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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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幕間.やるえうよ。ヤッてやるえうよ……ぇぅょ……

「ミリーナ、お願いします」

「む。ミリーナお願い」

「……」


 カイのご飯を食べた後、ランデルの森の中。

 ミリーナはメリッサとルーに土下座されていた。


「ミリーナ、カイの妻になって」


 ルーが言う。


「そして、カイ様が葉となる前に呪って下さい」


 メリッサが言う。


 カイの首にはめられた魔道具『贄の首輪』。

 世界樹の枝を材料に作られたこの魔道具によりカイに残された時間は三十日。

 それを過ぎればカイは世界樹に食われ、葉が遺される。


 カイを食う世界樹は、神。


 エルフをはるか昔から呪い続け、人間社会では枝を授けられた者が絶対的な権力を振るい竜すら殺す。


 そんな相手からカイを救える唯一の可能性が、エルフがカイを呪う事。

 ヤれば呪いがかかるエルフの呪いだ。


 世界樹はエルフをイビるが殺しはしない。

 世界樹の枝を素材に使う勇者の武器はエルフを殺しはしなかった。

 それと同じ事が贄の首輪でも起こせないかとカイは考えたのだ。


 三十日の間に外せなかった時は、エルフの呪いを俺にくれ。


 何としてもカイを守りたい。

 ミリーナ、ルー、メリッサ。

 三人の思いは同じだ。


「……ミリーナの呪いが、一番軽いからえうか?」

「む」「はい」


 ミリーナの呟きに、ルーとメリッサが頷いた。


「ダーの族はキノコに体力奪われる。カイが辛いのは嫌」

「私がカイ様をお救いできるなら、誰が頼むものですか!」


 ガリッ……

 ルーが答え、メリッサが飴をかみ砕く。


「ぷるるーぱ! るっぱるっぱぷぷーっ! ぺまー、ぺまー」

「むむむメリッサ食べて」

「……こんな私達にカイ様を呪えと言うのですか? カイ様がキノコやピーで苦しむ姿を何百年も見続けろと言うのですか?」

「えぅ……」


 カイを呪う。


 はじめはミリーナも出会った誰かを呪おうと思っていた。

 ご飯に屈してしまったが。


「早すぎるえうぅ……」

「む」「はい……」


 カイは人間。

 そしてミリーナ、ルー、メリッサはエルフ。

 住む世界が違う。


 しかし、森ではカイとミリーナ達はいつも一緒。 

 住む世界は同じだ。


 そして一緒にいれば関係も変わる。

 カイの態度を見ていればわかる。

 初めは脅威、次は駄犬、今は犬。

 出会った頃よりはるかに身近な存在となっているのだ。


 このまま行けば、もうすぐ忠犬と胸を張れるだろう

 そして愛犬となり、やがては……


 エルフの寿命は人の十倍。

 カイが年老いたとしても、ミリーナ達は若いまま。


 カイが人としての人生を全うする頃には、呪われてもいいと思ってくれるかもしれない。

 共に歩んでもいいと、思ってくれるかもしれない。


 五十年くらい先なら、きっと。


 と、ミリーナ、ルー、メリッサは気長に思っていたのだ。

 それなのに……あと三十日。

 こんなに早くその時が来るなんて、ミリーナ達は思ってもいなかった。


「早すぎるえう。まだ早すぎるえうよ」


 まだ、ミリーナ達とカイはそんな関係ではない。

 愛の行為に及んでも、呪いをかける以外のものにはならないのだ。

 『カイの妻』なんて言葉だけ。

 中身はカラッポだ。


「ではエルネの誰かに、頼む?」

「……嫌えう」


 ルーの問いにミリーナは首を振る。


 人間なら仕方無いと思えるが、エルフならば譲れない。

 もっとも近くで世話になったミリーナ達三人以外のエルフがカイの危機を救うなどありえない。

 カイの忠犬として絶対あってはならない。


「それでは、私やルーの呪いでカイ様が苦しむ様を見たいのですか?」

「……それも嫌えう」


 メリッサの問いにもミリーナは首を振る。


 火が使えない。食で頭を殴られる。植物の異常生長。

 ミリーナたちアーの族のエルフの呪いだ。

 ダーの族のダークエルフとハーの族のハイエルフはこれに加え、キノコに養分を吸われたり尻から花が咲いたりピーになったりする。


 ルーやメリッサがカイを呪えば、ミリーナが呪った以上にカイは苦しむ事になるだろう。

 そしてミリーナも後悔するだろう。


 なんであの時呪わなかったえうか……


 と。


「ミリーナお願い」「ミリーナ……お願いいたします」

「……ミリーナは忠犬えう」


 カイはあったかご飯の人。

 そしてミリーナ、ルー、メリッサは三人の里を代表するカイの忠犬だ。


 呪いが嫌で里を飛び出したミリーナを里ごと救ってくれた。

 焼き菓子が得られなくなった事で悩むルー達に再び焼き菓子を与えてくれた。

 メリッサ達を長年搾取した人間とは違い、ありふれた薬草を集めるだけでご飯を山盛りにしてくれる。


 あったかご飯を食べさせてくれた。

 肉の味も教えてくれた。

 収穫祭も開いてくれた。


「それがカイのためならやるえうよ。ヤってやるえうよ!」

「む」「お願いいたします」


 今こそ恩に報いる時。

 ここでヤらずして忠犬は名乗れない。


 ヤるえう。ヤるえうが……


 ミリーナは心で呟く。


「……ぇぅょ」


 こんな『仕方なく』なんて形には、したくなかったえう……ぇぅょ……

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