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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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5-13 冒険者、ヴィラージュを登る

 竜峰ヴィラージュ。

 大竜バルナゥの棲む山である。


 ふもとは温暖だが中腹からは常に雪に覆われ、エルフの住む広大な森が人間の侵入を阻む秘境。

 人間が唯一取りうる経路は雪を冠した尾根伝いであり、アレクのような勇者が力まかせに登頂してもランデルから二十日はかかる。


 険しい道、襲い来る獣や怪物。

 それらに阻まれた分だけ日数は加算されるのでケレス枢機卿が設定した三十日はシスティらにとってギリギリの日程だ。

 いや、だったのだが……


「いやー、エルフすごいわさすがエルフ」


 ランデルを出て七日目。

 カイと勇者とエルフの一行は竜峰ヴィラージュに積もる雪を踏みしめていた。

 煮込み過ぎご飯を皆によそうカイの横、アレクとの一夜でお腹満足なシスティが雪をガシガシ踏みながらにんまりと笑う。


 カイとカイツースリーとミリーナ、ルー、メリッサ。

 勇者四人と勇者運搬役のエルネのエルフ四人。

 大竜バルナゥに挨拶しておきたいと荷物持ちで参加したホルツの長老ベルガとホルツのエルフ四人。

 食獣運搬係としてエルネのエルフが六人。

 総勢二十人超の登頂パーティーは竜峰ヴィラージュ中腹で今、腹ごしらえ中である。


 システィがにんまりするのも無理は無い。

 本来なら二十日はかかる地点をわずか七日。

 しかもエルネの里でしっかり準備を整えて、がっつりアレクとイチャコラしてからの登頂である。

 システィがにんまりしない訳が無い。ケレス枢機卿ざまあみろである。


 カイも同感だ。

 近くて遠い届かない山だと思っていた竜峰ヴィラージュだが、行って見れば何の事は無いただの雪山であった。


 エルフのおかげで。


 最も心配していた大竜バルナゥの狩りも顔見知りのエルフがいるなら心配ない。

 登頂ルートはエルフの通り道なので整備済みの万全安全ルート。屈強なエルフに背負われらくらく登頂である。


 もはや観光登山と変わらない。

 あとは首輪が外せれば万々歳。

 一番の問題は全く解決していないが相手はエルネがこの地に住む前から棲む大竜バルナゥだ。人間はおろかエルフすらはるかに超える長命の竜の知識は十分に期待できた。


「えう、カイのつ、妻はすごいえう。そしておかわりえう」

「カイのいい人すごいすごい。そしておかわり」

「私もおかわりをお願いしたします。カイ様の快適な登頂の為にこのメリッサ、がっつり食べ「「長い」」あうっ……」


 メリッサのアピールにミリーナとルーのツッコミが炸裂する。

 あの一夜からカイと三人の関係は微妙に変化した。

 ご飯を要求するのは変わらないが何かとカイに対してアピールするようになった。妻を強調したり、いい人と表現したり……メリッサは変わらないが。


「大盛りだな?」「えう!」「む!」「さすがカイ様!」


 まあ、良い変化だな。

 大盛りおかわりをよそいながらカイは思う。


 あったかご飯がこれからも食べられると思っていたらいきなり終わりが来た。

 代わりはいるけどどうする?


 今回の出来事を彼女らの立場で考えればこんな所だろう。

 不変だと思っていた事が変わる時、人は新たな関係の構築を余儀なくされる。

 カイがあったかご飯を作れなくなったら、三人はどうするのか。

 三人なりに考え、そして決めた事だ。


 エルネをはじめとするエルフの里は受け入れてくれた。

 そして三人はもっと深い関係にまで踏み込んでくれた。

 今はまだ試行錯誤中だがそのうち落ち着くだろう。


 三人の頭に椀を当てながらカイは未来に安堵する。

 人間社会に捨てられた上にエルフからも捨てられたらアレクに土下座するしかなかった。


「今、カイが僕を奴隷にしようと思ってくれた!」

「うるせえよ思ってねえよ!」


 最近突き抜けっぷりが半端無いアレクは相変わらずである。

 鬼のような形相で睨みつけてくるシスティに「うるせえよ文句はアレクに言えよ。適度なヤキモチでイチャコラしやがれ」とカイは視線で言い返し、アレクにご飯を渡す。

 思いが通じたのなら余裕くらい見せやがれ、である。


 マオは相変わらず淡々とご飯を食べている。

 ソフィアは相変わらず表情は暗いが、出発当初よりは明るくなった。

 アレクとシスティの幸せのお裾分けだろう、聖樹教の振る舞いの前でも変わらず自分と接してくれる仲間に新たな立ち位置を見出し始めたようだった。


「よし、出発だ」

「えう」「む」「はい」


 相変わらずの煮込み過ぎご飯を食べ、しばらくの休息の後。

 一行は山頂に向けて出発した。


 エルフしか通らない道は人間には険しい。

 道というものは使う者の基準で作られる。手入れされた安心安全ルートもエルフしか使わない道はエルフの能力を前提にして作られており、下級冒険者のカイでは通れない所がほとんどだ。

