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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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5-12 四人の初夜

 天幕の外にはルーとメリッサが控えていた。


「む」

「……っ、お、おめでとうございます。カイ様」


 ルーが声を上げ、メリッサが顔をゴシゴシとぬぐって振り返る。

 その身体を包んだ一瞬の輝きは回復魔法だろう。

 メリッサは笑顔でカイにおめでとうと言ったが、その言葉に回復魔法は必要無い。


 メリッサ……泣いていたのを、隠したかったのか。

 そして二人とも、ご飯も食べずにここで待っていてくれたんだな……


 今も盛り上がるエルフの宴の喧噪を遠くに聞きながら、カイは思う。


 エルフは強者。

 カイなど逆立ちしてもかなわない。


 そんなカイがエルフに唯一出来ていた事は、エルフにご飯を作る事。

 ここでミリーナを抱いてカイが呪われれば、それすらも出来なくなる。

 それなのにミリーナもルーもメリッサも、カイが関わるエルフの里もカイへの態度を変えはしない。


 彼らエルフにとって、カイはあったかご飯の人なのだ。

 たとえ、呪われて作れなくなったとしても。


 本当に、頭が下がる。

 カイは心からあふれる気持ちそのままに、二人に頭を下げた。


「ルー、メリッサ……ありがとうな」

「む?」

「カイ様?」


 二人はカイに首を傾げ、カイのマナを見る。

 そしてカイがまだ呪われていないと知ると、メリッサがカイの心を読んだ。


「あぁ、カイ様……!」


 メリッサはカイの想いに紅潮し、決断に喜び、しかし呪いに首を振り、狂気に涙を流す。


 そして……ガリッ。


 泣きながら、メリッサは飴を噛み砕いた。


「メリッサ?」

「……も、もける」「おい」

「めっきゃめっきゃしゅぽーぺぺらねそまたん! もんすぱぴーぷーぴぱ!」


 狂気に染まったメリッサが叫びながら踊りはじめる。

 カイとルーが悲しげに見つめる先でメリッサは叫び、踊り、泣く。

 クルクルと回る度に涙が飛び、あふれるマナに輝いた。


「メリッサ……」

「もぴーもぴーらんるーるんらんらんぱぱぷぺーぽっぽ!」


 魂を読む事など出来ないカイにも、メリッサの気持ちは痛いほどわかる。

 狂気に染まってもメリッサがメリッサでなくなる訳ではない。狂気に気持ちは残るのだ。


 あの飴を砕いた音はメリッサが自らの夢を砕いた音だ。

 カイの心を読み、気持ちを知って自らの呪いを示すことでそれを戒めているのだ。


 こんな呪いでも、こんな狂った女でもいいのか? と。


 カイは天幕の外に出る。

 メリッサの問いに答えるためだ。


 知ってるかメリッサ。

 小心者って奴は受け入れる事が分かっている相手には大胆なんだぞ。舐めるなよ……

 いや、舐めろ。


 カイは懐から飴を取り出し、メリッサに晒した。


「メリッサ」

「もっは、もっは! ふらくらぺぴぶぼげーばらばぷぷ、ひっぷひっぷ!」


 メリッサの狂気が飴に吸い寄せられる。

 狂気の中にあろうともエルフはご飯に正直だ。

 泣きながら、首を振りながらメリッサは狂気に叫び、踊り、しかし飴に吸い寄せられる。


 手が届くほどに近づいたところでカイはメリッサの頭に飴を当て、それを自らの口に含む。


「ぺまー……んっ……」


 しょんぼりとした狂気のメリッサの不意を突き、カイは抱きしめ唇を奪った。

 強張る唇に吸い付きこじ開け、舌で飴をメリッサに送り込む。


 飴で正気に戻ったメリッサがカイの唇から逃れようと足掻きはじめる。

