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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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5-3 冒険者、捕われる

「ま、結局人間の都合って事さ」


 マオがシスティの話を簡潔にぶった切った。


「竜と狩場が欲しいから討伐する。エルフの実りで儲けたいから利用する。エルフを憎み討伐賞金を出す領主がいるから冒険者ギルドはエルフを討伐対象に指定する。全部人間の損得勘定なのさ」

「マオ、口が過ぎるわよ」

「すまんな。生まれつきだ」

「……ま、こんな場で綺麗事言っても仕方ないわね」


 マオの言葉に吹っ切れただろう、システィがバンザイしながらぶっちゃける。


「その通り。全部、全部グリンローエン王家と領主の都合です。選王候筆頭の建国竜アーテルベを従えた建国王の偉業なんて子孫は真似できませーんっ!」


 グリンローエン王国の建国王ガガ・グリンローエンは竜を従えた追放者であったと伝えられている。

 今は滅んだどこかの国で罪人となり追放された建国王は放浪の過程で建国竜アーテルベと出会い、放浪の末に異界を討伐した地を王都と定め、王国の始祖となった。


 物語にもなっている建国神話は荒唐無稽で支離滅裂。

 盛りに盛った眉唾話と言われているが、宝物庫には裏付けとなる品々が納められているらしい。

 竜とは眉唾を真実に出来るほどの力を持った存在なのである。


 しかし建国王の子孫はアーテルベに認められる事は無く、建国王ガガの崩御と共にアーテルベは去った。

 アーテルベの消息は不明。

 王城にはアーテルベのねぐらが残されており、手入れは今もされている。

 そして残された聖銀や宝石、魔石は王国の聖銀貨や魔法の武器に使われている。

 今では神話と呼ばれる、グリンローエン建国の逸話であった……


「おぅ、姫さんぶっちゃけたな」

「国土は大事だし、使える国土はもっと大事。だから異界にくれてやる気はないし竜の暴虐を許す気も無いわ」


 国や領主にとって国土は命。

 だから使える土地を奪い合い、血を流す。

 相手が人でも、エルフでも、竜でも、異界でも変わらない。


「でも、今後は竜との付き合い方を変えないと大変な事が起こるるかもしれないわね。いくら竜が強大でも異界よりはマシだもの」


 しかし、敵の敵は味方とも言う。

 多少の不便を支払ってでも利があるなら敵対するのは得策ではない。


 大竜バルナゥが異界を討伐するなら勝手に討伐してもらえばいい。

 バルナゥが人里に危害を加えた記録はない。

 トータルで利のある方を選ぶべきだろう。


「さぁ、こんな話はここまでにしましょう!」


 話は大体終わったのだろう。システィがパン、と手を叩く。

 そして腕の肉、王国にはいないとされる竜牛の肉を食べ始めた。

 全てが他国からの輸入である竜牛の肉は、王女といえども滅多に口にできるものではないのだ。


「せっかくの収穫祭なんだから食べて食べて食べまくらないと……って、やっぱ納得できないわこの肉」


 そして相変わらず煮込み過ぎの料理にギロリとカイを睨んで喚く。

 カイは知ったこっちゃないと口を開いた。


「うるせえよ。我慢しろよ」

「カイらしくて良い料理じゃないか、僕は好きだよ」

「う……ア、アレクが何を言おうとこれは譲れないわ。場に合った料理かもしれないけれど竜牛が、竜牛のサーロインが……」


 ぐぬぬと呻くシスティにアレクが笑う。


「後で僕が狩ってくるからさ」

「じ、じゃあ私が腕によりをかけて料理……していい?」

「もちろん」「わぁい!」


 ラブラブパワー、万歳。


「えう? 納得できないならご飯くださいえう」

「おかわりあるんだから土下座すんな」

「えう!」


 ミリーナ、色気より食い気。


「はいはい姫さんごちそうさま」

「ごちそうさま。つまりご飯不要、だからご飯ください」

「色っぺーエルフの嬢ちゃんよ。飯のごちそうさまとは違うんだなぁ」

「……だました!」

「嬢ちゃん、その年であの二人の惚気が解らんのはどうよ?」


 そしてルー、やっぱり色気より食い気。


「惚気! つまりお二人は尻の花を摘む仲なのですね! ピー、ピー!」

「「ピーとか意味がわからない」」

「「「なんていやらしい!」」」


 そしてメリッサ、アレクとシスティにピーを言わせて騒ぐ。


「システィがくれないからおかわりえう!」

「む。マオにだまされたからおかわり」

「美味しいからおかわりですわ!」


 ミリーナ、ルー、メリッサはカイツーの元におかわりを要求に行き、カイはのんびりとご飯を食べながらシスティとアレクの幸せお裾分けにニヤニヤし続ける。


 マオは自分の分だけ用意していたのだろう、酒を取り出し気持ち良く飲み始めてほろ酔い気分だ。


 やがてご飯をたらふく食べたのだろう、四つの里の長老が挨拶に現れて不意打ち土下座を敢行する。

 やめろと言うカイに皆は笑い、ミリーナはベルガにプロフェッショナルの心得を学ぼうと土下座の指南を受けに行く。

 ご飯を頭で受けるエルフは土下座が人生を決めるのだ。

 何とも切ない話であった。


 そんな中、ソフィアだけは暗い顔で俯き、淡々と椀のご飯を口に運んでいた。


「ソフィアさん、大丈夫ですか?」

「……進むべき道を考えていたのです。ランデルに来てから色々ありましたから」


 ソフィアはそう告げると、再び俯いて淡々と食事を口に運ぶ。

