まずいえう!」「むむまずい美味プリーズ」「超まずいですわ!」

「まずい!」「超まずい!」「カイ殿から頂いたのに超まずい!」「これは食べ物なのか!?」「魂が、削れるっ……!」


 まずいなんてもんじゃない、くそまずい。

 しかし、これを食べねばバルナゥは救えない。

 皆はあまりの味に吐き出しそうになるのを我慢して無理やり飲み込んだ。


『マナがあふれた肉などそんなものだ……クソ大木の葉もまずいだろう?』


 バルナゥがあまりの評価に目を細め、自己弁護するように呟く。

 そして、言った。


『実など言葉で表現できないほどくそまずいと聞いたぞ』


 カイがミリーナから聞いたのとは違う。

 ミリーナも意外だったらしい。バルナゥに聞き返した。


「えう? すげえ美味かったのではないえうか?」

『食べたエルフ達から直接聞いた事だ。間違いは無い……エルネの者は誰も信じなかったがな』

「えぅ……」

『さぁ、頼むぞ皆よ。我を切り裂きクソ大木を滅してくれ……グオァウ!』


 それでは何のためにエルフの祖先は世界樹の実を食べたのか……


 カイが首を傾げ、ミリーナがそれを問う前に切開手術が始まった。

 アレクとマオの刃がバルナゥの傷を切り裂き、カイツースリーが枝を引きずり出す。

 それをシスティが風の魔法でバルナゥの口元に運び、バルナゥがブレスで滅していく。


『グゥアアアアッ!』


 アレクの剣が太い血管を断ち、血がふき出す。


「メリッサ!」「はい師匠!」

「口を動かすのは面倒です。心を読んで動きなさい」「はい師匠!」


 目立つ傷はメリッサの回復が癒し、ソフィアは全体を見て適切な回復を施していく。


 バルナゥの身体を貪り回る枝は尽きず、バルナゥは切除に時折叫び、暴れる。

 飛び散る血や肉や鱗からエルフ達は働く皆を守り、ミリーナはカイを守った。


「カイ! 無事えう?」

「ああ、今のところはな」

「離れてはダメえうよ! 守りきれないえう!」


 バルナゥの動きから目を離さずにミリーナが叫ぶ。

 カイもバルナゥを見つめたまま、バルナゥの言葉を思い出していた。


 いずれ汝はめぐり逢うやもしれぬ。物語として。

 これがベルティアが紡ぐ物語か。


 ベルティアに関わる台詞に常にある言葉。

 『物語』。


「何の物語だ?」


 カイの呟きを聞いたのだろう、バルナゥが呻きながら語りかけてきた。


『そう、これはベルティアの物語。生きとし生ける動けし者全ての源となる者、ベルティアの夢であり望みなのだ』

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