 その道をカイはエルフの背に負われながら登っていく。


「カイ様、このメリッサの乗り心地はいかがですか? 悪くありませんか?」

「いたって快適だ……うわっ!」

「大丈夫ですかカイ様! も、もっとしっかりしがみ付いて下さい」

「こうか?」「あ……あふんっ!」「あ、すまん」「いえ、もっとぎゅっと、このメリッサの体をぎゅっとお抱きくださいませ!」


 カイを背負っているのはメリッサである。

 回復と能力強化が得意なハーの族のメリッサは、体力勝負ならミリーナとルーの二人が束になっても太刀打ちできない。登頂始めはミリーナやルーもカイを背負ったが山道が険しくなってからはメリッサの独壇場だ。


「え゛う゛……風、風魔法で」

「ぬぐぅ……水魔法でもいける」

「後ろが迷惑だからやめてやれ」

「あぁ! 幸せ!」


 他にも登頂している者がいる為に風魔法や水魔法を使えば迷惑がかかる。

 ミリーナとルーはメリッサの近くでぐぬぬと唸っていた。


「カイ様、飴を頂けますか?」

「わかった」

「中まで、中までずいっと。あーん」「ほれ」「んふっ」


 ヌチュッ……狙って指をしゃぶってくるメリッサのエロさにカイは必死に平静を保つ。

 食べていないとラリるメリッサには継続的な食料補給が不可欠だ。

 険しい山道をカイを負いながら登るメリッサに手を使う余裕は無い……たぶん嘘だがメリッサはそう主張して譲らない……ためカイが時折メリッサに食べ物を与えているのだ。

 おかげで二人のぐぬぬが半端無い。


「ミリーナが飴をくれてやるえう!」

「ピーは水飲んで満足する」

「ホホホホホ、甘い、甘いですわ! あぁカイ様、飴をください」

「……ほらよ」


 険しい山道の中、二人のご飯食わせアタックを有り余る体力でブロックしながらひょいひょい登るメリッサは余裕しゃくしゃく。


 飴、指チュパ、ぐぬぬ、飴、指チュパ、ぐぬぬ!


 何とも非生産的なループが続く。

 時折ガリッと飴を噛み砕く音が入るとフィーバータイムだ。


「えううっ! か、噛み砕くのはズルいえう!」

「このくらいの役得は当然ですわ! さあカイ様、ずいっと飴をちゅぱちゅぱ」

「ピーの分際で、ピーの分際で!」

「ホホホホホ!」


 高笑いで急斜面をかっ飛ばすメリッサにミリーナとルーが追いすがる。

 頭上でビシバシ争う危ない登頂の姿に後に続く勇者とホルツの面々は呆れ顔。

 ご飯食わせアタックの余波で落ちてきた飴を掴んだシスティは呆れ、自分を担ぐエルフ女性の頭に当てて彼女の口に放り込んだ。


「ありがとうございまちゅぱちゅぱ」

「いいわよそのくらい。それにしても、あいつら相変わらず元気ねぇ」

「こっちは竜と対決する可能性に震えてますのに」

「ははは。まあ戦いになったら頑張って戦おう!」

「お前、本当に死ぬの何とも思わないのな。恐ろしい男だわ」

「戦うとは思ってないからね」


 続く勇者一行はアレクを除き戦々恐々だ。

 どれだけ準備してもブレス一発で灰燼に帰す竜討伐はダンジョン以上の難敵。

 大竜バルナゥと面識の無い彼等にとってバルナゥはビルヒルトを焼き尽くした強大な存在であり、カイが言うような親切な竜ではないのだ。


 カイが討伐の選択肢を捨てた事を知っているからだろう、カイを信奉するアレクだけがその可能性を除外し、のんびりとエルフに背負われて登頂していた。


 それでも一応聖剣グリンローエン・リーナスは所持している。

 手放した時に何かが起こると取り返しがつかないからだ。抜刀すれば三日で異界を顕現させる聖剣は戦い以外では本当に、本当に超絶厄介なのであった。


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よろしくお願いします。
世界樹エルフ
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