 大丈夫かなと見つめるカイはマオに耳たぶを掴まれ、引き寄せられた。


「聖樹教と自分の価値観にズレを感じてるんだ。信徒なら誰でも通る道だからほっとけ」

「あー、オルトランデルの教会から色々あったもんなぁ」

「ま、ソフィアも成長したって事だよ」


 酒を注いだコップを手にマオはガハハと笑ってカイの背中をバシバシと叩き、俺も土下座を学ぶかとベルガとミリーナの方へと歩いていく。


 成長か……


 カイはふと思い、静かに森に沈むオルトランデルを見上げた。


 思えばこの数ヶ月、本当に色々あったな……

 飯で助かり、飯を集られ、飯を狩り、飯で襲われ、飯を摘み、飯で争い、飯を食わせ、飯を載せ、飯を蓄え、飯で戦い、飯で祝う……


 全部飯絡みなのが玉に瑕だなとカイは呆れて笑う。

 まあエルフ絡みだから仕方ない。

 カイは土下座指南を受けるミリーナを見つめた。


 彼女がエルフの宿命に納得していれば、この出会いは無かった。

 カイはオルトランデルで地味に薬草とガラクタを集め、薬草の加工技術を仕入れて安定した老後生活を送っていただろう。


 今でもその安定老後生活に憧れはある。

 しかし、カイはもう戻りたいとは思わなかった。

 カイは立ち上がり、仕込みのために会場に向かう。


「次のご飯の準備えう? 準備えう!」

「水はまかせて。あとペネレイも」

「カイ様のそばにメリッサ・ビーンありですわ……鍋を洗う事しか出来ませんが。くうっ、エルフの、エルフの呪いが憎い。私もあのお二人みたいにピーしたい」


 ミリーナ、ルー、メリッサが席を立ったカイに気付いて付いてくる。

 本当に犬みたいな奴等だと思い、駄犬と思わなくなったなとカイは笑う。


 相変わらず『待て』はぜんぜん駄目だが可愛い奴等だと思うようになった。

 皆、五倍以上年上ではあったが。


 その後カイは三人と共に鍋を洗い、水を満たし、オルトランデルを眺めて回り、昼食を食べ、夕食を食べ、三人と別れて風呂に入り、いつものように収穫祭の日々を過ごしていく。

 そして七日後、エルフ大盛況のまま収穫祭は閉幕したのであった。


「いやー、今回は食べた食べた」


 エルフの皆と別れてランデルに戻り、アレクら勇者パーティーと別れた後、カイは借家に戻る道をゆっくりと歩いていた。


 相変わらずのペネレイと薬草の納品も好評で地味な儲けにホクホクである。

 いつもより金貨三枚くらい多い地味な儲けがカイ的には嬉しい。

 これ以上の儲けはヤバイと感じるカイはとことん目立つのが嫌な小心者である。


 そして恐怖のミスリルコップはカイツーに預けて背中も軽い。

 ミリーナもエルネの長老もカイツーならばと文句も言わない。万々歳である。

 

 エヴァンジェリンへのお土産は竜牛の干し肉だ。

 アレクがサクッと狩った竜牛の一番美味い所はシスティが独占してしまったが二番目の場所は分けてくれた。

 竜牛はどこを食べても美味いので特に文句の無いカイである。


 そしてエヴァンジェリンも文句は言わないだろう。

 カイの心の友は広い心で美味しく食べてくれるに違いない。

 一週間振りのもふもふを楽しみにしつつ、カイは借家に続く角を曲がった。


 バウッ、バウバウッ……


「ん?」


 彼女が、エヴァンジェリンが吠える声が響く。

 最近カイが聞く事の無くなった警戒の吠え声だ。

 カイは何事かと彼女が繋がれた場所へと駆けつけ、そして固まった。


「青銅級冒険者カイ・ウェルスだな」


 ランデルの領兵が三人、剣先をカイに向けていた。

 カイは固まり、左右に逃げ道を捜そうとして……ため息だけをつく。


 逃げても仕方が無いのだ。


 そして用件も見当がつく。

 カイは兵士らを見つめて答えた。


「そうだ」

「お前にエルフ煽動の疑いがある。ビルヒルト近隣のエルフを煽動したという証言が勇者に協力した者達から得られた。同行願おうか」

「勇者達がエルフと共に異界を討伐した事はどう考えてるんだ?」

「お前の容疑とは関係ない」

「……だろうな。従うよ」


 人の口に戸は立てられない、か……


 カイは腰の剣を地に落とし、ゆっくりと両手を上げた。

 すぐに兵士の一人が動いて剣を奪い、カイの両手を後ろに回して縄できつく縛り上げる。


「歩け!」


 前後、そして後ろ手を縛った兵士に脇を固められ、カイは兵士の言うがまま領主の館への道を進んだ。


 喉元過ぎれば熱さを忘れる……甘かったか。


 荒々しく縄を引かれながらカイは思う。

 異界討伐の一連の動きでエルフと自分の関係が問題になるのではと心配はしていた。


 しかし事前の王女システィの経過観察の裁定や、勇者とエルフの共闘による異界討伐という成果の前にはそこまで問題にならないと考えていた。

 ぶっちゃけた話、王女システィが後ろ盾になると思っていたのだ。


 だが、その期待は甘かったらしい。

 いや、甘すぎたと言うべきか。


 まさか異界討伐という成果を無視し、ビルヒルトを森に沈めたエルフの煽動容疑を返してくるとは思ってもみなかった。


 安全になれば成果よりも脅威を重視する。

 それはそれ、これはこれ。だ。

 

 兵士に連行されながら、カイは自らの甘さを呪う。


 人間にとって一番恐ろしいのはエルフでも竜でも異界でもない。


 同じ人間なのだ……

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世界樹エルフ
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