 しかしカイが怪我をしないように気遣うメリッサにカイから逃れる術は無い。

 カイはメリッサの舌に自らの舌を絡め、吸い、飴と共に弄ぶ。


 メリッサはしばらくもがいていたがカイの気持ちに折れたのだろう。

 やがてカイに自らの舌を絡めて飴とは違う甘い行為を求めはじめた。

 唇と唇、舌と舌を心ゆくまで絡め合い、メリッサが落ち着いたところでカイは唇を離す。


「はぁっ……」


 離れるのが名残惜しいのかメリッサが喘ぎ、紅潮して顔を伏せた。


「むやみやたらと心を読んじゃいけません」

「……はい」


 カイの腕の中、メリッサはもう抗わない。


「おいで」「はい」

「ルーも」「ん」


 カイは二人を天幕の中に招き入れると、ミリーナと共に今後の事を話した。


「カイ、どうして抱かなかった?」

「そうですわ。二人は夫婦。そして初夜ですのに……」

「まだ、時間はあるからな」「えう」


 カイとミリーナは二人に言う。


「期限ギリギリまで粘って粘って道を探す」

「こんな逃げ道みたいな初夜より先にやる事があるえう。いつものように、カイと一緒に粘って粘るえうよ」

「それでもダメなら、諦めてミリーナを抱く」

「えう」


 やる事はいつものカイと変わらない。

 ただ、諦めずに道を探すだけだ。


「……さすがカイ。諦め悪い」

「まったくですわ。相手は世界樹。神だというのに」

「悪かったな」

「でも、それこそがカイ」

「ですが結局ミリーナ、ミリーナなのですねカイ様。くううっ、ハーの族の呪いがもっと軽ければ私もカイ様に抱いて頂けましたのに」

「ルーにメリッサ。ごめんえう」


 ルーは頷き、メリッサは結局ミリーナなのですねと憤慨したが顔は笑っていた。


 二人は自らの族の呪いを良く知っている。

 親しいカイにそれを背負わせる事は出来ないだろう。


 結局何も変わらない。

 しかし、それでいいのだ。


 三人とカイは諦めない事を決めた。

 贄の首輪がカイを葉に変える直前まで、足掻く事に決めたのだ。


 結局、先送り。

 しかし互いの関係は明確に変わっている。

 カイの終わりを前に皆が己の心と向き合い、どのような関係でありたいのかをおぼろげに掴みはじめている。


 あとは、ただ進むだけだ。


「カイ様、もう一度……キスしてくださいませ」


 メリッサが再び唇を求め、カイはそれに応える。

 正気のキスは静かで優しく、互いを求めながらも気遣う甘く深い繋がりだった。


「私も。カイはいい人。だからずっとついていく」


 次はルーの求めに応じて口付けを交わす。

 初めて会った時とは違う軽い、触れるだけのキスだ。


 カイと二人はミリーナもするか? とミリーナを見つめたが、ミリーナは静かに首を振った。


「今はまだしないえう」

「しないのか」

「いつか本当にカイのつ、妻になる時に身体もろとも奪うえうよ」

「……そうか」


 四人はご飯と関係のない会話を楽しみ、一つ天幕の下で雑魚寝した。

 世界樹の守りで寒さ暑さから守られた三人はカイにぺっとりと抱き付いて温めてくれる。


 この温かさこそが三人の気持ちだとカイは思う。

 顔を良く見ればミリーナも、メリッサも、ルーにも泣きはらした跡がある。

 三人のカイに対する想いの跡だ。


「……ありがとな」

「えう」「む」「はい」


 カイは感謝を込めて三人を抱きしめると、三人共きゅっとカイにしがみ付いてきた。

 ちょっと熱いなと思いつつ、そのままカイは眠りにつく。

 この温もりがずっと、そばにある事を願いながら……




 余談だが、アレクはシスティとがっつりやっていた。

 お前は本当に命知らずの突き抜けた奴だなぁ……

 と、カイは感心するのであった。

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