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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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5-7 冒険者、策謀に踊る

「私が甘かったわ。ごめんなさい」

「少々目立ちすぎたからな。甘かったのは俺も同じだ」


 次の日。

 ランデルを出て大竜バルナゥの住まう竜峰ヴィラージュに向かう馬車の中、深く頭を下げるシスティをカイはなだめていた。


 力量に合わない事はするものではないな……


 と、カイはなだめながら思う。

 ミリーナに会ってからというもの、能力不相応な出来事ばかりだ。


 エメリ草やラナー草のような実力では手に入れられない植物。

 竜牛などの実力で狩れない獣。

 世界樹の葉やミスリルのコップといった実力では手に入らない戦利品。

 そしてエルネ、ボルク、エルトラネ、ホルツという実力では従えられないエルフの里。


 ただご飯を与えていただけなのにえらい出世。

 権力者に目を付けられてしまうのも無理はない。


 今朝の領館でのやりとりを思い出し、カイは首元の首輪に触れてため息をついた。


 エルフと竜を扇動してビルヒルトを壊滅させた上にダンジョンを二度も顕現させた罪。


 それが今回カイになすりつけられた罪状だ。


 システィはそれを自分の責任と思っているようだが違う。

 彼女は勇者としての、そして王家としての責務を果たしたに過ぎない。

 その場にカイのような者がいれば当然使うだろう。


 問題は責任をなすりつけようとした者がいたことだ。

 責任とは権力、つまり力を持つがゆえに生じる事である。

 何かをする事で責任が生じ、するべき事をしなかった事で責任が生じる。


 しかし、しなくても良い事をしなかった事で責任が生じることは無い。

 エルフの煽動はわからなくも無い。

 今やエルフ達はカイの煮込んだだけのご飯に夢中だ。

 だが、竜もビルヒルトもダンジョンもカイの預かり知らぬ事である。


 システィの責任を無理に問うとするならば、経過観察の裁定を下した者をそのような輩から守れなかった事だろうか。


 しかしこれも問うべきではないとカイは思う。

 ここまでエルフと関わった者を経過観察でどうにかしようとする事に無理があるのだ。

 四つのエルフの里を戦力として投入できる者を経過観察で済ますのかと言われれば、システィとしては引き下がる他ない。


 聖樹教の圧力があればなおさらだ。

 今朝領主の館に怒鳴り込んだシスティはケレス枢機卿を前に顔色を失い、土下座して減刑を懇願する立場に追いこまれた。


 権力を持つ者はより大きな権力を持つ者に屈するしかない。

 聖樹教の圧力があった時点で一国の王女でしかないシスティの手の及ぶ範囲ではなくなっていたのだ。


 ホルツの里の者の言い分と大きく食い違うダンジョン顕現の罪。

 時間的に無理のあるダンジョン顕現の罪。

 会ってすらいないエルフを煽動してビルヒルトを森に沈めた罪……


 システィの反論はエルフの言葉を信じるのかと笑うケレス枢機卿に遮られ、ソフィアの魂を読む力は聖樹教の権力により封殺された。

 マオとアレクは発言する機会を与えられず、ミルトは同席する事すら許されなかった。


 極刑を言い渡そうとするケレスにシスティは冤罪だと土下座して命乞いするしかない。カイの命を握られた時点で彼女に選択肢など無かったのだ。


 しかしここで突き抜けたのがアレクである。


「カイを解放しなければ竜討伐はしない」


 と、場の権力など気にもせずに宣言したのだ。

 これがカイがルーキッドに頼んだ事である。

 アレクに駄々をこねさせるようにあらかじめ言い含めておいたのだ。


 カイが期待した通り、アレクは突き抜けた。

 さすがは隙あらばカイの奴隷を主張するアレク。

 死と隣り合わせの地で戦利品カイを願う王国最強勇者は聖樹教の枢機卿よりもカイだ。


「おや、罪人をご存じで?」

「僕はカイの奴……」

「ど?」

「いえ、親友です。カイがそんな事をするわけがない」

「ほぉ……」


 ケレスはおや、と気にする風を見せアレクにカイとの関係を聞き、親友と知るとにこやかな笑みを浮かべて条件を出してきた。


「それでは、大竜バルナゥの討伐をもって無罪放免といたしましょう」

「ケレス殿!?」

「すべては聖樹様に楯突く大竜バルナゥの企み。それで良いですなミハイル殿?」

「そ、そういう事なら……」

「ルーキッド殿もそれで良いですな?」

「はい」


 ケレスにとって罪人がカイかどうかはどうても良い問題だ。

 ただ、竜が狩れれば良い。

 そしてミハイルは自らの罪をなすりつける相手がいれば良い。

 大竜バルナゥの罪でも構わないのだ。


「ですが、さすがにそのまま彼を解放という訳にはいきません」


 しかし、ケレスはそう言って、懐から何かを取り出した。


「枷はつけさせてもらいます」


 手近な駒としてカイが使われた。

 それがケレスの描いた筋書きの一つだと判っていても受け入れるしかない。

 竜を討つ事で将来的に起こる異界の被害に目を瞑り、システィはその討伐を引き受けた。


 そして今、カイとシスティら四人は馬車に揺られている。


「私は何も、何もできなかった!」

「顔を上げてくれシスティ。そして命乞いをしてくれてありがとう……まぁ首輪が付いてしまったけれどな」


 頭を下げ続けるシスティにカイは笑って首下をさらす。

 そこには首をぐるりと回る編みこまれた木の枝がある。


 贄の首輪と呼ばれる魔道具だ。


 それはシスティやソフィアが使う杖と同じ、世界樹の枝を材料とした魔道具。

 魔法が記憶されており、首輪をはめた者が言う条件により発動してはめられた者をマナに還して世界樹の葉を得る処刑道具。


「もし竜討伐で世界樹の葉が必要になりましたら、お使いください」

「っ……お心遣い、痛み入ります……」


 ケレスはシスティらの目の前で条件付けをしたこれをカイに取り付け、送り出したのだ。


 条件は以下の五つだ。

 一つ、大竜バルナゥを討伐したら外れる。

 一つ、三十日後に発動する。

 一つ、システィが世界樹の葉を求めたら発動する。

 一つ、贄の首輪を外そうとしたり、壊そうとしたら発動する。

 一つ、エルフにランデルを襲わせるよう煽動したら発動する。


 最後の一つはルーキッドの懇願によりケレスが追加したものだ。

 何もせずに外す条件は存在しない。

 ケレスですら外すのが不可能な条件にシスティの顔は暗く、悲壮な覚悟に満ちていた。

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世界樹エルフ
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